VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います 作:久木タカムラ
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遅ればせながら、拙作を呼んで下さる皆様に感謝を。
最初にメイプルが五分と経たずに戻り、サリーにこっぴどく叱られた以外は、特に大きな問題や変化も起こらず探索役の順番は巡り続けた。
一人が廃墟内を回っている間に、残った二人が本を読み返して謎解きを進め、他にもペット達が戯れる様子を――主にメイプルのために――動画に収める。本については最後のページに意味深な絵が描いてあったが、残念ながら力及ばず解明には至らない。
そうして太陽に代わり月が夜天で輝き、日付も変わろうかという頃。
何度目かの巡回に出掛けた堅牢鉄壁アホ毛娘からメッセージが届く。
『風水がビジャーッと悲観出る! 歯やクキ手!』
……何のこっちゃ。
新居の間取りに問題があったのか、はたまたトイレのウォシュレットが壊れたか。そしてそれを直そうとしたら歯が折れて手首が捻挫して悲しいのか。医者行けよ。
サリーと顔を見合わせ、慌てて打ち込んだらしい謎のメッセージの解読を試みる――『風水』が噴水を指しているとするなら、あの大噴水まで行けば状況は把握できるだろう。残りはもう諦めて本人に聞くしかないと判断。
ミケと朧を連れ立ってメイプルの元に駆けつけると、
「あ、来るの遅いよー!」
「遅いって、メイプルが送ったメッセージが無茶苦茶だったからでしょうが!」
「そんでメイプル……どうして大噴水が光ってんだ?」
メイプルが二人を呼び寄せた理由は尋ねるまでもなかった。
何を試してもうんともすんとも反応がなかった大噴水と三つの小噴水が、水も注いでいないのに一斉に光り輝いている。これはあれか、噂に聞くツンデレとやらか。
第一発見者のメイプルも首を傾げるばかり。
「分かんない。私か来た時にはもう光ってたんです」
「もしかして……」
サリーが青いパネルを空中に表示させ、納得がいったのか軽く頷く。
「やっぱり、六日目の午前零時だ。きっとこの時間だけ噴水が輝く仕組みなんだと思う」
「道理で昼間に色々やっても無駄だった訳だ」
「じゃあ、今受け皿に水を入れれば……」
「うん、可能性は高いんじゃないかな。やってみるね!」
そう言って、日中と同じように受け皿に飛び乗ると、
「【大海】!」
今度は漏らしたとは思わないし口にもしない。
満たされた大噴水はその輝きを一層増し、サリーの推測と行動が間違いではないと神々しい姿で証明する。しかし、発光は強くはなったが【大海】の水はまた全て吸収されてしまう。
条件をクリアするためにはまだ足りない要素があるに違いない。
その要素が何なのか、最初に思い至ったのはメイプルだ。
「ねえ、きっと小さい方にも水を入れなきゃ駄目なんじゃない?」
「そっか! あ、でも噴水は全部で四つ……今一回使ったから【大海】は残り二回。使い切ったら再使用まで一日待たないとだし、どうしよう……」
……とにかく全ての受け皿を満たせばいいのであれば。
「二人とも、ちょっと噴水から離れてろ」
「カワイさん?」
「こういう時くらい役に立たないとな。【装填】【ウォーターボール】」
水属性のスキルならヨメカワイイも覚えている。
一発一発の水量はたかが知れていて【大海】のそれとは比ぶべくもないが、五倍、十倍と数さえ用意できるなら話は別――本来は大人数のパーティーでなければ不可能な芸当を、苦楽を共にして何度も助けられた心強いスキルによって強引に実現させる。
「【フレシェットスコール】」
水弾の雨が噴水目掛けて降り注ぐ。
「ざっとこんなもんだ」
「おー、お見事」
十分な水量を得た事で小噴水の輝きが直視できないほどに強くなり、三方から伸びた光を受けて大噴水の頂点にある赤い結晶がふわりと宙に浮かび上がったかと思えば――光を集めるだけ集めて破裂するように砕け散り、赤い星屑となって消えてしまった。
「…………」
「…………」
「…………えーと、これだけ?」
拍子抜けしたメイプルがぽつりと言った直後。
静寂を貫いていた廃墟中に何かが崩壊する音が轟き、大噴水とメインストリートで結ばれていた崖の突端にある祭壇が消えて、その跡地に白く光る魔法陣が現れた。
音が止むのを待ち、ボスモンスターがいきなり現れたりしないか確認し、用心に用心を重ねつつ魔法陣に近寄る三人。
崖下に広がる海原がぱっくりと左右に割れ、全てを飲み込まんと底なしの闇を見せつけている。
「うわー……すっごい不気味」
「私も飛び降りてみる勇気はないなぁ……」
「なら道は一つだな」
まるで死地へ誘うように背後で待ち構える魔法陣。
ここまで来て回れ右をする選択などあるはずもなく、光の輪の中に足を踏み入れた三人と三匹は暗い海底へと転移した。
◆ ◆ ◆
「真っ暗だね」
「上から見たあの穴の中なのは間違いないみたいだけど……」
「――【反響】」
無限に続く闇などものともしない超音波が、直線に伸びる半円の通路を暴き出す。
「トラップやモンスターの気配はなし。このまま真っ直ぐだな」
「索敵に便利なスキルよね、それ。何処で手に入れたんです?」
「教えてもいいが、弓装備じゃないと無理だと思うぞ」
サリーがインベントリから出したカンテラを受け取り、ヨメカワイイが先頭になって進む。
その気にさえなれば、【
「これ、時間切れで水没しちゃったりとかしないよね……?」
海水で作られた壁を短刀の先で突きながら、メイプルが縁起でもない事を言う。
「どうだろな。もしこの先にボスがいるなら、少しくらいは時間も余裕があるとは思うが……」
「宝箱だけ置いてあって制限時間内に取って脱出、とかだったら逆にのんびりしてられないよね」
絶対に水没などしないと断言できない以上、さっさとこの海中トンネルから移動してしまおうと三人が徐々に早歩きになる。
水が迫ってきそうな気がするので後ろは振り返らない。
ちょっとしたウォーキング、あるいは指名手配犯がやむを得ず交番前を通る時のような足運びでせかせか進み続けると、珊瑚の装飾が施された大扉が一行を出迎え、辺りが一気に明るくなった。
本に記されていた文章の一端を思い出す。
「勇敢ナル者ヨ、魔ヲ払イテ、青ク静カナ海へ……だっけ?」
「ボス戦は決定ですね」
「じゃあ早く行こうよ!」
意気揚々と大扉を開けようとするメイプルだったが、
「待ってメイプル。どんなボスか分からないし、念のため朧とシロップを【休眠】させなきゃ」
「おっと、それもそうだ! ありがとサリー! シロップ、ちょっと待っててね!」
「朧も休んでてね」
シロップと朧の身体が光に代わり、少女達が嵌めた指輪に吸い込まれていく。
急に友達が消えたミケは慌てて周りを見渡して、自分だけになったと理解するとヨメカワイイの背中を急いでよじ登り、定位置であるアフロの中に潜り込んでしまった。
「カワイさんはミケを戻さないんですか?」
「……戻し方を知らないんだよ」
「えっと、レベルが上がると【休眠】と【覚醒】ってスキルを覚えるはずなんですけど……」
残念ながらミケはそんなスキルは覚えていない。孵化させたばかりでレベルはまだ1なのだ。
仕方なくミケをアフロに隠したまま、大扉を押し開く。
ボス部屋の内部はさながら大規模なアクアリウムといった感じだ。ヨメカワイイが灼竜と戦った火口に比べたら半分ほどの面積だが、ドーム状の天井は高く、魚達が優雅に泳ぎ回る周囲の海中もボスのテリトリーなのだとすれば非常に厄介か。
「来たよ、上!!」
サリーが叫ぶのと同時に、吸盤のある触手が何本も天井を突き破って現れる。
紺碧の中に浮かぶその巨大なシルエットは、
「イカぁ!?」
「もしかしてカナデが言ってた奴!?」
「カナデって誰だ!?」
「ルービックキューブの杖持ってるオセロが強い子!」
「なるほど分からん!」
三方に飛び退き、襲い来る触手をそれぞれ迎え撃つ。
メイプルの大盾が触手を飲み込み、サリーの二振りのダガーによって両断され、ヨメカワイイの爆弾矢が肉片に変える。だが、いくら攻撃してもイカにダメージが通った様子はなく、触手自体も時間経過で何度でも再生してしまう。
「これって本体を直接じゃないとHP減らないのかな!?」
「「【ウィンドカッター】!」」
サリーと合わせて風魔法を放つも、この場所は海底だ。大量の海水による水圧で風刃は防がれてどうしても憎たらしいイカまで届かない。みそボンに攻撃しようとしているようなものだ。
さあどうしましょと前後左右上下から迫る触手を躱しながら攻略法を模索していると、
「う――うわわああぁっ!?」
「っ!? メイプル!?」
「だぁーいじょーぉぶー!!」
二人が攻撃を中断したために残るメイプルにターゲットが集中し、五、六本の触手でぽんぽんとジャグリングされ始める。そんじょそこらのプレイヤーなら撫でられただけで即死の攻撃を受けて無傷どころか楽しんですらいるのだから、改めてアホ毛娘のVITの高さに驚くやら呆れるやら。
ともあれ、メイプルが注意を引いてくれている間にダメージを与える方法を考えなければ。
「私が行きます!」
「はい行ってらっしゃい!」
スキルに【潜水Ⅹ】と【水泳Ⅹ】を持つサリーが水に飛び込み、巨大イカに連撃を浴びせる。
イカのHP自体はそこまで高く設定されてはいないらしく、エフェクトで輝く双刃の猛攻により早くも一割近く削られた――しかし、攻撃を与えた事でターゲットが変更され、メイプルを地面に叩き落とした触手群が水中から戻ったサリーに殺到する。
「【カバームーブ】! 【カバー】!」
すかさず親友の前に瞬間移動し、攻撃をその身で一手に引き受けるメイプル。
大盾も使わずにノーダメージなのは見慣れたのでもうツッコまない。けど何だ【AGI 0】なのに瞬間移動するって。
ヨメカワイイも棒立ちで置き物と化しているつもりはない。
「【火山弾】!」
唯一自在に泳げるサリーを援護するために、伸ばした右手に紅蓮の魔法陣を展開し、ドーム内で暴れる触手に高熱を帯びた二メートル級の岩塊を撃ち込む。
当然、攻撃対象がヨメカワイイに切り替わる。
ミケがアフロから振り落とされないよう細心の注意を払いながら触手を避け続けると、
「【
今度は真横から紫の三つ首竜がイカゲソに食らい付く。
各自が役割に専念している限り、巨大イカをある程度思い通りに行動させてハメ殺しができる。
しかし、これはお世辞にも最善手とは言えない。何しろこちらのパーティーのダメージソースが完全にサリー頼りなのだ。
そのサリーが触手から逃れてメイプルの背後に回る。
「気を付けて! パターン変わったよ!」
「うん、分かった!」
HPが七割まで減ったイカの周囲に魔法陣がいくつも出現し、魚が次々に召喚される。
魚類なのだから水中は言うに及ばす、ヨメカワイイ達がいるドーム内に入り込んで空中まで泳ぐ生態不明の魚――今度は何だ、魚群リーチか?
「ああもう面倒臭い! メイプル! サリー! 当たったら後で謝る!」
パーティーメンバーなので巻き込まれても問題はないとは思うが、一応念のため、二人に断りを入れてから片膝をついて両腕を地面に押し当てる。
「【インフェルノオーラ】!」
岩石すら触れずに溶かし流す灼竜の熱気が全身から発せられ、それを浴びた空中の魚群が一瞬で全身を沸騰させながらぼとぼとと地に堕ちていく。流石に冷たい海水に守られた魚や巨大イカには効果が薄いが、それでもほとんど大半は無力化できたので良しとしよう。
「うっわ、えぐ……」
「蒸し焼きになっちゃった」
「言ってる場合じゃないぞ。おかわり追加だ」
魔法陣からはまだまだ魚が溢れ出てくる。
「よぉーし、今度は私が! 【
再び迫る魚群をメイプル十八番の毒魔法が飲み込み溶かし――そのままプールに飛び込む夏場の子供よろしく、頭から水の中に突っ込んだ。
「あ」
「い」
「う」
三者三様の声が上がる目の前で。
ボスにすら致命傷を与える猛毒の竜の身体が崩れ、水にほんのりと紫色が加わる。海水と毒液の比率から考えて毒性は多少は薄まっているだろうが、サリーを泳がせるにはリスクが高過ぎる。
ローテーションが狂った三人を嘲笑うように魚が増える。
新たな魚群は体当たりする個体と謎の液体を吐く個体とに分かれ、水に入れなくなってドームの内周を並走するサリーとヨメカワイイを追い回す。メイプルは相変わらずお手玉状態だ。
「どうしようどうしようどうしよう!?」
「メイプル、もう撃てる【
「は、はーい! サリー、【悪食】も使うけどいいよね!?」
「こうなったら仕方ないよ! 思いっ切りやっちゃって!」
「よしきたぁ!! 綺麗な海をー、毒の海にー!!」
メイプルは弄ばれながら短刀を海中に向け、
「【
短刀を一旦鞘に納め、万物を喰らう大盾で触手を薙ぎ払い、無限再生するボスの肉を齧り取る。
やはりHPは削れない。
「でもって、もっかい【
今度は斜め上の水中に向かって放つ。
海に撃てとメイプルに言ったのはヨメカワイイで、それを後押ししたのはサリーだ。なので毒が海中を侵蝕しようとしまいと指示に従ったメイプルを責めるつもりはないが、しかし、その結果がこれではあまりに惨い仕打ちではなかろうか。
「うおおおおおおっ!?」
「メイプルの馬鹿ぁ! 毒! こっちに毒降ってるからぁ!!」
「あわわわっ、ご、ごめーん!!」
水面――水壁にぶつかった衝撃で飛び散った【
ヨメカワイイは【毒耐性中】の恩恵で、サリーは持ち前の超反応で避けて無事だった。代わりに二人を追っていた魚群が毒の雨に打たれる災難を被って消滅する。
「し、死ぬかと思った……!」
「そのセリフはまだちょっと早いな! 【装填】【火山弾】――【スプレッドショット】!」
終わった気でいるサリーに対し、噴石の拡散矢を背後に撃ちながらヨメカワイイは叫ぶ。
蹴散らしても、焼き尽くしても、切り刻んでも。
触手と魚群は次から次へと再生と補充を繰り返して途切れる素振りを見せない。
地面に点在する毒液と謎の液体を跳び越え、思い出したようにすぐ横の水壁から突き出す触手を仰け反って潜り抜け、小賢しくも正面に回り込んできた魚群を三枚下ろしと焼き魚に調理する。
そうして毒流しと耐久マラソンを続け早二時間――部屋の異変に真っ先に気付いたのは、地面に仰向けに寝転んで触手攻撃をマッサージ代わりにしていたメイプルだった。
「……やっぱり気のせいじゃない。大変だよ! この部屋狭くなってきてる!!」
「だよね!? 一周する間隔が短くなってる気がしてたもん!」
一党の活動可能な範囲が真綿で首を絞めるようにどんどん縮小し、逆にイカスミを吐いて巨体をくらましたボスの領域が広がっていく。空気のあるエリアが狭まり続ければいずれは全てが海水に支配され、メイプルとヨメカワイイは元より、サリーも最大で四十分しか生きられない。
黒色が薄れて本体を視認できたのを転機に、三人は攻勢に移る決断をした。
「メイプル、カワイさん、準備はいい?」
「こっちは何時でも」
「私も大丈夫だけど……ホントに上手くいくのかなこれ!?」
まずは邪魔な魚群を一度全滅させてから。
サリーは仁王立ち、ヨメカワイイは黒弓を錨弓に換装し、肝心要のメイプルは大盾を持ったまま錨弓の長柄部分に鎖で縛り付けられている。運営がこの光景を見ていて編集で今の三人それぞれに効果音を加えるとしたら『ドン! ドン! チーン……』だろう。
方法としては至極シンプル。
巨大イカを釣り上げて、こちらのテリトリーまで接近したところを一斉攻撃するのだ――馬鹿な作戦だと笑うなら笑え。同じ景色の中を延々と走り回っていれば馬鹿にもなる。
「大物を狙うには、使うエサも奮発しないとな」
「そういう事。それじゃあ作戦開始だよ! 【跳躍】!」
「舌噛むなよメイプル!」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!?」
高く跳び上がったサリーを目印に、ヨメカワイイが鎖を余分に伸ばした錨弓(メイプル付き)を豪快に振り回して投擲。
「よ……っと! 【背負い投げ】!」
錨弓(目を回すメイプル)を受け取ったサリーはさらに水面付近までぶん投げると、
「【衝撃拳】!」
彼女の拳から空気の圧縮砲弾が放たれ、それにより爆発的な推進力を得た錨弓(『へぇぇ~』と情けない声のメイプル)が水面を突き破ってイカに迫る。
グロッキー寸前でもド根性で大盾を手放さなかったメイプルが渾身の力を振り絞り、HPバーをごっそりと奪い取った。
勝負はここから。
錨弓(いよいよ吐きそうなメイプル)がイカの本体にがっちりと食い込んだのを確認し、鉄鎖を巻き取りながらヨメカワイイとサリーの二人掛かりで引っ張る。
ただの綱引きならば巨体を誇るイカに敵うはずもない。しかし、海に溶けた毒の継続ダメージと今のメイプルの一撃で残りの体力が危険域に達した海底の主は最後のパターン変化を敢行、二人に引っ張られるがまま、むしろ自ら安全圏を捨てて猛スピードで海中から飛び出した。
その身に魚群と同じ青いエフェクトを纏わせながら。
「最後は特攻か。触手は頼んだ!」
「お任せあれ!」
研ぎ澄ませた集中力で恐怖を踏み越えたサリーが、直撃を紙一重で躱しイカの真下に滑り込む。
「【パワーアタック】! 【トリプルスラッシュ】! 【サイクロンカッター】!」
幾筋も迸る連撃と風刃で邪魔な触手全てが根元から綺麗に両断され、ついでとばかりに本体にも無数の切り傷を加える。
文字通り手も足も出なくなり、胴体部分での押し潰し以外の術を失ったイカ。
こうなってしまえば、ボスであろうとまな板の上の魚介類――
「いけるなメイプル!? 腹いっぱい食らわせてやれ!!」
「ふぁい! 頑張りましゅ!!」
巨大海鮮食材にぴったり密着した――と言うより離れられない――メイプルが短刀を突き刺して紫毒の魔法陣を描き、落下予想地点から動かないヨメカワイイの足元にも灼熱の魔法陣が輝く。
「【
「【
「アフロが燃えた!?」
漆黒の刃先より溢れる腐毒の三頭竜が内側から食い荒らし。
燃え盛るアフロから顕現する単眼双角の灼竜が焦熱の大顎で焼き千切る。
毒と熱の相乗効果で原形が失われるまで肉を融解させられ、紺碧の海に君臨していた軟体動物の命はついに完全に滅び尽きた。
◆ ◆ ◆
水壁の侵食も止まり、毒も浄化されて海底に平穏が戻る。
サリーが海を泳ぎ回って討伐報酬を探す。けれど見つかったのは触手一本だけ――あのサイズであれだけ苦労したのにメダルもなしでは大ハズレも甚だしいが、三人は一縷の望みを賭けて青色の転移魔法陣に乗った。
転移先はまたしても海中だった。
「ふばぼもべばごばばばばっ!?」
「落ち着いてメイプル、息できるから!」
サリーの言う通り、呼吸は問題なく行える。本当に魚にでもなった気分だ。
「不思議なもんだな、水の感触も浮力もあるのにこうやって話ができるってのは」
「そう言えばカワイさん! さっき頭が燃えてましたけどミケちゃんは平気なんですか!?」
「ニャー?」
メイプルの問いに答えるように、アフロの中からミケが顔を出す。
ゴブリン種特有の緑の柔肌には火傷や焦げた跡はなく――何処で手に入れたのか水中ゴーグルとシュノーケル、足ヒレまで装着した、完全にマリンスポーツを満喫するつもりの格好だ。
ふよふよぐるんぐるんと緩やかな流れに弄ばれるミケ。それを逃さず録画するメイプル。
楽しそうな一人と一匹を放置して、ヨメカワイイとサリーは【青ク静カナ海】で珊瑚に守られた青い宝箱を発見。中にはメダルが三枚と巻物が三本入っていた。
「メダルは一人一枚で分けるとして、この巻物は……」
「えっと、スキル名は【古代ノ海】か。取得条件は水系スキルを覚えている事であの変な水を吐く魚達を召喚するだって。うわ、やっぱり【AGI 10%減】だったんだ。浴びなくてよかった」
「AGIが減らなくても魚の吐瀉物なんざ浴びたくないがな」
どうあれ取得しておいて損ではないので、サリーとヨメカワイイは巻物を開いて【古代ノ海】の光のエフェクトが自身の身体に吸い込まれていくのを眺める。
メイプルもダメ元で巻物を使ってみるが、水系スキルを覚えていないので何の反応もない。
「むー、私だけ仲間外れ。【
「いやいや、あれは水属性には分類できないでしょ……」
「使えたとしても、ほとんど大半のモンスターやプレイヤーはお前さんより速いままだぞ、多分」
「うぬー!」
敵がある程度素早くても、広範囲に毒や麻痺を撒き散らせるメイプルなら対処は容易だ。
それすら躱せるサリー並みの回避能力を持つ相手だとしたら、そもそもルーチンで自動追尾する魚達如きに不覚を取るとは思えず、どの道メイプルが得意とする受け身の戦法では【古代ノ海】が助力になる機会は乏しいだろう。
ヨメカワイイは適当な扇珊瑚をベッド代わりにして寝転ぶ。ミケはまだまだ泳ぎ足りないらしくアフロに戻ろうとはしないが、モンスターのいないこの場所なら目を離しても平気だ。
「……俺はしばらく寝る。パーティーは抜けてあるから、二人で移動するならそうしてくれ」
大噴水の仕掛けを作動させた時点で午前零時。巨大イカとの長丁場を耐え抜いた今は、深夜より日の出直前と言った方が適切な時刻。
脳が休息を求めている以上、無理に徹夜するのも馬鹿馬鹿しい。
「だってさメイプル。私達はどうしよっか?」
「うーん……? じゃあさ――」
手招きする睡魔にうつらうつらと誑かされていると、身体に軽い衝撃――目だけ動かして何事か確認すれば、左右に伸ばしたヨメカワイイの両腕をメイプルとサリーが枕代わりにしていた。
ゲームの中だとしても、最近の若者は異性と一緒に寝るのにこうも抵抗がないのか。
「えへへ、皆で川の字だねー」
「これじゃ川ってより木の字だけどね」
「…………」
自分でも知らぬ間に疲れが溜まっていたらしい。何か言う気も起きない。
もう夢の中に片足を突っ込んでいるのだと思う事にして、両手に毒花と剣花のこの状況、絶対に嫁には知られませんようにと願いながら眠りに就いた。
次でイベント終わればいいなぁ。
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