新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件   作:オーバードライヴ

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見切り発車で参ります。よろしくお願いいたします。


Chap.001 はじまり
§1 もしくは、少女の帰還


 

 

 

 オスカー・ワイルドの『幸福な王子』というのは、救われない物語だ。

 

 幸福な王子は幸せを知っていた。否、幸せしか知らなかった。その幸せが偽りの箱庭限定品だと知っていたけれど、その王子は幸せだった。ゆえに、その目に不幸せが映る度、それを救わずにはいられなかった。それを世間は知ってか知らずか、世界中の不幸せが見える高台に彼は安置されたのだ。

 

 ワイルドの描いた『幸福な王子』は、世間一般に言われるような利他的行動の賛美だとか功利主義への皮肉などが本質ではない。善意から手を差し伸べた結果として、人の幸せを願う王子は盲目となり、友を失い、その心臓さえ打ち捨てられた。これを賛美だというのなら、それこそあまりに救いがない。

 

 アレは不幸せを許せなかった暴君の成れの果てが、燕と手を組み幸せの押し売りをしただけの物語。

 

 だから神様も貴い行為をしたと認めておきながら、天に召し上げたときに、同じ場所には置かなかったのだ。燕は神々の庭に捕らえられ、王子は黄金の町で神を賛美するだけの道化師になり果てた。彼らが何を願ったのかを、神すら知らずに利用する。

 

 幸福な王子は幸せだっただろう。だがその幸せの定義をしたのは、一体誰だったのか。その行為の意味を決めたのは、一体誰なのか。

 

 

 

 誰も救われない物語なのだ。誰も救われてはならなかったのだ。

 

 

 

「……こうなるとわかってて、いろはお嬢たちに手を貸してたはずなんだがね」

 

 一秒ごとに暗くなる視界。後悔がないと言えば嘘になる。救われたいと願ってしまったのだ。否。

 

 救いたいと願ってしまったのだ。

 

 自己犠牲の醜悪さと、そのあとに残る身の毛もよだつ行為の連鎖を知っている。それを知っているからこそ、戒めてきたというのに。

 

 目の前では巨大な繭が呼吸をするかのように揺れていた。鉛のような重たい体をなんとか持ち上げる、幸い得物はまだ手のうちにある。

 

「それでも、まぁ、誰かの幸せを願った子どもの一人や二人、救ったところで罰は当たるまい」

 

 そんなことを思い、力を籠める。唇を噛めば、痛みで少し視界が戻った。まだ、戦える。

 

 何を願い、何を思い、幸福な王子は文字通り身を粉にして施しを続けたのか、その時、王子の胸にどんな思いが去来していたのかを、知る術はない。それを解明したといったら、きっとそれは傲慢以外の何物でもあるまい。

 

「人は人として、誰かを救わねばならなかった。それ以外に、何がある」

 

 両手を天に。今やすでに私も燕の仲間入りか。

 

「救ってみせるさ、守ってみせるさ。君たちの選択の行く末を、君たち自身で背負うための(しるべ)とならん。我が身ここで燃え尽きようとも、賢者を導く流星とならん!」

 

 

 

 ――――オスカー・ワイルドの『幸福な王子』というのは、救われない物語だ。

 

 

 これは、その余白にも記されなかった、少女たちの物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、この夢を見た。

 

 (たまき)いろはは、この夢を何度でも繰り返す。

 

 知らないはずの部屋。知らないはずの子。知らないはずの時間。再上映を繰り返すこのイメージは、日に日に鮮明さを増していく。

 

 眺めの良い病室だ。薄型テレビが取り付けられたベッドサイドの棚には使い込んだ跡がある。そこにあるのは彼女のものだろうか、筆箱や鉛筆、スケッチブックなどが置いてある。それを覗きに行こうとしたこともあるが、知らないはずの子が悲しそうな顔をするので、結局未遂で終わっている。

 

「ねぇ、あなたは、だれ?」

 

 淡い桃色の髪。自らと同じ色の髪。人なつっこい笑顔。毎度向けられるその笑顔に、いろはは答えられずにいる。どんな顔をしていいのか分からないのだ。だから同じ質問を繰り返してしまう。

 

「あなたはだれなの?」

 

 相手にはそれが聞こえているのか、どこか悲しそうな顔をする。なにかを話そうとしているのも見える。それでもその空間から音そのものが消えてしまったようになにも響かない。いろはの声だけがする。それは反響せずにどこかへと吸い込まれていく。

 

「悲しい顔をさせたいわけじゃないの。でも、あなたのこと、知らないあなたのことが愛おしくて、懐かしくて……教えて欲しいの。あなたはだれ? 私はなんで同じ夢ばかり見るの?」

 

 その続きは聞かせてくれない。あの子は消えてゆく。いつもそうだった。あの子は、あの子は私に心配ばかり――――。

 

 タタタン、タタタン。

 

 快速電車が軽快に線路の継ぎ目を越えていく。そのノイズに目を開ける。差し込む強い日差しが首の後ろに刺さっていたのか、うなじがじんわりと暑い。日焼け止めを塗った方がいいのだろうかとかぼんやりと思いつつ、顔を上げた。どうやら居眠りしていたらしい。

 

『ご乗車頂きましてありがとうございます。この電車は区間快速、新西中央経由、あすなろ行きです。新西中央より先は各駅に停車いたします。次は……』

 

 電車の車掌が鼻の詰まったような声で次の停車駅が目的地だと告げる。いくつかの駅を素通りする快速電車は、新西中央駅まで一直線だ。

 

 まぶしさにすこしだけ目を細めつつ、緩やかなカーブの先に大きなビルが乱立しているのを眺める。

 

(何度見ても……大きい街……)

 

 神浜(かみはま)市。300万人を越える人の群れを飲み込む巨大な街。今日のいろはの目的地だ。

 

 「やっぱり……気配が濃い」

 

 思わず口に出してしまって、彼女――環いろははしまったと思う。静かな列車の中でいきなり『気配が濃い』と呟いているのを他の誰かに聞かれたらただの痛い人だ。幸い誰にも聞かれていないらしく、胸をなで下ろす。

 

(それにしても……神浜市にこんなに魔女が多いなんて……)

 

 いろははゆっくりと左手の中指にはめたリングをなぞる。静かに深呼吸をしつつ、自らの内側を広げるイメージを持つ。そのイメージは見えないながらも確かな感覚を伴って、自らの周りに広がった。

 

(家の周りの……3倍? もっといるかも……使い魔の気配だけでもこんなに……結界の奥で潜んでいるのはもっといるだろうし……この街、なんだか大変だ)

 

 そんな事を思いながら拡散させていた自らの魔力を集め直す。こんなことで限られた魔力を大量消費するわけにはいかない。“魔女”と戦う可能性も高いし、そうでなくても魔女の使い魔が一般人を襲おうとしてたりしてたら、始末しないといけないだろう。

 

 魔女と戦えるのは彼女たち“魔法少女”だけなのだ。

 

 まもなく快速電車は、次の停車駅である新西中央駅に滑り込む。

 

「……よし!」

 

 安全に、でも確実に、目的を果たさないといけないのだ。

 

 

 

(小さいキュゥべえに、会わないと……!)

 




はい、とてもゆっくりな投稿になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
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