VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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ブラックダイヤモンドは砕けない。


035.師匠

「私、師匠に会いたいんです!」

 

 白髪の少女が鼻息荒くそう言った。

 三層に活動拠点を移したメイプル率いる『楓の木』は、曇天に覆われたスチームパンクの趣深い町並みを窓から眺めながら、ギルドホームのオープンスペースにて今後の方針を話し合っていた。

 運営からの通達によると、第四回イベントは予想通りにギルド対抗戦であり、第二回イベントと同じく時間加速が適用されるらしい。

 

「シショーさんって名前のお友達なの?」

「いやメイプル、その勘違いは流石にないわ……」

 

 総勢六名の少人数ギルド故に、当日になって誰かが何らかの事情でログインできず戦力が減った場合に備えてギルドメンバーを増やすのも手だとクロムに提案され、それもそうだと新たな仲間を探しに行ったメイプルとサリー。

 そして、新米マスターとして人材確保の全権を任されたメイプルがシンクロニシティに導かれて手を差し伸べたのが、瓜二つの顔を持つ双子のプレイヤーだった。

 

「師匠ってユイが勝手に呼んでるだけで、実は話した事もないんです」

 

 黒髪の姉のマイと、白髪の妹のユイ。

 類は友を呼ぶと言うべきか、痛いのが嫌でVITに極振りしたメイプルに対して、現実での非力にコンプレックスがあった二人は迷わずSTRに極振り。

 しかしビギナーズラックには恵まれず、HPもMPも最低値、【VIT 0】かつ【AGI 0】ともなれば言い方は悪いがすぐ死ぬだけのお荷物であり、パーティーへの参加も断られるばかりだった。

 諦めかけてデータを作り直そうと考えた二人だが、その様子が偶然近くで聞いていたメイプルの関心を引くという最初にして最大の幸運を呼び寄せ、不遇な運命を一変させる事になる。

 レベル4の二人では来れるはずのない三層にいるのもその一端である。

 

「じゃあ、その師匠ってのはどんなプレイヤーなんだ?」

「もし私達も知ってる人なら一緒に探してあげるわよ?」

 

 自己紹介もそこそこに、双子と打ち解けるために会話に花を咲かせてみたところ、『楓の木』のメンバー以外で気になるプレイヤーとかいるかという話題になり、そこでユイが唐突に、あっ、と声を上げたのだ。

 

「師匠はですね、すっごく強い人で、モンスターに追われてた私達を助けてくれたんです!」

 

 瞳の中に憧憬という名の星々を輝かせながら、興奮した様子でユイは言う。

 

「その情報だけでは分からないな。二人からすれば大抵のプレイヤーは強く見えるだろうし……」

「他に特徴はないの? どんな装備だったかとかさ」

「黒い格好でした!」

 

 視線がメイプルに集まるが、本人はぷるぷると首を横に振る。

 探している人物がメイプルなのだとしたら、ユイとマイもすぐに気付くだろう。そもそも黒色の防具のプレイヤーなど、堕ちた騎士だの混沌司る魔術師だのダークネスアサシンだの、町を探せば乳酸菌飲料の原液並みに濃いキャラがいくらでもその辺を歩いている。

 

「マイちゃんはどう? 使ってた武器とか覚えてたりしない?」

「えっと……その人は弓を使ってました」

 

 弓、と聞いて、メイプル達は双子を助けたのが誰だか分かった気がした。

 けれどもまだ確実とは言えない。

 メイプルの異次元の強さにあやかろうと極振りに手を出した二番煎じと同様に、とある弓使いの影響で近接武器から弓に宗旨替えした浮気者も少なからずいる。

 日の目を見ずに頓挫して終わった前者はともかく、後者は頂には到底及ばずとも十分に実用的でパーティーに一人はいると喜ばれる――助けられた場所が一層なら、作り直したデータでレベルを上げている最中に双子と出会ったか、そうではなかったとしても、メイプル達の知り合いとは違う他の弓使いの可能性は高い。

 なので念には念を入れ、確認のためにサリーが代表して双子に聞く。

 

「……その人ってさ、いきなり上から降ってきて、背が高くて矢が爆発して髪型がモジャモジャでたまに『ニャー』って鳴いたりして、戦闘が終わったらすぐに飛んで何処かに行っちゃった?」

「「はい、そうです! 上から降ってきて背が高くて矢が爆発してモジャモジャで『ニャー』って鳴いて何処かに飛んでっちゃっいました!」」

「うわぁ、やっぱりかぁ……」

 

 ユーザーで溢れ返る『NewWorld Online』広しといえど、都市伝説の類か新種の妖怪のような目を疑う奇行が常日頃から目撃されているプレイヤーは彼かメイプルくらいのものだ。

 大当たりに苦笑を浮かべるサリーやクロム達――その頭の中では、表情の窺い知れない包帯顔のアフロが『いぇーい』と指を二本立てている。何だこのイメージ。

 

「まあ、カワイの事だから襲われてたのを見て普通に助けただけなんだろうが……」

「登場の仕方がもうUMAか何かだな」

 

 ともあれ、これでユイが探している人物がヨメカワイイだと判明した。

 メイプルが自分のフレンドリストに登録されたヨメカワイイの名前を確認すると、ログイン中を示すサインはなく、現在はゲームの世界にいない事を表していた。

 

「うーん……カワイさん、ログインしてないみたいだね」

「そうですか……」

 

 あからさまに肩を落とすユイに、イズが言う。

 

「そんなにがっかりしなくても大丈夫よ。彼は私の工房の常連だし、次来た時は教えてあげるからきっとすぐに会えるわ」

「本当ですか!? ありがとうございますイズさん!」

「よかったね、ユイ」

「うん、お姉ちゃん!」

 

 喜びを分かち合う双子。

 しかし今度はサリーの顔が曇り始めた。

 

「サリー、どうかした?」

「……割と重要な事なんだけど、マイとユイはカワイさんに会ったらどうするのかなぁって」

「どうするとは……どういう意味だ?」

 

 メイプルは双子が――ユイがヨメカワイイを探しているとは知らずにギルドに勧誘した。

 パーティーに入れてもらえなかった双子にとっても、装備やステータスを気にしない好意によるギルドへのスカウトは願ってもないものであり断る理由などなかった。

 だからこそ、一つの問題が浮上する。

 ヨメカワイイはメイプル達の知り合いだが決してギルドメンバーではない。

 彼と再会した後も双子は『楓の木』にいてくれるのか、それともソロ専門の師匠の背中を追って入ったばかりのギルドを去ってしまうのか。

 超攻撃特化の戦闘員として申し分ない期待の新メンバーを得られるか否か――第四回イベントが差し迫っている以上、後回しにはできない問題だった。

 

「つっても、無理矢理に引き止める訳にもいかないからなぁ」

「そうねぇ、こればかりは二人の気持ち次第だもの」

 

 年上組のクロムとイズが正論を言う。

 人員不足だからといって、互いの事情も知らぬまま誘い誘われ、しかもメイプルやサリーよりも年下である少女二人にこちらの都合を押し付けるのは間違っている。

 純粋にゲームを楽しんでもらいたい。

 それが経験豊かな先輩プレイヤーとしての意地であり優しさだった。

 

「師匠と一緒に冒険したいですけど……」

 

 ユイは少し考える素振りを見せた後、

 

「でも、誘ってくれたメイプルさんにも恩返しがしたいと思ってます! ね、お姉ちゃん!」

「うん! 私もユイと同じです!」

「「だから皆さんの仲間にしてください!」」

 

 はっきりと自分の考えを述べた。

 

「よかったぁ……そう言ってくれると私も嬉しいよー! 改めてよろしくねー!」

「「こちらこそですー!」」

 

 喜びのあまり双子を抱き締めるメイプル。

 他の面々もそれを微笑ましげに眺める。

 だが、そこで終わらないのがメイプルクオリティだ。

 

「じゃあさ、カワイさんも『楓の木』に入ってもらうよう三人でお願いしてみよっか」

「え……でも……」

「断られるかも……」

「大丈夫、二人のSTRならカワイさんの壁だってきっと破れるよ! 当たって砕けろって言うけど私もVITだけは自信あるから砕けないし!」

「「……そうですね、頑張ります!」」

「……確かにメイプルなら砕こうとしても砕けないだろうけど」

「次会った時がカワイの命日にならなきゃいいな……」

 

 お願いを聞いてもらうために物理的な手段を画策する三人の会話を聞いて、やっぱりメイプルはメイプルなんだなぁとメンバーはしみじみ思うのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 その頃、最強の矛と楯による包囲網が構築されている事など露知らず。

 渦中の人であるヨメカワイイは遅めの昼食の準備をしていた。

 その腰にご機嫌ナナメな嫁を悪霊よろしく抱き着かせながら。

 

「……頼むから包丁使ってる時くらい離れてくんないかな、マイハニー? 危ないでしょうが」

「ぶー」

 

 食材を切る手を止めて頼むも、返ってくるのは返答にもならない鳴き声。

 小学生よりも聞き分けが良くない愛妻がヘソを曲げているのは、ヨメカワイイが彼女とではなくメイプル達と一緒に二層のボスを倒して三層に行ってしまったのが原因だった。

 特に約束もしていなかったので、勝手に他のパーティーとボス討伐に行ったところで非難される筋合いはないのだが、嫁の中では二人で倒すのが予定として組み込まれていたらしい。

 仕方がないので嫁を付属させたまま、細心の注意を払いながら調理を続ける。

 刻んだタマネギをボウルに移し次の食材を手に取ると、嫁の身体がビクリと震えた。

 

「あの……旦那様? 今メッタ切りにしているのはピーマンとお見受けするのですが……?」

「みじん切りと言いなさい。マカロンにでも見えたってんなら眼科に連れてくところだな」

「どうしてぇっ!? 私がピーマン食べられないの知ってるくせにぃ!! ギャー!? やだやだミックスベジタブルもある!」

「オムライス食べたいっつったのお前さんだろうが」

「お肉と卵だけのが食べたかったの!」

「そりゃもう醤油の代わりにケチャップ使った親子丼じゃねぇか?」

 

 育ち盛りの食べ盛り、ついでに胸も大きくしようと夜な夜な隠れてバストアップエクササイズを頑張っている嫁の事を想って、栄養バランスも考えた材料で作っているというのに。

 別の理由からさらに不機嫌になった嫁。それでもヨメカワイイから断固として離れようとはせず頭突きで無言の抗議をしてくる。

 構わず材料を炒めながら、ゲームでは知識が上の愛すべき妻に質問をした。

 

「ところで嫁さん。破壊された武器ってのは、やっぱり生産職に直してもらうもんなのか?」

「え? うーんとね、普通は完全に壊れて使い物にならなくなる前にゴールドを支払って耐久値を回復してもらうんだけど……旦那様の武器も壊れたの?」

「そりゃもうバラッバラに」

 

 第四回イベントに合わせて、装備も万全にしておきたい。

 完成したチキンライスを二つの皿に盛り分け、再びフライパンに油を引いて溶き卵を流し込む。

 

「オーダーメイドの一点物だと、製作した時と同じ量の素材を使うって聞いた事もあるよ?」

「素材……第二回イベントでボスモンスターからドロップした代物だしなぁ。直せるならどうにか直してやりたいんだが……イズに頼み込んでみるしかないか……」

「むー……他の女の人の話は禁止!」

 

 流石にイズの事は知っているようだ。

 元々腕に評判のある名の知れた生産職で、注目度ではダークホース扱いされている『楓の木』に所属しているのだから、『炎帝ノ国』にとって脅威となり得るギルドの主要メンバーの顔と名前は頭に入れているのだろう――もう少し日常の知識も入れてほしいと思うがそれは言わぬが花か。

 半熟のオムレツをチキンライスに被せ、完成した二人分の昼食をテーブルに運ぶ。

 腰に融合したままの嫁も動きに合わせてずるずると両足を引きずりながら移動する。

 

「四層が実装されたら一緒に三層のボス倒しに行くんだからね? 約束だよ?」

「はいはい。分かったからさっさと食っちまおう…………ピーマンとグリンピース残すなよ?」

「ふぬぅ……!」

 

 夫婦は今日も平和だった。




弟子入りしたがる幼女……「りゅうおうのおしごと」のあいちゃんのヤンデレ具合は好きでしたね。
さーて次は機械神と新装備だ。
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