VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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008.極振り少女再び

「【魔弓の極技】」

 

 スキル名を口にして、さらに追加で別のスキルを発動する。

 

「【チャージショット】」

 

 放った矢は的として定めたテントウムシ型モンスターから、右へ三メートル逸れて飛んで行く。

 実験が目的のため、あえて当たらないよう狙いをずらしたが、矢は獲物に襲い掛かる蛇のように軌道を変えて爆発テントウに命中した。

 新武器『罪悪滔天』のマイナス補正によりヨメカワイイは【STR 0】――普通にスキルを使って撃っただけでは火力不足で倒せず、現に今も攻撃を受けた爆発テントウはけろりとした表情だ。

 しかし、例えダメージは0でも命中したのは事実。

 実験が上手く行った事を確認し、ヨメカワイイは頷いた。 

 

「【魔弓の極技】……一日一回限定だがおっそろしいなこりゃ」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

【魔弓の極技】

 発動後、次に使用した弓系スキルが必ず命中するようになる。

 使用可能回数は一日一回。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 弓を装備した幽刻の狩人を弓で倒す事が取得条件だったこのスキル。

 説明からして、弓使いなら喉から手が出るほどに追い求める効果なのは分かっていたが、実際に使ってみるとその利便性に慄く。もし即死させるスキルがある場合、どんな強力なプレイヤーでも一日一人は確実に仕留められるという事なのだから。

 

「まあ取得しちまったもんは使わせてもらうとして、次行ってみようか」

 

 鍛冶屋のイズと知り合った翌日。

 狩り場としては人気のない森の奥で、ヨメカワイイはスキル検証と素材採取を行っていた。

 別に通りすがりの誰かに見られたとしても困る訳ではないが、手の内を明かさない方が良いのはどんなゲームでも同じだ。ついでに言えば、嫁に披露して驚かせたいという悪戯心もある。

 などと考えていると、敵の出現を教える羽音が。

 

「おお、来た来た…………多くないか?」

 

 思わず目を疑う。

 人気がない狩り場――つまりはモンスターが手つかずで生き残っているという事だが、飛来する爆発テントウは明らかに異常な大群だった。言うなれば、意思のある手榴弾が大挙して押し寄せて来るようなものだ。

 その名が表す通りの爆発は一匹でもダメージが大きく、それが十匹、二十匹分の威力ともなればどうなるかなど火を見るより明らか。

 流石に相手をしていられず、逃げようとしたその矢先。

 

「【パラライズシャウト】」

「ぬおっ!?」

 

 キンッ、という金属音と少女の声が聞こえたかと思えば、全身を強烈な痺れが襲い、受け身すら取れないまま爆発テントウと共に地べたに倒れ伏す。顔面から突っ込んだためかなり痛い。

 初のPK被害か、それとも麻痺を使う新手のモンスターか。

 周囲の爆発テントウを誘爆させて道連れにしてやろうかと考え、インベントリの爆弾をどうにか取り出そうとするも、その覚悟は無駄に終わる。

 

「――えっ、あれっ!? この頭、カワイさん!? 何でこんな所に!?」

「……お前さんかい」

 

 

 現れたのは他でもない、黒の重鎧を身に纏ったアホ毛の少女――メイプルであった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ほんっとーに! ごめんなさい!」

 

 しばらくして痺れが取れたヨメカワイイに、メイプルが深々と頭を下げた。

 

「爆発系の魔法探しに来て、掲示板でもここは人がいないって書いてあったから……」

「いやまあ、俺も似たようなもんだから気にすんな。こそこそしてた俺にだって非はある。それにおかげで【麻痺耐性小】も取れたしな」

 

 手頃な倒木に腰を下ろした黒ずくめ二人の周囲には、まだ麻痺から抜け出せない爆発テントウが這う事も飛ぶ事も出来ずに散乱している。

 ヨメカワイイの目的は爆弾の素材になるドロップアイテムだが、メイプルはここからどうやって爆発系魔法を取得するつもりなのか。

 

「食べます!」

「……ん?」

「食べるんです!」

「…………んん?」

「モンスターを食べるとスキルを取得出来るんです!」

 

 聞き間違いではなかったらしい。聞き間違いであってほしかった。

 そんな『知らなかったんですか?』と言いたげな表情をされても困る。

 百聞は一見にしかずとばかりに、メイプルは転がっていた一匹を拾い上げると、その小さな口で何の躊躇いもなく噛り付いた。

 ハチノコやイナゴの佃煮ならまだしも、特大のテントウムシをまるでパンでも食べるように。

 もう好き嫌いの範疇を超えている気がするが、それでも、少女が食べているのだから大人として食べてみない訳にはいかない。

 意を決し、ヨメカワイイも頭に食らい付く。

 

「ぶっ、ふっ!?」

 

 口の中で三尺玉が弾けたような感覚。

 HPを確認すると半分近くまで減っていた――被ダメージが五割増しになる【鋭敏化】の影響もあるのだろうが、たった一口でこの有様では、スキルを取得する前に町に強制送還される。

 一方メイプルはと言えば、口のダメージなど毛ほども感じてはいないらしく、もう何十匹目かも分からない勢いで手当たり次第に劇物のテントウムシを頬張っていく。

 

「……そんなに食って何ともないのか?」

「はい! パチパチするお菓子みたいで面白い食感です――あっ!」

「どした?」

「スキル二つも取れちゃいました!」

「マジかぁ……」

 

 モンスターを食べるとスキルを得られる――それが間違っていないのは分かった。

 しかし同時に、メイプルの方法が異常である事も理解した。

 百人いれば百通りの遊び方が生まれるのは当然なのだから、何が正しくて何が正しくないかなど初心者のヨメカワイイに偉そうに語る権利はないのだが。

 黒の大盾に取得したばかりのスキルを嬉しそうに付与するメイプル。

 

「少し見ない間に、随分と格好良くなったんだな」

「ふっふふー、格好良いだけじゃないですよ? 格好良くて……強いんです!」

 

 腰の短刀を抜き放ち、天に突き上げてポーズを決めるメイプル。

 その言葉に嘘や見栄はないのだろう。

 自分と同じくユニークシリーズで全身コーディネートしているのだ――ダンジョンボスを単独で討伐し、そのボスが所有していたスキルを継承しているのなら弱いはずもない。

 

「カワイさんだってとっても格好良いですよ! 変身ヒーローに出て来る怪人の幹部みたいで!」

「遠慮忌憚のないお褒めの言葉をどうもありがとう」

 

 どう転んでもヒーローになれないのは確定のようだ。別になりたいとも思わないが。

 メイプルがスキルを得た事で用済みとなった生き残りの爆発テントウを譲り受け、本来の目的の一つであるドロップアイテムを確保していく。麻痺しているおかげで、寄せ集めて爆弾でとどめを刺すだけの単純作業になってしまった。

 

「そう言えば、もう少しで初めてのイベントですね」

「ああ、通知で来てたあれか」

 

 内容はポイント制のバトルロイヤルで、色々と細かい判定基準の記載があったが、要はなるべくダメージを受けずに他のプレイヤーを倒せば良いのだ。

 ユニークシリーズ所持者とは言え、揃って【STR 0】であるヨメカワイイとメイプルに果たしてそれが出来るかどうかは別として。

 上位者には限定の記念品が贈られると聞いて嫁が大興奮だったのは覚えている。

 

「カワイさんも出るんですよね? あ、でもそうなっちゃうと、カワイさんとも戦う事があるかも知れないんだよね。うーん、どうしよう……」

「十人かそこらしか参加しない訳じゃなし、探し回ったりしなけりゃ戦場でばったり出くわす方が珍しいだろ。ま、もし会っちまったらお互い恨みっこなしだな」

「んー……でも、カワイさんといると楽しいしゲームで初めてのお友達だし……戦いたくないぁ」

「…………」

 

 この娘は……。

 

「そーゆーおじさん殺しの台詞は、もうちょっと大人になってから言うこったな」

「高校生は立派な大人ですぅー!」

「そう言ってる内はまだ子供だよ。ってか高校生だったのか? てっきり中学生かと」

「むー!」

 

 大盾と短刀を振り回して憤慨するメイプルをあしらいつつ、ヨメカワイイは考える。

 まだ見ぬ対戦相手、未知のスキル――懸念材料は山積みだが、嫁も参加するとあれば、探し出し守るためにも参加を渋る理由はない。

 イベントまで残り一週間。

 ユニークシリーズを得た事で、大まかな戦闘スタイルのイメージは出来た。後はこれがあればと願うスキルが存在するかどうかの運次第。

 ラスボスと怪人の名を知らしめる事となるイベントが迫っていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

【NWO】やばいの見つけた

 

 1名前:名無しの大剣使い

 またやばいの見つけた

 

 2名前:名無しの槍使い

 メイプルちゃんみたいな子なら大歓迎

 

 3名前:名無しの魔法使い

 個人的にはボクっ娘希望

 

 4名前:名無しの大盾使い

 そのメイプルちゃんは今日知り合いに子供扱いされてからかわれたらしい

 優しい人だけど今日はいじわるでしたってメッセージ来た

 

 5名前:名無しの弓使い

 何それ微笑まけしからん

 

 6名前:名無しの槍使い

 つかその知り合いが妬ましい

 メイプルちゃんからメッセージもらえるお前も妬ましい

 

 7名前:名無しの大剣使い

 禿同

 じゃなくて、メイプルちゃんとは別方向にやばいのだった

 

 8名前:名無しの魔法使い

 電波系?

 

 9名前:名無しの大剣使い

 どっちかってーとゴツくないクリーチャー系?

 見た事ない真っ黒の装備で身長二メートル超え、顔が包帯グルグル巻きで何故かアフロ

 

 10名前:名無しの槍使い

 こっわ!

 

 11名前:名無しの弓使い

 新実装されたモンスターとか……

 

 12名前:名無しの大剣使い

 見つけたの町のど真ん中だったからモンスター説はなし

 で、しかも普通に店に入って買い物してるっぽかった

 

 13名前:名無しの魔法使い

 店員さんがどんな神対応するか見てみたかったかも

 

 14名前:名無しの大剣使い

 背が高いから人混みの中に入っても見失いませんでしたよはい

 

 15名前:名無しの大盾使い

 ユニークシリーズ持ってるプレイヤーか

 後を追い掛けるとクエストが発生するタイプのNPCか

 

 16名前:名無しの槍使い

 んで、それでどうなったん?

 

 17名前:名無しの大剣使い

 飛んでった

 

 18名前:名無しの弓使い

 は?

 

 19名前:名無しの槍使い

 は?

 

 20名前:名無しの魔法使い

 は?

 

 21名前:名無しの大盾使い

 は?

 

 22名前:名無しの大剣使い

 立ち止まったかと思ったらそのまま一足で、ぽーん、と家とか三軒くらい飛び越えて行方不明に

 その場にいた俺も他の皆もぽかーんですよ

 

 23名前:名無しの魔法使い

 それでか、別スレでフライングヒューマノイド実装とか騒いでたの

 

 24名前:名無しの弓使い

 UMAじゃん! もうほとんどUMAじゃん!

 

 25名前:名無しの大盾使い

 まあ、何かのスキルなのは確定だろうけど

 

 26名前:名無しの槍使い

 第一回イベントを前にしてとんでもないダークホース登場ですな

 

 27名前:名無しの魔法使い

 とにかく、参加する人は頑張っていきまっしょーい

 

 28名前:名無しの弓使い

 っしょーい

 

 29名前:名無しの槍使い

 っしょーい

 

 30名前:名無しの大剣使い

 っしょーい

 

 31名前:名無しの大盾使い

 っしょーい

 それとメイプルちゃんの応援もな

 

 32名前:名無しの魔法使い

 それな

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 そんなネットの盛り上がりなど露知らず。

 

「っくしょん!!」

「旦那様、風邪? だめだよーもうすぐイベントだし身体に気を付けなきゃ」

「……そこは普通『明日も仕事なんだから』じゃないのか?」

「お仕事よりも旦那様の身体の方が大事だもん」

「俺は自分の身体よりお前の方が大事なんだが?」

「……えへへ」

 

 年の差夫婦はイチャイチャしていた。

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