VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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004.兎にも角にも初スキル

 モンスターが出る西の森へと続く道すがら。

 

「さっきはすみませんでした! 私も今日始めたばかりでまだ何も分かんなくて……」

「いや、うん、気にしないで。怖がられるのは慣れてるから」

 

 メイプルと名乗る少女が謝罪するのに対し、ヨメカワイイは気にするなと右手を振った。

 飢えたヒグマと揶揄される鋭い眼光も含め、リアルでのコンプレックスである二メートル超えの痩身長躯もきっちりキャラに反映されてしまっているため、現在二人の身長差は五十センチ以上。

 見慣れてもらっているはずの職場でも、曲がり角などで高確率でギョッとされるのだ――自分と初対面の相手が物理的な上から目線に驚かないはずもない。例えアフロだとしても。

 嫁にさえ怖がられなければそれで良いと前向きに考える事にする。

 

「にしても、AGIが低いと本当に歩くの遅くなるんだなぁ」

「うぅ……すみましぇん」

 

 謝ってばかりのメイプル。

 メイプルの足の遅さはステータスポイントを全て防御に振ってしまった結果だった。

 痛いのは嫌だからそうして大盾も選んだと言うが、これに関しては同じくVRMMO初心者でありポイント振り分けが適当だったヨメカワイイに何か言う権利はない。むしろ、メイプルの方がまだ理に適った振り分けをしている。

 そんなちぐはぐな二人が、何故行動を共にしているのかと言えば――奇しくも同じ日にゲームを始めた者同士、おまけに双方揃って誘ってくれた相手が不在の状況。

 一期一会。袖振り合うも多生の縁。

 ならば――と、どちらから提案した訳でもなく同じ方向へ。

 二人で行けば怖くないとばかりに、初めてのモンスター退治に出向き現在に至る。

 

「……そろそろモンスターが出て来てもおかしくないかな」

 

 背後に見えていた町並みも木々で隠れ、聞こえるのは街の喧騒ではなく獣の鳴き声。

 

「そうですね! さあさあモンスターさん何処からでもかかってきなさ――うひぃ!?」

 

 メイプルの威勢を削ぐ形で、草むらからモンスターが飛び出した。

 現れたのは白兎。

 現実ならば兎恐怖症でもない限り怖がる要素は皆無だが、それは相手がこちらに対しての敵意と戦意に溢れ、加えて額に鋭く尖った角が生えていなければの話だ。

 可愛かろうが何だろうがモンスターはモンスター。

 白兎は自慢の角を突き出しながらかなりのスピードで襲って来る――その進路の先には、大盾を構える暇すらなかったメイプルがいて、素早さが最遅の彼女は当然ながら避け切れない。

 

「痛っ!」

「メイプル!?」

「……く、ない?」

 

 慌ててHPポーションを取り出すヨメカワイイだったが、メイプル本人はむしろ戸惑いの表情で角がクリーンヒットしたはずの腹部を撫でる。

 その後も、メイプルを標的に定めたらしい白兎が突進を繰り返すものの、大盾も使わずに柔肌で受け続ける少女は痛痒すら感じていないようだ。

 

「凄い凄い! 全然痛くない! 流石【VIT 128】! ほらほらもっと気合を入れてー?」

「防御力極振りだとここまで堅くなるもんなんだなぁ……」

 

 念のため、白兎が突進する毎にメイプルへHPポーションを使いながら、ヨメカワイイは少女と小動物の戯れをぼんやりと眺める。

 白兎は攻撃を弾かれる度に地面へ打ち付けられてHPが減少し、気付かないメイプルはどうにか白兎を撫でられないかと逆に追い回す――戦闘と呼ぶにはあまりに不思議な光景だった。

 そのままどれほど時間が経ったのか、ふと唐突にメイプルの動きが止まる。

 

「あれ? 今、頭の中に声が……」

 

 聞きようによってはかなり痛々しい発言だが――白兎をひとまず横に置いて自身のステータスを確認するメイプル。

 

「【絶対防御】……わっ、VIT二倍!? これって凄いスキルなんでしょうかカワイさん!?」

「いや俺に聞かれても。それと、カワイじゃなくてヨメカワイイな」

 

 別にどう呼ばれても構いはしないのだが。

 実は、謎の音声はヨメカワイイにも聞こえていた。

 

『スキル【施しの報酬】を取得しました』

 

 メイプルと同じようにステータス画面からスキルを確認してみると、そこには次のような説明が記載されていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

【施しの報酬】

 他のプレイヤーに対し回復系スキルまたはアイテムを使用する度に、自分のHPとMPの最大値が一割増加し、HPとMPが一割回復する。このスキルによって増加した最大値は、二十四時間経過で全てリセットされる。

 取得条件

 パーティーメンバーではない戦闘中の他プレイヤーに、回復系スキルまたはアイテムを百五十回使用する。途中で戦闘が終了した場合、カウントはリセットされる。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……要するに、誰かを回復させると自分のHPとMPも回復するスキルって事か。確かに、ずっとメイプルにポーション使ってたからなぁ。と言うかパーティーも組んでなかったのか俺達」

 

 ヨメカワイイもメイプルもスキルを簡単に取得出来たと考えているが、それは大きな間違いだ。

 まずメイプルの【絶対防御】は防御に極振りし、ダメージを受けず、攻撃も与えないまま一時間耐え忍ばなければならない。

 一部のトッププレイヤーならそんな余裕も生まれるかも知れないが、まずは何よりレベル上げを優先する新参プレイヤーが、倒せるモンスター相手に一時間も突っ立っているはずがない。

 さらに、ヨメカワイイの【施しの報酬】もまた異質。

 対人戦――PK制度も採用された『NewWorld Online』において、パーティーメンバーでもない見ず知らずの相手に、しかも一度の戦闘中に百五十回も回復させるメリットなど皆無。

 つまり。

 偶然にもヨメカワイイとメイプルが出会い、偶然にも一緒にモンスター退治に向かい、偶然にもパーティーの組み方を知らず、偶然にもメイプルが白兎と一時間も戯れ、偶然にもヨメカワイイが取得条件を満たせるだけのHPポーションを持っていたからこその必然だったのだ。

 そんな事は露知らず、

 

「スキルって兎さんと遊ぶだけで取れるのもあるんですねー」

「ところでメイプル、その兎なんだが……」

「ふぇ?」

 

 ヨメカワイイが気まずそうに指差す先で、小動物ながらも不屈の闘志で何度も立ち上がり続けた白兎にも、とうとう限界が訪れようとしていた。頭上に表示されたHPバーはわずかに赤い部分が残るのみで、二人が見守る前でついにはそれすらも――

 

「あ、死んだ」

「兎さああああああんっ!?」

 

 力尽き、細かなポリゴンとなって消え失せる白兎。

 跡形もなく、角や毛皮などのドロップアイテムもなく。

 残ったのは初めてのスキルと、力を得るために小動物を犠牲にしたという罪悪感。

 

「……何かを得るって何かを失うって事なんだよな……」

「兎さああああああんっ!?」

 

 こうして、後に『化物』そして『怪人』と並び称されるルーキー二名の初戦闘は、何とも空しい形で終わりを迎えたのだった。

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