VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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これっくらいのー、おべんとばっこにー、
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はい、始まります。


040.一日目:昼 怪人の進路

「ここも先越されちゃってたか……」

 

 草木も家屋も岩土も命さえも、分け隔てなく根こそぎ舐め取るように。

 バケツではなく火山を引っくり返したとでも表現すべき、マグマによる破壊の限りを尽くされた敵ギルドの拠点――その凄惨たる有様を枝の上から見下ろして、サリーはぼそりと呟く。

 

「メイプルだったらこれが猛毒の海とかになってるんだろうなぁ」

 

 一応、奮闘むなしくリスポーンの順番待ちをしているであろう連中を気の毒には思うが、勝負の世界なのだから仕方がないと、多くの勝利と敗北を経験した熟練のゲーマーらしくドライに思考を切り替え、状況をつぶさに観察する。

 きっと、元々は花畑だったのだろう。

 四方から攻め込まれる恐れのある立地から考えて、屠られたのは大規模ギルド。

 当然、台座にはオーブの影も形もない。

 

「赤一つ追加っと」

 

 開いたマップに哀れなギルドの位置を記憶させ、襲撃済みを示す赤で着色。

 サリーは現在、奪ったオーブを拠点に戻るクロムとカスミに預けて単独行動に精を出していた。

 偵察の甲斐あってマップにはすでに十以上のギルドの所在地が記されている。しかし残念ながらそのおよそ半分がヨメカワイイに襲撃された後であり、オーブ奪還のために慌てて部隊を編成するプレイヤー達を眺めるだけで、それなりの時間をかけた成果としてはあまり芳しくない。

 

「逆に言えば、半数は無事なのが意外なんだよね……」

 

 蝗害かグンタイアリよろしく手当たり次第に食い散らかしていると思いきや、明らかに進路上の獲物を無視して、その先に位置する別のギルドを標的に選んでいる節がある。

 単純に、攻めるのが楽かどうかで決定しているのだとすると、人数差で圧倒的に分が悪いはずの大規模ギルドを襲っている事実はどう説明すればいいのか。

 

「私みたいにオーブを掠め取って逃げるだけならともかく、きっちり全員倒してるっぽいし」

 

 サリーも回避力ならば誰にも負けない自信があるが、戦闘時以外も含めた機動力という意味ではヨメカワイイに軍配が上がる。

 だからこそ、なおさら疑問と気味の悪さが残る。

 オーブを奪ってから駆逐したのか、駆逐してから奪ったのか――どちらが先かはさておき、空を飛んでいくらでも逃げられるはずなのに。

 

「……いけないいけない、今はこっちに専念しなきゃ」

 

 頬を軽く叩き、袋小路に迷い込んでいた自分の脳に気合注入。

 メイプルの毒同様、時間経過でマグマが消滅した地面に飛び降りる。

 ああでもないこうでもないと考えるのは、無事に戻ってから仲間達と一緒にすればいい。

 とにかく今は体力と集中力の許す限りフィールドを駆け回り、一つでも多く敵ギルドを見つけてマッピングしなければ。

 

「俺らの拠点に誰かいるぞ!」

「カワイの奴か!?」

「……うわっちゃー……」

 

 意気込んだ矢先に発見されてしまった。

 敵の数は前衛職二人に後衛職一人。

 最初にリスポーンしておっとり刀で戻ってきたという事は、この三人がヨメカワイイに真っ先に仕留められた犠牲者達に違いない。それ自体は取るに足らないイベントの仕様なのだが、ここまで接近されても気付けなかったとは――らしくない、本当にらしくない凡ミスだ。

 

「うーん、カワイさんにいいように乱されてるなぁ」

 

 そのぼやきで仲間だと判断されたのか、盾持ちの剣士が片手剣で切り掛かる。

 

「オーブ返しやがれ!」

「問答無用だね。ま、当たり前だけど」

 

 自分達の陣地に見知らぬプレイヤーの姿があれば、とりあえず攻撃するだろう。サリーも彼らと同じ立場だったならそうする。

 ましてや向こうはヨメカワイイの仲間だと勘違い中――目の前の少女(サリー)がオーブを持っていようと持ってなかろうと関係なく、鬱憤を晴らすための八つ当たりの意味合いも強いのかも知れない。

 たった一人にオーブを奪われて壊滅させられた現実を認めたくないのは分かるが、見た目だけはか弱い女性プレイヤーに対して三人がかりなのは如何なものか。

 

「よっ、ほいっ、と」

「くそっ、なんで当たらねぇ!?」

「馬鹿! 俺の射線に立つな!」

 

 振り回される刃や魔法を躱しつつ、【剣ノ舞】でSTRを上昇させていく。

 ギルドの規模こそ大型だがメンバーの練度自体はそこまで高くはないようで、この三人にしても前衛と後衛の連携がまだまだ甘い。ついでに言えば、相手の危険度を見極める観察眼も。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

 連続回避と【追刃】の効果によって威力が増大した二刀流が、火力の低い短剣使いだと油断する剣士のHPを消し飛ばす。

 仲間を一瞬でリスポーン地点に叩き還され、残る二人の顔が驚愕の色に染まる――しかし呆然と立ち尽くす暇さえ今の彼らには存在しない。

 

「さよなら」

 

 双刃が不気味に閃いたかと思えば、胸と首に無数の裂傷が走る。

 二度目の死を与えられ仲間の後を追う羽目になったプレイヤー達の光の残滓を見送り、サリーは周囲を警戒しつつ軽く息を吐いて短剣を鞘に納める。

 三人相手に快勝したとは言え、ここは敵軍拠点のど真ん中。何時また新手が現れるか分からないこの状況では、あまり悠長に構えてもいられない。

 

「オーブがないんじゃ用はないし、ギルドの場所と規模が分かっただけでも収穫かな……」

 

 少し考えて、サリーはこれまでに集めた情報とオーブを持って拠点に帰還する事を決めた。

 もちろん、帰りの道中にある、まだオーブが無事なギルドを可能な限り狙いながらだが。

 不運な三人組が同じくリスポーンした仲間を大勢引き連れて舞い戻った時には、ポニーテールの少女に化けた悪魔の姿などあるはずもなかった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「来た! 来た来た来たぁ!!」

「前衛は正面に並べ! 後衛は援護射撃を止めるなよ!」

「距離があるからって油断するな! 奴の射程はこっちも何倍もあるぞ!」

 

 廃墟の石畳を擦って奏でる鉄パイプの音色は、襲われる側にとって死神の足音と同義だった。

 空を飛ばず、陸路を徒歩で現れたペストマスクの怪人。

 一人に向けるには明らかに過剰な量の攻撃魔法と矢が降りしきる中を、時には打ち弾き、時にはその長躯にあり余るHPで受け止めながら、ヨメカワイイはオーブ目指して侵攻する。

 

「とにかくカワイを消耗させるんだ!」

「HPでもMPでもアイテムでも、何でもいいから奴の力を削ぐ事に集中しろ!」

 

 襲われるプレイヤー達もただ無策に攻撃を行っているのではない。

 各地で激しい戦闘が起きているこのイベント専用フィールドには、回復系アイテムやその素材が全くと言っていいほど配置されていない。

 例えばミィの【炎帝】など指折りの上級魔法は威力に比例して消費MPも高く、回復するためのMPポーションも大量に必要となる――物資に乏しい現状に限っては、そういった強力なスキルを有するプレイヤーほどMP管理がシビアなものになり、むしろ大多数のプレイヤーが持つ一般的な攻撃スキルの方が威力と燃費効率のバランスが取れているのだ。

 そしてそれはHPも同じ。

 文字通り体力馬鹿のヨメカワイイも例外ではなく、削られたのならポーションなり回復魔法なり使わなければならない。

 

「撃て撃て撃てー!!」

「ああもう! 少しは足を止めるくらいしなさいよ!」

 

 この戦いは団体戦であると同時に、五日間の持久戦と消耗戦でもあった。

 運営の意図であろうその仕組みに気付いているからこそ、中規模ギルドの彼らは最終的な勝利を得るため果敢に攻撃し続ける。

 

「……【装填】【ヒール】」

 

 だが。

 その戦法が有効なのは、ヨメカワイイに通常の回復手段しかない場合に限られる。

 

「【スプレッドショット】」

 

 鉄管弓の弦が弾かれ、前方に拡散する矢がプレイヤー達を射抜く。

 ダメージが発生しない不可思議な射撃は、むしろ逆に彼らに癒しをもたらしたが――それ以上の回復量で怪人のHPが増えたのを見て、慈悲や情けなどという勘違いは吹き飛んだ。

 傷を負っていない、しかも敵のプレイヤーにわざと回復魔法を使って自分を癒し、さらにHPの上限値が増加するスキルなど誰が予測できるのか。

 考察を重ね、どれだけの対抗策を立てていても、いざ実際に敵対すればそんなものは所詮空論に過ぎないのだと現実を突きつけられる。

 ついに集中豪雨地帯を潜り抜けたヨメカワイイと前衛部隊が交戦する。

 先陣を切るのは、部隊を率いる幹部の大槌使いだ。

 

「俺らのオーブに近づくんじゃねぇよ!」

 

 空気を裂いて吠える縦振りの大槌に対し、ヨメカワイイは半身をずらして掌底突きを放つ。

 

「【ファイアボール】」

 

 それはただのカウンターではない。

 前腕部に【ファイアボール】の発動と合わせて杭型炸裂弾を形成させたパイルバンカー。

 怪人の魔手を顎に叩き込まれ、頭部が炎に包まれた大槌使いが膝から崩れ落ちる。

 

「い、一撃……」

「嘘だろ!?」

 

 光の粒に変わる雑魚(・・)など見向きもせず、乱戦の中、ペストマスクの視線が獲物達を刺す。

 

「【サイクロンカッター】」

 

 呼び掛けに応じて出現する、荒ぶり唸る緑のエフェクト。

 通常の【サイクロンカッター】とは異なり実体を手に入れた疾風の高速回転刃――怪人の左右の守りを固める一メートル超えの円型盾か、あるいは本来の役目に従って敵を両断する殺戮兵器か。

 

「丸鋸ぉっ!?」

 

 叫んだ誰かが次の瞬間には右半身と左半身に分離させられ、すんでのところで飛び退いた近くの仲間も、一拍遅れて飛来した二枚目の回転刃に背後から引き裂かれた。

 数では圧倒的に有利であるはずのギルドが、たった一人の迫力に気圧されている。

 さらに呼び出される数枚の緑の回転刃。

 鉄管弓で前衛を次々に殴殺し、後衛を射抜いていくアフロの怪人。

 人間の形をした白昼の暴風雨は依然収まる気配を見せなかった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 優勝候補と目される『集う聖剣』の主要メンバーにも、怪人台風の進路状況は逐一届いていた。

 ドレッドと二手に分かれてオーブ回収を行っていたペインはメッセージを確認し、それに対する指示を箇条書きで返信した。

 

「今のところ直接の戦闘はなしか」

 

 安堵とも拍子抜けとも取れる小声が漏れる。

 聖騎士然とした白の全身鎧を身に纏うペインは敵の動向に常に目を光らせ、フィールドの方々に散らばる偵察部隊からの情報を元に今後の戦略を組み立てる――特に今回のイベントでは、三つのギルドがどう動くのか正確に見極める必要があった。

 ミィが統率する『炎帝ノ国』はこちらに負けず劣らずの人員的戦力が。

 メイプルを頭目に置く『楓の木』は情報不足による得体の知れなさが。

 そして、設立からの経過日数では新参のヨメカワイイしかいない『闇鍋』に至っては、情報こそ手に入るものの、そのどれもが荒唐無稽とすら言える内容で何をどう参考にすればいいのやら。

 

「カワイに関しては……考えれば考えるほど迷宮に落ちていく感じだな……」

 

 ギルドマスターであると同時に頭脳労働担当でもあるからこそ、奇しくもサリーと同様に思考の底なし沼へ嵌まり込んでしまう。

 ミィはともかく、定石など意味を成さない警戒すべき規格外が二人もいるのだ。

 どれだけ念入りに作戦を立てても予想外の方向から切り崩されるのではと、幹部の中で紅一点のフレデリカから『心配性』と呼ばれる用心深さの警報が鳴り続ける。

 ドレッドもフレデリカもドラグも決して浅慮愚直が目立つプレイヤーではないが、強者が集まるギルド故の楽観視と油断が言動の端々に見えるのも事実。

 しかしペインには最高レベルのプレイヤーの、一団を束ねる長の意地がある。

 不甲斐ない戦いでは、集まってくれた仲間達に面目が立たない。

 

「……個人として負けても構わない。『集う聖剣』が勝利を掴みさえすればそれでいい」

 

 そうしてペインは歩みを止め、敵ギルドの真正面に堂々と姿を見せた。

 陽光を反射する白鎧に気付いた敵軍が慌ただしく迎撃に飛び出してくる。

 いずれは刃を交えなければならない強敵達の事を考えれば、目の前の中級プレイヤーの集団など取るに足らない有象無象も同然。

 白銀の剣を抜き、高らかに言い放つ。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

 光り輝く奔流が敵を切り裂く。

 ここにはいないライバルの幻影を断ち切るかのように。




おそらくは今年最後の投稿。
今年はいろいろありましたが、皆さま良いお年を。
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