VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います 作:久木タカムラ
「いらっしゃーい」
ヨメカワイイが頭をぶつけないように少し屈みながら入店すると、青い髪をゴーグルで押さえた女性とカウンター越しに目が合った。
他に店員の姿もなく、カウンターのすぐ奥に作業場がである所を見ると、このにこやかな女性が鍛冶屋の店主であり職人なのだろう――アイテムの調合、武器防具の作成をメインとする生産職のプレイヤーも多いと閲覧した掲示板には書いてあった。
「あら、随分と大きなお客ね。どんな御用かしら?」
「姿見を使っても良いだろうか? NPCの店も何件か回ったんだが全身が入る鏡が置いてなくて」
「まあ、それだけ背が高いとそうよねぇ。どうぞどうぞー」
鍛冶仕事に戻りながら、女性店主は店の片隅を指す。
自信作であろう剣や鎧の間に挟まれて設置された、天井まで届きそうな大きな姿見。これだけのサイズならヨメカワイイでも問題なく全身を映す事ができる。
「……さて、新装備のお披露目といこうか」
槌が振るわれる音を背に、インベントリを開く。
正攻法とは呼べない戦闘の末に、幽刻の狩人の最期を見届け――本日一番の成果を懐に忍ばせてヨメカワイイは町に戻ってきていた。
クエストクリア通知と同時に出現した魔法陣と大きな宝箱。
魔法陣は町へ戻るための転送装置と予想がついていたため後回しにして、ヨメカワイイの関心は宝箱の方にばかり向いていた。
宝箱にワクワクするのは当然の事、ましてやそれがボス戦後なら尚更に――中身がポーションや金貨だけで盛大に肩透かしを食らう場合も多々あるが。
「嫁なら目をキラッキラ輝かせてはしゃぐんだろうねぇ、きっと」
幸いな事に中身は金貨や回復アイテムではなく、激戦の報酬に相応しい装備一式だった。
動物園の土産コーナーで、大量のぬいぐるみに囲まれてテンションがおかしな事になった愛妻を思い出しつつ、ヨメカワイイは装備を身に着けていく。
着替え終えて鏡を見ると、映っていたのはつい三十分前まで死闘を繰り広げた強敵の姿。
「ふむ、なるほどこうなるか」
今のヨメカワイイの姿は、アフロを除けば幽刻の狩人そのままだ。
闇に溶け込む漆黒のロングレザーコートとレザーパンツに加え、顔面と手足、上半身に隙間なく巻き付いた赤黒い染みのある包帯。そして艶消しが施された飾り気のない黒弓。
どう見ても人型のモンスターか、でなければホラー映画の殺人鬼である。
◆ ◆ ◆
【ユニークシリーズ】
単独で、かつボスを初回戦闘で撃破し、ダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけのための唯一無二の装備。
一ダンジョンにつき一つきり。取得した者はこの装備を譲渡できない。
『罪悪滔天』
【STR-50】【破壊不可】
スキル【狩人の執念】
『人面獣心ノ皮衣』
【AGI+25】【DEX+25】【破壊不可】
スキル【獣性解放】
『不死病ノ束縛帯』
【HP+500】【破壊不可】
スキル【鋭敏化】
◆ ◆ ◆
あの決闘場をダンジョンと呼ぶには屋外過ぎた気もするが、それはさておき。
「……【STR-50】って、攻撃力減っててあの強さだったのか……」
ヨメカワイイは知る由もない。
幽刻の狩人に二名以上のパーティーで挑む場合、一定以上のダメージを与えると攻撃パターンが変化し、STR減少補正の弓を捨てて、獣同然の圧倒的暴力による接近戦に切り替わる事を。
運営としてはそれを含めて幽谷の狩人の討伐難易度を設定したのだが――エクストラクエストの発生条件こそ『タイラントバットを幽刻の狩人より多く倒す』であるものの、まさか防御に乏しい弓使いがその足で単独討伐に向かうなど、予想はできても勝ててしまうとは思うはずもなく。
「俺のステータスでこの装備だと【STR 0】になるのが問題だよなぁ」
物理武器にあるまじき【STR-50】――しかし唯一無二の武器なら使いたいのが男心。
であれば今後のステータスポイントを全てSTRに振ってマイナス補正分を埋めるか、逆にSTRに依存しないスキルや攻撃方法を見つけ出す必要がある。
折良くここは鍛冶屋。
初心者が鏡の前で唸り続けるより、武器の専門家に聞いた方が有益だろう――とヨメカワイイはカウンターに向かうと、熱した鉄と格闘する女性店主に声を掛けた。
「忙しい所済まないが、ちょっと聞いても良いか?」
「はいはーい……あらぁ……」
新たな装いとなった――もっと言えば凶悪度が増した――ヨメカワイイを一目見て、女性店主の表情が一瞬強張る。しかしそこは数多くの素材とプレイヤーを相手取る職人の根性なのか、すぐに柔らかな笑顔に戻すと、
「えっと、その頭は……鏡を借りに来たお客さん、よね? モンスターじゃなくて」
「……やっぱりモンスターに見えるか?」
「ダンジョンで出くわしたら驚かれるかも知れないわねー。それで、聞きたい事って?」
「この武器だとSTRが心許なくてな。STRの数値に関係なく相手にダメージを与えられる方法って何か思い付くだろうか。出来れば魔法以外で」
「そうねぇ……」
女性店主はしばし考え込んだ後、インベントリから手の平ほどの球体を取り出した。
「これとかどう? 私が製作した爆弾なんだけど、消費アイテムだからSTRに関係なくダメージが期待できるわよ? ちなみに威力は作る職人の腕や使った素材、それと相手のステータス次第ね」
「爆弾か……」
ソフトボール大の危険物を眺める。
考えてみれば、幽刻の狩人との戦闘もとどめこそ矢だったが、ダメージのほぼ大半がアイテムで与えたものだ。ダンジョンボスにも有効なら、その辺のモンスターにも十分通用するだろう。
何より、キャンプの火起こし役にも似た魅力がある。
「じゃあこれをくれ。とりあえず五十個」
「はーい、お買い上げありがとうございまーす。おまけで五個サービスしておくけど、次は装備も注文してくれると嬉しいわねー」
「気が向いたらな」
鏡を借りた事やアドバイスに礼を言い、商品を受け取って鍛冶屋を後にするヨメカワイイ。
その背中に、今後長い付き合いになるだろう女性店主の声が届く。
「そう言えば、まだ名前を聞いてなかったわね。私はイズ。見ての通り生産職よ」
「よろしく、イズ。俺はヨメカワイイ。ご覧の通りの怪しい者だよ」
◆ ◆ ◆
【狩人の執念】
最大HPと残りHPの差に比例して矢の飛距離と速度が上昇する。
【鋭敏化】
感覚が鋭くなり、索敵能力が向上する。
被ダメージ五割増。
【獣性解放】
二つのスキル【跳躍Ⅹ】と【気配遮断Ⅹ】を内包する。
◆ ◆ ◆
「……どこかで試してみないといかんなこりゃ」
装備に付与されたスキルを改めて確認して。
すれ違う他プレイヤー達の奇異の視線を浴びながら、ヨメカワイイは雑踏の奥へ姿を消した。