新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件 作:オーバードライヴ
街ではよく彼の顔が母に肖にてゐるといつて人々がわらつた。釣針のやうに脊なかをまげて、母はどちらの方角へ、点々と、その足跡をつづけていつたのか。夕暮に浮ぶ白い道のうへを、その遠くへ彼は高い声で母を呼んでゐた。
しづかに彼の耳に聞えてきたのは、それは
夕暮が四方に罩め、青い雲が地平に垂れてゐた。
――――三好達治『測量船』より「谺」
環いろはは正直戸惑っていた。低気圧発達中のももことその前でオロオロしているかえで。それをどこか微笑ましく見ているのは八雲みたまなのだが、あれぐらい落ち着いて対処したいと思えども、どこかこの険悪な雰囲気にどうしようもなくおどおどしてしまう。
「で、ずっとこうしてみんなバラバラってわけにもいかないだろ」
絶交状態に入って既に5日目に突入。水波レナはその間、一度もかえでやももこの前に姿を現していないらしい。結界内でかえで一人で苦戦していたのをいろはが保護してなんとか調整屋までほぼ強制的に連行してきたのはいいものの、作戦会議はずっと平行線だ。
「このままチームの解散になるのはあたしが嫌なんだ。なんとか仲直りしてほしいのはしてほしいんだけどね……」
「それは、私もだけど……レナちゃんから謝るのが本当だもん」
「いや、それもわかってるんだけどさ……。でも明らかにレナの行動がおかしい」
そういうももこがいろはの方を見る。ちょうどそのタイミングでいろはのスマホが音を立てた。
「で、北条さんはなんて?」
「『十分気をつけて』って……」
「やちよさんが勝手に騒いでるだけでしょ……なんでそれをそこまで警戒してるんだろうな……ただの噂話だろうけど」
いろはも正直そう思えてしまうところもある。ただ、北条や水渡が真剣に情報収集をしているところを見ると、どこかそうとも言い切れないのも本当だ。
「でもでも、ももこちゃんに無理矢理会わされてごめんなさいはいやだもん!」
目をつむって勢いをつけて言い切るかえで。肩で息をするようにしているかえでを心配そうに見つめるももこ。
「レナちゃんから謝ってほしいの」
「それはあたしだってそうだよ」
困り果てた様子でももこが同意する。
「レナちゃんは、素直じゃないけど、本当はまっすぐで、大切な友達なんだよ」
「うん。よく知ってる」
「だから……だから、だれかに言われたから謝るとか、謝らないとか、そんなの嫌なの」
「……うん」
ももこはゆっくりと相槌を打った。
「だからね、ももこちゃん。私はちゃんとレナちゃんと向き合いたいの。だから、放っておいてほしいの」
「かえで……」
「私だってレナちゃんのことは心配だし、私も苦しかったし、たぶんレナちゃんも苦しんでるんだっていうのは、わかるんだ。だから、ちゃんと話してくる」
「……わかった。ひとり……のほうがいい、よな?」
「もう、ももこちゃん、過保護だよぉ」
そう言ってかえでが出て行く。
「……本当によかったんですか?」
いろはが心配そうにそう聞く。ももこは笑った。
「大丈夫。私はかえでとレナを信じてる。きっと、きっと大丈夫」
その声は自分に言い聞かせているように見えて。
そしてその期待はものの見事に裏切られることになる。
《――――レナちゃんっ!》
その声が聞こえたタイミング、南方水渡は小さく口の端で笑った。こういうときは驚いていても始まらない。スマートフォンを叩く。
「サラ、ホットですよぉ。マップコードR13N3。想定イベントナンバ3、オスカー」
『今3オスカーって言った?』
「はぁい。3のオスカー、コンディション・オレンジですぅ。かえでちゃんが単身でレナちゃんに接触。カバーリング入りますが、本当に本当だとヒナちゃんたちは間に合わないかもですねぇ」
『あぁうん。そだね。ちょうどこっちもいろはちゃんから連絡受けた。了解。180秒で現着』
「時間稼ぎ頑張りますぅ」
『通話はそのままでお願い。もしヤバそうなら対応開始してオッケーだから』
「りょーかいですぅ」
その返事に答えると同時に左手の中指をこすり、具現化した宝石を抱く。いつも通りの手順を踏んで、空に踊り出すころには丈の長いドレスエプロン姿に切り替わる。シルエットだけ見れば、映画やアニメの中では定番の名家に仕えるメイドのようにも見えるが、差し色で蛍光グリーンが入ったネコミミヘッドセットをつけているのが明らかに浮いている。そもそもエプロンドレス自体も裾には軍服の階級章よろしく蛍光グリーンのラインが入っており、足下を彩るのは可憐なシューズではなく、編み上げブーツだ。距離をおいたビルの屋上、給水タンクの上に降りて視界に相手を納めた。
「さて、今日はどんなナンバーでいきますかねぇ」
そう言いつつヘッドセットに左手をかける。右手を宙にかざせば、こだわりの精度で再現させたM1ガーランド小銃が現れる。耳の奥で聞き慣れた四つ打ちのビートが鳴り始めた。それが周りの空間をより鮮明に浮かび上がらせる。
《――――――ばかばかばかぁ! どうして謝るのよ! 連れ去られたらどうするのよ!》
ヘッドセットからはレナの怒る声が聞こえる。精細な位置を把握、頭の中にたたき込んだ――というより、水渡自身が設定した――マップコードに落とし込む。R13N3、北東象限の南寄り。ちょうどこの位置からなら撃ち下ろせる位置だ。
《レナちゃん、もしかして、絶交ルールのこと、気にしてたの?》
《……そうよ、そうよそうよそうよ! 悪い? いい年して絶交ルールなんて信じて悪い!? レナが絶交なんて言ったせいで、それで、かえでがさらわれたら》
《でも、何も起きないよ、ほら》
ヘッドセットの感度を上げる。もっと広域の情報がほしい。
《ももこちゃんが言うとおり、どうせ噂――――――》
直後、空間が歪む。水渡がM1小銃を構え直した。左膝を立て、膝に腕を置くような形で安定させる。空気が滲み、薄紙が燃え落ちるように空間が切り替わっていく。
「……あらら。本当になっちゃいますか、これ」
引き金を引き絞る。かえでの足下から沸いて出た白木の箱のようなナニカを弾き飛ばす。
《ふゅっ!》
《かえでっ!》
「レナちゃんもかえでちゃんも動かないと危なそうですよぉ。状況が状況ですぅ」
この距離ならテレパシーも通じるかとそう呼びかける。上をみてキョロキョロするレナだが、ソレよりも早く、かえでを狙っているらしい使い魔らしきものを弾き飛ばす。
「サラ、現刻1632、コンディ・レッドを
優しく引き金を引き落とす度に、赤いリボンのような物を断ち切るが、空間のゆがみから現れるリボンがそれ以上の速度で増えていく。
『コンディ・レッド了解。ヒナとミズもまもなく私と
手首に緩く鎖で下げた時計に目を向ける。到着まで150秒をきったところ、60秒遅れてくるということは、おそらく途中で陽奈と瑞波を拾ってくるつもりらしい。あと2分半、このまま持たせられるか。
「
《アンタに言われる前からとっくに戦ってるわよ! なにこいつら!? あとその声スイトよね!? どこにいんのよ!》
レナもライトブルーの髪を揺らして三つ叉の槍を振り回す。かえでの方は焦っているのかまともに変身すらできていないように見える
「右手の高いビルの屋上にいますよぉ。多分それが“絶交階段”の正体でしょうねぇ」
そう言いつつ、小銃を構え直す。
《抜けられな……かっ……!?》
《かえでっ!》
「
そう言いつつ、かえでの首に巻き付いたリボンを弾丸で断ち切る。一瞬意識が飛びかけていたのだろう。丸まった彼女の体から咳き込む声が聞こえる。
「執拗にかえでちゃんを狙ってますねぇ。……おっと」
《レナちゃん、にげ……》
《何言ってんのよ! まずアンタは自分の心配が先でしょうが!》
《でも……、――――――――っ!》
「こっちも気づかれましたね。やたらと頭がいいですぅ」
かえでをレナから引き離すようにリボンで振り回す相手側。狙撃を意識した動きに相手側も対応を変えてくる。空間のゆがみ自体も収縮し始めた。かえでをつれて逃げる気か。
「非常に不本意ですけど、距離を詰めるしかないですかねぇ。苦手なんですけど……」
そう言いつつ給水タンクから飛び降りる。M1ガーランドの銃口を撫でると、そこには20数センチの刃渡りを持つ銃剣が現れる。
相手のリボンが一気に水渡に集中する。レナよりも水渡の方が脅威だと判断したか、突っ込んでくる獲物に反応しただけか。
『ジョインナップ完了。後100秒耐えて』
「100秒は保たないかもですけどぉっ!」
そう答えつつ引き金を引く。その反動を使って微妙に軌道をずらせば、相手のリボンが頬をかすって後ろに飛び抜けた。
「……結構いい切れ味ですねぇ」
そう舌を巻きつつ地面に着地。ライフルを構えた瞬間にその射線にかえでを放り込んでくる。
「かえでを離せぇええええええええっ!」
「レナちゃんだめです!」
地面に叩きつけられ跳ねたかえでの体を飛び越えるように、レナが飛ぶ。かえでを戒めているリボンをまとめて切り裂くために間に割って入ろうとしたのだろう。とっさに水渡が叫んでももう遅い。既にレナの両足は地面から離れてしまった。相手の間合いでどうやっても踏ん張りが効かない状態に身を置いてしまった。
「――――――――っ!?」
相手のリボンが横薙ぎにレナの体を叩く。文字通り真横に放り出されたレナの声にならない悲鳴がする。地面をレナの武器である三つ叉の矛が滑る音がした。相手が串刺しにしてこなかったのは不幸中の幸いか。
鐘の音がして、一気に空間が収縮を始めた。
「っ……! サラ、まずいですよぉ。
「ちょ、なに勝手に決めてんのよ! かえではまだ!」
「肩か脇腹折れてるレナちゃんじゃ無理ですよぅ。かえでちゃんを助ける前に死にたいですか?」
そう言って暴れるレナを肩に担いで地面を這うように距離をとる。飛び道具を使ってくる相手に、機動力を削がれた状況で空中戦を仕掛けるほど馬鹿ではない。
「離脱しますぅ」
『
北条からの声にかぶるように、まるで耳元で棒か何かを振り回したような音が響く。揺らいでいた空間が閉じた。追撃が来ないことを確認して、ビルの上の目立たないところにレナを下ろす。
「本当にかえでちゃんだけを狙ってたみたいですねぇ。……サラ、ごめんなさい。対象をロストコンタクト。かえでちゃんの魔力反応自体はキャッチアップできてますけど、減衰速度から言って時速100キロ近くで北東象限に向かって動いてるみたいです。あと一分と少しぐらいで追跡限界を飛び越えちゃいそうです」
『スイトは追えるだけ追って。こっちはミズがいるからレナちゃんの治療後、戦力を整えて追いかける』
「はぁい。というわけで、レナちゃんは治療受けてから追いかけてきてくださいねぇ」
そう言いつつ、ビルを足場に追いかけようとしたタイミングで、変身を解いたレナに声をかけられた。
「スイト」
「何でしょう?」
「ごめん。かえでを頼んだ」
「はぁい。でもかえでちゃんを本当に救えるのは、きっとレナちゃんですよぉ」
そう言い残して、水渡は夕焼け空の中に飛び出した。
戦闘回(戦闘時間は1分強)!!
さて、いよいよアクションパート開始です。かなり短くなってしまいましたが、ここでいったん話を切り替えないと多分とんでもない長さになるのでいったん投稿です。
次回からウワサ戦頑張ります。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。