VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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デュエルスタンバイ。


045.二日目:夕 怪人、死す

「【パワーアックス】!!」

「げはっ!?」

 

 両刃の大斧が唸りを上げ、周りの空気を巻き込みながらプレイヤーの身体を上下に両断する。

 

「うーしっ、一丁上がりだ」 

 

 最後の一人が光の粒子となって死に戻るのを見届けて、斧使いの男――『集う聖剣』のドラグは一仕事終えたとばかりに得物を肩に担いだ。

 武器をツルハシに、鎧を作業着に置き換えても違和感のない、見るからにガテン系な風貌。

 その恵まれた体躯にはまだまだ力があり余っているのか、戦いの直後でも息一つ切れていない。

 

「あーあー……ったく、張り合いがねぇ。また楽しむ前に終わっちまった」

「なぁに言ってんのさ馬鹿ドラグ。私のサポートがあるから好き勝手に暴れられるんでしょうが」

 

 幹部の紅一点、金髪をサイドテールにしたフレデリカが呆れたように言う。

 岩に腰掛けて可愛らしく頬杖を突く少女は、半目でじっとりとドラグを睨む。

 

「そーれーにー、猪みたいに突っ込むなって何度も言ってんでしょー? うっかり当てないようにタイミング計るの結構面倒なんだかんねー?」

「わーったわーった、次から気ぃ付けるって」

「その台詞は聞き飽きましたぁー」

 

 口を尖らせてぶーぶーと不満を垂れるフレデリカと、頭を掻いて謝罪するドラグ。

 そんな二人を羨望と尊敬と少しばかりの嫉妬混じりの目で見つめるギルドメンバー達。

 

「にしても、襲撃の回数もかなり減ってきたな。いよいよ暇になってきたぜ」

「みぃーんな私達で返り討ちにしちゃってるからにぇ。無茶してデス数増やすより、別のギルドを狙った方がいいって考えたんじゃないの?」

 

 ドラグの言う通り、攻め込まれる頻度自体は減少傾向にある。

 それ自体はランキング上位で強豪と目されるどのギルドにも当てはまる事だが、『炎帝ノ国』がメイプルに狙われた具体例からも分かるように、回数が減ったという事はつまり、襲ってくるのは玉砕覚悟の無謀者か、『集う聖剣』の戦力を知りながらあえて挑む百戦錬磨の実力者ばかりになる現実を意味していた。

 

「ペインも明日にでも幹部全員で攻め込むつもりだとか言ってたし、それまでは我慢か。頼まれた仕事はきっちりこなさねぇとな」

「どんなのが相手でも、ペイン一人で十分な気がするんだけどねー」

 

 今回侵攻してきた三十人は、ドラグにとって残念な事に前者だった。

 初日には六十人以上の大所帯が押し寄せた時もあったので、その半数では少ないように思える。

 けれど、普通のプレイヤーがそれだけの人数を同時に相手取るのは不可能に近い。

 その不可能をドラグとフレデリカは部隊の手も借りずに容易くやってのけてみせる。

 適材適所――ギルドマスターのペインから防衛を一手に任された二人は、魔法で刺し、力で殺す見事なコンビネーションを発揮して今日までオーブを守り抜いてきたのだ。

 

「にしても、ドレッドが死に戻った時は驚いたぜ。お前も危うく死にかけたんだっけか?」

「うぐ…………蒸し返す? その話蒸し返しちゃう!?」

 

 フレデリカは辛酸を舐めさせられた記憶が蘇ったのか、苦々しい表情になる。

 サリーをあと一歩のところまで追い詰めたのに、突然の閃光で混乱した隙にメイプルの助太刀を許してしまい、同行させた部隊のほとんどを毒と砲撃の犠牲にして。

 さらにはメイプル不在の『楓の木』急襲を託して送ったメッセージ――あの時は最良の判断だと思ったそれが、直接的ではないにしろドレッド敗北の原因となってしまった。

 ドレッドを倒したのはメイプルだが、数体のゴブリンナイトと宙を泳ぐ魚群に邪魔されなければ彼は門前払いを食らわず、『楓の木』のオーブを持ち帰る事もできたはずだ。

 閃光弾もゴブリンも、誰が放ったのかは話し合うまでもなく結論が出た。

 あのペインをして厄介と言わしめる、メイプルと同列のアフロ怪人。

 

「うー……思い出したら腹立ってきた! ドラグ、【多重炎弾】撃つからちょっと的になって!」

「なる訳ねぇだろ!?」

 

 まあ、的になれ云々は冗談だとしても。

 ドレッドの死亡の一件で、ヨメカワイイの危険性を再確認させられたのは事実。

 加えて、『集う聖剣』には怪人と戦わなければならない理由が、トップクラスのギルドだろうとお構いなしに狙われてしまう動機がある。

 

「例の書き込み……そんなんで本当に奴が来ると思うか?」

「心配性のリーダーはそう確信してるみたいだけど? 現にあちこちで暴れてるみたいだし」

 

 ペインほどのプレイヤーが事前に情報を集めていないはずがなく、これまで怪人の獲物となったギルドの共通点もその慧眼で早々に看破していた。

 同時にギルドメンバーの書き込みが数件あった事も彼の口から明かされたが、無用な仲間割れや混乱を防ぐため、それを知るのは幹部クラスの限られたプレイヤーだけだ。

 ドラグにしてもフレデリカにしても犯人捜しや責任追及など性に合わず、怪人が来たなら来たで倒してしまえば何も問題ないのだと単純簡潔に考える。

 

「――敵襲! 敵襲!」

 

 そんな二人に、監視部隊から新たな敵出現の報告が入った。

 

「おっと、今日は千客万来だな」

「いっそがしいなぁー。今度はどんな人達ー?」

 

 期待に目を輝かせて獰猛に笑うドラグと、億劫そうに腰を上げるフレデリカ。

 強者にのみ許された慢心とも言える自然体の振る舞い。

 しかしその余裕も、次の瞬間には綺麗に消え去る事になる。

 

「ご……ゴブリン、ゴブリンの大群です! 二百、いや三百はいる! きっとカワイだ畜生!」

 

 二人は顔を見合わせた。

 そしてすぐさま最前線に走ると、報告通り、平地の先から土煙を上げて迫るモンスターの軍勢が確認できた――地面を舐めるように進む光景は、さながら水面を波立たせて這い寄る緑の沼か。

 

「噂をすりゃあ影だな」

「そだね。はいはい落ち着いてー。群れにホブやシャーマン、チャンピオンはいるー?」

「えっ……あ! いや、いません! ただのゴブリンだけです!」

 

 魔法で強化するでも上位種を混成するでもなく、最下級で揃えて闇雲に進軍させている。

 向こうも物量だけで押し切れるなどと思ってはいないだろう。とするなら、ああも悪目立ちする小鬼の大群を真正面から使い捨てにする意味とは。

 

「ペインの想定通りってとこか。おうお前ら、ありゃただの囮だ! カワイを見つけろ!」

「けど、あの中にいるようには……!」

(した)じゃねぇ、(うえ)だ! あの野郎は飛べるって知ってんだろが!」

 

 そう叫ぶドラグを、頭上から落ちる影が包んだ。

 はっ、と上に向けた瞳に映り込む鉄パイプの振り下ろし。

 

「うぉっ!?」

「ドラグ!?」

 

 甲高い金属音。

 咄嗟に掲げた大斧で防ぎ、ドラグはコートの裾をはためかせる侵入者を歯を食い縛って睨む。

 スチールウール製の鳥の巣のような髪型をした怪人もまた、ペストマスクのレンズに鈍い赤光を湛えながら、完全に虚を突いたはずの一撃を受け止めた斧使いを見つめ返していた。

 機械仕掛けの両眼が、カメラの絞りのように鋭く細まる。

 

「オ――ォオラァ!」

 

 STRで勝るドラグが徐々に押し返し、大斧と鉄管弓、二つの長躯が鍔迫り合いとなる。

 

「テメェ……人様のギルドに殴り込んどいて挨拶もなしかコラ!」

「おや、ちゃんと殴打(ノック)したつもりだが?」

 

 慌てふためいたのは他のメンバー達だ。

 

「ドラグさん、俺達も加勢します!!」

「馬鹿、こっち来んじゃねぇ!!」

 

 駆け寄ろうとした仲間を、ドラグは大声で押し留める。

 この怪人相手に多人数で挑んではいけない。

 戦う人数を増やせばその分だけ的も増える事になり、他人に【ヒール】や回復アイテムを使って自身のHPとMPを増大させる化け物を助長する結果になってしまう。

 とにかく少数精鋭で、取り返しがつかなくなる前に体力を削り切らなければ。

 

「こいつは俺とフレデリカだけでやる! お前らはとにかくゴブリン共を片付けろ!」

 

 そうしている間に岩場に囲まれた拠点までゴブリンの沼が到達し、あちこちで戦闘が始まった。

 AGIが高い者は大半が偵察と攻撃部隊に割り振られて不在だが、その反面、この拠点は耐久力や回復スキルに長けた人員で防衛網が構築されている。数の上では劣っても、今さらゴブリン相手に苦戦するプレイヤーは『集う聖剣』にはいない。

 そう、ゴブリンが相手であれば。

 この場で最も命の危機に瀕しているのは、他ならぬドラグとフレデリカなのだ。

 

「【バーンアックス】!」

 

 炎を纏わせた大斧を振るう。

 対して、鏡写しの軌道で鉄管弓が迎え撃つ。

 パワーファイターの補正付きの一撃と、スキルに頼らない弓使いのフルスイング――威力の差は歴然であり、ドラグの持つ【ノックバック付与】の効果で怪人は派手に弾き飛ばされる。

 それでも片手で軽やかに受け身を取り、すぐに体勢を立て直したのは流石と言ったところか。

 

「【インフェルノオーラ】」

 

 怪人の胸部が左右に開き、青く輝くコアから超高温エネルギーのドームが広がる。

 

「【多重水壁】!」

 

 的確、そして迅速なフレデリカの援護。

 周囲の景色を歪曲させる熱波と無数に張り巡らせた水流の障壁が衝突し、焼き尽くされる寸前のドラグがフレデリカの隣まで後退できるだけの時間をどうにか稼ぐ。言い換えれば、ドラグでさえ素直に距離を取るしかないほど間一髪の状況だった。

 

「わりぃ、助かった!」

「お礼は後で! 【多重水弾】!」

「【鉄蝗団(アバドン)】」

 

 牽制のために水弾を放つも、鋼鉄の肉体を持つ弾丸蝗(バレットホッパー)で瞬く間に食い荒らされる。

 先立って敵情視察時に戦ったドレッドから話は聞いていたが、腕が機関銃に変形するなどという荒唐無稽な情報は到底信じられなかった。実際に見てもまだ自分の目を疑わずにはいられない。

 ペインと言いメイプルと言いヨメカワイイと言い、一体どんなスキルを取ればああも人外じみた異常な戦闘力を得られるのだろうか。

 

「一気に畳み掛けるよ!」

「おうよ! 【地割れ】!」

「【多重炎弾】!」

 

 ドラグが大地に生み出した亀裂に足を取られ、怪人が一瞬バランスを崩す。

 その隙を逃さず、フレデリカが杖を回転させて魔法陣から大量の炎弾を撃ち放ち、黒衣の長身に次々に浴びせていく。

 この程度では、また足りない。

 通常の魔法使い十数人分に匹敵する火力でも、怪人を倒すにはまだ足りない。

 煙の中に見え隠れする影と赤い眼光がそれを物語っている。

 

「……チッ、タフな野郎だぜ」

「でも見て、HPは減ってる。攻撃が効いてない訳じゃない」

 

 炎弾を完璧に避ける事はできず、当たれば相応にダメージも入る。

 メイプルのような防御特化でもサリーのような回避特化でもない怪人は、桁外れな数値のHPでお茶を濁し、あたかも不死身であるかの如く偽装しているだけだ。

 どんなスキルを持っていたとしても、不死など実現不可能。

 あの男とて自分達と同じ条件の、少しばかり運に恵まれている一人のプレイヤーに過ぎない事をドラグとフレデリカは再認識した。

 

「攻撃ぶち込み続けりゃ倒せる。それだけ分かりゃ十分だ! 【バーサーク】【重突進】!」

「だぁから猪みたいに突っ込まないでってば! 【多重障壁】!」

 

 全身をエフェクトで輝かせ、大斧を振り被って猛進するドラグ。

 

「【マグマゲイザー】」

 

 怪人が右足を力強く踏み締め、地中深くのマグマを間欠泉のように呼び起こす。

 橙より黄金に近い色彩の溶融物が大小の飛沫となって降り注ぎ、【地割れ】のお返しとばかりに正面の地表を塗り替えてドラグの進路を塞ぐ。

 

「ハッ! んなもんで止まるかよぉ!」

 

 だがドラグには、今ここで刺し違えてでも怪人を倒すという覚悟があった。

 フレデリカが張った【多重障壁】の恩恵で溶岩の雨を防ぎつつ、両足から伝わる地形ダメージを無視して煮え滾る大地を駆け抜け、一度は後退させられた雪辱を果たすために標的へと肉薄する。

 

「【多重光砲】!」

 

 これ以上ないベストなタイミングで噛み合った二人の攻撃が怪人を狙う。

 

「……【サイクロンカッター】!」

 

 一瞬の逡巡の後、怪人はレーザーの処理を優先した。

 生み出したのは真円を描く緑の光――【風魔法】のエフェクトが渦を巻く巨大な丸鋸を、自分の両腕と連動させた遠隔操作で投擲。四枚の凶器が【多重光砲】を切り裂き相殺するが、そのために割かなければならなかった数秒間が致命的となる。

 

「もらったぁっ!!」

 

 怪人は危険地帯を踏破したドラグの間合いの中にあった。

 振り抜いた斧刃が、長身の左腰から右肩へダメージエフェクトを刻み込む。

 

「ぐっ……!?」

 

 斬撃を受けて機械の身体が仰け反り、この戦闘で初めて怪人の口から苦悶の声が零れる。

 その事を喜んでばかりもいられない。

 溶岩に膝上まで浸かり続けるドラグのHPも限界に近い。彼が倒れて鉄壁のコンビネーションが崩壊すれば、形勢逆転を許し、奮闘の全てが水泡に帰してしまう。

 ここからは時間との戦いでもあった。

 

「フレデリカ! このまま削り切るぞ!」

「分かってる! 【多重石弾】!」

「【グランドランス】!」

 

 先ほどの【鉄蝗団(アバドン)】への意趣返しでもある石の弾丸の集中砲火と、【バーサーク】の効力により大技発動後の硬直を打ち消したドラグの石槍が全身を穿つ。

 エフェクトと共に部品らしき金属が飛び散り、怪人のHPが残り一割を切った。

 肉の盾を呼ぼうにもゴブリンの群れは既に全滅し、戦意を失ったのか、黒衣の影法師は反撃する素振りも見せず棒立ちで攻撃を受け続ける。

 

「諦めたってか!? 正直がっかりだぜオイ!!」

「やっちゃえドラグー!!」

 

 相棒や、戦いを固唾を飲んで見守っていた他のメンバー達からの大声援を背に浴びて、ドラグは大斧を握る両手に渾身の力を送る。

 

「【パワーアックス】!!」

 

 横薙ぎの一撃が怪人の胸を切り裂き、ついにその膨大なHPを削り尽くした。

 怪人は伐採された樹木のように前方に倒れ、自らが生み出した溶岩の中に沈んでいく。

 ドラグが大斧を高々と掲げると、次の瞬間、割れんばかりの喝采が拠点に轟いた。

 

「っしゃあっ! ドラグさんが勝ったぁ!」

「当たり前だろ! ドラグさんがカワイに負けるはずねぇって!」

「ちょっとそこー! 私も頑張ってたでしょうがー!」

 

 おまけ扱いされたフレデリカの抗議も、喜びの声に負けて消し飛ばされて届かない。

 ドラグが笑う。

 

「美味しいトコ奪っちまったか?」

「べっつにぃー? いいですけどねぇー?」

 

 フレデリカはサイドテールをぴこぴこ上下させて不満を露わにする。

 彼女の支援なくして今回の勝利はなく、ドラグ自身そう思っている――もし誰かが心ない言葉を口にしようものなら、それがギルドメンバーだろうと大斧で殴り飛ばす程度にはフレデリカの力を認めているのだ。

 

「どーでもいいからさっさとこっち来れば? そこにいたら本気で死ぬよー?」

「おっと、そうだったそうだった!」

 

 溶岩による【炎上】の継続ダメージはまだ続いている。

 慌てて無事な地面まで走り、HPの減少が止まった事を確認してドラグは大きく息を吐く。

 ようやく人心地ついた。あと十秒長くあの局所的な地獄に留まっていたら、怪人が倒れた直後に自分も力尽きていただろう。

 

「あ、やべぇ。カワイが持ってたオーブ回収すんの忘れてた」

「急がなくても平気じゃないの? 溶岩の中じゃ他の誰も横取りはできないだろうし、時間経過で消えるまで、待って……」

 

 そこでフレデリカの口が、いや、全身が固まった。

 驚愕に目を見開き、視線を動かそうとしない。

 ドラグも、絶句するフレデリカの様子から、自分が背を向けた先で何が起きているのか――何が起き上がってしまったのか薄々感付いていた。

 ドレッドほどではないにしても、こうも絶え間なく直感が警告を発していれば嫌でも察する。

 誰もが押し黙り、重苦しい静寂に包まれる中、振り返る。

 

「なるほど、こういう風になるのか。何事も試してみるもんだな」

 

 HPが0になったはずの怪人が。

 戦いに敗れ、己の拠点に還されたはずのヨメカワイイが。

 幽然と立ち、コートから垂れる溶岩をまるで雨滴か何かのように手で払っていた。

 

「……本当に、不死身かよ」

「そうでもないさ。ちゃんと種も仕掛けもある。教えてやるほど俺も親切じゃないがな」

 

 状況は限りなく最悪に近い。

 後方で援護していたフレデリカはともかく、ドラグは満身創痍でありMPも尽きる寸前だ。

 だからと言ってドラグが再び戦える状態になるまで時を稼ぐにしても、気圧されてしまっている防衛部隊では得体の知れないスキルで蘇った怪人の相手は難しい。

 

「【灼竜(シウコアトル)】」

 

 アフロが赤熱化し、噴火を思わせる勢いで単眼双角の魔竜が放たれる。

 

「やばっ!? 【多重障壁】! 【多重水壁】!」

 

 二段構えの防壁で【灼竜(シウコアトル)】を食い止めた。だがそれも一時的なものにしかならず、巨大な顎にぞろりと生え揃った牙で飴細工のように噛み砕かれてしまう。

 

「嘘でしょー!?」

 

 威力が衰えたようには見えない規格外の溶岩魔法が迫る。

 得意の防御手段が破られた以上、フレデリカにはもう【灼竜(シウコアトル)】を打ち消す術はなく、ドラグの大きな身体の陰に隠れてきゃあきゃあ泣き喚くしかない。

 

「【退魔ノ聖剣】!!」

 

 そんな万事休すの二人を救ったのは、神々しい光を伴う一筋の斬撃だった。

 金の装飾が映える純白の鎧と青のマント、【灼竜(シウコアトル)】を両断した白銀の長剣に荘厳な盾。

 名実共に最強プレイヤーと謳われる金髪碧眼の聖騎士――『集う聖剣』が誇るギルドマスターが仲間を救うべく帰還したのだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ペインー!」

「遅かったじゃねぇか、大将」

「これでも急いで戻ってきたつもりだよ」

 

 拠点を守り抜いた仲間達に労いの微笑みを投げるペイン。

 悪運に恵まれているだけに過ぎない自分とは異なり、正統派と呼ぶべきプレイングで最強の座に君臨する敵を前にして、HPが一度0になったヨメカワイイの思考は妙に冷めていた。

 

「三対一って事か?」

「いや、四対一だぜ」

 

 声はヨメカワイイのさらに後方から聞こえた。

 影の如く気配を消し、刃が届く至近距離まで潜り込んでいたドレッド――両手に抜き身の短剣を握り締め、ヨメカワイイが指一本でも動かせば即座に首を掻き切るつもりだろう。

 背後を取った時点でそうしなかったのは、彼に気付いたペインが視線で制止したからだ。

 そのまま戦闘に発展するかと思いきや、何故かペインは剣を一振りして鞘に納めると、斧使いと魔法使いのコンビに向き直る。

 

「それで、ドラグ、フレデリカ。彼は合格と判断して問題はないかな?」

「ああ、俺に異論はねぇ」

「うー……私も文句ない。でも私はまだ本気じゃなかったんだからね!? 半分くらいだし!」

「いやそこは本気出せよ」

「うっさいドラグ!」

 

 話が見えない。

 掲示板の書き込みで売られた喧嘩を安価で買い、ついでに発動する機会がなかった【修羅道】の実験も兼ねて『集う聖剣』に攻め込んでみただけなのに合格だの何だのと。

 フレデリカが全力ではなかった云々は……まあ、油断してくれていると言い換えればその分だけ戦いが楽になって好都合なので、侮られたという怒りはない。

 

「試すような真似をした事を許してくれ。二人が君の力を見たいと言って聞かなくてね」

「だってだって、私達と同じくらい強くなきゃ意味ないでしょー!?」

「だからよぉ、実力は俺が保証するって何度も言ったろうが」

「ドレッドもうっさい!」

 

 ぎゃんぎゃん噛み付くフレデリカと、面倒そうに片手であしらうドレッド。

 ドラグも呆れ顔になりながら、しかし止めようともせずポーションで回復している。

 

「騒がしい連中だなぁ」

「ははは、確かに。けど、自慢の仲間だ」

 

 喧嘩するほど仲が良い、とはこの事か。

 牧歌的で和気藹々としたメイプル達とは違う、これも一つのギルドの形なのだろう。

 

「……で、剣を引いたって事は、戦う意思はないと受け取っていいんだな?」

「構わない。少なくとも、今この場で一戦交えるつもりはないよ」

「そうかい。ならこっちも隠し事はなしにしなきゃフェアじゃないな」

 

 ヨメカワイイが右手を上げると、周囲の地面や岩場の一部が本来の形を取り戻す。

 尖った耳に、子供ほどの体躯と、それに見合った長さの手足。

 緑色だった表皮に【擬態】の効果で砂粒や小石を貼り付かせて保護色とし、主人の命令に従ってじっと息を殺して溶け込んでいた小鬼達。

 

「ゴブリン……!?」

「まだこんなにいやがったのか」

「大軍は囮にこそ使うべし、だろ?」

 

 ヨメカワイイにとって最重要だったのは、【修羅道】の発動に必要な数のゴブリンを如何にして敵拠点の中に配置するかであり、そのために自分自身さえ囮にした。

 それはともかく、「そろそろ本題に入ってくれ」とペインを促すと、彼は眉目秀麗な面持ちから笑みを消し、気迫と風格漂う剣士の顔で口を開いた。

 

「まずは君の名前を騙った事、ギルドマスターとして改めて謝罪する――そして、どうかその力を貸してほしい。あの『楓の木』に、いやメイプルに勝利するために!!」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 その数時間後。

 怪人に強奪された全てのオーブが一斉に元の場所へと戻され、大量のポイントを得た『闇鍋』が暫定ランキングに台頭する事となった。




他者視点だとどうしても悪役にしかならない主人公。
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