新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件 作:オーバードライヴ
「スプリント勝負だとさすがにコメットは速いわね」
そんなことを口にしながら、電車ごっこに忙しい使い魔を払いのけ、魔女のねぐら、結界の最深部へと飛び込む。
北条更紗率いる『コメット・カンパニー』は、伊達に
彼女たちが結界に飛び込むと、あっという間に彗星の尾のように安全地帯ができていくと『コメット・カンパニー』の
いずれにせよ、これだけ短時間で魔女結界に風穴を開けてくるとは、驚くを通り越して呆れるほどだ。『北条更紗は最近魔力切れでバテているんじゃないか』と東仲里陽奈がからかっていたが、それは当たり前の話だ。あんな無茶を通せば普通なら魔女と対面する前に魔力が尽きる。それでもそれで押し通せるのは、今回あの外から来た少女が倒すものという信頼か、はたまた大人数で魔女を囲んでいるという慢心か。
「……ただの僻みね、これは」
そう言いつつ飛び込んだ暗闇に目をこらしつつ先へと進む。戦闘音が続いているとなれば、あの少女は少なくともまだ死んではいないらしい。
「あ! 見つけた! やちよさん!」
「……なに。足止めに来たの?」
影の上から飛び降りてきた十咎ももこに声をかけられ、盛大に眉をしかめつつ盛大に溜息をついた。
「あの子の実力をみるんじゃないの?」
「事情が変わった。小さいキュゥべえがいろはちゃんを追いかけてる」
その言葉に虚を突かれたような気になった。
「……なるほど、あの子が小さいキュゥべえを追っていたって言ってたけど、あながち間違いじゃあなかったのね」
「キュゥべえの方はいま、陽奈ちゃんと瑞波ちゃんがマークしてる。うちのかえでと更紗さんが後方でバックアップしつつ最深部へ降下中」
「つまり私たちであの子の安全を確保しろ、そういうことね」
「話が早い」
ももこはそう言い残して最深部に向けて飛び込んでいく。砂場の魔女の結界はジャングルジムの奥底にある。……正確には、魔女の目の前に降りてきた
「まだ一人で戦う気なのかよ」
「……もうあなたには関係のないことよ」
そう言いつつ、追い越す。彼女と話したところで、理解してもらえるとは思っていないし、理解してもらいたいとも思わない。……少なくとも、同情されるのはごめんだ。
「あの子たち、やたらと急いで降りていったのね」
横のジャングルジムが無理やりねじ切られたように歪んでいるのを見て、そうつぶやく。
「陽奈ちゃんどこまでもまっすぐだからね……あきら君に弟子入りしてから拳に磨きがかかったみたいだよ」
「そう」
「……話題を振ったのはそっちでしょ」
「情報の共有以上のことをする気はないわ……そろそろ
直後に突風にあおられる。とっさに足場につかまり吹き飛ばされるのをこらえる。
「な……っ!」
強烈な白い光が足元……魔女の側から吹き上がる。
「魔女の攻撃!?」
「いいえ……これは……!」
驚くももこの推測を否定しつつその光を凝視する。あの魔女はこんな攻撃手段は持っていなかったはず。その大きな光の束がはるか頭上で収束し、それが強烈なエネルギーを結界の奥底へと叩き付ける。
「いろはちゃんの……、魔法……?」
茫然とした様子のももこを置いて、その光が開けた穴へと飛び込む。その先で待っていたのは、地面に倒れている件の少女。魔女の姿は、ない。
「モキュ!」
「……!」
その少女との間に割って入って警戒したような声を上げるその声に、ソレを見つめる。
「わたしが数か月かけて探しても尻尾のひとつも見せなかったのに、こうも簡単に現れるとはね。その子がどうしてもお気に入りみたいね。でも、あんな魔力の残存を気にしないような攻撃をこの子に強いるような真似は得策ではないわ」
そう言い、槍をふるう。あの攻撃は魔女のものではない。そしてコメット・カンパニーの面々が手を出した可能性は考えづらい。そうなれば残る可能性は一つだけといってよいだろう。気を失って結界の崩壊に巻き込まれてもおかしくないところまで魔力を使い果たして倒れている外からの少女の攻撃だけ。
先ほどの攻撃は異常だった。それを引き起こさせたのが、この小さいキュゥべえなら。
「それを私は許すことができないのよ」
槍を振り上げる。その時、足元でガラスが弾ける音がした。瞬間的に真っ白な煙が周囲を満たす。
「ちっ……」
煙を払いのけたところで、少女と小さいキュゥべえは、忽然と姿を消していた。
魔女の結界の崩壊が始まった。長居すれば崩壊に巻き込まれる。
「タイムアウト……ね」
やちよはどこか恨めしそうに頭上を見上げ、そうつぶやいた。
「――――――で、当の本人にお嬢さんの合否を聞かずに、ミズの煙幕カクテル投げつけて脱出してきた、と」
「だってだってだって! あのおばさんこの小さいキュゥべえに攻撃しようとしてたんだよ!」
聞き覚えのあるやかましい声にいろはが重たい瞼を開ける。言葉は耳に入ってくるが、それでも意味として理解することはできない。言葉が聞いた端から抜けていく。
「あのねぇ、なんども言ったかもしれないけど、七海さんは敵じゃない。やり方は乱暴だし、ちょっと高飛車だし、本人も友達作りたがらないタイプなのは認めるよ? それでも七海さんは――――」
「――――最後は味方になってくれる人? 聞き飽きたよ、それ。しゃちょー、あのおばさんいっつもソロで戦っててさ、ほかの人の味方になってくれることないじゃん!」
そんな言い合いを聞きながらゆっくりと体を起こす。
「あ、お姫様のお目覚めよぉ」
そっと背中に当てられた暖かい手に顔を上げる。
「みたまさん……ということは、ここは調整屋さん……?」
「はぁい、大正解。特大の魔法を撃ちこんで倒れてたっていうから再調整も必要かなって、ももこたちが連れてきてくれてたのよ」
なんだか今日は倒れてばっかりだ。そんなことを思いながら診察台に腰かける。
「いろはちゃん……大丈夫?」
「かえでちゃん……心配かけた、よね」
「陽奈ちゃんたちに担がれて出てくるんだもん……」
「そうだったんだ……」
しっかりと体を起こすと足元には揃えられたローファーが見える。手を取られる感覚。少し体が楽になる。
「ミズ、どう?」
陽奈の声がする、そのころになって大分視界のピントがあってくる。タブレットの少しまぶしい画面に『大丈夫』という文字が浮かぶのが見える。重たい頭を少し振ると、白い影が膝に飛び乗ってくる。
「キュゥべえ……」
「相当懐かれたのね。こんな小さい個体がいるなんて思わなかったけど、小さいキュゥべえって本当にいたのね」
まじまじと小さいキュゥべえを見つめるみたま。その後ろから金髪がひょっこりと覗く。
「いろはちゃん、大丈夫? 魔女をワンパンしたって瑞波ちゃんたちから聞いたけど」
「ももこさん……、私……」
「ど、どうした!? そんな泣くほど嫌だったか!?」
そんなバッドタイミングだった!? と慌てるももこに首を横に振ってこたえるいろは。
「違うんです。……思い出したんです、私。キュゥべえに触ったときに、私の願いがなんだったのか、思い出したんです」
「……本当かい、お嬢さん」
ソファーに座ったまま顔だけ向けてくる北条の声。いろははそれに頷いて答える。
「私には、妹がいたんです。妹を助けて、妹の病気を治して。それが私の願いだったんです。……でも、ういは……私の妹のこと、今の今まで忘れてた」
「妹の存在自体を忘れていた?」
みたまはそう言って顎に人差し指を当てて聞き返す。
「はい……ずっと一緒だったのに。この間まで、同じ屋根の下で一緒に寝て、ご飯も食べたのに。でもみんな、みんな消えてたんです。なかったことになってるんです。家に帰っても、ういが居ないのが普通になってて、お父さんとお母さんと3人でいつも通り暮らしてた。あの子がいないのに、それが当たり前みたいになってた!」
「……それが、お嬢さんの言っていた『知らない女の子』の正体ってわけか」
北条の声に俯くいろは。ももこが心配そうに声をかける。
「いろはちゃん……」
「……こんなに大切だったのに、こんなに暖かかったのに、それを覚えていられなかったんです」
「それって魔女の仕業、なのかな?」
陽奈がそう言うが、ももこが首を横に振った。
「そんな魔女、聞いたことない。それに、なんでそれをあの魔女との戦闘中に思い出したんだ」
「たぶん……この子のおかげです」
小さいキュゥべえを抱きしめていろはは絞り出すようにそう言った。
「この子に触れたとき、思い出すことができたんです。なんで部屋の半分が空っぽだったのか、なんで私の写真の左側には半分かけたような空間があったのか、なんでわたしは前から神浜に来てたのか。全部思い出したんです。そこにはういがいたんです」
「……それが、そのキュゥべえに植え付けられた偽の記憶だとは思わないの?」
するりと入ってきた声に、陽奈が臨戦態勢に入る。
「……七海さん、部屋に入るときはノックぐらいしない?」
「あら、北条さんがここの家主だって知らなかったわ」
そう言って笑うやちよ。いろはに向けた視線に陽奈が割り込む。
「ヒナ、やめなさい」
「でも」
「
北条が無理やり黙らせる。
「誰かの気持ちや、誰かへの質問は勝手に周囲が奪ってはいけないよ。……今の七海さんの問いに答えられるのは、お嬢さんだけだよ」
そう言って北条はいろはに笑いかける。
「私は……。それでも、ういがいたと信じます。たとえ、それが幻だったとしても、ういがいない世界より、ういがいた世界が、きっと私が生きていたい世界なんです」
「……それは、あなたが命をかけてでも、守るべきもの?」
「はい」
いろはは即答し、診察台から降りる。ローファーが冷たい床を叩き、コツコツと音を立てた。
「私はあの子を助けるために魔法少女になったんです。私は“環うい”という妹がいる“環いろは”なんです。どうしてういのことを誰も覚えていられないのか、今、ういはどこにいるのか……私は探そうと思っています。また、神浜に来ます」
「どうして神浜なのか聞いてもいいかしら」
片手を腰に当て、品定めをするような目を向けるやちよ。
「この神浜市のどこかに手がかりがあるはずなんです。ういはこの街の病院に入院していました。私が
そう言ってまっすぐやちよを見据えるいろは。
「……ひとつだけ覚えておきなさい。この街は今、異常な状態にある。魔女の出現率の明らかな増加、いつものキュゥべえが姿を消し、その小さいキュゥべえしか現れなくなった。魔法少女の損耗も激しい。そこの調整屋がいるからこそ、なんとか全滅を防げているような危うい状況にある。そこにあなたのような
「あー、それならそこまで影響ないと思うよ」
ひらひらと手を振りながら北条が会話に割り込む。
「当面の間そっちのキュゥべえもまとめて、そっちのお嬢さんの件は『コメット・カンパニー』が預かろうと思ってる。もっともそっちのお嬢さんが許してくれればだけどさ」
「正気?」
やちよにそう問われ、瑞波がむっとした表情をするが、北条は表情一つ変えなかった。
「利害の一致と言ってほしいね。小さいキュゥべえの目撃に前後して今の状況が起こっていると仮定すれば、いまお嬢さんが抱いているキュゥべえは、現状で最も
北条がそう言って立ち上がり、いろはの横に立ち、彼女の肩に手を置いた。
「お嬢さんは妹さんを探す。私たちは神浜の異常を追う。互いの鍵が今、小さいキュゥべえに集約されているこの状況だ。このままキュゥべえを消したところで情報は集まらない。お嬢さんの妹探しに協力する代わりに、神浜の異常の確認の情報収取にも協力してもらう。お嬢さん、そんな交換条件でどう? お姉さんたちと一緒に魔女退治しない?」
「え、えっと……、ういを探すのを、手伝ってくれるんですか?」
「一人でやるより、チームでやった方が早いしね。ヒナ、ミズ、ふたりは?」
「当然手伝うよっ!」
右手を上げつつ即答する陽奈。瑞波も頷いている。
「……陽奈ちゃん、瑞波ちゃん……。私からもお願いしたいです」
「それじゃ、決まりだね。これで文句はないでしょ? 七海さん」
「……それでうまくいけばよいのだけれど」
「自分のケツは自分で拭くさ」
やちよはそれを聞いて肩をすくめて調整屋を出ていく。陽奈が大きく溜息をついた。
「やっぱり、やちよさん嫌いだ」
「ま、好きになれとはいわないけどさ」
北条がそう言って肩をすくめる。
「というわけで、七海さんから許可を取りつけたわけだ。これで少なくとも『西』での活動は担保されたね。おめでとう、妹さん探しの第一歩だ」
「北条さんは……信じてくれるんですか、ういがいたこと……」
「よくわからないことは面白そうな方を信じるのが信条なんだ。それに、仲間が増えることはいいことだからね」
そう言って北条はいろはの前に回り込んだ。
「ようこそ、環いろはさん。私たち『コメット・カンパニー』は君を歓迎しよう」
私の悪い癖、セリフの長回しが起きてますが、やっぱりこういうの書くの楽しいんですよね。
Chap.001、もう少しだけ続きます。