新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件 作:オーバードライヴ
「はぁ……はぁ……」
環いろはは上がった息を整える。調整屋から走り出して十数分。夜も早い時間帯だというのに、この辺りはだれも人の姿がなく、気配すら感じない。
「また……待ち伏せされている……?」
そんなことを考えるも、仕方のないことだ。つばを飲んで、乾いた喉を引き剥がし、また走り出す。
やはり、あの小さいキュゥべえには何かがあるんだ。
そんな記憶ばかりが頭を持ち上げる。夢に出てくる女の子のことが浮かぶ度にその思いだけが強くなる。きっと私はおかしくなってしまったのだ。彼女のことを小さいキュゥべえに聞いたところで、解決する保証はどこにもないことを知っている。それでも、小さいキュゥべえに会えばなんとかなるのだという確信ばかりが強くなる。
そして、あの小さいキュゥべえはあの魔女の結界にいたのだ。
そう思えば、この状況は好都合だ。魔女の気配を追うには人気が少ない方が追いやすい。決して反応が強くなるとかではないものの、遠くまで見通しつつ、最短距離で追いつける。
「それでも急がないと……また見逃したら、次会えるのがいつになるのかわからないんだから……」
そう言いつつ大きな通りから路地へと飛び込む。確かこの道は陽奈たちと調整屋に向かう時に逆向きで通った。となればまだ道はつながっているはずだ。
「――――やっぱり、まだ帰っていないだろうと思ったけど、まだこの街で活動するつもりなのね。少し止まりなさい」
そんなことを言う女性が路地の奥からいろはの前に現れて、とっさに足を止める。
「あなたは……いえ、すいません、急いでるんです。通してください!」
横を通り抜けようとしたいろはの目の前に青い槍が刺さり、行く手をふさいだ。
「止まりなさい、と言ったはずよ」
「やっぱり、あの結界の中で……」
古く端が黒ずんだ蛍光灯の元だと濃紺にも見える黒髪を揺らすその女性の姿は、さっきまでのノースリーブから一変し、青いドレスに胸から上の部分だけ騎士の甲冑をつけたような服装となっていた。路地の壁に半分ほど埋まった穂先を見て、もう少し早く踏み込んでいたらどうなったのかを考えようとしてやめる。
「そう、覚えてるなら話が早いわ。邪魔が入ったおかげで遅くなったけど。今なら心置きなく、あなたを町から追い出せる」
「追い出すって……どうしてですか」
「あの程度の使い魔相手に醜態をさらすようだと、この街ではあっという間に魔女の餌食だからよ。……あなたのためとは言わないけれど、出ていかないとあなた、死ぬわ」
そういう目は、どこか寂しそうに見えて、いろはは言葉を選ぶ。ここで時間を取られるわけにはいかない。
「……わたしは、目的があって神浜に来ているんです。帰りません」
「目的を果たす前に死にたいの?」
「調整屋さんでも調整してもらいました。もう、大丈夫です」
「コメットのお節介ね。あそこなら下手に魔女に喰わせることもないだろうと思って見逃したけど、見当はずれだったかしらね……なら、こうしましょう。私を倒せたら、認めてあげる」
「……。」
左手のリングをなぞると、いろはの姿が魔法少女としてのそれに変わる。左手に現れたボウガンを見た女性が、一瞬驚いた顔をした。
「あなた、気が弱そうに見えて結構、頑固なのね……」
いろはが左手を振り上げるのと、女性の持つ槍が音を立てたのはほぼ同時、いろはが放った矢は明後日の方向に飛びぬけた。壁に刺さった槍を軸にして体を振り上げた女性の足がいろはの腕を蹴り上げたのだ。
そのまま槍を乗り越えるように一回転した女性は、姿勢が崩れたいろはの横腹を壁から槍を引き抜く動きそのまま横に薙ぐ。刃筋を立てていない分衝撃は軽減されているが、無防備な姿勢ではそのまま弾き飛ばされるしかない。
「きゃあっ」
「ほら、仕掛けたのはそちらなんだから、しゃんとしなさい、しゃんと」
引き抜いた槍を投擲する姿勢に入る女性。したたかに肩を路地の反対の壁に打ち付けたいろはは痛みに右目を閉じつつも首をひねって回避する。フードの一部が槍に切り裂かれる。耳元で布が切り裂かれる音がするが、それだけだ。実害はない。
魔力の矢を形成し、放つ。女性はそれよりも早く懐に突っ込んでくる。女性の右手が握られるのが見える。
「――――っ!」
「遅い」
殴られる。とっさにおなかを守ろうと腕を下げたいろは。衝撃は足首に走った。
(フェイント……っ! この人、強いっ!)
飛んできたのは蹴りだったのだ。バランスを再び崩す。何とか前に飛び出して地面にダイブ。そのまま転がるようにして距離を取る。あそこでうずくまっても次に飛んでくるのは槍だけだ。投げた槍を回収する音が聞こえる。ズキンと痛む足首を庇いつつ左腕を伸ばした直後、目の前に槍が突き出された。瞼に触れそうな位置に穂先が飛び、止まる。今の足では下手に立つと危険だ。片膝を立てた姿勢で、蛍光灯を背に黒抜きとなったその女性の顔を見上げる。
「ほら、付け焼き刃だとどうにもならない」
「……それでも、私は探さなきゃいけないんです」
「それは私にすら勝てなくても、魔女に喰われて死んでしまうリスクと天秤にかけてでもやるべきこと? 命よりも大切なこと?」
半歩横に動こうとして、その動きを穂先が正確に追ってくる。
「……わかりません。それでも、あの子に会って、確かめなきゃいけないことがあるんです」
そう言って穂先の向こうの女性の瞳を見つめ返す。
「あの子?」
「キュゥべえに会って確かめなきゃいけないんです。願いすらも忘れて、知らないはずの子の記憶のある、私が、だれなのか。この記憶はなんなのか、確かめるまで戻れないんです。あの、小さいキュゥべえに……!」
そう言うとすっと女性の目が細められた。
「やっぱり、あなたは近づけるのね。小さいキュゥべえに」
「え?」
「それでも、いい加減にあきらめ――――――」
「――――――いろはちゃん!」
いろはの耳に、名前を呼ぶ声が響くと同時、槍の穂先が宙を舞った。槍の中ほどに拳をぶつけて強引に槍を叩き折ったのだと、いろはが気付いた時にはその影が追撃を加えんと女性に向かって飛び込んだ。
「ちっ!」
高速で突き出された拳を折れたままの槍で横にそらした女性。影は腕を取られる前に引き戻し、いったん距離を取った。
「ひ、陽奈ちゃん!?」
「よわいものいじめはよくないよ! やちよさん!」
白い鉢巻に袖の無い青いジャケット、手元にはメリケンサックとでも呼べばいいのだろうか。拳にはめて殴りつけるための金属らしき四角形の塊が付いている。パチリと音がしてその打面から青く小さい稲光が飛び出るのをいろはが驚いてみていると、横にすとんともう一人飛び降りてくる。そのまま白い影に肩を触れられたとたんに、痛みがどこかに消えていく。
「瑞波ちゃん……」
彼女はにこりと微笑みかけてから、前へと視線を戻した。
「コメットの仲里さんと西海さんね」
「『
「おばっ……! 北条さんの秘蔵っ子だから大目に見てたけど、さすがに看過できないわよそれは……」
槍を再生させ、構え直す女性。陽奈がメリケンサックを正面に、まるでボクシングでもするかのように構え直した。
「――――はい、そこまでにしておこうか。ここで彼女と打ち合っても魔力がもったいない。それにヒナ、わざと怒らせようとしたりしないの。そっちも
変身もせずに暗闇からゆらりと現れた影に名前を呼ばれた女性――七海やちよは表情を変えずに振り返る。
「北条更紗、どういうつもり?」
「それはこっちのセリフだよ。神浜の西に6年近く君臨する七海やちよともあろう人が、こんな路地裏で追剥ぎの真似事? 追剥ぎして絵になるのはクソでかい羅生門の真下ぐらいなものだよ」
「そーだそーだ! 弱いモノいじめは卑怯者のすることだぞー!」
陽奈にも野次を入れられるころになって、ももことかえでが追いついてきた。
「やっぱり、やちよさんアンタ……!」
「……いい加減、誤解されるのも気分の良いものじゃないわね」
そう言って一度変身を解くやちよ。北条がなにか合図を送ると、陽奈と瑞波が変身を解除した。それに合わせるようにいろはも変身をやめ、いつもの制服姿に戻った。
「わたしはこの街に無駄な死体を増やしたくない。それだけよ」
「よく言うよ。大方、魔女の数が減るからだろ? 町に魔法少女が増えりゃ、個人の取り分も減るからな。だから、調整屋も紹介しないで力業で追い出そうとしてる」
ももこはそう啖呵を切るが、やちよはどこ吹く風だ。
「ももこはケガの処理すらほかのチームに渡したのだから、口を出す資格はないわ」
「そうはいかない。そっちのいろはちゃんには、かえでを助けてもらった恩義ってものがある。ソロにこだわるやちよさんには、ちょーっとわからないだろうけどね、チームで支えてあげればどんな子でも活躍の場は作れる」
「ももこほどの熱は籠めないけど、今回ばかりは七海さんの旗色が悪いよ。……なぁ七海さん」
北条はそう言って笑って見せる。
「妥協点を探すべきだと思うんだけどさ、死体を増やさなければいいんでしょう?」
「……えぇ、北条さんがずっとそばについているとでも言う気かしら」
「まさか、そんなことはできっこない。ただ、七海さんが一方的に攻撃して実力不足というにはあまりに問題があるってだけ。対人戦闘に慣れているかどうかは魔女討伐の腕には関係ないからね。……ここは公平に魔女を倒す能力で見るべきだと思うけど?」
「……さっきの魔女のリベンジということかしら」
「まぁこの人数ならまず保険としては適切だろうし、安全に留意して実力を測れると思うけど?」
それに笑ったのはももこだ。
「よっし、そうと決まれば追跡だな」
「あの……私は別に……実力を認めてもらわなくても……」
遠慮がちに片手を上げつついろはがそう言うがいろはと強引に肩を組んだももこが耳打ちする。
「それでこの堅物が認めてくれるっていうなら安いもんさ。それに、小さいキュゥべえが見つかったからって、謎が消えると決まったわけじゃないでしょ? だったら少しでも材料は多い方がいい。ここは乗っとけ」
「うぅ……はい、わかりました……」
「それじゃ、決まりね」
やちよがそう言ってまとめる。北条のほうを睨んだ。
「それで、審判は誰がするの?」
「当然七海さんでしょ。使い魔とかの露払いはこっちでやっとく。結界の最深部で魔女相手にお嬢さんの動きを見る。それで文句ないでしょ? タイムリミットはももこが我慢できなくなるまで。それでどう?」
「アタシはストップウォッチか」
不満げにそういうももこに北条は肩をすくめた。
「だって、年長者組で一番手出しするのが早いのがももこだろうから。ももこが我慢できなくなったときが安全じゃなくなる潮時でしょ。ヒナとミズとかえでちゃんで、外周の使い魔を押さえてもらいつつ、私はその中間でのんびり見物させてもらう」
「うわ、一人で楽する気か?」
ももこのあきれたような声に、ニシシとわざとらしい笑い声をあげて陽奈が側に寄る。
「やっぱりしゃちょー最近バテてるんじゃないの?」
「ヒナ、紅茶の茶葉買うのやめようかな」
「しゃちょーは若くてまだまだ現役です!」
「よろしい」
そんなやりとりに一番の当事者であるいろはは置いていかれ気味だ。
「あの……いろはさん」
「かえでちゃん?」
いろはの袖を少し引いたかえでが心配そうに彼女を見る。
「大丈夫……? なんだか少し顔色悪いよ」
「大丈夫……ちょっと、驚いただけ」
「驚いた?」
かえでが小首をかしげる。路地の切れかけた蛍光灯に照らされ、先導する年長の魔法少女たちを見ながら、いろはは続ける。
「誰かと一緒に戦うとか、ほかの魔法少女と戦うなんて今日が初めてだったから……、すごく新鮮というか……」
「やちよさんに襲われたのに?」
「別に襲いたくて襲ったわけじゃないわ」
そうぴしゃりと言われ、かえではいろはを盾にする位置にさっと隠れる。
「言ったでしょう。私はこの街で無駄な死を迎える人を減らしたいだけよ……。ついたわ」
目の前に結界の入り口が見える。頭の後ろで指を組んだももこ。
「思ったより近かったとはいえ、ずいぶんと寂しいところに身を潜めてるもんだな」
「こんなに魔法少女が大挙してやってきたら逃げたくもなるわよ」
やちよはそう言って、周囲を見回す。
「それで、北条さん。どうする気?」
「どうするも何も、みんなで入って手下を潰しつつ何とかする以外にないんじゃない? 出たとこ勝負になりがちだけど、一番槍は悪いがコメットが取らせてもらおうかな。ヒナ、私と一緒に先鋒だ。スイトがいないから索敵範囲が狭いことに留意。勝手に突っ込んで戻れないとかないようにね」
「りょうかいっ!」
「ミズ、手下の遠距離攻撃に警戒しつつ、後衛のサポート。いつもより人が多い。場合によってはグリーフシードも使っていいから」
北条が投げて渡したグリーフシードを両手でキャッチした瑞波が親指を立てて了解を伝える。
「ももことかえでちゃん、あとお嬢さんは適宜周囲の掃討をお願い。相手の第一波はこっちで叩いて勢いを削いどくから、落ち着いて構えてて大丈夫。特にかえでちゃんは落ち着いてね」
「は、はいっ!」
慌てて背を伸ばすかえで。それを見て少し微笑んだやちよが、すぐに表情を消した。
「それで、私はなにを?」
「七海さんならどこをどうやっても生き残るでしょ? 動きたいように動いて。こっちが合わせる」
「そう……」
「不満?」
「いいえ。こっちも気が楽だわ。好きにやらせてもらうわよ」
七海が一足先に青いドレスへと姿を変える。
「それじゃ、楽しいピクニックと行こうか」
魔女の結界が、開いた。
やちよさんの強さを書きたい。
連続投稿はいったんここまで、週末には出せるといいなぁ……