VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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わたしは かみ につくられた
けれど かみ にいらないといわれた



024.女帝の片鱗

 体感で五、六時間。

 自分でも驚くほどすっきりとした目覚め。しかし隣に嫁はいない。

 遊び疲れたミケが顔面に貼り付いて唾液を垂らし、想像以上に寝相が悪いメイプルが少し離れた珊瑚の枝に逆さ吊りで熟睡していた以外は問題らしい問題もなく、魔法陣を使用して三人と一匹は崖の上に帰還する事ができた。

 背後には廃墟、眼下には海原。

 大噴水の輝きは失われ、海面の大穴も埋まって元の風景を取り戻している。

 

「六日目の午前中かぁ。結構寝ちゃったね」

「そだね、おかげで体調はばっちりだけど。カワイさんはこれからどうするつもりですか?」

「さぁてなぁ、特にあっちに行こうそっちに行きたいって予定はないが……」

 

 現状、メイプル達は二人で十八枚、ヨメカワイイは九枚。

 総数三百枚の銀のメダルが全て発見されてしまっているとは思わないが、それでもフィールドに隠されている枚数より他のプレイヤーが持っている枚数の方が多いと考えるべきだ。

 メダル十枚で景品一つと交換だから、金のメダル所持者を除いて最大三十人。

 三枚でも五枚でもなく、きっちり十枚集めないと単なるイベント記念品に過ぎず――残り一日と十数時間しかないとなれば、メダルが目標数に足りていないプレイヤー達がいよいよ目の色を変え殺気立ち始める頃だろう。

 しかし、悪い展開ばかりではない。裏を返せば、序盤で強奪や紛失を恐れて身を潜めていた輩が表に出てくるという事でもある。

 自分の考えを伝えると、サリーは頷いて、

 

「やっぱり、今からだと未発見のダンジョンを探すよりプレイヤーを狙った方が……」

「メダルが手に入る可能性は高いだろうな」

 

 これはあくまでヨメカワイイ個人の意見だ。

 惰眠を貪る直前にメイプルとサリーのパーティーからは抜けているので、PKメインに移行するかどうかは二人で話し合って決定してもらうしかない。メイプル達にはメイプル達なりの楽しみ方があるのだから、偶然合流しただけの自分が偏った考えに誘導するのは間違いに思う。

 

「メイプルは平気? 対人戦大好きってタイプじゃないでしょ?」

「そうだけど……でもカワイさん以外のプレイヤーには結構襲われたし、私もやる時はやるよ!」

 

 ふんすっ、と意気込むメイプル。

 率先してPKに精を出す好戦的な性格ではない。けれど、前回イベントで初心者ながらも第三位の座に輝いた実績から分かるように、必要とあらば他者への攻撃も一切躊躇わない思い切りの良さは頼もしさすら感じられる――思い切りが良すぎて危険物のテントウムシまで食すのだから、何事も時と場合によりけりかも知れないが。

 

「それじゃあカワイさん、私達はあっちの山に行ってみます」

「色々と助けてくれてありがとうございました!」

「こちらこそ楽しかったよ。最終日まで気を抜くなよ?」

「カワイさんもね!」

 

 方針も固まり、行き先も決まったメイプルとサリーはヨメカワイイに礼を述べ、手を振りながら北北西に見える山岳地帯に向かって歩き出した。

 遠ざかる二人の背中を見送り、アフロの中の相棒を顔の前に引っ張り出す。

 

「じゃあ、こっちはお前のレベル上げでもしようか?」

「ニャー?」

 

 ヨメカワイイに右足を掴まれ、逆さまのまま首を傾げるミケ。

 イカとの戦闘では終始アフロに隠れて参加せず、ヨメカワイイも指示しなかったため、経験値が得られずレベルは孵化直後からまるで変化がない。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ミケ

 

 Lv1

 

 HP 130/130

 MP 110/110

 

【STR 10】

【VIT 15】

【AGI 50】

【DEX 40】

【INT 60】

 

 スキル

 

【眷属召喚】

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 HPとMPが他より秀でているのはヨメカワイイのステータスが反映されたからか。

 それ以外は可もなく不可もない能力値。

 スキルの【眷属召喚】は名の通りゴブリン種を召喚して味方にすると推測できるが、そうなるとミケ自身の直接攻撃の手段が殴る蹴るくらいしかない。完全にサポート型のパートナーだ。

 手の掛かる相棒を肩に乗せ、ヨメカワイイは踵を返す。

 

「せめてお前の友達みたいに【休眠】と【覚醒】だけでも覚えないとな」

「ニャー、ニャニャー」

 

 廃墟の周囲は海と森。

 五日目の道中で狩ったモンスターの強さから考えて、自分が攻撃してダメージを稼ぎ、とどめをミケが刺せば経験値はミケに入るはずだ。もっと効率の良い方法を探すのはイベント終了後にでも計画するとして、攻撃系のスキルを覚えるまではこの繰り返しでお茶を濁すしかない。

 

「【跳躍】」

 

 廃墟を後にして宙を飛び、獲物を探す。

 途中、数組のパーティーに遭遇するも、ヨメカワイイの特徴的な黒衣を見て慌てて逃げ出すのがほとんどで、臨戦態勢に入った一党はミケに相手にさせるには格上だったため、上空からの爆撃と火砕流で容赦なく消し飛ばした。メダルはなかった。

 

「お、あれとかいいかもな」

 

 そんなこんなで見つけたのが、緑の装甲を持つイモムシ型モンスター。

 メイプルの粗悪劣化版のような、見るからに防御と耐久に特化したタイプ――それが今は手頃で丁度いい。ミケのレベルを上げるためには、ヨメカワイイの一撃で死んでもらっては困るのだ。

 錨弓に持ち替えて数回殴ると、イモムシのHPバーは数ミリを残して赤色に明滅する。

 

「よーしミケ、とりあえず攻撃」

「ニャー!」

 

 ぽてぽてぽてと柔らかな足音を立てて、やる気に満ちたミケが満身創痍のイモムシに急接近。

 攻撃とは命じたものの一体どうするつもりなのかと観察していると、ミケは付近に転がっていた太い枝を両手で持ち上げると、一心不乱にイモムシを殴り始めた。

 方法としては原始的でもダメージには繋がっているらしく、イモムシのHPは少しずつ、ほんの少しずつ減少していき、二十数回目の殴打で光と消えた。

 良い運動になったぜ、とばかりに額の汗を拭うミケ。

 ゴブリンらしいと言えばゴブリンらしいが、ゴブリンだからこそやはり弱い。HPがギリギリで動けない敵を相手に何度も殴らないと倒せないのでは、万全の敵に挑んだら返り討ち必至だ。

 

「まあ、誰にでも適材適所があるわな」

 

 別個体のイモムシがリポップするのを待ち、今度はスキルを検証する。

 

「ミケ、【眷属召喚】」

「ニャー」

 

 大声で叫ぶのか、それとも角笛でも吹くのか。

 RPGのコマンドで言うところの『なかまをよぶ』系のスキルだろうと思い、何処からゴブリンがやって来るのかとちょっぴりワクワクしながらヨメカワイイは待つ。

 しかしミケはその予想を裏切って叫ばず笛も吹かず、着ている貫頭衣の中から小さな小さな旗を取り出すと、はいこれ、とでも言うように己の主人に手渡した。

 お子様ランチのチキンライスにでも刺さっていそうな、手作り感満載の旗。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

『小鬼族の召喚旗』

 使用するとゴブリン種のモンスターをランダムに召喚できる。

 一度召喚に成功したクラスのモンスターは任意に選択し召喚可能。

 召喚したモンスターは一時間で消滅する。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 どうやら、この【眷属召喚】はミケがゴブリンを呼ぶのではなく、ゴブリンを呼べるアイテムを生成するスキルらしい。紛らわしいスキル名だ。

 

「しかしアイテム……爆弾と同じ消費型のアイテムか……」

「ニャー?」

「いや、何でもない」

 

 とりあえず『小鬼族の召喚旗』を地面に刺してみると、旗を中心に魔法陣が展開し、その中から棍棒を持った緑の肌の矮躯が十体現れた――どれも敵性モンスターとしてフィールドにポップする見慣れたゴブリンばかりで、ミケのような外見だったら囮や肉壁にできないけどどうしようというヨメカワイイの心配は杞憂に終わる。

 召喚されたゴブリン達は、ただじっとヨメカワイイとミケを見る。

 

「…………攻撃?」

 

 試しに二代目イモムシを指差して命令を下すと、十体のゴブリンが一斉に攻撃を開始した。

 

「ニャー!」

「お前は行かなくていいの」

 

 自分も命令されたと勘違いしたミケの頭を掴んで止め、途切れる事のない棍棒の殴打を眺める。

 二代目イモムシが体当たりで反撃し二、三体がダメージを受けたものの、一対十、多勢に無勢の数の暴力には敵わない。すぐに初代の後を追う事になった。

 同時にミケのレベルが上がったため、ゴブリン達が倒したモンスターの経験値は全てミケに入る仕組みになっているようだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ミケ

 

 Lv2

 

 HP 180/180

 MP 160/160

 

【STR 15】

【VIT 20】

【AGI 55】

【DEX 50】

【INT 80】

 

 スキル

 

【眷属召喚】【見様見真似】

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ステータス上昇やスキル獲得は自動なのか。

 その後も何回か召喚を試みて検証した結果、弓を装備したゴブリンアーチャー、剣と楯に鉄兜のゴブリンソルジャー、祈祷師装束のゴブリンシャーマンなど、アイテムの説明に記されていた通り様々なクラスのゴブリン種がランダムで現れた。

 要するにゴブリンガチャだ。

 召喚したゴブリン達はHPが0になるか一時間経過で消滅。そして現在、困り顔のヨメカワイイとミケの前には綺麗に整列する緑の軍勢が。

 

「どうすっかね、これ……」

「ニャー……」

 

 調子に乗って召喚し過ぎた。

 強さと数は反比例するのか――最弱クラスの棍棒持ちゴブリンならば『小鬼族の召喚旗』を一個使用して一度に十体召喚、そこから上位種になるほど九体、八体と、一つの魔法陣から現れる数が減らされていく。最上位種ともなれば一個の召喚旗で一体が限界だろう。

 ともかく、この大所帯をどうしたものか。

 自動消滅するまでぞろぞろと引き連れて行動するのも馬鹿げている。

 

「よし、お前達! この道をまっすぐ、まーっすぐ進んで敵を見つけたら攻撃しろ!」

「ニャー!」

 

 ご命令はまだかご命令はまだかと目を輝かせていた小鬼の群れが咆哮し、ヨメカワイイが適当に指し示した道を土煙を上げ猛進していく――これであの一団は制限時間が来るまでロードワークを続けるだろう。不運にも狙われたプレイヤーやモンスターにはご冥福をお祈りするしかない。

 

「お達者でー」

「ニャーニャー」

 

 ゴブリン軍団を無責任に解放したヨメカワイイとミケは、気楽な二人旅を続けるのであった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……おい」

「うああああっ! 言うな! 今は何も聞きたくないし見たくない!」

「気持ちは分かるが見なきゃ始まらんぞ」

「何が孵化するかと思ったら、よりにもよってだもんなぁ。しかも飼い主があのカワイって……」

「てか、どうしてあれのデータなんて保管してたんだ?」

「うう……せっかく作ったんだし記念にと思って……すんませぇん!」

「問題は、あそこからどうなるかだよな。メダルのスキルや第三回、第四回イベントもあるし」

「場合によっちゃフィールドがゴブリンで埋め尽くされるぞ」

「とにかく監視と管理を怠るなよ! 特にメイプルとカワイの!!」

 

 無垢な魔王が誕生するかも知れない状況に、運営ルームは戦々恐々としていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 個体名:ミケ

 種族名:小鬼女帝(ゴブリンエンプレス)




わたしは かみ にすてられた
そんざいさえ けされるはずだった
けれど わたしは ごしゅじんさまにであった
くらいくらいやみがこわれて おおきなてがわたしをだきあげた
はなすことも ちからもない 
そんなわたしに なまえをくれた


わたしは みけ


もっともよわく もっともおおく もっともおそろしい おにたちのじょおう
ごしゅじんさまにつくす おにのじょおう の よてい
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