新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件 作:オーバードライヴ
落葉の積つた胸の、小径の奥に。
アヴェ・マリア、マリアさま、
夜が来たら私は汽車に乗るのです、
私はどこへ行くのでせう。
私のハンカチは新しい。
それに私の涙はもう古い。
――もう一度会ふ日はないか。
――もう一度会ふ日はないだらう。
――――三好達治『測量船』よりアヴェ・マリア(一部抜粋)
鞄を適当に放り投げてベッドに倒れ込む。制服から着替えるべきかと思ったが、めんどくさかった。水波レナはぼんやりと天井を見上げる。
「かえでのバカ」
口を突いてでたのはやはり悪態で。そのとげは自分に向いていることは明確で。それが嫌になって横を見る。
鞄の口からは今日クレーンゲームでとった大袋のお菓子と小さなぬいぐるみが見える。お菓子の方は到底一人では食べきれない量だが、今日はヤケ食いをすると決めた。全部食べきる覚悟だ。今日の別腹は明日の横腹など知ったことか。どうせ魔女退治でカロリー使って腹は減るのだ。明日からまた動けばよいのだ。
「レナ、ごはんは?」
「いらない。友達と食べてきた」
「……そういうのはちゃんと言いなさいよね、まったく」
廊下の向こうから母親の悪態をつく声が聞こえる。いろいろ言われているが無視をした。友達と食べてきたのも嘘だが、今は親と顔合わせる気にはなれなかったし、不機嫌なのを親に突っ込まれるのは面倒だった。
親がひとしきり文句を言って降りていくのを待つ。どうせあの親に部屋の鍵を破ってまで説教する度胸はない。
「……友達、かぁ」
そうつぶやいて、嫌な気持ちになった。言うんじゃなかったと思っても言わなかったことにはならない。変身能力じゃなくて時間を戻せる能力ならよかった。左手の中指にはまった指輪をみてそう思う。
「キュゥべえへの願い方、間違えたかな」
そんなことを言ってみても、返ってくる答えはない。普通のキュゥべえは見なくなって久しい。今日すれ違ったピンクブロンドの髪の女の子が小さいキュゥべえを連れることに成功したらしいのはかえでから聞いているが、いまさら願い直しなんてことはできないだろう。
「はぁぁあ、どうしてこんなことでウジウジしなきゃなんないのよ」
そんなことをうそぶいてみてもむなしいだけだった。
事実としてあるのは、かえでと喧嘩したこと。それだけだ。今回も例に漏れず、誠に遺憾だが、こちらから謝ることになるのだろう。
それでも、心の奥にナニカが引っかかる。
「アラもう聞いた? 誰から聞いた? 絶交ルールのそのウワサ」
そんなものを洗い流そうと、適当にアイドルの動画でも漁ろうかと携帯を探す。
「知らないと後悔するよ? 知らないと怖いんだよ?」
通学鞄のジッパーを開く音が部屋に妙に響く。
「絶交って言っちゃうと、それは絶交ルールが始まる合図……後悔して謝ると、嘘つき呼ばわりでたーいへん……」
いつどこで、誰から聞いたかも覚えてないような噂話。なんだか怖い噂話。どうせデマだ、どうせだれかのいたずらだ。そんなことはわかりきっているのに、なぜだか違和感が拭えない。
「……怖いバケモノに捕まって、無限に階段掃除をさせられちゃう。ケンカをすれば……」
スマホがチカチカと通知を知らせている。ここ2週間ほどやたらとうるさい学校からのお節介メール。不審者が出たから気をつけましょう。
「一人は消えちゃうって……」
知らない人の車にはついて行かないようにしましょう。もし変な人を見かけたら近くの大人に助けを求めましょう。
「神浜市の子ども達の間ではもっぱらのウワサ……」
誰から聞いた? いつから知っていた?
心臓の音が耳の奥でガンガンとうるさい。
「怖いバケモノに捕まって、一人は消えちゃう。消えた子どもは無限に階段掃除をさせられる」
体の芯が冷えていくのを感じる。
「そうなれば一人子どもが消える。消えた子どもは見つからなくて……」
メールのゴミ箱を漁る。学校のメーリングリストを漁れば、出てくる不審者情報の山。急増しているのはここ1月半ほど。
「まさか……そんな、まさか……」
事実としてあるのは、かえでと喧嘩したこと。
そして、チームに戻ってはいけないこと。
携帯が通知を知らせる。またメール。タイトルだけで背筋が凍る。
| FROM: | Sarasa HOJO<sarasa_v|0v<|v_hojo@ xn--eckwd4c7cu47r2wf.jp> |
| TO: | レナ様 |
| SUBJECT: | 絶交階段について知っているね |
|---|---|
| BODY: | うわさはハイリスクな可能性あり。 かえでちゃんに謝るならももこちゃんか コメットがいる場所でお願い。 こちらも支援可能なので連絡よろしく ( v ^ – °)ぶぃ♪ |
最後の顔文字に腹が立つが、的確に心臓を突いてくる。まさかストーカーよろしくつけてきてるんじゃないかと不安になるが、さすがにあの北条でもそんな変態チックなことはしないかと頭を振って考えを追い払う。
「いったいどうしろっていうのよ……」
今日はお菓子のヤケ食いで憂さ晴らしと思っていたのに、いつの間にかそれどころじゃなくなってしまっていた。
いろはが北条に連れてこられたのは、里見メディカルセンターから少し離れた喫茶店だった。個人の店らしく薄暗い雰囲気の部屋にはゆるくレコードがかかっている。店の奥のボックス席から見知った顔がブンブンと手を振っていた。
「いろはちゃんは珈琲って飲めたっけ?」
「えっと……苦いのは少し苦手で……」
「んじゃ、ミックスジュースで大丈夫? ここのミックスジュースは結構いけるよ。店長が根っからの関西人らしくて」
「じゃ、じゃあそれで……」
北条が手を振る
「やぁ、君が噂の“アイリスさん”ですかぁ? お話に聞いてたよりもおとなしそうですねぇ」
どこかぽやっとした目元をまんまるなレンズのメガネで彩った女の子……北条ほどではないが女の「子」と言うより「女」の子というイメージだ……がふにゃりと笑った。目の前にあるコーヒーゼリーのクリームをくるくると弄っていたその人は、電球の光の下だと金色にも見える色の淡い茶髪をゆるくシニヨンにまとめ、のんびりとした雰囲気を醸し出していた。
「その……あなたは……」
「えっとぉ、サラから聞いてないですかぁ? コメットカンパニーのサブリーダの
「えっと……私はアイリスじゃないです……環いろはです……」
「知ってますよぉ。ミズちゃんとヒナちゃんから聞いてましたからぁ」
「あの……」
困惑している間にも、並んで座っていた瑞波と陽奈が詰めて席を開けてくれた。どうやらふんわりとしたしゃべりかたをするその人の隣には北条がくるらしい。
「えっと……水渡さん……でしたよね?」
「はぁい」
「なんで私のことアイリスって……」
「それはねいろはお嬢、スイトが根っからの映画オタクだからだよ」
注文を終えたらしい北条がやってきて水渡の隣に座る。
「いろはお嬢は見たことない? ヒッチコックの『バルカン超特急』って映画」
「ないです……」
「アクションサスペンスなのにどこか笑えるから今度見るといいよ。『アイリス・ヘンダーソン』って女の人がバルカン超特急って列車の中で誰も覚えてないフロイっていうおばあさんを探すお話」
「はぁ……」
そういってけらけらと笑う北条だがいろはにはいまいち伝わっていない様子。水渡もどこかふくれっ面だ。
「その例えを出したのはサラのほうじゃないですかぁ。私は『バニー・レークは行方不明』のアン・レークの方がぴったりだと思ったんですけどぉ」
外国人の名前を出されても、ちんぷんかんぷんないろは。陽奈がこそっと耳打ちをしてくる。
「つきあわなくてもだいじょーぶ。あの二人夜更かしして映画ずーっとみてるから自慢したいだけなの。スイトの部屋、白黒映画でいっぱいなんだよ?」
「ヒナ聞こえてるぞー」
「うえっ、しゃちょーの地獄耳……」
苦笑いでそういう陽奈。いろはの影に隠れようとするが、北条もそれ以上は責める気もないらしい。
「それに私はスイトの話についていくために見てるんだよ。こいつ口を開くと映画の話かテクノミュージックばっかりなんだもん。なんでそんなまだらなハマり方したかなこのオタク」
「そ、そんな言い方ないじゃないですかぁ!」
「言い方も何も事実じゃん。それに『遠すぎた橋』にハマってたからって自分の武器をM1ガーランドみたいな銃にするかぁ普通」
「いいじゃないですかぁ! 魔法少女がオイル臭い木製ストック小銃使っててもぉ!」
「だったら服装も合わせたらいいのに、サイバーパンクな猫耳ヘッドセットじゃなくてさぁ。武器もSFチックな方が似合うって」
もー! と北条の肩をバンバン叩き始める水渡。それを北条が笑って流しているその間にも、彼女の前にはホットコーヒーが、いろはの前にはミックスジュースが置かれる。
「ま、映画オタクで音響オタクなスイトがそろってこれで一応コメットの面々はそろったわけだ。いろはお嬢も含めて、ね。んで、集まってもらったのはほかでもない。状況1-4発生にともない、コンディション・イェローに上げた件についてだ」
水渡が北条を叩くのをやめた。
「スイト、レナちゃんのトラッキングは?」
「レナちゃんちに帰ったところまでは確認してますよぉ。さすがに張り付きってわけにもいかないですし、こっちに合流するので追うのはやめましたぁ」
Vサインを出す水渡。その動きで胸元が大きく揺れる。その様子に少しついと視線を逸らすいろは。まだ成長期と言い聞かせる。
「まー、今日喧嘩したばっかりらしいし、今日状況が動くってことはないだろうとは思ってたし、大丈夫そうだね」
「それで、その絶交階段ってどういうのでしたっけ。ミズちゃんたちが盛り上がってたのは覚えてますけどぉ」
水渡から話を振られた陽奈がうなずく。
「ケンカをして絶交って言っちゃうとだめーみたいな話で……えっと……あれ……?」
そんな様子の陽奈の横では、すでに瑞波がタブレットを取り出していた。机のまんなかにそのタブレットを置くと、どうやらお稽古バッグらしい小さな手提げ鞄から筆箱サイズの機械を取り出す。開くと現れたのは薄型のキーボード。
『私が覚えているのはこんな感じです。』
タブレットに、人と話すのと同じぐらいの速度で文字が現れる。ものすごい速度でキーボード上で指が動いていく。
絶交って言っちゃうと、それは絶交ルールが始まる合図。
後悔して謝ると、嘘つき呼ばわりでたいへん。
怖いバケモノに捕まって、無限に階段掃除をさせられちゃう。
ケンカをすれば、ひとりは消えてしまう。
「……いろはお嬢、七海さんの内容とはどう?」
「ほぼ同じ……というより、覚えているかぎりでは全く一緒です。でも、始まりにはあらもう聞いた? 誰から聞いた? みたいな問いかけがあったかな……」
「でも内容はこれくらいか。……伝聞であることを考えれば信憑性は低くて当たり前なんだけど、ね」
「内容が一緒っていうのは気になりますねぇ……普通ならうわさって尾ひれ腹ひれがつきますよぉ」
「一緒過ぎるとなると……共通の情報源に当たっている可能性、か」
北条の声にブンブンと横に首を振る陽奈。
「でもやちよさんと一緒になることってなかったよ? というより、やちよさんが小学生と交流保ってたら変態だよ!」
「それリアルタイムで北条さんに刺さってるからやめて?」
北条は苦笑い。水渡が彼女をじとっと見つめる。
「やちよさんよりよっぽど変態さんですよねぇ、サラは。子どもにあんなことやこんなことして、私にレナちゃんトラッキングさせて」
「勘違いを引き起こしそうなこと言わないの」
こつんと水渡のおでこを軽く叩いてから、北条はタブレットを叩く。
「ちょっと検索してみようか」
ウェブサイトから検索エンジンを呼び出し、さらに子ども向けのポータルページに飛ぶ。
「ミズ、入力お願い。アンド検索で“階段”“絶交”“うわさ”、以上実行」
そう打ち込むとすぐ結果が出る。検索結果は20件ほど。フィルタリング前の検索結果だと20,000件ほどがヒットしているようだ。
「……絞り込み条件に追加、“神浜”を含む」
結果はそう減らない。残りは18件ほど。
「なるほど、神浜というワードとセットで広まってるね。やっぱり神浜特有の問題か」
「しゃちょー、なんで『きっず★ぽーたる』なの? もっとたくさん検索でるやつあるじゃん」
陽奈の声に微笑んでみせる北条。
「絶交なんて言葉が飛び交うのはどれくらいの年齢の人が多いと思う? はい、いろはちゃん」
「えっと……小学生?」
「うん。子どもが使うようなスマホやタブレットには、親がフィルタリングをかけることが通例だ。喧嘩で絶交なんてちょくちょく言っちゃうような年齢、小学生ならなおさらで、安全性の高いホワイトリスト方式フィルタリングになっているはずだ」
北条は説明しながら、出てきたサイトの一つを確認する。
「大学生の七海やちよと小学生の東仲里陽奈や西海瑞波の情報がほぼ一致しているとなれば、同一の情報源にあたるか、同一の情報源に近い人から話を聞いたかだ。だけれども、三人が同じ人から話を聞いたとは考えづらい。一番あり得るのは……」
「……インターネット」
いろはのつぶやきにうなずいて答える北条。
「内容のブレがなく、小学生でもアクセス可能だとしたらインターネット経由がまず候補に上がる。ホワイトリストでアクセスできる情報は限られる。ブログ系はシャットアウトされるし掲示板はもってのほか。怪談をまとめた書籍情報、もしくは……」
とん、と叩いたサイト。
「ポータルサイト内の学習支援質問箱……」
「書き込みは1ヶ月半前。調べ学習でうわさについて調べてる人がいる。その文面が……これか」
アラもう聞いた?誰から聞いた?
絶交ルールのそのウワサ
知らないと後悔するよ?
知らないと怖いんだよ?
絶交って言っちゃうと
それは絶交ルールが始まる合図!
後悔して謝ると、嘘つき呼ばわりでたーいへん!
怖いバケモノに捕まって
無限に階段掃除をさせられちゃう!
ケンカをすれば、ひとりは消えちゃうって
神浜市の子ども達の間ではもっぱらのウワサ
オッソロシー!
「これは……背筋が凍りそうなくらい文言がぴったりだね」
その内容をコピーして、瑞波が書き込んだ内容の下に貼り付ける。
「これが……正体?」
「それはないんじゃないですかぁ?」
コーヒーゼリーの最後の一口を飲み込んだ水渡が割り込んだ。
「そんな面白くもない質問箱、ヒナちゃんそんなにたくさん見ますかぁ?」
「全然」
「ですよねぇ。これが発信源のことはないと思いますぅ」
「となればやっぱり口頭もしくはチェーンメール的ななにかで回ってるか……。うーん、情報がない」
「それにこれが仮に魔女の仕業だとしてぇ、こんなまどろっこしいことしますかねぇ」
それに大きくうなずいたのは瑞波だ。キーボードのタイプ音が響く。
『それに私が聞いたのは友達からのはずです。誰だったかはちょっと覚えてないんですけど』
「みーちゃんも? 多分私も一緒に聞いてたと思うんだけど、だれが言ってたっけなーって」
「となれば陽奈たちからたどるのも無理筋か……」
そんなことを言って腕を組む北条。
「私とスイトで実験するか、現在絶賛絶交ルール適応中と思われるももこチームを観察するか……またももこに嫌われそうだなぁ」
そういった北条が少し冷めたコーヒーを煽る。
「ま、ヤバい時には動かなきゃいけないし、こっちも少し構えとかないといけないんだけど……。ヒナとミズはいつも通りでいいけど、私やスイトからの連絡に注意」
「おっけー!」
『わかりました。』
タブレットに表示された瑞波の返事を確認しつつ、北条が隣に目を向ける。
「スイト、レナちゃんの方のトラッキング任せていい?」
「いいですけどぉ、アイスを所望しますよぉ」
「はいはい。いつものコンビニのやつね。んで、いろはちゃん、今度神浜くるのっていつになりそう?」
北条の問いに慌てて手帳をパラパラとめくるいろは。
「明日は学校の職員会議で授業が短縮なので……明日の三時頃には来てると思います」
「ん。じゃあ、明日悪いけど調整屋さんに行ってもらえないかな。たぶんももこちゃんがいると思うから話聞いてあげて。ここで聞いた内容はももこちゃんに伝えてもいいから」
「えっと……はい。わかりました」
「ごめんね。この埋め合わせはいつか必ず」
そういって北条は話をたたみ始める。おっとりした口調で水渡は横に問いかける。
「そういうサラは何をするんですかぁ?」
「西側最強とお話してくる。あとは警察とかのプレスリリース漁りほか情報収集」
にやりと笑った北条に、どこか獰猛さを感じて、いろははばれないようにツバを飲む。
「今回のはやっぱり妙だね。万が一に備えとかないといけない。そのための
「えー? しゃちょーんち泊まっちゃだめ? みーちゃんもいっしょにさぁ」
「だめ、最近うちに入り浸りすぎだし、親孝行してきなさい」
年少組をにべもなくあしらいながら、北条が出て行く。残されたいろはに水渡がにこりと笑った。
「私たちもいきましょーかぁ。お金はサラが払ってくれたみたいですし」
水渡の言葉に、いろはは静かにうなずいた
レナちゃんかわいいよレナちゃん。
ツンデレっ子を書くのは実は苦手にしてるのですが、ちゃんとかわいく書いてあげないとなあとなっている今日この頃です。
もう一話だけ状況整理が続きます。物語が動くまでもうしばしお付き合いください。