新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件   作:オーバードライヴ

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Chap.001最終話です。よろしくお願いいたします。


§8 しかして、彼は動きだす

 

 

 

 部屋の半分が空っぽになっている。その空間をベッドの中からぼんやりと眺めて、環いろははやっと、この状況の異常さを理解した。

 

(……ここにいたんだね、うい)

 

 ベッドの中からゆっくりと手を伸ばしてみる。何もない空間、当たり前だが手は空を切った。それでも、今だったらそこに何があったのかわかる。ぽっかりと開いた空間には、妹がいたのだ。

 

 いつからあの子はいなかった。

 いつからあの子を忘れていた。

 

 明日から調べると決めて、毛布をかぶってはみたものの、寝付くことはできなかった。身体はくたくたで休みたがっているのに、それでも頭が休ませてくれない。

 

「……うい」

 

 口に出す度にあの子がいたという確信と、なぜ忘れてしまっていたのかという疑念と後悔が沸き立つ。窓から入る月影が雲で揺れている。その影の向こうに、何かの影を探す。

 

「……キュゥべえ、いるんでしょ」

「こんばんは、環いろは。君から呼ぶなんて珍しいね」

 

 窓枠の側、影が現れる。

 

「……私ね、思い出したの。魔法少女になった理由」

「これまで忘れてたっていうのかい?」

 

 それに頷いて答える。

 

「私にはね、妹がいるの。少なくとも、いたはずなの。環ういっていう妹がいて、その子の病気を治すために、私は魔法少女になった。ねぇ、キュゥべえ。ういはどうして消えてしまったんだろう。キュゥべえは何か知らない?」

「僕は環ういという存在を知らない。すくなくとも僕の知っている環いろはには妹なんていなかったはずなんだ。その妹は、本当に実在したのかい?」

「……私の心の中に空いた穴に、ういの形がちょうどはまるの。この部屋だってそうだよ。この半分にはね、ういがいたはずなの」

「生きている人間一人を消すには、それこそ魔法少女の願いに匹敵する願いや呪いが必要になる。人一人の因果を書き換えるどころか、消し去るなんてとても大きな願いだ。……そこまでしてその『環うい』という存在を消さなければならないほど、その子は誰かに恨まれたり迷惑がられたりしたのかい?」

「そんなわけないっ!!」

 

 反射的に声を上げてしまった。身体を起こし、窓の方を睨む。月明かりでくりぬかれた影の真ん中で、赤いガラス玉のような目がそっと彼女を見ていた。

 

「ういは……ういはそんな子じゃない。みんな、みんなあの子のことが大好きだったはず。まっすぐで、誰かのために泣いたり、怒ったりできる子で……、病気で自分の体のことだけで精一杯のはずだったのに、それでも、ういは……ういは……」

「君の中にある『環うい』との記憶は、そうなっているんだね。そうだとしても、事実として、この世界でその人物がいたことは観測できない。もちろん、何らかの理由で感知できなくなっている可能性も考えられるよ。それでもそのレアケースより、君の記憶が偽物であるほうがよほど可能性が高いと言えるだろう」

 

 彼の言うことが理解できないわけではない。それでも

 

「私の記憶が間違っているとしても、私はういがいたことを信じるよ。私はういのお姉ちゃんだから」

 

 それでも、私があの子の信じなくて、だれがあの子を信じていられるのだろう。あの子のことをほかの誰も覚えていないかもしれないのに。

 

「……そうかい。なら僕が止めるのもルール違反だね。環いろは、どうやってその『環うい』を探すんだい? 宛てはあるのかい」

「まずは神浜に行ってみようかなとは思ってる」

「神浜市に?」

「あそこで私の記憶が戻ってきたの。それに……あの街にはあの子がいた病院があるはずなの」

「……」

 

 キュゥべえはしばらく微動だにしないまま、それを聞いていた。

 

「……キュゥべえ?」

「それがいいかもしれないね。あの街はいまいろいろなことが起こっているらしい。人一人一人消えてもおかしくないかもしれない」

 

 そう言って背を向けるキュゥべえ。

 

「とても興味深い事象だ。一通りことが済んだら妹さんが見つかったのか、神浜で何があったのか聞かせてくれるかい」

「わかった……ありがとうね」

「どうして君がお礼を言うんだい?」

「ううん、何でもない」

 

 突き放した言い方をしているが、キュゥべえは情報をくれた、環ういの情報はきれいさっぱり消え去っている。それがわかっただけでも一歩前進だ。

 

「まったく、わけがわからないよ」

 

 そう言いつつも、キュゥべえは姿を消す。それを見送って、もう一度枕に頭を預け直した。

 

「……待っててね、うい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やぁ、いい夜じゃないか。北条更紗。市外に出るなんて珍しい」

「夜に感慨を持つほどの教養をどこで手に入れたんだい」

 

 大きな橋を渡った直後、北条更紗はかけられた声にそう答えた。手に下げた小さなコンビニエンスストアのロゴが入ったビニール袋がかさりと鳴った。

 

「夜は皆感傷的になるからね。僕にとってもとてもありがたい時間でもあるよ」

「まったく、情緒がないね。……失礼、情緒がないからこそ君たちは数億年前から窮地に立たされ続けているわけか」

「情緒で物事が解決するならぜひ僕も身に着けたいけれどね。それで、北条更紗。君は僕に用があってわざわざ神浜市から出てきたんだろう?」

 

 白い四つ足が吊り橋の手すりから飛び降り、北条と並んで進み始める。

 

「君たちに愚痴りたくて出てきたって言ったらどうする?」

「それが北条更紗の利益になるなら話を聞くよ」

「……冗談という非効率的なコミュニケーションをもう少し覚えた方がいいな」

 

 そう諭しつつ、北条更紗は人気のない河川敷へと降りていく。白い四つ足の影はそのあとを追う。

 

「いくつか聞きたいことがある。たぶん何人かから同じ質問を受けているだろうし、同じ報告を受けているだろうけど、答えてくれるかい?」

「もちろんさ。神浜市内の状況について、僕たちも情報が欲しいんだ」

「……やっぱり、神浜は今、君たちの埒外に置かれてるっていうことでいいんだね」

 

 北条はそう言って河川敷の石段に腰かける。その横に()――性別という概念が存在すればだが――がやってきて並ぶと、感情の浮かばない赤い目を北条に向けた。

 

「今はなぜか、僕があの中に入ることはできないみたいだね」

「原因は?」

「まだわからない。どうやら結界のようなものが張られているようだ」

「より詳しく。まさか君たちが何もせず、ただ指をくわえて見ていたわけじゃないだろう?」

 

 そう言いつつ、ビニール袋の中から缶に入ったコーラを取り出し、プルタブを引いた。カシュと小気味よい音とともに、小さなしぶきが空に舞い、対岸の明かりを乱反射して足元に消えた。

 

「もちろん。でもわかったことはあまりないんだ。わかったのは、神浜市に足を踏み入れると、踏み入れた個体が意味消失することぐらいだ」

「意味消失? どういう意味?」

 

 コーラに口をつけつつ問う。

 

「そのままの意味だよ。僕が僕でなくなるのさ。わかりやすいたとえだと“神隠し”とでもいうかな」

「へぇ……」

「それで、北条更紗、今神浜の中はどうなっているんだい?」

「魔女が集まっててみんなてんてこ舞いを踊ってるよ。おかげでグリーフシードのストックはできてるけど、あまりいい状況とは言えない。身体はもっても精神的にもたない子も出てくるだろう……と、言っても君たちにとってはそれが狙いかい、孵卵器(インキュベーター)

 

 ()を愛称ではない呼び方で呼ぶと彼は神浜の街並みに目を向ける。

 

「その認識は間違いだ。この宇宙を救うことを使命とする僕たちが、観測もできない状況で物事が進むことをよしとすると君は考えるのかい?」

「それはそうだね。だが、こんな大それた物事を進められる存在を、君たちぐらいしか知らないんだよ」

「なるほど、北条更紗は僕が叶えた魔法少女の願い事のせいでこうなっていると考えているんだね?」

 

 とんとん拍子で会話が進む。その中で北条は本題を切り出した。

 

「……環いろは。知っているね?」

「魔法少女の一人だね。でも神浜には縁はなかったはずだけど」

「そう、縁がなかったはずの人間だ。だが、彼女が神浜に出入りを始めた。それも一部記憶が混濁しているような状態だ。……彼女の願い事、一体全体なんだったんだい? まさか君たちが把握できてないわけではないだろう?」

 

 即答されるものと思っていた北条は、返ってこない答えに眉をひそめた。

 

「……そのまさか、かい?」

「僕たちとしても理解に苦しむ事象だ」

「君たちと契約する以外に魔法少女となれる手段は?」

「そんなものは存在しない。少なくとも僕たち以外に契約のプロトコールを知る存在はいないはずだよ」

「では、なぜこんなことが起こる?」

 

 キュゥべえはそっと空を見上げた。

 

「君が懸念している通りなんじゃないかな、北条更紗。現時点で一番あり得る可能性は、誰かが環いろはの記憶を消すことを願った、もしくはなにかの願いの副産物として彼女の記憶が失われた。自分で自分の記憶を消すことを願ったとしたら、環いろははそれを死ぬまで思い出すことはなかっただろう」

「つまり、環いろは以外の誰かが、環いろはの記憶に関わる何かの因果を書き換えることを願った?」

「環いろははイレギュラーだ。でも今のイレギュラーの中心ではないと思うよ」

 

 ピントのずれたような答えだが、答えにはなっている。

 

「それは孵卵器(インキュベーター)としての感想?」

「かなり確信に近い推測だね」

「その根拠を詳しく」

「環いろはの行動はここ3カ月については僕も把握できている。それはすなわち、神浜から僕が追い出されたあとから欠けることなく追いかけられている。今日彼女が神浜に入るまでは」

 

 その答えに北条は少し考えこむ。

 

「……つまり、この三ヵ月、今日までの事態は彼女から切り離された状況で進行した?」

「そのはずだ」

「……では、あの中にいた小さいキュゥべえは何者だ?」

「小さい僕かい?」

 

 小首をかしげてそう聞くキュゥべえ。

 

「ちょうど君たちの幼生体のような見た目の個体だ。環いろはにとても懐いている。人語を解するようだが発話はない。君と入れ替わるように神浜の中で存在している」

「なるほどね。初めて聞く現象だ。僕たちに小さい個体なんてものは存在しないはずだよ。意味消失した個体がそうなっているのだとは思うけれど、現れているのは一体だけかい?」

「おそらく。まだ確認できたのが一体というだけだけどね。どうやら神浜の外には出たがらないみたいでね、仲間に預けてある」

「僕たちが結界に挑んだ数は128回、小さい個体が意味消失した個体の成れの果てだと仮定すると、128体はいるはずなんだけど」

「あー……それはなさそうだ。明らかに目撃件数が合わない」

 

 北条は空になった缶を潰しながらキュゥべえの見解を否定する。

 

「だとしたら別の要因がありそうだ」

「別の要因……ねぇ……」

 

 北条はそう言って頬杖をつくが、それでも答えが出てくるわけでもない。

 

「……ま、今は追いかけるしかないか。ほら、キュゥべえ」

 

 北条はレジ袋の中から小さな黒い物体を放り投げる。それを背中でぱくっとキャッチしたキュゥべえは北条を見る。

 

「できれば君とは協力関係を築いておきたいんだけれども、また情報をくれるかい?」

「さぁ、どうだか。君たちは残酷なまでに公平(フェア)だからね、私にとって利益になるなら協力するし、メリットがなければ何もしない。不利益があるなら邪魔をする。これまで通りドライにいこうよ」

 

 北条はそう言って立ち上がる。

 

「……ひとつだけ聞かせてくれるかい。北条更紗」

「その対価にもう一個こちらからの質問を追加することになるかもだけど、どうぞ」

 

 まぶしい摩天楼が遠くに見える。夜の雲に反射して仄明るく光る空を見上げたキュゥべえ。

 

「神浜で魔女が増えているということは、魔法少女は減ったかい?」

「心配には及ばない。少なくとも私が把握できている範囲では魔法少女は健在だ。営業活動は必要ないだろうさ」

 

 そう言ってキュゥべえに背を向ける北条。

 

「それで僕にもう一つ質問をするのかい?」

「質問よりも忠告の方が必要そうだね」

「うん?」

 

 首だけで振り返ったキュゥべえの目に北条の背が映りこむ。

 

「ロジカルなだけだと生き残れないからこそ君たちは私たちの感情を利用する。共存を本当に考えているなら、狂気やトラブルを許容することだ。安定したところから動かすには余分なエネルギーがいるが、最初から不安定なら少しのエネルギーで動かせる。それを君たちは利用して、私たちを魔法少女にした」

「何が言いたいんだい?」

「私たちがしているのは大いなる時間稼ぎだ。そして魔法少女システムを保守運用する君たちはこの時間稼ぎを許容せざるを得ない。少女の不安にただ乗りしているド畜生であり続ける限り、ね」

 

 北条はそう言って、肩をすくめた。

 

「ねぇ、キュゥべえ。誰かの狂気を証明することはできるかい?」

「感情の無い僕には君たちの言う主観に満ちた狂気を、真に理解することはできないだろうね」

「そ。ありがとう。……もし君たちが利用できそうだったら、また話しましょう」

 

 北条はそっけなく答え、もう一度橋を渡る。追いかけられないキュゥべえはそれを見送った。

 

「北条更紗、人が狂気と呼ぶ感情は、君が一番近しいものを持っているんじゃないのかな」

 

 そうわざと聞こえるようにつぶやいた彼が、闇夜に溶けていく。

 

 神浜に夜が来た。




……ということで、はじまりがやっと片付きそうです。

第二章は近日開始できればと思います、よろしくお願いいたします。

感想等はお気軽にどうぞ。

それでは引き続きよろしくお願いいたします。
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