VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います 作:久木タカムラ
満を持して『NewWorld Online』へと身を投じたプレイヤー『ヨメカワイイ』は、老若男女が往来する通りから端へと移動し、石壁に背中を預けてとりあえず一息ついた。
多種多様な装備を身に纏ったプレイヤー達とNPC達とが入り乱れ、商店らしき建物はアイテムを購入する客で賑わい、休日のテーマパークに負けず劣らずの盛況を見せている。
「人気って言うだけあって流石に人が多いな。ネトゲ恐るべし……」
嫁も最初にこの雑踏の洗礼を味わったのだろうか。
酔いそうな人混みを、人見知りな彼女が半泣きになりながら進む光景を想像し――それはそれで直に見てみたかったなぁと小さな嗜虐心。そしてその嫁からプレゼントがあった事も思い出す。
「シリアルコードは……ここで打ち込めば良いのか?」
目の前に表示される青い半透明のパネル。
そこには自分のステータスが表示されている。
◆ ◆ ◆
ヨメカワイイ
Lv1
HP 30/30
MP 20/20
【STR 5〈+12〉】
【VIT 15】
【AGI 25】
【DEX 30】
【INT 25】
装備
頭 【空欄】
体 【空欄】
右手 【初心者の弓】
左手 【初心者の弓】
足 【空欄】
靴 【空欄】
装飾品 【空欄】【空欄】【空欄】
スキル
なし
◆ ◆ ◆
良く言えばバランスの取れた、悪く言えば何を目指しているのか分からないステータスだった。
それはそうだろう、連打で適当に決めたのだから。
特に【STR 5】が目立って低い数値だが、武器である程度は補正されているようなので、早急にどうにかしなければならない障害には思えない。右手と左手が同じ名前で埋まっているのは両手で扱う武器であるためか。
結論として問題なしと判断し、改めてシリアルコードを入力する。
これは運営側が新規利用者を獲得するためにプレイヤーに配布したもので、もらった方は自分で使用するか友人を誘ってプレゼントするかを選べるらしい。
中身は、使用にレベル制限のある初心者用HPポーションとMPポーションの詰め合わせ、街まで一瞬で帰還出来る水晶、モンスターとのエンカウント率を低下させる香水だった。
どれだけ有用かは使ってみない事には分からないが、回復薬や緊急避難用のアイテムがあるのとないのとでは、心強さがかなり違うのは確かだ。
裏を返せば、これをくれた嫁はこんなアイテムが必要ないレベルに至っているという事だが。
アイテムをインベントリに移し終え、さてこれからどうしようと考えた矢先に、
「…………何だありゃ?」
黒髪の少女がいた。
外見は、嫁と同じか少し年下か。
ヨメカワイイと同じ初心者用装備で、大きな盾を持っている。
奇妙に思ったのは、その歩みの遅さ。
せかせかと足早に行き交う周囲のプレイヤーやNPCに比べ、少女の歩調はまるでパントマイムのパフォーマンスさながらに緩慢だ。
「………………」
何故声を掛けようと思ったのか、ヨメカワイイ自身にも分からない。
こちらとて、今さっき始めたばかりで右も左も分からない初心者なのに。
それでも強いて言うなら、職業柄故にか――周りから浮いている子どもを見かけると、ついつい気になってしまうのだから仕方がない。
流れていく人の波を横断し、牛の歩みの少女の背後へ。
「あーっと……お嬢ちゃん、ちょっと良いかな?」
「はい? …………ひょえぁ!?」
大盾少女が振り返り、ヨメカワイイの顔を見上げるなり頓狂な悲鳴を発した。
ついでにアホ毛がぴんと立つ。
「何!? 何ですか!? ワタシタベテモオイシクナイデスヨ!?」
「いや食べないって」
これが、運営にラスボス認定される少女メイプルとヨメカワイイとの出会いだった。