VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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あけましておめでとうございます。



運営は、せめてオーブをモンハンの卵のようにインベントリにしまえないようにすべきだった。


041.一日目:夜 狙われる理由

 帳が下り、夜が世界を支配する。

 ある者は獲物を狙う目を爛々と輝かせ、ある者は暗がりに怯え松明の下で戦々恐々。

 訪れた闇を味方にするべく、フィールドに響く剣戟や魔法の爆発音は一層激しさを増していく。

 

「ただいまー」

「おかえりサリー! 大丈夫だった!?」

「何とかねー。はいこれ、追加のオーブ」

「一人で三つも……流石だな」

「「サリーさんすごいです!」」

 

 殺伐とした弱肉強食の舞台から戦利品を持ち帰ったサリーに、メイプル達が称賛を送る。

 同じく攻撃組であったクロムとカスミは定期的な補給と、時には必要性が薄いながらも防衛組の援護を務める事もあってあまり遠出ができなかったため、『楓の木』がこの半日で得たポイントは全てサリーがフィールドを走り回って稼いだものだ――初日はまだ半分残っているが、本日一番の功労者なのは言うまでもない。

 もちろん、防衛組もきっちりと役目を果たしていた。

 

「こっちもね、マイとユイがすごかったんだよー! もうドカンズドンって!」

 

 拠点に押し寄せた哀れな侵入者達が、双子の固定砲台のような【投擲】によって蹴散らされたとメイプルが興奮混じりに説明する。

 

「お疲れ様、サリーちゃん。はい、MPポーション」

「まだ外に出るつもりなら強化魔法とか掛けてあげるよ?」

「ありがとうイズさん、カナデ」

 

 ゴールドさえあれば何時でも何処でもアイテムを無制限に生産可能なイズは、魔法支援タイプのカナデと共に『楓の木』の根幹を支えるサポート役としてなくてはならない存在だ。

 手渡された謹製のポーションでMPを回復し、サリーは万全の状態に戻す。

 しかし、それはあくまでステータス画面での話であり、偵察を長時間続けた疲労はそう簡単には取れやしない。まして常に会敵する恐れがある緊張感の中、持ち前の高い集中力で発揮する回避と両立させているのだから、その精神的負担はどれほどになるのか。

 そんな様子はおくびにも出さず、平時の口調でサリーが言う。

 

「にしても、やっぱり優勝候補に名前が挙がるギルドは手強そうなプレイヤーばかりだね。絶対に勝てないって訳じゃないけど、どっちも一筋縄じゃいかない感じだった」

「……その相手とやらは、それ以上の危険を感じていたと思うがな」

 

 第二回イベントでのサリーとの戦闘を思い出したのか、カスミが苦笑いを浮かべた。

 攻撃をことごとく躱される悪夢を味わった仲間のトラウマはさておき、そのサリーをして厄介と言わしめる実力を持つプレイヤーの情報を皆で共有する。

 一人は『炎帝ノ国』のミィ。

 もう一人は『集う聖剣』のドレッド。

 どちらも界隈では有名なプレイヤーであり、プレイ時間だけで言えば初心者に毛が生えた程度のマイとユイ以外は、メイプルでさえ掲示板で何度も目にした覚えがある名前だ。

 

「ドレッドさんって、カワイさんが前に戦ったって言ってた人だよね?」

「うん。私と違うタイプの回避の使い手だから色々と勉強になったよ」

 

 オーブの横取りこそできなかったものの、サリーにとってはそれ以上の収穫があった。

 同じ回避特化の短剣使いと相対した経験は、今後の戦闘で大きな力となってくれるだろう。

 

「ミィの方は、聞いた限りじゃ相変わらず火力でゴリ押しか。後ろで守られてるはずの魔法使いが先陣突っ切って暴れてるってのがまずおかしいんだよなぁ。燃費だって悪いだろうに」

 

 あらゆる常識を覆し、あらゆる攻撃が当たらず、あらゆるダメージから蘇り、あらゆる大魔法を使いこなし、あらゆるアイテムを作り上げ、あらゆる防壁を破砕する――メンバー以外の第三者が聞いたなら『いやお前らの方こそおかしいから』と反射的に入れるであろうツッコミも、この場は感覚が麻痺しつつある人外魔境(仮)の仲間だけなので言葉として放たれる事はなかった。

 強いて言えば、特筆すべき持ち味がないカスミが小さな疎外感を覚えたくらいか。

 

「やはり、まだまだ私は力不足のようだな……」

「カスミだって十分強いってば。私もマイもユイも攻撃を食らったら一発アウトだし、メイプルは移動がシロップ任せになって目立つから偵察には向かないし」

「俺やイズ、それにカナデのAGIじゃ、偵察はできても撤退しなきゃならん時にどうしても不安が残るしな。うちで一番バランス取れてる万能型はお前だけなんだから自信持てって」

 

 サリーとクロムに励まされてカスミが立ち直ったところで本題に戻る。

 と言ってもミィの――『炎帝ノ国』の主要メンバーについての情報は、サリーがフレデリカから仕入れたものと大差ない復習のような内容で、ドレッドの方もどうやら姿を見えなくするスキルを持っているらしいと推測できた程度だ。

 

「逆にこっちは【流水】も【攻撃誘導】もしっかり見せといたから、少しは油断を誘えると思う」

「ありもしないスキルを誤認させる、か。そんな戦略は考えた事もなかったな」

「そうなると、他に気にしなきゃならないのは……」

「……カワイさんがどう動くか」

 

 イズの言葉を引き継いだサリーが、皆に見えるようにマップを表示する。

 偵察組の努力の結晶には敵軍の所在地がいくつも記されているが、決して少なくない数の拠点がヨメカワイイの襲撃済みを示す赤色で染まり、自軍オーブすら見捨てたとしか思えない侵攻範囲と速度にメイプル達は目を剥く。

 その数は『楓の木』がこれまでに手に入れたオーブを倍にしてもまだ届かない。

 

「おいおい、一人でどうこうってレベルじゃないだろこれ」

「しかもここに書いてあるのは私が見つけたギルドだけだから、実際はもっと多いと思う」

「でも三時間経ってポイントが入ればオーブは元の場所に戻されるんですよね? だったら師匠と戦わないようにすればいいだけなんじゃ……?」

 

 おずおずと手を挙げたユイの意見も一理ある。

 ヨメカワイイには【悪食】の回数制限などの急所を知られている――裏を返せば、『楓の木』の危険度を敵としての立場で誰よりも把握しているのだから、ただでさえ孤軍奮闘中の怪人も無用な戦闘を避けるのではなかろうか。

 

「ところが、どうもそう単純な話じゃなさそうなの。ここに戻ってくる途中、他のギルドの様子を窺ってみたんだけど……カワイさんってば、ずっとオーブを持ったまま動き回ってるみたいでさ」

「……? だってそういうイベントでしょ?」

 

 メイプルが首を傾げ、アホ毛を揺らす。

 

「よーく考えてみてよ。今回のルールだと、奪われたオーブは取り返すかポイント処理されないと絶対に手元に戻ってこないんだよ? つまりカワイさんを倒すか、それが無理なら三時間守らせてさっさとポイントに変えてもらわない限り、赤く染めたギルドのオーブは一つ残らずカワイさんが独占し続ける形になる」

「えっと、カワイさんがオーブをたくさん持ってると……どうなるんですか?」

 

 いまいち状況が飲み込めていないマイ。

 昼間の頑張りで精神が眠気に抗えないのか、彼女の目は妹と同じくとろけそうになっている。

 話し合いが終わったら先に休ませようと考えながら、サリーは簡潔に述べる。

 

「私達を含めたどのギルドも、ポイントをほとんど稼げないって事だよ。だってオーブを時間まで防衛して初めてポイントに計上されるのに、周りの敵軍に攻め込んでも肝心のオーブがなかったら意味がないでしょ」

「あ……」

 

 意図的かどうかなど、この際関係ない。

 第四回イベントを根底から崩壊させるほどの、ルールの抜け穴を突く悪魔の戦略だった。

 

「だったら、カワイが襲ったギルドの法則性や共通点を急いで見つけないとな。俺達まであいつのターゲットになっているんだとしたら今にも攻めに来るかも知れん」

「だが見た感じ、何らかの線で繋がっているようには思えないぞ?」

「少なくとも規模や立地条件ではないみたいだね。PKを推奨してるギルドもそうじゃないギルドも被害に遭ってるから善悪での区別も違うかな。他に考えられそうな要素は……」

「過去に雇われた事があるギルドだけ、っていう線はどうかしら?」

「いやいや、それこそ完全にとばっちりだろ」

 

 クロムが、カスミが、カナデが、イズが。

 様々な観点から意見を出すものの、これだ、と強く納得できるものはない。

 しかし何かを見落としているはず。 

 その糸口を照らし出したのは、我らがギルドマスターのメイプルだった。

 

「はい、サリー先生! 私はこの人達がカワイさんを怒らせちゃったんだと思います!」

「うーん……メイプルの着眼点も中々だと思うけど、これだけの数のギルドが一斉にカワイさんの怒りを買うほどの出来事って一体どんな……」

 

 そこまで言って、思い至る。

 あったのだ。メイプルの説を裏付け、それが正解だと断言できるだけの要素が。

 

「えぇ……? ちょっと待って、そんな単純な理由?」

 

 慌ててマップの隣に一つのメモを表示させるサリー。

 いきなり何事かと他のメンバーが怪訝な表情で見守る中、目を回しそうな勢いでマップとメモを何度も見比べ、合点がいったとばかりに力強く頷いた。

 そして謎解きに最大の貢献を果たした親友の両肩を叩く。

 

「メイプル」

「ほえ?」

「天才!」

「それほどでもぉ」

 

 えへへへぇ、と照れ臭そうに後頭部を掻くメイプルからクロム達に向き直ると、名探偵サリーは自分の推理を披露し始めた。

 

「皆、まずはこちらをご覧あれ」

 

 先ほど表示させたメモのパネルを反転させ、メンバーに見せる。

 そこにはギルドの名前が大量に羅列されていた。

 代表してカスミが尋ねる。

 

「これは、名簿か何かか?」

「ある意味ではそうだよ。ここに名前があるのは、イベント前に掲示板でカワイさんを雇ったとか手を組んだって内容の書き込みをしたギルドばかりなの。それも、真っ赤な嘘の書き込みをね」

「嘘? 嘘なんて書いて平気なんですか?」

「あー……まあ、情報戦の一種と考えりゃ有効っちゃ有効な手だな」

 

 純粋なユイの疑問を肯定するクロム。

 

「別に珍しい話じゃない。強いギルドと協力関係にあるとか誤解させれば、それだけで周りの敵を牽制できるしな。今回みたいな団体戦だと多かれ少なかれそんな奴らも出てくるだろうさ」

「私もそう思って念のためリストアップしたんだけど、まさかこんな形で役立つなんて」

「って事は、サリーちゃんが赤い印を付けたギルドと、リストにある名前は……」

「うん、ぴったり一致でした。九分九厘間違いなく、カワイさんは嘘を書き込んだギルドに狙いを定めて攻撃してる。ご丁寧に標的の方から名乗ってくれてる訳だしね」

 

 ヨメカワイイの不可解な選別の謎は解けた。

 まるでシリアルキラーのプロファイリングでも行ったような心持ちだが――『楓の木』が怪人と敵対する可能性は限りなく低くなったのは喜ばしい。

 

「何だかなぁ。襲われてるこいつらも、名前を借りただけって言えばその通りなんだが……」

「虎の威を借りようとした狐が、虎に絡繰りを見破られて喰われたか。因果応報だな」

「じゃあ、私達はそのリスト以外のギルドを狙えばカワイさんと戦わなくて済むの?」

「理屈ではね。ただ、結構大きな問題も残ってる」

 

 サリーが危惧しているのは、リストにあるギルドの数だ。

 怪人のネームバリューもあってか、自分の首を絞める羽目になった嘘吐き達はかなり多い。

 中には無関係のプレイヤーによる賑やかしの書き込みもあるだろうが――仮にイベント参加中のギルドの過半数がヨメカワイイの攻撃対象だとして、それら全てを掌握された場合、『楓の木』もその他も、残る半分のオーブでの争奪戦を余儀なくされる。

 

「オーブの絶対数が少なくなれば、その分ポイント稼ぎもキツくなって順位争いも激しくなる」

「GPS付きの宝の山を持ち歩いてるカワイを倒せば丸儲けも可能だろうが、そうなりゃ次に飢えたハイエナの大群に襲われるのは自分達だって目に見えてるもんなぁ」

「カワイさんをどうにかするか、手遅れになる前にポイントをガンガン貯め込んでおかないとって僕ら以外にも勘の鋭い人なら気付く頃だよね」

 

 誰が予測できようか。

 何百というプレイヤー同士の集団戦に単騎で挑む無謀者がいるなどと。

 誰が想像できようか。

 そのたった一人の無謀者の行動によって戦場が見事に掻き乱されるなどと。

 

「とにかく、私はまた単独(ソロ)で出るよ。オーブを取り返しに敵が来るだろうからメイプル達は交代で休みながら防衛をお願い。特にマイとユイは最初に休ませてあげて」

「うん、分かった!」

「サリーも気を付けろよ!」

 

 仲間達の声援を背中に浴びながら、サリーは再び夜の狩り場へ音もなく身を躍らせた。




今年は丑年。
pixivが牛の格好のお姉さんの絵でいっぱいですね。素晴らしい。
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