VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います 作:久木タカムラ
基本的に直接攻撃できません。
それはそれとして、原作10巻発売おめでとうございます。
ロビンフッドみたいな弓使い登場ですが……まあ、うちの怪人は弓使い(殴)だから問題ないでしょう。
多少、面食らいはしたものの。
戦闘の意思はないと直感して、どちらからともなく武器を収め、ヨメカワイイとサリーは改めて予想外の再会を苦笑と共に受け入れた。もっとも、ヨメカワイイの素顔は包帯に覆い隠されていて泣こうが笑おうが外見に一切変化はないのだが。
「メイプルー、もう隠れなくてOKだよー」
「はーい」
サリーが呼ぶと、半壊したレンガ壁の裏からメイプルが顔を出してこちらに駆け寄る。アホ毛を揺らす少女は相変わらずVIT極振り一途なのか、走る動作にも関わらず日の暮れそうな牛歩だ。
ようやくサリーに合流すると、メイプルは花を咲かせる笑顔をヨメカワイイに向けた。
「カワイさん、こんにちは!」
「はいこんにちは。元気があって大変よろしい」
「むふふぅ……」
挨拶を褒められ、まるで入学したての小学生のように素直に喜ぶメイプル――それを見ていると毒を持つ大型草食獣でも手懐けている気分になる。あながち間違いでもないのが何ともはや。
小学生と言えば、気になる事がもう一つ。
「んで、何だったんだ? さっきの『サリーちゃんのお遊戯会』みたいな演技は」
「ゔっ……!? み、見てたんですか?」
「そらまあ、見てたからあのタイミングだったんだし」
「可愛かったよねー! 普段と違うサリーの意外な一面って感じで!」
「ああもう、あれはさっさと忘れて! カワイさんもね!」
装備を元に戻したサリーは早口でそう言うと、赤く染まる顔を誤魔化すように、ヨメカワイイに倒されたプレイヤー達が遺していった戦利品を拾う。
てっきりメダルだけかと思ったが、サリーの手には古ぼけた一冊の本。死亡時に落としたのならあのプレイヤー達の元々の所持品ではなく、このイベントで得た特殊なアイテムなのだろう。
「私達もこれが目当てだったんです」
「それでさっきの『元気いっぱいサリーちゃん』であいつらを罠に嵌めようとしたと」
「忘れてってば!!」
サリー、再び赤面。
このネタでしばらく遊べそうだが、これ以上からかうと話が進まないので口を噤む。つい思わずあのシーンを録画してしまった事も口を閉じたから話せない。それは仕方がない。
サリーの手にある三枚のメダルを眺めて、メイプルが言う。
「ねぇ、メダルはどうしよう。倒したのはカワイさんだけど……」
「お前さんら二人の分で構わんよ。俺が獲物を横取りしたようなもんだし」
ヨメカワイイが手を下さなくても、あのままサリーが簡単に返り討ちにしていたはずだ。
「カワイさんがそう言うなら遠慮なく。それじゃあこの本を読んでみよっか!」
適当なレンガに少女二人が並んで腰を下ろし、その横でヨメカワイイが立ったまま覗き込む。
どうやらよほどの歳月を重ねた古書らしく、開いた本はどのページも文字が認識できないくらい朽ちていたが、たった一ページだけかろうじて文章が成立する文字列が見て取れた。
内容は【古ノ心臓】とやらに関する記述であり、
「……要するに、光ってて水が湧く場所で何かするとダンジョンに行けるって事か」
「【古ノ心臓】が何なのかは分からないままだけど、多分そうだと思う」
「水が湧く場所……噴水とか? マーライオン?」
マーライオンはどうかと思うが、光る小便小僧を連想してしまった手前何も言えない。
三人は同じ方向に目をやる。
廃墟の中央に陣取るように、メイプルの言った通りの大きな噴水があった。
古書の記述に加えて、ああも意味ありげに設置されているのだから――ミスリードを誘う単なるオブジェクトの場合もあるが――調べて何かを発見する可能性は高い。
大噴水の前に立つ三人。
頂点に菱形の赤い水晶を冠する大噴水は枯れ果てて久しく、サリーが受け皿部分に飛び乗っても水音どころか砂を踏み擦る音しかしない。
「【大海】!」
サリーの足元から流水が広がり、受け皿を満たす。その光景を目にしてうっかり『漏ら……』と口走りかけたが、彼女の名誉と己の邪心を否定するために、包帯面に拳をぶち込み黙らせる。
幸いにも呟きは聞こえなかったようで、思春期の少女達は淡い青色に輝き始めた大噴水の様子を見守り続けるも、
「あ、あれ……?」
「消えちゃった」
ほどなくして光は失われ、水も受け皿に染み込み消えてしまう。
周囲に並ぶ小さな噴水でも試してみたが、同様の結果を繰り返すばかりでギミックが作動したり何かが現れたりする事もない。
それからしばらくは試行錯誤を重ねたり古書を読み返したりしたものの進展はなく、下手な考え休みに似たり、ならば本当に休んでしまおうと、メイプルとサリーはその場でくつろぎ始める。
安全地帯ではないが、見通しが良いので誰かが接近すればすぐに分かる。
ヨメカワイイも一息つこうとレンガ壁に背を預けた、その時だ。
「おっと……」
「うひゃぁ!?」
「何なにナニ!?」
トレードマーク、あるいは畏怖の象徴とされるアフロが、ぼよんぼよんと暴れ出した。
勝手に変形して激しく自己主張する頭髪――突然の怪奇現象に驚くメイプルとサリーだが、当のヨメカワイイは落ち着いた様子でアフロの中に右手を突っ込んだ。
寝起きでむずがる『相棒』を手探りで見つけ、戦々恐々とする少女達の前に引っ張り出す。
「こいつがいるのをすっかり忘れてた」
人間の顔ほどの二頭身で白い貫頭衣姿、短くて指のない丸っこい手足。
茶色のおかっぱ頭で両目が隠れた、緑の肌を持つ見目愛くるしい人型のモンスター。
火山ダンジョンで見つかった謎の卵を孵化させるために丸一日費やしてしまったが――明らかに卵生ではないゴブリンが殻を割って鳴いた時は流石に目を疑った。
地面に降ろされたゴブリンの幼体は、飼い主であるヨメカワイイを認識して、犬歯が覗く小さな口を開いて嬉しそうに、
「ニャー」
と鳴いた。
「……かっ、可愛いぃー!」
「呼んだか?」
「いやカワイさんの事じゃないでしょ」
即席コンビのボケとツッコミはさておき、庇護欲を誘う容姿に射抜かれたメイプルが叫ぶ。
幼体はその絶叫に驚いて後ろにひっくり返ると慌てて起き上がり、自分のご主人様の黒く大きなレザーコートの中に逃げ込んだ。しかし頭は完全防御の構えでも、尻が全く隠れていない。
それがメイプルの興奮に拍車を掛ける。
「うわぁ、うわぁ……! すっごい可愛い! 抱っこしても平気ですか!? 名前は!?」
「とりあえずニャーって鳴くから『ミケ』にしてみた」
「ミケちゃーん? ほらー、怖くないよー?」
ぷるぷる震える尻を指でくすぐって気を引こうとするメイプルに対し、いやんいやんと短い足をバタつかせて抵抗するミケだが、愛くるしさが増すばかりで完全に逆効果だ。
いよいよ鼻息が荒くなる親友の奇行に呆れながら、サリーが助け舟を出す。
「メイプル、余計に怖がらせてどうすんの。それに、その子にばっかり夢中になったらシロップがヤキモチ妬いちゃうかもよ?」
「あ、そっか。いけないいけない……」
「シロップ?」
まさかコーヒーやかき氷に使う本物のシロップの事ではあるまい。
ちなみに、ヨメカワイイは何も加えないブラック派でビール味を好み、嫁は苦みがなくなるまで砂糖とミルクを入れる派でイチゴ味を買い忘れると不貞腐れる。
「はい、私のペットなんです! シロップ、出ておいでー!」
誇らしげな掛け声に呼応して、メイプルの足元に実体化する深緑の甲羅のリクガメ。
「じゃあ私も。朧!」
サリーの右肩にも白い毛並みの狐が現れ、小さな炎を吐く。
二人がシロップと朧をテイムできた経緯を聞くと、氷の山脈の頂にある社の魔法陣から転移したダンジョンでボスを倒し、素材と一緒に卵も見つけたらしい――場所こそ違うが、ヨメカワイイがミケの卵を手に入れた時と酷似した状況に疑問が浮かぶ。
「……今回のイベントはモンスターを仲間にするのが隠し要素なのか?」
「どうなんでしょう? 私とメイプルが戦った大きな鳥もとんでもない強さでしたし、倒さないとテイムできないなら、誰でもって訳じゃないんじゃ……」
「だよなぁ」
ヨメカワイイとサリーが真面目に話す横で。
テイムモンスター同士仲良くなったのか、それとも単に追われて逃げているだけなのか、ミケがシロップ、朧と一緒にお互いの主人の足の間を走り回りながらじゃれ合う。その様を目を輝かせて鑑賞するメイプルは今にも鼻血を出しそうな恍惚の表情だ。
「うふ、うふふふ、もう私ずっとこのままでも良いかも……」
「それはちょっと、困るかなぁ」
束の間の休息を挟んで。
古書も含めてまだまだ謎の多い廃墟をこのまま去るのは惜しく、サリーと話し合い五日目を全て使って順番に探索する事となった――そうやって強引にでも動かさなければ、メイプルがその場に根を張って本気で残り二日をペットを眺め続けて終えそうな気配だったのも理由の一つである。
サリーにとっても、相方が不動の岩も同然になってしまっては困るのだから当然か。
「じゃあまずはメイプルね。いってらっしゃーい」
「……ねえ、もっかいジャンケン! 三回勝負にしない!?」
「そう言ってやり直してもう五回目だろうが……」
「ひーん」
公正な手段によって一番目に選ばれたメイプル。
シロップを伴ってとぼとぼと、哀愁さえ漂わせながら離れていく黒い鎧の背中――数歩進んでは立ち止まって未練がましくこちらを振り返り、また数歩進んでは振り返る。
あの調子では順番が一巡する前にイベントが終わりかねない。
「「さっさと行く!」」
「うえーん! サリーとカワイさんのいじわるー!」
尻を叩かれ、愛亀を頭に乗せたアホ毛娘は今度こそ探索に向かう。
後ろ髪を引かれているせいでスローモーションのような歩みはさらに鈍く重くなり、姿が完全に見えなくなるまでたっぷり十分は要した。
「大丈夫かね」
あの大盾少女が誰かにやられてしまう心配とかではなく――そんな超次元の怪物が潜んでいたら三人はとっくに全滅の憂き目に遭っている――あれだけ上の空な状態で探索に身が入るのかという意味を込めて隣の娘に問う。
「まあ……多分? でも頼まれた事はちゃんとやってくれるから……」
そう言いつつ、サリーも自信なさげに首を傾げるだけだ。
せめてメイプルが戻ってきた時に喜んでくれるよう、朧の揺れる白尾にもふもふされて夢心地なミケの動画でも撮影しておこうかと録画モードをオンにした直後に。
「たっだいまー! 何もなかったよー!!」
「「はっやっ!?」」
一体、何処をどう調べたのだろうか。
次回はイカ釣り。
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