VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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モンタナジョーンズ全話見てたら遅れました。

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029.夫婦の形

「【火山弾】!」

「【ファイヤーボール】!」

 

 真っ赤に熱した巨岩の弾丸と火球が飛ぶ。

 赤いオーラを立ち昇らせる巨大ムカデと、それと双璧を成す青いオーラの巨大ムカデ――二匹はドーム状の部屋を無数の足で縦横無尽に走り回り、ミイ達の攻撃を回避する。ほとんど凹凸のない壁や天井さえ彼らには普通の地面と変わらないらしい。

 

「【スプレッドショット】!」

 

 旦那様の爆弾矢を生物らしからぬ動きで直角に曲がって避ける。

 さながらレールに縛られないジェットコースター。

 夫と背中合わせになって死角を消し、相手の一挙手一投足を見逃すまいと警戒する――まだ目で追える速度ではあるが、赤と青の二匹はこちらを翻弄するように広い空間を駆ける。

 

「気を付けろ、青いのが突っ込んで来るぞ!」

「後ろからも赤いのが来ます! 【ウォーターボール】!」

 

 牽制のために放った水の砲弾が赤ムカデの重厚な外骨格にヒット――あの灼竜のように出鱈目なステータス設定ではないらしく、初級魔法でも明確にHPバーが減らせたと実感できる。

 けれど突撃が中断される様子はない。

 

「止まらない……! どうしましょう!?」

「掴まってろ! 【跳躍】!」

 

 旦那様のコートを両手で握り締め、二人で高く跳び上がる。

 猛然と迫るムカデの大顎が左右への退路を断つかの如く開かれているため、挟み撃ちから逃れる道が上しか残されていなかったのだ。

 標的が消えててっきり正面衝突すると思いきや、ムカデの番いは寸前で軌道を修正。息の合った見事なコンビーネーションで節くれ立った触角のある頭部を上方へ――勢いはそのままに、互いの腹を合わせるようにして長い身体を伸ばし、正確無比にミイ達を追い狙う。

 空中に逃げたのは失策だったと悟る。

 これでは躱しようがない。

 

「ちっ、そう簡単にはいかないか! 【灼竜(シウコアトル)】!」

 

 夫のアフロが燃え上がり、単眼双角の竜が迎撃に飛び出す。

 高威力の溶岩魔法を受けた青いオーラのムカデが黒煙を上げながら叩き落とされるが、

 

「カワイさん、横!」

 

 マグマが直撃する前に分裂して逃れた赤いオーラのムカデが、攻撃後の一瞬の硬直の隙を突いて右方から襲い掛かった。

 咄嗟にミイを両腕の中に庇い、横薙ぎに振るわれる大顎の一撃を背中で受け止める旦那様。

 

「っ、ぐぅ!」

「だっ――!?」

 

 二人は弾き飛ばされ、二、三度バウンドして地面を削っていく。

 回復させなきゃと慌ててミイが夫のHPを確認してみれば、流石と言うべきか、あれほど強烈な攻撃にも関わらずゲージはあと数十発は耐えられそうな残量でまだまだ余裕があり、すぐに機敏な動きで体勢を立て直す。

 

「大丈夫ですか!?」

「ムカデが嫌いになりそうだ……」

「私は最初っから大っ嫌いです!」

 

 速度の衰えないムカデ達は暴走列車と化して突撃を繰り返す。

 雄と雌であろう二匹のボスは常に鏡写し――対角線上に位置するように動き回り、二方向からの同時攻撃が基本パターンとしてAIにプログラムされているらしい。

 

「二匹まとめてってのは無理そうだな。各個撃破といこうか。赤い方の足止めを頼む」

「任せてください!」

 

 大顎を噛み鳴らす赤ムカデを、ミイは真正面から見据えて立ちはだかる。

 初級魔法を当てても止まらないのは先刻承知。ならば、敢えて限界までこちらに引き付けて、

 

「受け止める! 【ファイヤーウォール】! 【ウォーターウォール】!」

 

 炎と水の二重障壁に赤ムカデが激突する。

 

「くぅぅ……!」

 

 その衝撃は凄まじく、何十本もの節足で大地を蹴って障壁を突き破られそうになるが、それでもどうにか足止めという大役は果たした。

 連携が途切れたチャンスを旦那様は見逃さない。

 すぐさま武器を錨弓に切り替えると、背中を気にする事なく青ムカデに白兵戦を挑む。

 青ムカデの残りHPは【灼竜(シウコアトル)】を受けた時点で六割まで減少している――厄介な同時攻撃さえ封じてしまえば、一匹一匹の強さは二層に上がるための大樹の鹿と同程度で遅れなど取らない。

 旦那様が錨弓のカウンターを繰り出そうとした瞬間、青ムカデの複眼に魔法陣が浮かび上がる。

 放出される青色の波動。

 

「範囲攻撃!?」

 

 しかし夫にダメージはない。代わりに全身が青ムカデと同色のオーラで包まれる。

 一体どんなスキルなのか考えを巡らせるよりも早く、振り下ろされた錨弓は甲殻を叩き割らずに停止し、夫自身も謎の力で青ムカデから弾き飛ばされた。

 

「カワイさん!」

「平気だ! けど何だこいつは!」

 

 再び青ムカデに突っ込むも、ある地点を境に進めなくなる。

 動きが硬直して止められるのではない――見えない隔壁に阻まれて、どれだけ足を踏み出してもその場からの前進が叶わないのだ。

 ミイが食い止めている赤ムカデもパターン変化があり、身体を大きく持ち上げると、その節足の先端部分を射出し始めた。

 赤い光を纏うミサイルの雨。

 追尾性能があるらしく空中で不自然なほど自在に軌道を変えて夫に降り注ぐ。

 

「ああもう面倒な時に面倒なものを! 【インフェルノオーラ】!」

 

 夫の全身から熱波が迸り、弾雨を誘爆させていく。

 青ムカデに近付けなくなった以上、攻撃対象を変更しなければならない――黒衣の長身が錨弓を引き摺って走り、一時的に節足を失った赤ムカデの頭部を目指して跳ぶ。

 今度は途中で止められる事はなく、左右から襲う大顎さえ足場にしてダメージを与える。

 殴打の連続で三割ほどHPを削り、ヒットアンドアウェイで隣に着地した旦那様にミイは言う。

 

「赤い方には接近戦でも大丈夫みたいですね」

「っつーよりも、むしろ引き付けられる感じだったな。やっぱりこの妙なオーラが関係してんのは間違いなさそうだ」

 

 赤ムカデの複眼に魔法陣が浮かび、赤色の波動がミイと夫を飲み込む。

 HPの減少はないが、しかし夫婦揃って弾き飛ばされる。

 

「今度は赤いオーラ……って事は」

 

 夫が三度目の正直とばかりに青ムカデを狙う。

 青いオーラに包まれた状態では無理だった距離を瞬く間に縮め、錨弓の鉤爪で甲殻を抉り裂く。

 これで青ムカデのHPは半分を切った。

 

「当たった!」

「……どうやら絡繰りが見えてきたな」

 

 ミイも天才的頭脳で閃いていた。

 青と青では互いに近付けず、赤と青では引き寄せ合う――つまりこれが意味するのは。

 

「信号ですね! 青は止まれで赤は進め!」

「磁力だよお馬鹿! しかも逆だ!」

 

 違っちゃった。

 要するにムカデ達があの魔法陣を発動すると、対象となるプレイヤーに磁力が付与されて同色のムカデへの攻撃が制限されてしまうらしい。

 近接特化の戦闘職には磁力による決壊を、飛び道具に対しても高い回避能力を誇る――なるほど確かに相性次第では完封されかねないトリッキーなボスだが、タネさえ判明すれば対処は容易い。

 

「【灼竜(シウコアトル)】!」

「【ファイヤーボール】!」

 

 節足を撃ち出して応戦する青ムカデ。

 浴びた赤い磁力に反応して追尾するミサイルを、夫が錨弓の鎖を振り回して全弾撃墜し、本来の使い方である射撃の構えで返礼の砲弾を放つ。

 また青の磁力を浴びせ掛けられたら攻撃目標を赤ムカデに変更してダメージを与え、赤の磁力が発動したら青ムカデのところに走る。

 

「あれだな、RPGでターン毎に魔法耐性と物理耐性が入れ替わるボスが相手の時に、こっちも剣と魔法を切り替えて戦うのに似てるわな」

「あと、もう少し……!」

 

 二匹ともHPが一割まで減り、戦いの終わりが見えてきた。

 命の危機を感じたのか、ボスも最後のパターン変化を起こす――それまでミイ達を中心に挟んで向かい合う陣形だった赤ムカデと青ムカデが、互いを気遣うように同じ場所に集ったのだ。

 そして二匹の間で赤と青のオーラが混じり合う。

 ミイが杖を、夫が弓を構える前で、色での判別ができなくなったムカデの片割れが自らの長大な体躯で螺旋を形作る。

 

「……何でしょう」

「磁力、螺旋……おいおい、まさか!」

 

 旦那様が珍しく慌てた様子でミイを小脇に抱えたのとほぼ同時、十分な加速をつけたもう一匹のムカデが螺旋の中に飛び込んだ。

 ――直後。

 雁股矢を思わせる大槍が閃光の尾を引いて、つい数瞬前まで二人がいた場所を通り過ぎ、轟音を響かせて背後の壁を穿つ。

 

「な……なぁ!?」

 

 その威力に危うく腰が抜けそうになった。

 けれど、へたり込んでいる暇はない。

 螺旋の砲口がこちらに照準を合わせ、大槍が壁を周回してどんどん加速する。

 

「これが、粒子加速器……!」

「加速って文字は入ってるが全然違うからな? ――来るぞ!」

 

 二度目の砲撃。壁に二つ目のクレーターが生まれる。

 大槍は装填後に自動的に放たれるので、攻撃のタイミングは目視で確認できるのだが、如何せん飛来する代物が巨大過ぎる。

 

「どうしましょう……!?」

「……真っ向から、ぶち抜く。【灼竜(シウコアトル)】!」

 

 三度目の砲撃と燃え盛る竜がぶつかる。

 双方の火力は拮抗していたが、時間が進むにつれ徐々に灼竜が押され始め、ついに決死の大槍がマグマの奔流を突き破った――けれど、開かれた大顎が二人の胴を両断する事はなかった。

 高火力を誇る【灼竜(シウコアトル)】を破るため死力を出し尽くしたのか、事切れたムカデの片割れは二人にその牙を届かせる直前で光となって消えていく。

 砲身役として遺されてしまったもう一匹のムカデが悲しみの咆哮を上げ、後を追うように突撃を敢行し仇を討たんとする。

 

「ミケ、【見様見真似】」

「ニャー!」

 

 アフロから顔を出したミケが赤い魔法陣を浮かべる。

 それを確認して、ミイは旦那様と視線を交差させて頷き合い、敬意を表して高らかに叫ぶ。

 

「「【ファイヤーボール】!」」

「ニャー!」

 

 三つの火球が一直線に走る。

 それらは途中で一つに融合すると、巨大な炎弾となってムカデを飲み込んだ。

 ムカデは未練がましく節足を動かし続けたが、やがてゼンマイが切れたオモチャのように動きを止めると、ついにその場に崩れ落ちた。

 今まで誰の目にも触れる事のなかった二匹のボスは、暗く静かなダンジョンの奥底を墓所にして眠りに就いたのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「今日は本当にありがとうございました!」

「軽い肩慣らしのつもりが、とんだ大探検になっちまったなぁ」

 

 町に戻ったミイは、あくまで新人プレイヤーの依頼人を装ったまま、夫に頭を下げた。

 ボスを倒した後に出現した宝箱の中には、スキルの巻物が二本だけ入っていた。

 未発見のダンジョンを死亡する事もなく初見で制覇できたのだから、もう少し何か特別感のある報酬が用意されていても……と思うけれど、むしろ争う必要がない分、ユニークシリーズのような一名限定の装備品ではなくて幸いだったと言える。

 それより何より、

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

磁力(マグネフォース)

 MPを消費して対象に磁力を付与する。

 磁力の強さは対象の質量に比例する。

 効果は五分間。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「えへへ……」

 

 思わず笑みが零れる。

 あの井戸の底のダンジョンに入る条件が解明、公開されない限り、このスキルを持っているのは自分と旦那様の二人だけ。ショップでも手に入らない、夫婦でお揃いの大切なスキルだ。

 堂々と自慢できないのが残念だが、二人きりの秘密というのも甘美な響きがある。

 

「……ミイ」

「はい?」

 

 名前を呼ばれ、ぽん、と何かを手渡された。

 片手に収まるサイズの藍色の小箱。

 見覚えがある。確かイズの工房に行った時、彼女が旦那様に渡していたアイテム――それを何故自分にと疑問に思う前に、小箱が自動的に開いて中身が露になる。

 シンプルなデザインながらも、レッドダイヤモンドが暖かな輝きを放つ指輪だった。

 

「これは……」

結婚指輪(マリッジリング)――現実(リアル)じゃまだ買ってやれてなかったからな」

「へ……?」

 

 左手を取られ、薬指に指輪を嵌めてもらって、頭が真っ白になる。

 

「あっ、うっ……ふぇぇっ!?」

 

 慌てて夫の腕を掴み、人目につかない路地裏に引っ張り込む。

 荒い呼吸と暴れる鼓動を整えて、上目遣いに夫を見ながら、尋ねる。

 

「気付いてた、の……?」

「まあ、割と最初から怪しいとは思ってた。確証がなかったから、お前が自爆してボロを出すまで待ってたんだが……まさか、あんな自信満々のドヤ顔で信号の赤と青を間違えるとはなぁ」

「ふぐぅ!?」

 

 つまり。

 別のアカウントで新たなキャラ作成まで行ったミイの作戦は、完全な一人芝居だった訳だ。

 まるで、姿見の前でノリノリで魔法少女の真似をしていたのを親に見られてしまった時のような羞恥の嵐に、顔から火が出そうになり、

 

「ひ……」

「ひ?」

「ひやぁぁぁぁ……」

 

 ミイが取った手段は、情けない声を上げてのログアウトだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 一足遅れてログアウトすると、嫁がシーツにくるまって籠城していた。

 人間サイズの春巻きから、しっとりとした肌の両足を生やしてジタバタ悶える。そしてこちらもログアウトした事に気付くと、さらに両腕を生やして首根っこに巻き付かれた。

 世にも恐ろしい妖怪春巻き娘に捕食された図である。

 

「……ずるい」

「んー?」

「ずーるーいぃー! あんなのずるいー! 驚かそうと思ってたのに実は気付いてて不意打ちとか反則だルール違反だぁ! やり直し、やり直しを要求する所存です!」

「具体的には?」

「もっとロマンチックなムードの中でお願いします!」

 

 と言われても、今、自分の手元に結婚指輪はない。あるはずもない。

 挙式は嫁の卒業まで待ってからと彼女の両親――義理の父母とも約束しているし、指輪もそれに合わせて二人でデザインを選んで購入する予定なのだ。

 だからこそ、せめて仮想空間(ゲーム)の中でだけでもと、出会えた時にサプライズで渡すつもりで指輪の作成をイズに依頼していたというのに。

 白魚のような嫁の手指をくすぐったりして弄んでも良い案は浮かばない。

 仕方がないので夫婦生活における最終手段。

 

「そーい」

「うにゃあ!?」

 

 二人仲良くシーツの中で春巻きの具になり、指輪やムードの事など考えられないようにした。




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