VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います 作:久木タカムラ
通常、ギルドに所属した生産職は、そのギルドが鍛冶やアイテム作成をメインの活動方針として他プレイヤー相手に商売をするような一団でもなければ、基本的には所属メンバーの装備の点検と修理を専門に行って表舞台には出なくなるが、『楓の木』に限ってはギルドマスターのメイプルが特に制限を掛けていないために、イズもこれまでと同じく商売を続けていた。
物腰の柔らかさも相まって、今なお彼女に修理や武具製作を依頼するプレイヤーは多い。
かく言うヨメカワイイも、イズから定期的に大量購入する高性能爆弾がなければ現在の強さまで到達するにはもう少し時間が必要だったに違いない。
そんな奇妙な信頼関係が成り立っているからこそ、この厄介な案件も彼女ならばもしやと考えて持ち込んでみたのだが。
「うーん……難しいわねぇ」
あくる日。
ギルドホームの一角、メンバー以外でも立ち入り可能な場所に開かれた工房、そのカウンターに寝かせられた錨弓――正式名称『一天四海悪逆無道』の無残な成れの果てを一瞥し、イズは珍しく眉尻を下げてそう言った。
「難しいってのは素材の調達がか? それとも修理そのものがか?」
「強いて言えばその両方かしら」
砕かれた錨部分を手に取り、イズは続ける。
「完全破壊されてもNPCの店で売ってる武器や防具だったら簡単に修理可能だし、いっそ同じのを買い直した方が安く上がる時もあるわ。でも私達生産職が製作したのだと、メンテナンスだけならゴールドの支払いで済むけど、耐久値が0になって壊れたら修理に追加の素材が必要になるの」
「そこまでは俺も知ってる。なら、その素材さえあれば直せるのか?」
「そう簡単にはいかないからお手上げなのよぉ? この武器ね、何処で手に入れたか知らないけどユニークシリーズか、そうでなくても半端なレア度じゃないでしょ。さっき炉に突っ込んで具合を確認してみたけど、完全に直すのに見た事も聞いた事もない素材を要求されたわ」
「専門家のお前が知らないんじゃ俺も知らんわなぁ……」
なるほど、これは確かにお手上げである。
「メイプルちゃんにサリーちゃん、それにクロム……何気に『
「そりゃ羨ましい事で」
「他のプレイヤーからすれば貴方の装備も十分羨ましいと思うけど?」
イベントのボスからドロップした武器となれば、そのボスから入手できる素材で直せる可能性は高い。しかしその肝心のボス――あの廃船を鎧とする巨大ヤドカリの居場所が分からない。
隠しダンジョンで眠っているのならまだいいが、イベント限定なのだとしたら再び相見えるまで運営の気分次第で何ヶ月待たなければならないのか。
「装備って言やぁ、イズの装備も前と変わってるな」
「うふふ……気付いちゃった?」
大きめのゴーグルに少し古びたロングコート、それにブーツ。
どれも彼女が以前装備していた生産職の衣装とはデザインが違っている。
聞けば、三層で新たに発見された生産職プレイヤーのみが入場可能な特異なダンジョンでボスを単独撃破し、その報酬で素材と一緒に獲得したのだそうだ。
プレイヤー垂涎のユニークシリーズ所持者が四人――『楓の木』が人外魔境になる日は近い。
「それで話を戻すけど……修理が難しいとなると、もう作り直すしかないわね」
「作り直す?」
「破壊された武器それそのものを素材にして、全く違う武器を製作するの。ただし、どんな性能やデザインになるかはランダムだし、成功率も高いとは言えない。確実なのは剣なら剣、弓なら弓が完成するって事だけ。失敗しても補償はできないから私も滅多にこの方法は使わないわ」
「ふーん? 成功率を上げる方法は?」
「
「なるほど」
何にせよ錨弓が壊れたままでは意味がないのだから、試してみる価値はあるだろう。
イズの腕には全幅の信頼を寄せている。
となれば、あとは自分がどれだけ追加素材を提供できるかどうか――諸々の事情により
「素材は俺の方でどうにかしてみる。その後の仕事は頼んだ。…………ところで、さっきからいる後ろの
あれ、と肩越しに背後を指差す。
工房のカウンターの前でイズと話していたヨメカワイイ――その背中が見える場所に設置されたテーブルの縁から、メイプルが顔を半分だけ出してこちらをじっと見つめているのだ。
今まであえて話題には出さなかったが、一体何の真似なのだろうか。
ヨメカワイイが振り返るともぐら叩きのように素早く頭が引っ込み、イズに向き直るとまた頭がにょきっと生えてくる。
「『楓の木』限定のレアモンスターか?」
「かも知れないわねぇ。可愛いからいいじゃない♪」
「確かに微笑ましくはあるが……」
横目で窺い見ると、アホ毛頭の両隣にさらに黒い頭と白い頭も生えていた。
……増えてるし。
現役高校教師の経験上、若い世代の謎の生態を気にしていても仕方がないので、用件を済ませたヨメカワイイは話を切り上げて素材集めに向かおうとしたのだが。
「待ってください――師匠!」
ギルドホームを出る直前に、聞き慣れない声と聞き慣れない単語で呼び止められた。
支障? 死傷?
まさか塩胡椒を略して『ししょう』ではあるまい。それでは『ユネスコ? ……あ、ネッシーが飼われてるとこだよね!』と自信満々に答えてくれやがった嫁と似たような思考回路だ。
一目で双子と分かる黒白の少女二人がこちらに駆け寄り、その後にメイプルが続く。
「あの、師匠! 私、ユイって言います! この前は助けてくれてありがとうございました!」
「姉のマイです! ありがとうございました!」
「お、おう、どういたしまして?」
教え子よりもさらに幼い少女達に深々と頭を下げられ、流石に戸惑う。
声からして、ヨメカワイイを呼び止めたのはユイと名乗る白い妹の方らしい。
正直なところ、ありがとうございましたと礼を述べられても心当たりがあり過ぎてどれの事やらさっぱり分からない――と言うのも、気まぐれなお節介でモンスターに追い回されるプレイヤーを助けていたのは認めるが、状況如何では横狩りと思われても仕方がないため、助けた相手の顔など見ないでさっさとその場から逃げていたのだ。
「じゃ、俺はこれで」
「「「待ってください!」」」
厄介そうな予感がしたので足早に立ち去ろうとするも、六つの華奢な手がロングレザーコートをがっしり掴んで逃がそうとはしなかった。
メイプル一人ならば【STR 0】なので造作もなく引き剥がせる。しかしどういう
イズもイズで止める素振りもなくカウンターに頬杖を突いて楽しそうに笑っているが、こっちは船幽霊にでも襲われている気分だ。
「あのなメイプル、俺にも色々と予定というものがだね……」
玄関から片足だけ外に出した状態でヨメカワイイは言う。
「そ、そんな事言わないで、もうちょっとお話ししませんかー? ほーらほら、可愛い女の子とか綺麗なお姉さんがいっぱいいる素敵なギルドですよー?」
「うーん、その誘い文句はお兄さん怒っちゃうぞぉー?」
聖職者として夜の店の客引きのような発言は叱らねばならない――若干一名ほど、聖職者の皮を被った性食者な後輩を知っているのだけれど、あれはもう、ああいう生き様なのだと諦める。
と言うかそこの鍛冶師、『綺麗なお姉さん』の部分で手を振るんじゃない。
「お話だけ、お話だけでも聞いてってくれませんかー!?」
「お願いです師匠!」
「お願いしますー!」
「古今東西、そのセリフから始まる売り込みは断られるものばかりだろうが!」
そんなこんなの有様で三人の少女に物理的に引き止められ、結局ヨメカワイイが『楓の木』から解放されたのは小一時間ほど経ってからの事だった。
◆ ◆ ◆
「いやー、参った参った」
何だかレザーコートの裾がびろーんと伸びた気がする。
ともあれ、生産系のトッププレイヤーから武器修理の有益な情報は得られたので、マップ構造の把握も兼ねてヨメカワイイは三層の町中を散策していた。
プレイヤー達がレンタルした鳥のような魚のような飛行機械が町の上空を行き交う――飛ぼうと思えばいくらでも飛べるヨメカワイイなので、料金を支払ってまであれに乗りたいとは思わない。
「皆が飛んでると意地でも地面を歩きたくなるのが俺なんだよなぁ」
「ニャー」
見上げて吐かれたひねくれ者の独白に、アフロの中でミケが鳴く。
成功率を上げるための素材集めも重要ではあるものの、要求されるレアリティの高さを考えれば雑魚からのレアドロップには期待できない。一層の
やはり、狙うは三層の獲物。
高レベル帯のプレイヤーが活動する三層ならばモンスターも強力になり、必然的にドロップするアイテムの品質も下層より高いはず。
なのに何故狩りに行かず町を徘徊中なのかと言えば、とあるNPCと出会うのが目的だった。
「……と。あの女の子だな、掲示板に書いてあったのは」
巨大な建造物がそびえ立つ町の中心部から西へ少しの距離にある店舗の前で、石段に座るNPCの少女を発見した。
年頃はマイやユイと同じくらいだろうか。
道行く人々を眺めながら、鈴を転がすような声音で静かに歌い続けている。
「この歌はね、子守歌なの」
ヨメカワイイが歩み寄ると、少女は歌うのを止めてそう言った。
けれど歌は途切れない。
少女の傍らに置かれた小さな機械からも同じメロディが流れているのだ。
「この町の人間は毎晩これを聞いて眠るんだよ。大人も赤ん坊も、犬も猫もみぃぃぃんな――誰が歌ってるのかも知らないまま、決まった時間に眠らされて決まった時間に起こされるの。自分達が使っていた機械と同じように、壊れるまで規則正しくね」
「…………」
「貴方は人間? それとも機械?」
クスクスと笑う少女。
言動があからさまに怪しいのも情報通り。
三層実装直後、少女の存在が掲示板に初めて記載されて以来、多数の意欲的なプレイヤーが謎を解明しようと町とフィールドを探索しているらしいが今現在進展は見られない。
だからこそ、過程や報酬で他とは一線を画すレア素材を得られるのではと考え、ヨメカワイイは地道な狩りと高難度の謎解きを天秤に掛けて後者を選んだ。
「……歌を辿れば、真実に気付けるかもね。残酷な真実に」
少女は立ち上がると雑踏の中へ消えていき、後には歌を流し続ける機械が残される。
そしてヨメカワイイの前で新たな異常へ誘う扉が開かれた。
今は公式でエロいデジモンを探して楽しんでいる。