VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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プギャー。


043.二日目:昼 かいじゅうたちのいるところ

「俺達が休んでる間にそんな事になってたのか」

「メイプルが助けに来てくれて何とかなりましたけど、流石にこれは死ぬって思いましたよ……」

 

 どうにか誰も死亡せずに二日目を迎える事ができた『楓の木』の愉快な仲間達は、情報の整理と意見交換を兼ねて一日目の深夜に起きた出来事を話し合っていた。

 やはり皆が重要視するのは、死の淵に立たされたサリーを救った何者かの思惑について。

 

「何者かっつーか……間違いなくカワイだよな、んな芸当ができそうなのは」

「きっと何処かから見てたんだろうね」

「背中から狙撃されなくてよかったわね、サリーちゃん?」

「縁起でもない事言わないでくださいよイズさん……」

 

 無事に拝めた朝日もすでに天上高く昇り、時刻は昼過ぎ。

 一日目の徹底的な撃退劇が功を奏したのか、自軍オーブしかない『楓の木』を襲撃しようとする命知らずはなく、防衛組には冗談交じりに談笑するだけの余裕が生まれていた。

 

「サリーちゃんも大ピンチだったみたいだけど、マイちゃんとユイちゃんだけで守ってたこっちも攻撃を受ける寸前とか、何気に私達かなり危なかったのねぇ」

「ああ。二人じゃまだランカーのドレッドには敵わなかっただろうしな」

 

 メイプル主催の毒竜(ヒドラ)討伐タイムアタックでレベルを上げ、サリーからもスパルタな教えを受けて立派に戦えるだけの強さを得たと言っても、双子はまだまだ発展途上。

 技量と戦闘数の差でドレッドに軍配が上がるため、同じくランカーの一人であるクロムの言葉に異論を挟む者はない。何かと面倒見のいい彼だからこその台詞だとメンバーも分かっている。

 

「サリーとメイプルが戻ってきた時、ドレッドって人はゴブリンと戦ってたんだよね? こっちもやっぱりカワイさんが足止めしててくれたって考えていいのかな?」

 

 カナデの疑問にサリーが頷く。

 

「そうだと思うよ。ゴブリンの他に空中を泳いでる魚の群れもいたから。あれは第二回イベントの海中に出るボス――カナデも覚えてるよね? あのおっきなイカ。あれを倒さないと手に入らないスキルだし、使えるのは私とカワイさんくらいのはず」

「なるほど、じゃあ確定だねー」

 

 ちなみにメイプルとマイとユイはこの場にいない。

 他ギルドにとって最悪極まりない事に、全プレイヤー中最高防御と最高火力を誇る極振り三名が揃って新たなオーブ回収に動き始めたのだ――午前中にメイプルが単独で動いただけで十を超えるギルドが壊滅したのだから、そこに双子の破壊力が加算された今、彼女達と真正面からぶつかって立っていられる相手など一部の限られたプレイヤーだけだろう。

 

「結局、サリーを助けた理由は分からずじまいか」

 

 メイプルを防衛に専念させるのがプランAだとするなら、現在行っているのはプランB。

 隠し通していたスキルを解放しての侵攻は、さながら居城から直々に出陣する大魔王に近い。

 当然ながら全てのスキルを大盤振る舞いするのではなく、【毒耐性】を所持したプレイヤーへの対策として【捕食者】を、マイとユイを守るために【身捧ぐ慈愛】を、攻防合わせて一種類ずつの限定公開に踏み切っただけだ。

 孤軍奮闘したサリーの働きによって、他ギルドの拠点はマップに記入済み。

 メイプル達はスタンプラリーのように順繰りに潰していけばいい。

 

「となると、カワイの動向が気になるところではあるな」

 

 自分の世界から戻ってきたカスミが言う。

 ショーウィンドウのトランペットに心を奪われた少年よろしく、新しい刀をこれでもかと存分に矯めつ眇めつしていた彼女もまた、『炎帝ノ国』に所属するランキング第七位、『崩剣』のシンを討ち取ってギルドに貢献している。

 その際に使用せざるを得なかったスキルの代償で、愛刀を含む装備一式が耐久値の限界を迎えて砕け散ってしまったが――それらを軽く上回る性能の刀と防具をイズがあっさり拵えてくれたので女剣士はすこぶる上機嫌だ。

 

「だよね。カワイさんとうっかり戦うような事になっちゃったら、メイプルもスキルの温存なんて考えてる余裕はないだろうし」

「マイちゃんとユイちゃんも一緒だし、メイプルちゃんが負けるとは思えないけど、簡単に勝てる相手でもないものねぇ」

 

 情報秘匿の意味でも必要以上の戦闘は避けるようにとメイプル達には釘を刺したが、もし四人がかち合って怪獣大戦争に発展しようものなら、どのような形であれ、お互いに手の内を隠したまま終了する可能性は限りなく低い。

 

「……メイプルだしなぁ」

 

 ちょっとフィールドに出ただけで、見た事も聞いた事もない変身形態やオプションを手に入れて帰ってくる予想外と奇運の申し子――そんなメイプルが戦場を闊歩する。

 主力としてはこの上なく信頼できるものの、反面、自由行動させるとなると、初めてのお使いの途中で豆柴に気を取られて道を間違う幼児レベルで信用できない。

 

「メイプルだものなぁ」

 

 カスミもサリーの言葉をオウム返しに呟く。

 激突し降り注ぐ猛毒と溶岩、絶え間なく荒れ狂う砲撃と爆撃、【大自然】の猛威を【鉄蝗団(アバドン)】が食い破る中、一撃必殺の大槌の四重奏が小鬼の群れを相手に大立ち回り。

 何の地獄だそれはと叫びたい光景しか浮かばず、サリー達の顔に縦線が入り陰鬱に沈み込む。

 

「最悪、本当に背中から射抜かれるかも知れないぞ」

「イズの冗談が笑い話じゃなくなってきたな……」

 

 劣勢さえ容易く覆すほどの破壊力を秘めた【暴虐】と【機械神】――人数の乏しい『楓の木』が勝利を掴むため、ギリギリまでひた隠しにしたい二枚の切り札。

 その最終兵器を知るプレイヤーに敵視され対策を講じられてしまえば、上位入賞までの道のりは確実に遠く険しくなってしまう。

 

「カワイさんが狙ってるギルドと極力被らないルートにしたし、むしろカワイさんがメイプルとの戦闘を避けてくれるのを期待した方がいいかも」

 

 しかしこちらも目的やターゲットが分かっている

 触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず。

 終盤まで戦わずに済む相手なら、それに越した事はない。

 

「期待するより、まず今のうちに念押ししとけばいいんじゃないか?」

「……そうですね」

 

 クロムに促され、サリーはメイプルに宛ててメッセージを飛ばす。

 一分と経たずに届いた返信には、こう記されていた。

 

『大丈夫! カワイさんと一緒にシロップに乗って移動してるから!』

 

 …………。

 何がどう大丈夫なのだろうか。

 とりあえず、さん、はい。

 

「「「……どうしてそうなった!?」」」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「浦島太郎にでもなった気分だな」

 

 助けた亀に連れられて。

 ではなく、懐かれたメイプルと双子に連れられて、巨大なシロップに乗ってのんびり遊覧飛行。

 三層の町で見た乗り物でもない限り攻撃も届かない不可侵の領域――【念力(サイコキネシス)】本来の用途が移動用ではないため【滑空】に比べると速度はかなり緩やかだが、甲羅というしっかりした足場は安心感が高くグライダーでの飛行よりも楽だ。

 

「師匠、師匠! 下にプレイヤーさんがいっぱいいます!」

「おー、そうだな……みーんな一目散に逃げてるけどな」

 

 ゆっくりと、防ぐ手立てもなく迫る空飛ぶ亀。

 見上げる者達からすれば、地球侵略に大挙して押し寄せた宇宙艦隊と変わらないのだろう。

 実際、道中でメイプル達に襲われたギルドはなす術もなく一様に猛毒の紫海に沈み、状態異常に耐性があったプレイヤーはメイプルの【身捧ぐ慈愛】に守護されたマイとユイの一撃で、いち早く逃げ出したAGIが高いプレイヤーは矢で頭部を射抜かれて光になった。

 ちなみにヨメカワイイが狙うギルドではなかったので、オーブはメイプルの手にある。

 

「でも、本当にいいんですか? カワイさんにも予定とか計画とかあるんじゃ……」

「あるっちゃあるが、計画と呼べるほど大層なものでもないさ」

 

 そもそもマイが申し訳なさそうに気にする事でもない。

 ありもしない竜宮城に向かっているのはメイプルとユイが原因なのだ。

 フィールドで偶然出くわしたヨメカワイイに対し、一緒に行きませんか、と周りのおよそ全てが敵である戦争イベントでまさかのお誘い。

 裏があるのではと警戒したが、勝負事にシビアなサリーならまだしも、この天真爛漫アホ毛娘は策略を張り巡らせるには向かないと思い直した。戦うと決めたなら素直にそう告げるタイプだ。

 なので、都合が悪くなるまでは同行すると決めた。

 さて、先ほどから静かなメイプルが何をしているのかと言えば。

 

「ひーんっ」

 

 泣く子も黙る鉄壁要塞少女は、大量に届くメッセージに叱られて半泣きになっていた。

 送り主はサリー他、ギルドメンバー達。

 青いパネルに指を走らせて謝罪を返し続けるが、アホ毛もへんにゃり垂れて元気がない。

 

「メイプルさん、まだサリーさん達に怒られてるんでしょうか」

「フレンド登録してるからって、味方でもない奴と一緒にいたらそりゃ怒るだろ。知らない人間についていかないのは当たり前だが、知ってる人間についていくのだって最近は危ないんだぞ?」

「ついていってるんじゃないよ!」

 

 異議ありとばかりにメイプルが振り返り、言う。

 

「私達の後ろを、カワイさんについてきてもらってるんだよ! ふんすっ!」

「その言い方だと完全に俺が不審者だよな?」

 

 そんな『一本取った!』みたいな顔をされても。

 追跡者(トレーサー)ならともかく、つきまとう者(ストーカー)扱いはヨメカワイイも遠慮したい。

 

「それで、皆からのお小言は終わったのか?」

「えへへ……絶対に油断しないようにって言われちゃいました……」

「だから俺に教えちゃ駄目だろっての」

 

 まるで緊張感のない会話。

 しかしいざ戦闘になれば、あらゆる攻撃も防御も意味を成さず、逃亡さえも許さない凶悪無比な少女三人組(と保護者役の怪人一名)へと変貌するのだから、『楓の木』の脅威を身をもって知るプレイヤー達から人外魔境と恐れられるのも無理らしからぬ事だった。

 

「メイプルさん、次のギルドが見えました!」

「よーし! サリーの分までどんどん頑張ろー!」

「「おー!」」

「ほら、カワイさんも頑張ろー!」

「……おー」

 

 意気揚々と声を張り上げるメイプルと双子。

 裏腹に、ヨメカワイイは気乗りしない表情をペストマスクで隠している。

 さもありなん、三匹の小怪獣が標的と見定めて進む先にあるのは――『炎帝ノ国』なのだから。

 都合が悪くなるまでと言うなら、今まさに都合が悪い状況だ。

 嫁がいるなら顔でも見せたいが、さて、どうしよう。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「来ちゃったかぁ……来ちゃったよぉ……」

 

 空飛ぶ亀の接近報告を受け、マルクスが目深に被ったフードの奥で泣き言を漏らす。

 第一回イベントのランキングではクロムよりも上の第八位。

 変幻自在の罠魔法を駆使する事から『トラッパー』の二つ名を持つ彼は、天性の才能とも言える罠設置能力とは不釣り合いなほどに、自身に対してネガティブな思考が目立つ。

 罠は事前に設置しなければ意味がないため、直接の戦闘に自信が持てないのも分かる――しかしミィがオフェンスに出て不在の中、これまでの襲撃者をさしたる被害もなく返り討ちにできたのは紛れもなくマルクスの功績であり、防衛の要なのはメンバーの誰もが認めているところだ。

 

「ほらマルクス、しっかりしてください。ミィとシンの留守中は私達が頑張らないと」

 

 とある先輩から痴女扱いされているものの、ミザリーとてリアルでは現役体育教師。

 前時代的な熱血でもなければ、どちらかと言えば得意なのは保健の実践の方だけれども、自分を過小評価している人間を見過ごせないのは一種の職業病に近い。

 何より、今からあのメイプルと戦わなければならないのに、幹部がこれでは士気が下がる。

 

「……ミィは何だって?」

 

 報告が上がった時点でミィにはメッセージを送っている。

 

「すぐに戻るそうです。なので私達の役目は――」

「――時間稼ぎかぁ」

 

 別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう、と言いたいところだが、無理なものは無理。

 メイプルが一躍有名になって以来、半ば常識と化した貫通スキルと【毒耐性】持ちのメンバーを背後に大勢引き連れて、ミザリーとマルクスはだんだんと大きくなる巨影を待ち構える。

 ウミガメならまだしも、明らかなリクガメ体型なのにどうして飛べるのか。

 そんな疑問はさておき、とにかくマルクス謹製の罠に嵌まってもらうため、まずは撃墜しようと弓と魔法を準備させたのだが――敵にも遠距離戦に強いプレイヤーがいるのか、こちらの射程圏に入る寸前で、巨大亀が忽然と姿を消した。

 地面に降り立つ二つの、いや、四つの人影。

 

「……マジかよ」

 

 後ろで誰かが言った。

 メイプルが相手なのは覚悟していた。

 髪を金色に染め、天使の翼を生やし、おぞましい化け物まで両脇に従えているが、この際それは甘んじて受け入れよう。

 問題なのは、

 

(なぁんで一緒にいるのよぉ、先輩ぃぃ)

 

 鋼鉄のペストマスクに長身アフロとレザーファッション。

 他人と見間違うはずもない。

 

「嘘だろ、どうしてカワイさんまで……」

「『楓の木』と手を組んだのか!?」

 

 その強さを知るメンバー達の間に動揺が走る。

 しかしミザリー個人としては、それよりもっと注目しなければならない点があった。

 落下時に庇ったのか、右腕に白髪の少女、左腕に黒髪の少女をそれぞれ抱きかかえているのだ。

 メイプルよりも年が若く、一目で双子と分かる程度に瓜二つ。黒髪の方はともかく、白髪の方は彼を『師匠』などと呼んであからさまに嬉しそうだぞ。

 

(……ふぅん? ふぅぅぅぅんんっ??)

 

 聖女の仮面の下で、嫉妬の炎がめらめらと。

 なるほど、なるほど。

 まだ半信半疑だがお嫁さんもかなり年下らしいし? 実はロリコンだったかあの野郎めが。

 

「……マルクス。彼は私が引き受けましょう」

「えぇ……? 大丈夫なの?」

「どういう経緯や思惑があってメイプルに同行しているのか分かりませんが、このままあの四人に連携を取られるくらいなら、あちらの戦力を一人でも分断すべきです」

 

 どちらかと言えば、先輩もやる気がなさそうに見える。

 とすれば、メイプルと双子の三人の動きさえどうにかして封じ込めばいい。

 

「そうだね……ミィが間に合えば僕らの勝ちだもんね……」

「足止めは任せましたよ」

「うん……十分は頑張ってみるよ。そっちも気を付けて」

 

 自分には劣るが回復に長けたメンバー達にマルクスの援護を指示し、じっとヨメカワイイだけを見つめながら、ミザリーは一人隊列を離れた。

 こちらの意図を汲んでくれたらしい彼もまた、双子を下ろして単独行動に出る。

 

(私をあぁんなに好き放題したくせにぃ……そんなに若いのがいいのかコラァ!)

 

 色々と、そりゃもう色々と言いたい事はひとまず喉奥に押し留めて、彼がメイプル達のところへ戻ったりしないよう、フレンドリストから挑発のメッセージを飛ばす。

 意外に子どもっぽい部分がある先輩が、しばらく自分だけを相手にしてくれるであろう一言を。

 

『やーい、このロリコンおっぱい怪人 m9(^Д^)プギャー』

 

 即座に矢が飛んできた。




おかげさまで日間ランキングに入り、評価が赤色になりました。
読んでくださっている皆様に感謝を。
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