VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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メイプル達がギルドを作った、その裏で。


026.依頼

 七日間にも渡る大冒険を繰り広げようと、興奮冷めやらぬ様子の嫁を風呂で愛でようと、そして我に返り悶える彼女を布団の中でさらに羞恥漬けにして弄ぼうと、翌日が世間一般で言うところの平日であり職務に従事しなければならない日である事に変わりはなく。

 若者達の進路と賃金のために、時差ボケにも似た眠気を堪えてチョークを走らせる。

 ゲームでは適当な雑草や木の枝でも売れば金になるのに、現実とは世知辛い。

 

「それじゃあ次の問題を、本条…………本条ぉー?」

 

 いつもなら元気に返事をするはずの本条楓から応答がない。

 板書した数式から視線を移すと、窓際に近い席で、力なく机に突っ伏した本条の姿が――急病か何かかと内心焦るが、ゆっくりと規則的に上下する小さな背中を見てその考えを蹴り飛ばす。

 楓ぇ、楓ってば、と隣席の女子がペンで突いて起こそうとするものの、本条が微睡みの世界から覚醒するよりヨメカワイイが彼女の席まで歩み寄る方が早く。

 

「……ん、んぅー……もう見張りの時間? ……あれ?」

 

 伸びをして、それなりの声量で珍妙な寝言を放った本条とばっちり目が合う。

 泣く子が黙るどころか失禁確実と学生時代から定評ありの睨み――睡魔で凶悪度三割増し――を利かせると、ようやく自分が何処にいて、今が何の時間なのかを思い出したらしく、お寝惚け娘はバネ仕掛けのように背筋を正した。

 

「……本条」

「は、はひっ……」

「そんなに見張りがしたいなら、廊下でも見張ってるか?」

「が、頑張って起きてましゅ!」

「そうしてくれると先生も嬉しいなぁ」

 

 あの白峯でさえ起きているのに本条が一限目から居眠りをするとは、珍しい事もあるものだ。

 数時間後――職員室で同僚の体育教師から聞いた話によると、昼食後の体育の授業でも、本条はいきなり何か叫ぼうとして顔面にボールを食らったらしい。

 白峯ならともかく本条が、と妙齢の体育教師(女性で未婚)も不思議がっていたが、やはり他の教師にも普段からそう思われている白峯にこそ、話し合うべき問題があるような気がしてきた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 第二回イベント終了から数日後。

 今日も今日とてログインしたヨメカワイイは、二層の町で好奇の視線を浴びていた。

 ゲーム内の大きな変化と言えば、防御貫通スキルに対抗するスキルの実装と、各階層でギルドが購入し所有できるギルドホームの解放の二点が挙げられる。

 対抗スキルについて特に思うところはない――そもそも馬鹿げたHP量に任せて基本的に防御が二の次になっているヨメカワイイには、通常攻撃スキルも貫通スキルも正直大差ないのだ。

 

「メイプルやクロムみたいに防御力メインなら取ってただろうけどな」

「ニャー」

 

 一方で、ギルドホームに関しては大手ギルドも含めた皆が購入しようと躍起になっている。

 そのためには新たに実装された光虫と呼ばれるモンスターを倒すとドロップする『光虫の証』を入手する必要があり、有限な上に光虫のランクや種類も豊富なおかげで、場所にもよるが、最近の主な狩り場はよりランクの高い光虫を狙うプレイヤーでごった返しているのだった。

 ただし高ランクの『光虫の証』を手に入れても購入権を得ただけで、正式にギルドホームとして登録するには多額の代金を支払なければならない。

 その額、最低ランクで五百万也。

 まあ一人で買うようなものでもなくステータスアップ効果もあるとなれば、オーダーメイド装備五人分の資金をギルドメンバーで出し合うと考えて妥当な価格設定なのだろう。

 一つ、予想外だったのが――

 

「……まさか俺にも勧誘が来るとは思わなかった」

「ニャー……」

 

 拠点が解放された事で、各ギルドが本格的にメンバー集めを開始したらしい。

 まずは『炎帝ノ国』の三人娘からギルドホームに遊びに来ないか、ミィ様も会いたがっていると社交辞令付きのメッセージが届き、続いてメイプルからもギルドを作ったので良かったらどうかと勧誘のメッセージ。他にも町を歩いていて知らないプレイヤーから声を掛けられる事がしばしば。

 三人娘やメイプルはともかく、いきなり『俺達のギルドに入ってください!!』と辻斬りならぬ辻勧誘されるので、大学の頃、背が高いからとやたらしつこくて面倒だったバスケ部やバレー部のサークル勧誘を思い出してしまった。

 

「まいどー」

「あら、まいどー」

「ニャー」

「ふふっ、ミケちゃんもまいどー」

 

 扉を開けると、ゴーグルを着けたイズがいつものようにカウンター奥で出迎えた。

 イズ工房二号店とでも言うべきか――二層にも看板を上げた彼女とも、爆弾の販売や素材採集の護衛の依頼を受けた縁もあってすっかり顔馴染みとなっていた。

 女性の知り合いが増えると、フレンド欄を嫁に見られた時にややこしい事になりそうだ。

 だがイズ以上に腕の立つ生産職プレイヤーをヨメカワイイは知らないし、今後出会ったとしても乗り換えるつもりはない。大量購入すると割引してくれるからという理由もあるにはある。

 

「その様子だと大人気みたいね?」

「勘弁してくれ。ここに来るまで何度呼び止められたか……」

「今は仕方ないわよ。掲示板にだって『第三回イベントからはギルド対抗戦が増えるかも』なんて書き込みが増えてるくらいだし、ソロプレイで有名な貴方を仲間にしたがるのも当然でしょ」

「ついこの前までは近寄ろうともしなかったのに、現金なもんだ」

「ちなみに私はメイプルちゃんのギルドにスカウトされちゃいましたー♪」

「いやもう知ってるし」

 

 世間話もそこそこに、取引を始める。

 モンスターからドロップした素材をイズに売却し、金銭は受け取らず、その金額分値引きされた特製爆弾や発煙弾、珍しい品物では衝撃を与えると強烈な光を放つゴルフボール大の水晶玉などをいくつも買い込む。

 

「売ってる私が言うのもおかしな話だけど、爆弾はまだ必要なの? 第二回イベントの最後の方で出した……えーと何だっけ、あの赤い竜のスキル」

「【灼竜(シウコアトル)】」

「そうそれ。見た感じメイプルちゃんの【毒竜(ヒドラ)】並みに強力なスキルでしょ? あれを使えるならわざわざ攻撃用のアイテムを買わなくても問題ないんじゃない?」

「ボスの固有能力か、ダンジョンのギミックか――何かの拍子にこっちのスキルが封印されるかも知れないだろ。それに、俺だけが使うって訳でもないしな」

 

 まだまだ検証と実験を繰り返している段階だが、形になればさぞかし面白い事になるだろう。

 

「もう一つ頼んでいた品は?」

「ああ、それなら――」

 

 イズが近くの戸棚から何かを取り出そうとした時だ。

 入口の扉が押し開かれ、誰かが店内に入ってきた。

 一瞬メイプルかと思ったが人目を引く黒の重鎧ではなく、『NewWorld Online』では典型的な魔法使いの格好――赤いローブを前を開けて羽織った少女のプレイヤーだった。

 被ったフードの中から流れる赤茶色の三つ編みと、半月型の縁なし眼鏡。

 装備や髪型で多かれ少なかれ自己主張するのがプレイヤーの性分だが、彼女の場合は整った顔をキャンバスに、右頬から左こめかみにかけて燃え盛る炎の刺青が特徴らしい特徴か。

 

「いらっしゃいませー、どんな装備をお求めでしょうかー?」

「あ……すみません、お店じゃなくてその、そっちの人に用があるんですけど……」

「ん? 俺?」

「ニャー」

 

 唐突な指名にヨメカワイイは首を傾げ、アフロの中のミケがずり落ちそうになる。

 イズの店なのに、武具の作成でも素材の買い取りでもなく、偶然その場に居合わせた単なる客の一人でしかない自分に用があるとは。

 

「ここならカワイさんに会えるって噂になってるので……」

「どんな噂だよそりゃ」

「あら、知らなかったの?」

 

 疑問に答えたのは、何故か納得したような顔のイズだった。

 

「屋根の上を跳び回ったりして何処かに消えちゃう貴方が唯一、うちの店には定期的にアイテムの補充に来るでしょ? 特に最近はギルドの勧誘目的の冷やかしが多くなっちゃって、私もすっかり参っちゃってるのよー?」

「とか言って、俺が来る時間帯を教えるのを条件に、武器を割高で買わせたり入手が面倒な素材を採りに行かせたりしてるんだろ?」

「うふふ……やっぱり分かる? かなりの黒字でもうホントに参っちゃう♪」

「そりゃ結構ですコト」

 

 そうでなければ、客でもない者に店の中をうろつかれてイズが平然としているはずがない。

 ほんの少し、雀の涙ほど抱いた罪悪感を心の中のゴミ箱に丸めて叩き込み、会話に割って入れず置いてけぼりにされている若い魔法使いの前に立つ。

 ヨメカワイイからすれば大概の人間は見下ろす形になる――こちらの顔を見上げる彼女の背丈はメイプルより高く、知り合いの中ではサリーかミィと並ぶ。だから何だと言えばそれまでだが。

 

「ギルドの勧誘とかなら、残念だけど他を当たってくれないかな?」

「ち、違います!」

 

 少女は慌てて否定する。

 

「勧誘じゃなくて、私の依頼を受けてほしいんです!」

「「依頼?」」

 

 ヨメカワイイとイズの声が揃う。

 プレイヤーがプレイヤーに依頼する。別に珍しい事ではない。

 攻撃手段に乏しい生産職の大半は、戦闘職に買い物ついでの護衛や素材調達の『お使い』を頼む場合が多く、イズもその中の一人だ。

 しかし戦闘職が戦闘職にとなると、話は少し変わってくる。

 パーテイーを組んでの狩りが目的なら、人の集まる場所で標的にするモンスターや条件を流して募集すればいいのに、何故わざわざイズの店を訪れてまで自分に依頼したがるのか。

 

「実は私、二層に来たばかりで……どんなモンスターがいて、どんなアイテムがあるのか、色々と分からない事も多くて。だから案内してくれそうな強い人を探してたんです!」

「探すくらいなら攻略系の掲――」

 

 ――示板でも見た方が早いんじゃないか。

 そう言おうとした瞬間に、後頭部に鍛造用のハンマーが深々とめり込んだ。

 町中はPK禁止エリアでダメージはないが、それでも首が傾ぐ程度の衝撃はある――そんな凶器をぶん投げた女店主は、カウンターの奥でにこやかに微笑みを浮かべたまま、片手に収まるサイズの藍色のケースを見せつけるように揺らして、

 

「あらあらー? これは一体何かしらー?」

「おいおい……」

 

 あからさまに脅迫してきた。

 こうなってしまうとヨメカワイイに拒否権はなかった。




オリキャラ(?)登場。
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