VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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ミィの二面性は書いてて面白いですねー。ちょっとポンコツにするとさらに。


044.二日目:昼 炎帝、頑張る

 メイプル襲来。

 最悪極まりない知らせを受けたミィは、すぐさま方々に散らばる各部隊に一時撤退と拠点防衛を指示し、【フレアアクセル】を発動させてフィールドを疾駆していた。

 木々の間をすり抜け、川を飛び越え、大岩を砕く。

 よりにもよって、とは思わない。

 偵察部隊の尽力によって拠点の所在地こそ把握していたものの、幹部メンバーの戦闘スタイルとリスクの高さから『炎帝ノ国』は『楓の木』に攻め込むつもりなどなかった。

 だが、メイプルがオーブの前で不動を貫くとは考えられず、万一に備えて迎撃に参加する人員や陣形など段取りは決めておいたのだ。

 今回はそれが活かされた形になった。

 

(ああもう、どうして来ちゃうのぉ……?)

 

 台風への備えが万全だからと言って、家に台風が直撃して喜ぶ人間などいるだろうか。

 できるなら最終日まで拠点で冬眠しててほしかった、とミィは焦燥と共に帰路を急ぐ。

 湧き上がるのは不安ばかり。

 これまで直接対峙した事がなく、映像と伝聞でしかメイプルの強度を知らない。

 レベルもスキルもメンバーも、ミィが目を通した情報など当てにできないほど強化されていると推測すべきであり、満を持して腰を上げたという事はつまり、ミィがいたとしても『炎帝ノ国』に勝てると踏んだからだと判断する。

 

(嫌だよぉ、怖いよぉ、行きたくなーいー!)

 

 夫に布団ごと縛られて歯医者に連行された時のように駄々をこねるも、ミィが間に合わなければオーブは奪われ、ミザリーもマルクスも、大勢のメンバーがデスペナルティを受けてしまう。

 イベント終了まで残り三日以上。

 半分も過ぎていないのに流石と言うか、一日一日が色々と濃過ぎる。

 初日はオーブをゲットしたと思ったら得体の知れないローブのプレイヤーに横取りされ、今日は今日とて魔王の抜き打ち家庭訪問。

 

(ふえーんっ!!)

 

 泣きたい。と言うかもう泣いている。

 こちらの攻撃は一切通用せず、なのに敵は一撃必殺の大技をぶちかましてくる――まるでRPGでありがちな負けイベントではないか。

 それでも行かねば。

 何故なら自分はギルドマスターだから。

 

「すんどぅぶ!?」

 

 見落とした木の根に足を取られ、びたんっ、と顔面から盛大にすっ転ぶ。

 ああ、せっかくシリアスに決めようとしたのにこの始末。

 

「……(いら)ぁいぃぃ」

 

 ゴア表現は抑えてあるため出血こそないが、いよいよもってみっともない。

 やはり自分にはリーダーなど向いていないのだ。

 

(誰かもう代わってぇぇ……)

 

 ぶつけて真っ赤になった鼻をすんすん鳴らす。ついでに両足もじたばたじたばた。

 許されるのなら、もう何もかも投げ出してダンゴムシになりたい。丸まって、そのまま旦那様にごろごろと遊ばれて幸せを貪りたい。

 けれど拠点でミィを待ち望む仲間達がいる以上、彼らの期待を裏切るのも罪悪感が辛い。

 顔に土を付けながら仕方なく身体を起こした、その時。

 

「――旦那様の匂い!」

 

 思わず口走る。

 言わずもがな、運営が用意した環境や飲食物ならともかく、いくら何でも個人の体臭まで忠実に再現できるほどVR技術は発達していない――だが、かれこれ二十四時間以上も生命維持に必要な快楽物質的旦那様成分、通称ダンナスキー粒子を摂取できていない今のミィにとって、重要なのはこの近辺に愛する夫がいる(らしい)という事実のみ。

 警察犬でもあるまいし、草木と大地、そこかしこで昇る戦いの煙に撹拌された空気の中で人間の匂いを識別するなどまず不可能なのに。

 仕事から帰宅した旦那様のシャツをくんかくんかと満喫、もとい、他の女の気配がないか調べる習慣があるミィだからこその幻聴ならぬ幻嗅。

 

(どこドコ何処どこ!? 旦那様どこ!? こっち!?)

 

 髪色と同じ犬耳が生え、尻尾は空を飛べるのではと思えるほど回転し、飼い主と再会を果たした忠犬ハチ公でもこうはならない興奮具合のまま、嗅覚だけを頼りに突き進む。

 犬獣人に転職したミィの進路は、当然ながら拠点へと戻る道。

 幸か不幸か、ヨメカワイイがメイプルと共に『炎帝ノ国』に現れた事が、動機はともあれミィにやる気を起こさせる切っ掛けとなったのは間違いない。

 あとはもう一目散。

 

「おいあれ!」

「げぇっ、『炎帝』!?」

「こっちに来るぞ! 構えろ!」

「……邪魔をするなぁっ!!」

 

 偶然出会った不運な敵プレイヤーを【噴火】で一蹴し、新たな燃料を得て炎の矢と化したミィはついに拠点へと舞い戻った。

 

「キャー!」

 

 そこで見たのは、旦那様が放つ矢に追われるミザリーの姿。

 うーむ、まるでアスリートのような見事なランニングフォーム……じゃなくて。

 爆発したり燃え上がったりマグマを噴いたり斬り裂いたり、千変万化の矢の暴風雨から逃げ惑う我らが『聖女』――その天然素材がぎっしり詰まった全プレイヤーの中でも屈指の双丘も、動きに合わせて上下左右に暴れ回る。

 まだ大きな手で育成途中な自分のものと比べて破壊力抜群の、男を狂わす魔性と母性の塊。

 普段ならば、旦那様が毎週買っている青年誌のグラビアページさえ見られる前に破り捨てるほど嫉妬深いミィだが、今の彼女はさしずめ愛の肉食獣。

 縦横無尽なおっぱいよりも、とにもかくにもマイダーリンである。

 

(うわーん旦那様旦那様旦那様あああっ!!)

 

 加速の勢いそのままに、夫の左脇腹にバーニング低空タックル。

 

「ごっふっ!?」

 

 再会に泣く嫁型砲弾を受けて引き締まった長身が『 )』の形に歪み、鋼鉄ペストマスクからは苦悶の機械音声が吹き出す。

 

「ミィ様……? ミィ様だ!」

「ミィ様がカワイさんに突撃してミザリーさんを助けたぞ!!」

 

 少々バイオレンスな夫婦のスキンシップは、他者の目には違う風に映ったらしい。

 敗色濃厚で表情が冴えなかったメンバー達の活力が一気に蘇る。

 

「俺達も戦うぞ! 半数はミィ様とミザリーさんを、残りはマルクスさんを援護!! メイプルが何だってんだ!! ミィ様に情けない姿を見せるな!!」

「「「おおおおおっ!!」」」

 

 名前を連呼され、ようやく冷静さを取り戻すミィ。

 もう少しダンナスキー粒子を摂取したいが――そうだ、メイプルを忘れてた。あれ、でもなんで旦那様までここにいるの?

 

「ミィ! 早くこちらへ!」

「……あ、ああ」

 

 ミザリーに促され、後ろ髪を引かれる思いで彼女の隣まで移動する。

 旦那様も本気で当てるつもりはなかったようで、自分の代わりに奮闘していた金髪のお姉さんにダメージらしいダメージは見受けられない。

 強いて言えばハァフゥと呼吸が荒く、頬はほんのり朱に染まり、肌も何故だかツヤツヤしていて妙に大人の色気を感じる。

 ずっと走り回っていたせいだろう――よもや『聖女』ともあろう女性が、旦那様に撃たれ続けるアブノーマルな喜びで興奮したという訳ではあるまい。

 

「どうして旦……カワイがいる?」

 

 ミザリーに問う。

 

「メッセージを読んでないんですか?」

「……メイプルに襲われていると知って飛んできたからな」

 

 嘘です。どうせ悪い報告ばかりだと思って怖くて読めなかっただけです。ごめんなさい。

 しかし結果的に、それが『炎帝ノ国』には良い方向に働いた。

 メイプルだけでも挫けそうで半分投げ出していたのに、旦那様まで拠点を襲っているなどというメッセージをもし開封していたら、仰向けにされた亀よろしく、先ほどの両足じたばた状態のまま何時までも起き上がれずにいたに違いない。夫に会いたい一心でやはり犬化した可能性もあるが。

 

「改めて、戦況を聞かせてくれ」

「あんまりよろしくはないですね。メイプルが大槌使いの女の子を二人、そして彼を連れてここへ現れました。私が一人で彼の相手を引き受けて、マルクスと他のメンバーがメイプル達をどうにか食い止めてくれています」

「なるほど。のんびりはしていられないな」

 

 鉄管弓を杖代わりに、長身がゆっくりと立ち上がる。

 

「ならばカワイには悪いが、さっさと終わらせるとしよう! 【爆炎】!!」

 

 ミィが覚えているスキルの中で威力が比較的低く、それでいながら着弾時のエフェクトが派手に見える【爆炎】を、ミザリー達に気付かれないよう微調整して旦那様の足元ギリギリに放つ。

 第一回イベントでの初戦闘、ヨメカワイイの正体を知らずにいたあの時とは状況が異なる。

 大事な人とギルドの両方を取るには、この方法しか咄嗟に思い浮かばなかった。

 

「皆さん、ミィに続いてください! 【ホーリージャベリン】!」

「ふぇっ!? ちょっ!?」

 

 号令に従って【爆炎】の着弾地点に魔法が殺到し、さらなる爆発を引き起こす。

 

(あわわわっ、旦那様ごめんなさぁい!!)

 

 自分が炎と黒煙の目くらましを発生させて皆の視界を一時的に遮り、その隙に旦那様にどうにか離脱してもらうつもりの【爆炎】だったのだが、ここでミザリーがまさかの追撃指示。

 ギルドの事を考えての正しい判断だとしても、ミィは心の中でムンクの叫び。

 煙幕が晴れた時、幸いにも愛する夫の姿はなかった。

 独占しているというオーブも地面に散らばっておらず、死に戻っていないのは明らか。

 

「……逃がしたか」

「その、ようですね」

 

 二重の意味で、ほっと安堵の息を吐く。

 

(あはぁぁん、これ心臓に悪いよぉ……!)

 

 肉親相手にナイフ投げのマジックをしている気分だ――いや、そっちの方が精神的に楽か。

 きっとナイフが手からすっぽ抜けて、的とは逆の方向に飛んでいくだろうから。

 スライムのようにドロドロに溶けたくなるのを堪え、ギルドマスターの顔でミザリーを見る。

 

「彼は、本気だったと思うか?」

「それはないかと。本当にそのつもりなら、今頃私は死に戻ってオーブも奪われた後ですよ」

「だろうな。我々の名は彼の掲示板絡みの襲撃リストにはないはずだ」

「その辺は全員に釘を刺しておきましたからね。情報戦も結構ですが、不用意な書き込みのせいであの『怪人』に焼き尽くされるなんて笑い話にもなりませんし」

「だとすると、ここに来た理由はメイプルへの義理立てか」

 

 旦那様はメイプルとフレンド登録している。

 ログインして最初に知り合ったのがメイプルだったそうだ。

 人見知りの激しい自分など、【炎帝】を使えるようになって注目されるまでずっとソロで狩りを続けていたのに、初日に他の女の子と友達になるだなんて。

 若くて美人で聡明で完璧な自慢の奥さんへの配慮がほんの少しばかり足りないんじゃないかなとプンスカするものの、そもそもこのゲームを勧めたのはミィなので自業自得でもあった。

 

「カワイにメイプルと敵対する意思はなく、かと言って、我々の拠点への襲撃を制止できるだけの理由もない。私も彼とはフレンドになってはいるが、別にメイプルのフレンドではないからな」

 

 あえてミザリーの一対一の誘いに乗り、適当にあしらって時間を潰す。

 要するに、何もしない。

 それが旦那様が選んだ最善策。

 

「ともかくこれでメイプルとの戦いに専念できる!」

「マルクスが危険です、急ぎましょう!」

 

 再編成した部隊を引き連れ、魔王相手に奮闘しているであろう同志の元に向かう。

 さほど離れてない場所で、黒白のフードを被る仲間が地面に片膝をついているのが見えた。

 

「マルクス!」

「ミィ……ちょっと遅いよぉ……」

「すまない! 皆よく耐えてくれた!」

 

 謝罪と労いの言葉を投げ、彼らを背に庇うように真紅のマントを翻してメイプルと対峙する。

 黒き鎧の魔王には、天使の光輪と純白の翼があった。

 二匹の化け物を使役する彼女を中心に光り輝く円形の領域が展開され、ミザリーから聞いていた大槌使いの少女二人もその中にいる。

 

「メイプルの見た目もそうだが、大槌の二刀流とはな。『楓の木』のデタラメ具合には恐れ入る」

「用心した方がいいよ……あの子達のおかげでメイプル用の罠も一発で破壊されちゃうから……」

「足の遅さから考えて、STRに極振りしたプレイヤーでしょうね」

「最強の盾と最強の矛、と言う訳か。相手にとって不足なしだな」

 

 メイプルが前進すれば防御結界も前進する。双子も後に続く。

 あの凶悪な双子が範囲内から頑なに外に出ようとしないのは、破壊力が強力な反面、HPもVITも並のプレイヤー以下だからだ、とマルクスはこれまでの戦闘から自身の見解を述べる。

 

「それと、足元で光ってるあれ……攻撃無効じゃなくてダメージの肩代わりみたい。白い髪の子が罠を踏んだ時も、ノックバック効果とかメイプルに適応されてたみたいだし」

「その情報だけでも値千金だな」

 

 決して無敵の存在ではないと分かっただけでもありがたい。

 つまり、メイプルをどうにか移動させて防御結界の位置をずらせば双子への攻撃は通る。そして双子さえ拠点に叩き返せば、マルクスの罠でメイプルの動きも止まる。

 

「……方針は決まったな」

 

 ミィはメイプルから視線を外し、後ろに居並ぶプレイヤー達に向き直ると、こう言った。

 

「この場は私とミザリー、マルクスで対処する! 他の者は拠点を一時放棄! 戦いが終わるまで身を隠し、生き残る事にのみ注力せよ!!」

「そんな、ミィ様!?」

「俺達だって戦います!」

 

 団員達は受け入れるはずもなく、手に手に武器を構え残留の意志を示す。

 対してミィは首を横に振り、諭すように続ける。

 

「仮に諸君と共に戦い、多大な犠牲を払ってメイプルを撃退できたとしよう。だが、その見返りに我々は何を得る? メイプルが持つオーブか? 強大な敵を屠ったという達成感か? 積み上がる同胞の屍に背を向けて私にそれを喜べと言うのか!?」

 

 一度の死が即リタイアに繋がり、なおかつ『炎帝ノ国』と『楓の木』の戦闘の勝敗次第で全てが決まると言うのなら、ここでメイプルを排除するのも戦略の一つかも知れない。今回のイベントが多数のギルドが入り乱れる大戦でさえなければ。

 しかも、どうにか倒せたところで、メイプルも自分達と同じ数だけ拠点で復活する。

 VIT極振りであるが故に一回目のデスペナルティ――たかが常時ステータス5%減少の制約など痛くも痒くもないだろう。

 

「私達三人の命とオーブだけで彼女が満足すると言うのなら、いっそくれてやろうではないか」

「しかし……!」

 

 今後『楓の木』以外のギルドとも戦う未来を思えば、貴重な回復アイテムを浪費し、メンバーを無駄に死亡させてギルド全体が弱体化する事だけは避けなければならない。

 

(って言うか無理! 死んでもオーブ守れとか命令するの無理ぃ!)

 

 そんな指令ならぬ死令を下すくらいなら、自分も含めた幹部級だけで戦うだけ戦って、さっさとメイプルにオーブを持って帰ってもらう方がよっぽど心に優しい。

 どうせ三時間経てばオーブは定位置に戻るし、減らされるポイントも今まで稼いだ分から見れば微々たるものだ。

 

「一時の激情に駆られて大義を忘れるな! 我々の目指す夢、それは誇り高き『炎帝ノ国』の名をこの世界の頂に冠する事である!!」

 

 誰かが録画してませんようにと心から祈るミィ。

 もう完全に勢い任せで、自分でも何を口走っているのか分からなくなってきた。悪戯を叱られる子供が口八丁で乗り切ろうとしているのに近い。

 

「民なき国に意味などない! だから生き延びろ! 私と共に勝利を掴むその日まで!!」

 

 言葉のレパートリーが尽きたので誤魔化すようにメンバーに背を向け、恐る恐る反応を窺う。

 一人、また一人と装備を鳴らして隊列を離れる気配。

 やがてそれは大勢の足音に変わり、一分と経たず背後はしんと静まり返った。

 残されたのはミィと、苦笑を浮かべるミザリーとマルクスだけ。

 

「二人には、貧乏くじを引かせてしまったな」

「まだ負けると決まってませんよ。勝てばいいのです、勝てば」

「正直すっごく逃げたいけどさ……僕らがやらなきゃ誰がやるって事で……」

「……そうだな。これ以上ない大物、全力で当たらねば礼を失する」

 

 二人の頼もしい言葉にミィは力強く頷き、杖の先端をメイプルに向ける。

 

「待たせてしまって申し訳ない! 奇しくも三対三だ、いざ尋常に勝負といこうではないか!!」

 

 メイプルも大盾と短刀を構え、応じる。

 

「どうぞ何処からでも! マイ、ユイ、いくよ!」

「「はい、メイプルさん!」」

 

 六つの影が、同時に動いた。

 

(どうかお手柔らかにぃぃぃっっ!!)

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 はい、負けました。そりゃあもうズタボロのコテンパンに。

 

「ずるいってぇ! あんなんずるいってばぁ!」

 

 高いノックバック性能の【爆炎】と、ミザリーの貫通効果がある【光魔法】、メイプルの手足を束縛するマルクスの罠。

 三人のコンビネーション自体は上手くいっていたと思う。

 現にメイプルは防御結界で双子を守るのが難しいと判断したのか、彼女達を呼び出した巨大亀に乗せて上空高くに避難させた。

 ならば、と効果の薄い直接攻撃から切り替え、隠していた奥の手、一日一回限定の【火炎牢】でじわじわと継続ダメージを与え続けたのだが――どうやらそれが禁断のスイッチを押したらしい。

 現れたのは、剣と魔法のファンタジーどころか近未来SFから迷い込んだような重火器の塊。

 

「確かに天使みたいな翼は綺麗だったし羨ましかったけど! 普通に銃弾とかレーザービームとかじゃんじゃか撃って、もうほとんどロボットだよね!? 世界観壊さないでよもう!」

 

 ではサイボーグになって攻撃の時に腕や足が変形するお宅の亭主は世界観を壊していないのかと問われると、うん、それはそれ、これはこれ。メカっぽい旦那様も超素敵。

 今重要なのは、メイプルがどれだけ滅茶苦茶であるかという事だ。

 ミザリーもマルクスもやられ、ミィもMPが尽きた。

 あの重武装は防御力を攻撃力に転換した苦肉の策だと思い、道連れ用の【自壊】まで使った。

 なのに、それなのに。

 

「ピンピンしてるってどーゆーコトだよぉ!?」

 

 拠点近くで生き返り、ふと見上げた空。

 双子と一緒に亀を乗り回すメイプルを見た時は、開いた口が塞がらなかった。

 

「うううぅううぅううぅぅ~っ!」

 

 オーブを奪われた悔しさも相まって、地面をぽかぽかと殴る。

 しかし、何時までもこのままではいられない。

 この素の自分を誰かに見られる前に、カリスマに満ちた仮面を被り直さなければ。

 

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……」

 

 深呼吸して気を落ち着かせ、軽く両頬を叩く。

 私はミィ。私はギルドマスター。私は熱くてクールな女。旦那様超大好き。

 

「ぃよし!」

「――おい」

「わひゃあっ!?」

 

 不意打ちとは卑怯なり!!

 慌てて振り返ると旦那様が立っていた――って旦那様!?

 

「おおお驚かせるな! 口から口が飛び出るかと思ったぞ!」

「それを言うなら心臓だろうが。エイリアンかお前は」

「あ……ぅうるさい! ちょっと言い間違えただけではないか! それで一体何の用だ! 先刻の報復にでも来たか!?」

「そこまで陰湿じゃねぇよ。忘れ物を届けてやろうと思っただけだ」

「忘れ物だと?」

 

 訝しげなミィに旦那様が投げて寄越したのは、紛れもなく『炎帝ノ国』のオーブ。

 メイプル襲撃の直前まで自分達が保有していた他のギルドのオーブもある。

 

「…………は? え?」

「確かに渡したからな。もう置き忘れんなよ」

 

 呆気に取られるミィを残し、ぷらぷらと右手を振って旦那様は立ち去った。

 大量の疑問符で頭がいっぱい。余剰分が耳から噴き出して両目まで『?』になりそうだ。

 メイプルの手元にあるとばかり思っていた自軍オーブが、何故かミィの手の中にある――これは旦那様が『炎帝ノ国』の、引いては自分の味方をしてくれたと考えて良いのだろうか。

 良いのだろう。良いに違いない。

 

「…………ぅへ」

 

 どうしよう。

 さっきまで心境は大嵐だったのに、今はまるで春の花畑だ。

 オーブを両手で大事に包みながら、俯けた顔を無邪気な笑みで満たす。

 

「ぅへへへへへぇ……♪」

「ミィ!」

「わひゃあっ!?」

 

 今度はちゃんと心臓が飛び出した。




シン? いえ、知らない子ですね。
次回のゲストはイケメンとマッチョと金髪お嬢さんです。
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