VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います 作:久木タカムラ
「ハ○ナプトラああああぁぁぁっ!!」
「ニャアアアアッ!!」
迷宮にも似た構造の地下を逃げながら、思わず以前嫁と鑑賞した映画のタイトルを叫ぶ。
昆虫の大群に襲われるという、現代日本ではスズメバチの巣に訪問セールスでもかまさない限り一生に一度あるかないかの、できれば死ぬまで無縁のままでありたい体験をヨメカワイイは現実と遜色ないVRの世界で味わっていた。
跳躍からの飛行による機動力、桁違いの手数で嘲笑うかのような猛襲――まるで
最低限の調整はされているのか、全てのバッタが一斉に動き出すのではなく、遺跡にありがちな崩落型トラップと同じく侵入者を追い立てる。違いがあるとすれば瓦礫に押し潰されるかバッタで生き埋めになるかで、どちらにしろ最悪な死に様に変わりはない。
「【ゴブリン】!」
ミケの【眷属召喚】で生成されたアイテム――『小鬼族の召喚旗』を三つ、背後に投げる。
床に触れたそれは魔法陣を展開し、ゴブリンが石造りの通路に三十体召喚された。
「その虫達を蹴散らせ!」
「ニャー!」
ヨメカワイイとミケの命令に忠実に従い、やたらめったらに棍棒を振り回すゴブリン一個小隊。
多勢に無勢、最下位種では足止めにもならないと重々承知しているが、ただ逃げるより何らかの手段を講じるべきだろう。
地上で襲ってきた飛蝗と同様にHPが低いのなら、小鬼の粗雑な武器でも十分屠れる――軍勢のヘイトが何割かでもゴブリンに移り、状況打開の隙ができる事を期待して、そして三十匹からなる緑の肌が貪欲な大波にあっさり飲み込まれてしまうのを見た。
「でしょうね!」
むしろ、そうならない方がおかしい。
壁になる人数を増やした程度で敵意満々の雪崩に真っ向から勝てるのなら、人類はとっくの昔に自然災害を足蹴にして屈服させている。
これがメイプルやミィなどの馬鹿げた火力、略して『バ火力』に長けたメンバーでパーティーを組んでいたのなら、麻痺させて毒らせて爆発させて燃やし尽くす荒業で害虫駆除は容易い。
しかし、実行するために一旦出直したところで、うら若い女性プレイヤーに『バッタが天井から雨みたいに降り注いで襲われる
されると思っているのなら、その者はフィールドワークに魂を売った昆虫学者か真性の馬鹿だ。
珍しいスキルを取るために爆発するテントウムシをモリモリ食べる、なんて奇行を素でやらかす
「ああもう鬱陶しい!」
そもそも出直すも何も肝心の出口が分からない。
降りるのに使用した螺旋階段は襲撃と同時に鉄柵によって塞がれてしまい、再び地上に出るには別の階段を見つけ出すか最奥に座すであろう親玉を倒さなければならなくなっていた。
ならばと【反響】で超音波を飛ばせば、地形情報さえ塗り潰すモンスターの反応。
小部屋の扉は全て施錠済みで破壊も籠城も不可能。
本当に悪い意味で至れり尽くせりである。
探索しようにもブンブンブブブンと騒々しい団体さんが足を止めさせてはくれない。まだ一度も行き止まりにぶつかっていないのが奇跡とすら思える。
「ケチってる……場合でもないよな!」
追い回され続けてイライラしてきたため、鬱憤晴らしも兼ねて温存していた爆弾を放り投げた。
どう見ても一個では足りないので豪快に十個ほど――普段は一度にそれ以上の数を【装填】して爆撃を繰り出しているのだが、今は弓を引く時間すらも惜しい。
炎の華が連鎖的に咲き乱れる。
「んで、ちっとも効いてないってか!」
何百匹かは光のエフェクトと化した。
それでも黒い波の衰えは数秒で消え去り、天井からの新たな補充ですぐざま勢いを取り戻す。
できるなら【
当然【インフェルノオーラ】も使えない。
この状況で足を止めて使おうものなら、ゾンビ映画のやられ役よろしく防壁越しに取り囲まれて最後には必ず食われる運命が待っている。
「でーぐーちーはードコですかあああああぁぁぁぁっと!!」
「ニャッハー!」
どのルートをどう走ったのかも分からず、足にではなく脳に疲れが見え始めた。
右へ左へ、左、右、また右、左と見せかけての直進。
爆弾に火炎瓶、発煙弾に閃光玉にポーションの空き瓶にクラブハウスサンド――攻撃用の物からそうじゃない物まで片っ端の大盤振る舞い。
アイテム絡みでは大赤字、反して経験値はストップウォッチのカウントのような速度で増加中。
一筋の光明が差したのは、いっそ本気で町に死に戻ろうかと考え始めた矢先だった。
「……あそこしかねぇな」
二股の分岐を右に進んですぐの事。さらに直角に曲がらなければならない通路の壁、その根元に開いた穴を見つけたのだ。
おあつらえ向きに、人間一人がかろうじて潜り抜けられるほどの大きさ。
暗い壁の向こう側にバッタが配置されていない保証などないが、ようやくの休憩か町での無念のリスポーンか――前にか後ろにかはさておき、無策に走り続けるよりは事態が一歩動くだろう。
「オオオオオオオオ――ラァッ!!」
「ニャアアアアアッ!!」
悠長に匍匐前進で通る暇はない。
アフロから掴み出したミケを穴に向けてアンダースローで投げ転がし、自分も走る勢いを乗せてヘッドスライディング。穴が貫通していなければもうそれまでだ。
結果、第一の勝負には勝ったらしい。
石の床とトンネルに身体を削られながら、一人と一匹は見事に壁の向こうに到達した。
「よっし!」
けれど喜んでばかりもいられない。
ヨメカワイイが通れるだけの穴、つまりは諦めの悪いバッタも通れる。
迅速に塞がなければと、咄嗟に右手で掴んだ何か――おそらくは机の脚――を引き寄せ、天板を蓋代わりにして両足で押さえ固定した。
案の定、ドダダダダダダダダッ、と穴の中まで入り込んだバッタの激突が天板を通して足の裏に衝撃を伝えてくる。やがてそれも断続的になり、数分と経たず静かになった。
穴の内部がどれだけの数のバッタですし詰め状態になっているのか、机をずらして確かめるほどゲテモノ嗜好なヨメカワイイではない。
なので放置して二本目の松明に火を点ける。
「ここは……書庫か?」
まず何よりも真っ先に羽音がしないか、待ち伏せがないか頭上を照らし、アーチ造りの無機質な石天井を視認して胸を撫で下ろす。
朽ちかけた本棚が乱雑に並び、分厚い古書の山が所狭しと積み上がる一室。天井の面積からしてそれなりに広いはずなのに、知識で溢れ返る巣窟に息苦しさすら感じる。
唯一の出入口らしい両開きの扉を【反響】で調べると、予想通りではあるがバッタの団体さんが出待ちをしていて絶対に開けられない。
八方塞がりで四面楚歌の中、ヨメカワイイは書庫内部、特に壁際に配置された本棚に狙いを定め重点的に調べる事にした。
「何か仕掛けがあるとすればこういう場所だよなぁ。本棚動かすと通路が現れたりとか」
壁際の本棚を調べると簡単に言っても、その数は十や二十では利かない。しかもそのほとんどが本で満杯なものだから、どれもが怪しく見えてくる。
「ふに゙ゃっくしゅん!」
ミケも役に立ちたいのか、アフロから降りて古書の山を相手に格闘しているが、堆積した塵芥で盛大にクシャミをし続ける彼女が事態好転の鍵になるとは思えない。
一冊抜き取っては棚に戻してみたり、本を背表紙の色別に並び替えてみたり、自分の背丈よりも高く積み上げミケを乗せてグラグラさせてみたり――半分遊びながら調べた結果、ヨメカワイイはとある本棚に目星を付けた。
「落ち着いて探せるなら、こんなもん朝飯前だわな」
左隣の本棚とは妙に間隔が空いていて、床にも本棚を何度も動かした時の痕跡が残っている。
何より、この本棚の前にだけ古書の山が築かれていなかった――隠し通路を知る何者かが頻繁に利用していたと考えれば、出入口なのだから何も置かないのは自然な事だ。
「そんじゃま、御開帳といきますか」
「ニャー」
STR値をプラスにするため武器を錨弓に切り替え、横方向へ力任せに引っ張る。
使われなくなって久しいのか、思った以上に抵抗が強い。
それでも実数値【STR 305】のヨメカワイイの腕力は伊達ではなく、本棚は観念したかのように軋みながらスライドし始め、とうとう長年守っていた場所を侵入者に明け渡した。
そこには待望の下へ進む道――ではなく、隙間なく組み上げられた石壁があった。
「…………んー?」
あれー?
殴ってみるがやはりただの壁。背後のミケの視線が痛い。
もう一度最初から調べ直さなきゃならんのかぁと肩を落としていると、ここからでも見えていた中央の床が仕掛けの作動音と共に沈下した。
何が起こったのか言うまでもない。
「……いやそっちかーい」
「ニャーニャニャー」
ツッコミさえ寒々しい。
実はこれ、運営スタッフがゲーム内に無数に仕掛けた悪戯だったりする。
例えば、頭の切れるプレイヤーが本棚の違和感に気付き、隠された道がこの後ろにあると仲間に論理的な謎解きを披露するも、いざ動かしてみたらやっぱり石壁――得意満面の推理から一転してパーティーメンバーからの微妙な視線で羞恥に悶えるという悪質な精神トラップなのである。
ソロのヨメカワイイはかろうじて空しいコントの域で留まったが、嫁か他の誰かと一緒だったらしばらくは【無言】の状態異常になるだろう。ましてやミザリーなぞに見られた日には十年先までからかわれる未来しかない。
「ニャーニャー」
「行くよ、行くけどさ……どーしたもんかねこの気持ち」
物に八つ当たりしたところで木片と紙片が飛び散るだけ。
無駄な体力を使うくらいなら、この下に待ち構えている
錨弓を肩に担ぎ直し、これから決戦前だと言うのにアンニュイな心境で、ヨメカワイイとミケは地下迷宮のさらに奥底へと階段を下りていった。
◆ ◆ ◆
急勾配の階段の先は一直線の通路。
正面に見える大扉以外に道はなく、松明の火影で浮かび上がる重々しい造りが、このクエストの最終目的地である事を言葉よりも確かな威圧感で物語る。
HPとMPを確認して、ヨメカワイイは大扉を押し開けた。
棺桶がいくつも整列する古色蒼然とした墓所――そこかしこに灯された長短様々な蝋燭によって内部は朝焼けの色に染め上げられ、ある種の異界のような雰囲気すら放つ。
その中心に
「あいつが親玉か……」
やはりクエストボスもバッタ……ではあるのだろう。
触角を生やし複眼が赤色に輝く頭部こそ完全に昆虫のそれだが、二本の足でしっかりと直立する人間との融合体のような異形の風貌だ。墓所の天井付近にある彫刻と同じ紋章が金糸で刺繍されたぼろ布を纏っている。
SF映画の遺伝子操作の産物か、はたまた変身ヒーロー番組の悪役か。
「まんまバッタ怪人だな」
ヨメカワイイは錨弓を構える。
バッタ怪人も静かに臨戦態勢に入り、軽く膝を折って腰を落としたかと思えば――たった一度の踏み込みでヨメカワイイの目と鼻の先まで一瞬で移動して飛び蹴りを放ってきた。
「うおっ!?」
咄嗟に錨弓の長柄で受け止めて防いだものの、跳躍の勢いも乗せたその威力は周囲の蝋燭の火が余波で掻き消されるほどに凄まじく、ビキリと嫌な音を立てて武器に亀裂が入る。
錨弓に付与されているのは【破壊不可】ではなく【破壊耐性】のため、使用し続ければいずれは耐久値が限界を迎えて破壊されてしまう。
「このっ……【火山弾】!」
燃え溶ける礫の薙ぎ払いをバックステップで身軽に躱すバッタ怪人。
床に限らず柱や壁、天井までも足場にして強靭な脚力で縦横無尽に跳び回り、鋭い鉤爪を備えた蹴りが残像を生む速度で飛来する。
空手を筆頭にムエタイ、サバット、テコンドーにカポエイラ――古今東西ありとあらゆる足技がベースになっているのか、フェイントを混ぜた連続技からの首を狙った回し蹴りなど、接近戦ではバッタ怪人の方が一枚も二枚も上手のようだ。
「舐め、んな、よおっ!!」
しかしヨメカワイイも防戦一方に甘んじるつもりはない。
間隙を突いて錨弓を振るい、砲弾のような膝蹴りを迎撃する。
「ちっ……!」
耐え切れなくなった錨弓の長柄が粉々に砕け、床に落ちた先端部分が音を立てる。
もしかすると、敵の攻撃には装備の耐久値減少を加速させる追加効果もあるのかも知れない。
「【ヒートチョッパー】!」
構わずマグマの貫手でバッタ怪人の左脇腹を抉り抜く。
こちらも『清廉潔白品行方正、弓で殴り爆破で殺る』がモットーの非常識弓使い。眷属の大群を使ってこないのなら好都合、向こうの望み通りに殴り合いでも何でもしてやろうではないか。
鉄すら溶断する手刀と肉を引き裂く足刀の応酬が続き、互いのHPが削られていく。
足技が多様を極め、さらに苛烈になる。
「【マグマゲイザー】!」
床に触れた右の五指から迸る灼流。
「ミケ、【見様見真似】!」
「ニャー!」
「空中なら蹴る足場もねぇだろ!」
ミケが口から放った【フレシェットスコール】が上に跳躍したバッタ怪人を追い抜く。天井より数十の短矢に分裂して折り返し、逃げ場をなくしたボスに突き刺さる――実は【装填】を使わない状態では基本ステータスの関係上、HPとMPの二極振りのヨメカワイイよりミケの方が単純火力が勝っていたりする。
「【
背中を射抜かれた獲物を
それでも不屈のタフネスで立ち上がる虫の皇帝――腕の数は倍、外骨格は黒茶に変色し、背中に今まではなかった一対の巨大な羽が生えている。
ついにHPが半分を切り、新たなパターン変化が起こったのだ。
同時にただのオブジェクトと思っていた棺桶が一斉に開き、中から大量のバッタが噴出する。
「やっぱり当然それもあるよなぁ。【ゴブリンガーディアン】!」
悪夢の再来に、ヨメカワイイは分厚い盾を両手で支える守護兵を五匹呼び出し、壁とするために自分の前に配置した。
羽ばたき浮かぶボスの周囲を、六本足の小さな眷属達が隊列を組み舞い踊る――右の二本の腕がヨメカワイイに向けて振るわれると、それらは己の命を顧みない愚直な殺傷武器と化した。
弾丸だ。
「っ、嘘だろおいっ!」
粗悪コピー版メイプルとでも言える防御特化のゴブリンガーディアン。
その盾がまるで障子紙のように撃ち抜かれ、ゴブリン達が蜂の巣にされる。後ろで守られていたヨメカワイイも、一瞬の判断で飛び退いていなければ同じ末路を辿っただろう。
「防御貫通攻撃か。また面倒な……」
上のフロアのバッタとは異なり、ボスを取り囲む眷属はHPが表示されていない。つまりあれはモンスターではなく攻撃手段の一部か武装と同じ扱い――装填済みの銃弾だと考えられる。
前半は力と技量の近接戦闘形態、後半は制圧力で相手を確実に銃殺するための射撃形態。
何ともはや、芸達者な昆虫人間だ。
――だが。
「だからこそ倒し甲斐があるってもんだ。なぁミケ?」
「ニャー!」
「【装填】【
破壊された錨弓から黒弓へ換装し、包帯顔でにやりと笑って。
「さて。戦ろうか、王様?」
返答はない。
代わりとばかりにこちらに照準を定める四本の腕を前にして。
ヨメカワイイも持てる限りの最大火力を撃ち放った。
◆ ◆ ◆
第三回イベント終了から数日後。
主に精神的に重労働だった【虫の皇】クエストの反動もあって、傭兵業もそこそこにのんびりとプレイを続けていたヨメカワイイは、新たに実装された第三層への移動の権利を手に入れるためにまたしてもダンジョンへ足を踏み入れていた。
ただし、今回は一人ではない。
合わせて七人――『楓の木』フルメンバーとパーティーを編成しての蹂躙劇だ。
「あーらよ、っと」
ヨメカワイイの爆弾矢がモンスターを綺麗に吹き飛ばした。
「こっち終わったぞー」
「おう、俺らも今終わらせるところ、だっ!」
騎士の怨霊を思わせるユニークシリーズに身を包んだクロムが、その手に握った血塗れの大鉈で最後の一匹の首を斬り落とし、ダンジョンに本日何度目かの静寂が戻る。
目に見える範囲のモンスターはことごとく狩り尽くしてしまった――今回の目的は素材集めでも経験値稼ぎでもなくダンジョンボスの討伐なので、リポップする前にさっさと先に進む。
「うーん、やっぱこのメンバーだと完全にオーバーキル……と言うか戦力過多だよね」
「ああ、モンスターに同情したくなってくるな」
「メイプルが戦闘に参加してないのにこれだもんねぇ」
歩きながら二本の短剣を鞘に戻したサリーの呟きに、同じく堂に入った所作で納刀するカスミが同意して、パーティーの
実際サリーが言うように、ダンジョンの難易度に対して攻略メンバーがべらぼうに凶悪過ぎた。
近距離ではサリーとカスミが切った張ったの大立ち回りを演じ、敵からの攻撃は動けて死なないクロムが骸骨が彫られた大盾でガードして大鉈で返り討ち。三人の刃が届かないほどの高所を飛ぶモンスターはヨメカワイイの爆弾矢が撃ち落とし、しかも全員がカナデの支援魔法で強化済み。
最初の町を出てすぐのヒヨコ勇者一人を相手に、魔王軍最高幹部の四天王と、ついでに雇われた死神が油断も慢心も慈悲もなく全力で共闘するようなものだ。
「ほへー、皆すっごく強くなってて私びっくりだよー!」
それが分かっているのかいないのか、
「ボス部屋到着したぞー」
「おーし、それじゃあサクッと倒しちまいますか」
「もう死亡フラグにすら聞こえないわ……」
扉を開けて中に入ると、枝葉を茂らせたボスがパーティーを出迎えた。
一層のボスが鹿だったのに対し、二層は人面樹と呼ぶべき正統派ウッドモンスター。某ピンクの悪魔でお馴染みの樹木キャラクターを数倍凶悪面に変えたような外見である。
「さて、誰から行く? 俺が爆弾でドカンでもいいが」
「私が短剣でズタズタにできるけど?」
「俺の大鉈ならあの枝もバッサリいけそうだな」
「であれば私が幹を一太刀でズンバラリンと」
「僕の魔法でもズビズバーッて倒せると思うよ」
「どうして揃いも揃って擬音系なのかしらねぇ」
「はいはーい! 私が行きまーす!」
元気に手を挙げる大魔王様、満を持してご出陣。
伸ばされた枝や根が振るわれる中を、メイプルがゆっくり前進する。当然ながらノーダメージでその歩みが止められる事はなく、ボスに最接近した黒鎧の少女は短刀を掲げた。
そこから先はメイプルの独壇場だった。
「【捕食者】【
見慣れた紫の三頭竜に加えて、足元から召喚された蛇のような二匹の怪物。さらには黒鎧からも大きく口を開けた蛇体が飛び出し、合計六つの顎がボスのHPを猛毒と牙で削り取っていく。
苦し紛れの咆哮を上げて放たれるボスの攻撃は、何故か天使の姿に変身したメイプルのスキルで無力化されて狛犬よろしく両側に陣取る怪物には通らない。
挙句の果てには、
「【暴虐】!」
その怪物すらも飲み込む黒い光の柱が天井を貫き、徐々に輪郭が定まって実体を持つと、それは漆黒の外殻に覆われて無数の手足が生えた巨体となる。
ええー……、とメンバーが呆気に取られる中、巨大な怪物に進化したメイプルがボスに突撃。
炎を吐き、爪牙で抉り裂き、反撃の魔法など意にも介さず踏み砕く――地を揺らす怪獣大戦争を眺めていたヨメカワイイだが、ふと疑問に思い、包帯越しに口を開いた。
「……つーかさ、これからギルド戦がどうのこうので騒がしいって時に、ギルドメンバーでもない俺の前であんな奥の手っぽいの見せちまって平気なのか?」
「「「「「あ……」」」」」
真っ当な意見に、気まずそうな顔になる『楓の木』のメンバー達。
パーティーに誘ってきたのはメイプルだが、不可抗力でも見てしまったものは仕方がない。
積極的に他のギルドへ情報を吹聴して回るつもりはないが、ここは一つ、敵対するかも知れない自分も取得したばかりのスキルを披露するのがフェアというものだろう。
「おーいメイプル。ちょっと俺とチェンジで」
「はーい! いやー、これ初めて使ったけど動かすの結構大変だね!」
ノイズ混じりの少女の声で、ズシンズシンと後ろに下がる怪物。
一方、樹木ボスは多少ながら再生能力も併せ持っていたのか、メイプルから受けた傷をある程度回復させると、入れ替わって前に出たヨメカワイイで鬱憤を晴らさんと攻撃を仕掛けた。
パターン変化で強化され獲物を貫くべく殺到する槍枝と根に、左右の十指を向ける。
「【
大気をつんざく掃射の銃声と共に、鉄色の弾雨が瞬く間に木片を散らしていく。
弾丸の形状に酷似した鉄の蝗の大群を一身に浴び、回復したはずのHPを一気に削り尽くされた樹木のボスは、それこそ蝗害に遭遇した草木のように命を貪られて動きを止めた。
人差し指から昇る硝煙を、ふっ、と吹き消してヨメカワイイは一言、
「ま、メイプルの変身と比べたら地味だよ地味」
「いや、十分派手だと思うが……」
「てか何だ今の!? マシンガンか!?」
◆ ◆ ◆
【
指先から
防御貫通スキル。
被弾した装備の耐久値の減少量20%増加。
◆ ◆ ◆
「取り方知りたいなら教えるぞ? 虫嫌いにはオススメしないが」
「じゃあ私も【暴虐】がどんなのか教えますね! えっと――もががっ!?」
「メイプル、少しはカワイさんにも秘密にするって事を覚えなさいってば!」
片や、ラスボスの名に恥じない第二形態を手に入れて。
片や、現代兵器顔負けの災害を体現する指を手に入れた。
三層の解放に伴い、いよいよプレイヤー達が第四回イベントに向けて入念な準備を始める。
大波乱となるのは間違いなかった。
ダブルマシンガン。