新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件   作:オーバードライヴ

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 やがて百年が経ち、まもなく千年が経つだらう。そしてこの、この上もない正しい行ひのあとに、しかし二度とは地上に下りてはこないだらうあの星へまで、彼は、悔恨にも似た一条の水脈のやうなものを、あとかたもない虚空の中に永く見まもつてゐた。

――――三好達治『測量船』より「夜」


§4 夜

 

 夜にもなると、少しばかり気温も下がっていく。制服のいろはにとって、少しばかり肌寒く、無意識に熱を逃さぬように腕を抱いた。

 

「ほら、夜は寒いですからねぇ」

 

 そう言って肩に薄い上着をかけてくれる女の人。その人、南方(みなかた)水渡(すいと)がふにゃりと笑う。

 

「ありがとうございます……えっと」

「私は大丈夫ですよぉ、これでも体温は高い方なんですよぉ」

 

 どこか間延びした声に、とぼけた笑み。その笑顔で「さあ、帰りますよぉ」と優しく言われると、こくんと自然にうなずいていた。

 ところどころにスポットライトのように街灯が道を照らしている。照らしている方はたしか新西中央駅へと続く道。

 

「……」

 

 どこか上機嫌で半歩先を歩く水渡。改めて見ると北条よりも背が高い。ゆるいシニヨンが揺れる淡い茶髪を見る。

 

「……」

 

 振り返らずにそのまま歩く彼女。小さなクランチバッグを手にした彼女の左中指の爪に小さく、マニキュアで描いたような黄色い模様がついている。その指に光る指輪で仲間なのだとわかる。この人も、きっとベテランなのだ。

 

「……」

 

 どうしよう、と思う。

 

 

(話す話題が、ない……!)

 

 

 おそらく高校生か大学生、神浜に来てからいきなり交友関係が広がったのだが、それまではずっと年上のお姉さんたちと話す機会はあまりなかった。

 

「どうしましたぁ?」

「っ!」

 

 いきなり声をかけられ、肩を跳ね上げる。

 

「えっと、あの……えっと」

「こっちを見て不安そうにしてたので、質問しただけですよぉ。なにか聞きたいことでもあるのかなぁって」

 

 体ごと振り返って後ろ歩きを始める水渡、丈の長いスカートはふわりと揺れて体に巻き付いた。

 

「不安……ではないんですけど、……あの、南方さん、は」

「スイトでいいですよぉ。さっきも自然に呼んでくれたじゃないですかぁ。そのままで大丈夫です。同じ魔法少女のお仲間さんですし、ヒナちゃんたちに好かれるなら、きっと別の意味でもきっと仲間になれますしぃ」

「別の意味……?」

「コメットの仲間になれるかも、っていう意味ですよぉ。サラの判断はまだ先になりそうですけどねぇ」

 

 そう言ってもう一度正面を向き直す水渡。

 

「あの……コメットの仲間って……なにか、条件でもあるんですか……?」

「もちろんありますよぉ。うちは電撃戦と空中戦が専門ですから、戦闘について行けなかったら置いていかれますからねぇ。なので機動力か、長距離戦闘能力、あとはそれらを組み合わせられる機転がきくか、その辺りは私もチェックしてますよぉ。それに、ちゃんと自分の考えを整理してまとめることは求められますねぇ。まぁ、最後はリーダーの北条更紗の胸三寸になっちゃうんですけど」

 

 そう言って肩をすくめる水渡。

 

「私はまだいろはちゃんの戦闘を知らないですけど、ちびっこ二人がちゃんとなついてるなら大丈夫ですよぉ。あの二人は強いがゆえにまっすぐで、残酷ですから」

「残酷……ですか?」

「はぁい。残酷ですよぉ。だから力の使い方を覚えて、飼いならしている最中です。コメットは『いつか去り行く子どもの国』なんです。いろいろあって孤立したり、ひとりぼっちになった子を集めて、ちゃんと生き残れるようにする。サラはそんなこと言ってこんなことをしてるんです。それもまた残酷ですけどねぇ」

 

 丸眼鏡の向こうはどこか楽しそうな目の色が浮かぶ。

 

「と、私がしゃべりすぎですねぇ。なにか聞きたいことがあるならなんでも答えますよぉ」

「いえ……あの、北条さんって、どんな人なんですか?」

「サラですか? そうですねぇ……」

 

 白い街灯の光の中で足を止めて上を見て考えるようなしぐさを見せる水渡だった。しばらく考えるような間が開いた。

 

「あの人を落とすのは難しいですねぇ。あの人、あんな顔してネコ希望とか言うんですよぉ。ちっちゃい子集めてハーレムとか言ってるくせにぃ」

「……ネコ?」

「あらあら、いろはちゃんはこの手の話題は苦手でしたかぁ。失礼失礼。ちゃんとまじめに答えますねぇ」

 

 水渡は視線だけをいろはに向けた。

 

「サラは……そうですね。たぶん怒りの人です。あるべき物があるべき場所にないことにすごく怒ってしまう感じ……。キュゥべえが感情を覚えたらああなるんじゃないかと思いますよぉ」

「キュゥべえが……」

「サラは良くも悪くも絶対零度のロジックの持ち主ですから、一瞬で正解の筋道が見えちゃうんでしょうねぇ。いろはちゃんはサラを見て怖くなかったですか?」

 

 数日前、初めて会ったときのことを思い出す。

 

「……最初は、少し」

「うふふー、素直な子はスイトさんも大好きですよぉ。いろはちゃんの感覚は正しいです。サラは、正解がいつも真実であると思っている節があるんですけどぉ、でも現実はいつもそれを裏切りますからねぇ。正解が正しいとは限りませんし、現実が真実だとも限りませんし」

 

 なんだか難しい話になってきた。いろはの困惑を感じ取ったのか、スイトがクスリと笑う。

 

「だから怒りの人なんですよぉ。サラは、正しい人に正しくあれない世界に、優しい人に優しくない世界にずーっと、ずーっと怒ってるんです。だから、妹さんを奪われたあなたのために、きっとサラは怒ってくれますよぉ」

 

 にっこり笑ったスイト。足を止めればもう駅に着いていた。さっきの喫茶店は思ったより駅に近かったらしい。

 

「ここで大丈夫ですかぁ?」

「はい。ありがとうございます。いろいろ、聞かせてくれて」

「はぁい。こんな雑談でよければいつでも喜んで」

 

 ふにゃりと笑って水渡が今来た道を戻り始める。

 

「あの……スイトさん」

「なんでしょー?」

 

 水渡がくるりと振り返る。

 

「……神浜で、妹が消えたんです。そんなこと、スイトさんはあると思いますか?」

「魔法少女なんて存在がいる世界ですからねぇ。小説よりも映画よりも奇妙なことがたくさんありますから、あるのかもしれませんよぉ」

 

 この人も、ういのことを否定しない。それに救われたような気がする。

 

「そうですねぇ……映画とか見てみるといいかもしれません。現実離れしたことにはフィクションにヒントがあるかもしれませんよぉ。それにいろはちゃんにはたぶん息抜きも必要そうですし」

 

 手をひらひらと降って答える水渡を、いろはは静かに見送った。

 

「あ、上着……」

 

 返しそびれた上着を抱く。どこか頼りない軽さだが、それに少し背中を押してもらえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君から電話とは珍しいね」

『私の仲間に次々に接触したのはあなたの方です。北条さん』

「それでも電話をくれて助かったよ、常磐君」

 

 そう言って待ち人の家の前で電話を受ける北条更紗。銘板には「みかづき荘」と書かれているが、建物の中は暗く沈み込んでおり、誰もいないことが見て取れる。

 

『珍しく詩集を買っていったと不思議がっていましたよ。初めての詩集で終わりを最初に詠んだ人、でしたか』

「かこちゃんは優秀だ。そんな雑談までちゃんと連携してたか。さすが常磐君が目をつけただけあるね」

『あんな連絡手段をとらなくとも、私に直接ご連絡くだされば、対応いたしましたが』

「違いない。それでも状況が状況だった。……手短にいこう。あまり表だって動いていることを知られたくない」

 

 そう言って門扉を支える柱に寄りかかる北条。うつむいて声のトーンを落とした。右手に持ったスマートフォンはそれに驚いた様子もなく沈黙している。

 

「その様子だとかこちゃんへのメモは連携されてるね?」

『はい。例のキュゥべえの幼体とおぼしき存在を管理下に置いたこと。そして、本当にそれ以外のキュゥべえが神浜市に存在しないこと』

「そうだ。そして“あの”キュゥべえが状況を認識できていないことも明らかになった」

 

 そう告げれば、信じられないことを耳にしたような、呆れたような声色が混じる。

 

『直接聞いてきたのですか』

「アレの情報屋としての性格だけは信頼できるからね」

 

 暗にそれ以外は信頼していないことを示しつつ、北条は目を細める。

 

「アレは言わないことはできても答えないことはできない性格だ。それで確信が持てた。魔女の急増はキュゥべえの埒外で進行している。情報すら持ってないなら、要因は別にある」

『……そして、北条さんはそれが人為的なものだと考えている』

「イエス」

 

 左手にスマートフォンを持ち替え、手帳を取り出す。乱雑に殴り書いた情報を整理する。

 

「目的は不明だが、魔女に知能を与えた誰か、もしくは育てたい誰かが存在する。魔女もしくはその魔女が作り出す状況を利用したい馬鹿野郎がこの神浜のどこかにいる」

『魔女を飼い慣らせるなにものかの存在……ですか』

「ゾクゾクくるね。久々にちゃんと頭のいいお相手だ」

 

 北条はそう言って笑う。年少組の教育に悪いと頭をよぎるが、とっくに彼女たちは家族団欒の最中だろう。見られなければ無かったことと変わらないかと思い直す。

 

『楽しそうですね』

「失望したかい?」

『いいえ。あなたが必要悪を自認していることは理解しています』

 

 なかなか切れ味のいい返答が返ってくる。だから常磐ななかは面白い。

 

『その敵が放っているのが“絶交階段”、でしょうか?』

「可能性の一つだ。魔女の口づけは無作為につけているわけではない。不安や体調不良など何らかの要因により、つけいる隙がある相手を狙うことが多い。その上で、その隙を意図的に作り出すための策の一つだと考えている」

 

 言いながらも、違和感がないわけではないことを自覚する。なにかのピースがはまっていないことを感覚で掴む。

 

『しかし、そうだとするならば、もっと一気に扇動できるような手段をとりそうなものですが』

 

 案の定疑念の一つを突いてくる。

 

「さすが常磐君。その通りだ。相手は虚を突くようなファーストコンタクトを避けている。相手のパニックを誘うなら大規模かつ突然の攻撃になるはずだ。急転直下で攻勢を仕掛けるだけの戦力がないか、このままだらだらと状況を引き延ばすことに意味があるのか」

『……本当に、相手が人だと考えているのですね』

 

 スマートフォンの向こうは淡々と告げる。答えないことで返事に代える。一度行ったことを二度言わなくとも、この相手なら取り間違えない。

 

『それで、私たちは何を?』

「別に、なにも。別の目で見れば別の物が見えるだろう。別ルートで動こう」

 

 しばらく電話の向こうは沈黙していたが、どこか諦めたようなため息が聞こえた。

 

『変わりませんね、あなたは。……今度こそご一緒できると思ったんですが』

「一つのチームにリーダーは二人もいらない。派閥を作るぐらいなら別組織にするさ」

『そう言いつつ、東西のチャンネルを勝手に既成事実化してネットワークを作ろうとしていたでしょう?』

「仕方ないだろう。私はかわいい子たちの味方なんだ。それに東のネットワークは十七夜に引きついで、とっくのとうに手放してるよ。今や生きてるチャンネルも理子ちゃんぐらいのものでね。あの子を西に引き抜けかったのが心残りなんだ」

『理子さんというと……あぁ、たしかお弁当屋さんの。なるほど、かわいげが無くなったから私を捨てたんですね』

「笑えないことは言うもんじゃないよ」

『冗談です』

「まったく、人を試す癖は抜いた方がいい」

 

 北条は大きくため息をついた。

 

「前も言ったと思うけど君の目は特別だ。私の下にいるよりも、活かせる道が別にある」

『前からご存じだとは思いますが、私は相当に諦めが悪いのです。何度でも提案します。手を組みましょう。あなたの目が私たちにも必要です。目指すところは同じはずですよ』

 

 それを鼻で笑って北条はやっと視線をあげた。

 

「なんど請われても答えは変わらない。君の目も十分に特別製だ。それに、合流すれば君をコメットから切り離した意味が無くなる。花はいつだって花。誰が手にするかで花は表情を変える。……それは華道を知る君ならば、説明なんていらないはずだ」

『たとえそれが美しくなくとも、枯らすわけにはいかない。そのために、調和を保たねばならない』

「だから冗長性を担保する。それだけの話だろう?」

『私たちはバックアップ……ですか』

 

 不満そうな声に努めて明るく声を出す。

 

分散並行処理によるリスク回避(マルチマスター・レプリケーション)とでも言ってほしいね。……我々の正気を担保する物はなにもない。だからこそ、我々は正義たらねばならない。わかるか常磐君」

『嫌というほど』

「では我々が成すべきことは単純だ。相互監視を怠るな。いつどこでだれが正気を失ってもおかしくない。私と君、どちらかが機能喪失したときは必ず代行しなければならない」

『わかっています。わかっていますとも』

「互いが互いの正義を成す。それがこのクソッタレで愉快な街を生かし続けると信じている」

『……えぇ』

「情報はまた連携する。ではまた」

 

 これ以上の会話は感傷的になりそうだった。それを感じて早々に話を畳んだ。

 

「これで最低限のリスクヘッジはできそうかな……」

 

 志伸あきらもしっかりと情報を伝えていた。ななかのチームは最低限機能しそうだ。木崎衣美里ルートで最低限西側は情報の伝達はできる。

 

 こちらが動き出したことを、わかる人にだけ伝わるようなサインを残して動かなければならない。宣戦布告は、伝わらなければ意味が無い。

 

「かなり急いで情報集めてはみたけど、これが杞憂だったら笑えるねぇ。笑って済めばいいんだけどさ……」

 

 携帯をしまって横を見る。

 

「……そこんところ、七海やちよさんはどう思うわけ?」

「人の家の前で待ち伏せしておいて聞くことはそれなのかしら? アポイントメントって言葉は知らないの?」

「美人に夜更かしは大敵だろうから帰ってると思ったんだけどね。アテが外れただけ。話があるんだ。それも結構ヤバめな話。聞いたら驚くよ」

「そう。私を巻き込まないで頂戴。あなたと手を組むつもりはないわ」

 

 門の前で鍵を探す七海やちよ。それを見て笑う北条。

 

「手を組んでくれるとは思ってない。でもあなたは聞かないわけにはいかないはずだし、聞いたら私を家に入れざるを得なくなる」

「自信満々ね。ストーカーとパパラッチは家に入れないことにしているのだけれど」

 

 古びた鍵を取り出し、門扉に差し込む。

 

 

「――――アラもう聞いた? 誰から聞いた?」

 

 

 鍵を回す前に、やちよの動きが止まった。

 

「ほら、驚いた」

「……あなただったの」

「まさか。冗談を言ってもらっちゃ困るよ。いろはお嬢に伝えたのはわざとじゃないの? それとも、私がこんな冗談を言うと思う?」

「……まだ冗談であってほしかったわ」

 

 これ見よがしに頭を抱えるやちよ。

 

「それで、明日大学で同じ共通科目の講義があるのにこんな夜中に来たのはなぜ?」

「ももこのところのレナちゃんとかえでちゃんが絶交宣言した。レナの方は私から釘を刺してるけど、どう転ぶかわからない。……こちらも情報が欲しい。顔見知りが消えるのは、お互いもうこりごりだろう?」

 

 鍵を回すと金属の耳障りな音。

 

「入って。あなたは理解できないし、嫌いだけど。情報交換といきましょうか」

「話が早くて助かるよ」

 

 みかづき荘に明かりがともった。

 

 

 




これでやっと状況がそろいました。

次回からいよいよアクションパートスタートになるはず……!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。
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