新人魔法少女囲って幼女ハーレム作ろうとしてたらもっとやべぇ奴が転がり込んできた件   作:オーバードライヴ

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春の岬旅のをはりの鴎どり
浮きつつ遠くなりにけるかも
――――三好達治『測量船』より「春の岬」


Chap002. ぜっこう
§1 春の岬


 

――――お姉ちゃん

 

 環いろはのことをそう呼ぶ人は少ない。そして、その声を聞き間違えることなどない。

 

「どうしたの、うい」

 

 お気に入りのピンク色のパジャマが目に入るものだと思っていた。それでも、そこにあったのは、空の病院のベッド。

 

「うい……? うい?」

 

 姿が見えない。どこにもいない。

 

「あの、すいません、2501号室の環ういの家族なんですけど、ういを見ませんでしたか?」

 

 ナースセンターに飛び込む。のっぺらぼうの看護師が首を傾げた。

 

「環ういさんですか? そんな人ここにはいませんけど」

「うそ……」

 

 見えない、触れられない、感じられない、そこにいない。

 

「そんなはずないっ!」

「いえ、この世界に環ういさんはいません。きっと悪い夢でも見ているんでしょう」

「夢なんかじゃない! ういはたしかに入院してたはずなの!」

 

 いない、いない、いない。

 

「お疲れなんでしょう、少し休んでいきましょう。少し休めば環ういなんていなかったってすぐにわかりますよ」

 

 そんなはずがない。あの子は存在した。そうじゃなければ、

 

「私は何のために魔法少女になったの!」

 

 破魔矢で看護師の顔を吹き飛ばす。足元に大量の赤い水たまりができていく。

 

「私は、あの子を救うって決めたの。救うためにこの力を手にしたのに、なのに、ういがいないんじゃ、それじゃ……」

 

 それでは――――私があまりに救われない。

 

「……やっぱり、自分のために祈ったんだね、お姉さま」

「っ! ……灯花ちゃん!?」

 

 血だまりの向こう、ふんわりとしたパジャマ姿の女の子が見える。

 

「お姉さまは救われたかったんだよねー? 救われたいから助けてたのかにゃー?」

 

 女の子はそう言ってくすくすと笑う。赤い血だまりがそのこの足元を飲み込んでいく。

 

「それは……」

「だったらなんで、わたくしたちまで助けてくれなかったのかにゃー?」

 

 ぱしゃり、と女の子が一歩踏み込んでくる。半歩下がろうとして、腰に何かがぶつかった。弾かれるように振り返ると、亜麻色の髪をした女の子が立っている。

 

「ねむ……ちゃん?」

「――――刀を鳥に加へて鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。聲ある者は幸福也、叫ぶ者は幸福也、泣得るものは幸福也、今の所謂詩人は幸福也」

「な、なに?」

「齋藤緑雨の言葉だよ。みんな泣く子には優しいけど、声なくして鬼籍へ入る人には見向きもしないからね」

 

 笑顔で見上げてくるその子は冷たい手を伸ばしてくる。

 

「あの子を見つけられなかったね、お姉さん」

 

 

 

「――――っ!」

 

 跳ね起きた。

 

「……ねむちゃん、灯花ちゃん」

 

 じっとりと汗で濡れて気持ち悪い首筋に触れる。その熱は確かに本物で……不自然に物がない部屋の半分に目を向けた。

 

「見つけてみせるよ、絶対に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開けっ放しのドアをくぐれば、薄暗い店の中はどこか埃と紙の匂いがする。薄暗いのはこの店の商品を傷めないためだ。日光は本の大敵で、ただでさえ古書は痛みの激しいものもあろう。本が本であるためにはたくさんの時間と手間がかかるものなのだ。

 

「いらっしゃ……あ、北条さん」

「や。久しぶりだね、かこちゃんは店番? 偉いね」

「お父さんが買い物に出ているので、その間だけなんですけどね」

 

 レジスターの前で本を読んでいたらしい青味の強い髪を揺らす少女が、どこかふにゃりと笑った。北条は店内の棚を物色し始める。

 

「お父様の買い物って要は買い付けでしょ? 結構な時間かかるんじゃない? 大丈夫? まだ制服ってことは学校帰りでそのまま押し付けられた感じでしょ? 着替えるぐらいの間だけ店番しようか?」

「慣れてますから。これでも『夏目書房』の娘です」

「ははは、お父様もさぞ心強いだろうね」

 

 そんなことを言いつつ、北条が向かうのは国内の近現代文学をまとめた棚だ。ちょうど少女――――夏目かこがいるレジスターから見通せる位置だ。

 

「かこちゃんは最近どう? 変わらない?」

「おかげさまで……っていいんですかね」

「うん?」

 

 背表紙を指でなぞりならも言葉に引っかかりを覚える北条。

 

「最近放課後が忙しくて目が回りそうです」

「あ、やっぱりそっちもそうなんだ」

 

 納得したような、驚いたような色をにじませつつ北条は一冊の本を引き出す。ふちがわずかに傷んだ紙のスリーブから本を取り出し、ペラペラとページをめくる。

 

「……かこちゃんは大丈夫? 疲れてたりとかない?」

「え? あ、はい。私は大丈夫なんですけど……」

「含みのある言い方だね。私『は』ってことはほかの人が大変なように聞こえるけど、ほんとうに大丈夫?」

 

 本をスリーブに戻しつつ、北条は肩をすくめてみせた。かこは店の中に北条以外の人がいないことを確認して小声で口を開いた。

 

「最近、本当に魔女が多いので、なかなか大変で……私たちのチームでも助っ人を頼んだりしたんですけど、あんまりうまくいかなくて……」

「なるほどねー。ななか宅も大変だ。あれだけの情報収集能力と突破力があってもしんどいか」

「それは北条さんところもじゃないんですか? ……お買い上げでよろしいですか?」

「もちろん。今日はこれ買って帰ると決めてたからね」

 

 差し出した本から値札代わりの紙を引き抜き、会計作業を進めていくかこ。

 

「北条さんが日本の文学、それも詩集を買うなんて珍しいですね」

「そうだっけ?」

「いっつも海外の小説とか、古典とかばかり買われるじゃないですか。だから驚いたんです。私も好きなんですよ、三好達治」

「また渋い趣味だこと……」

 

 測量船と書かれた表紙を見て微笑むかこに、どこか苦笑いの北条。

 

「前から手元に置いときたかったんだけど、昨日無性に読みたくなってね。思い切って買うことにしたんだ。ここはちゃんと分類もしっかりしてあって探しやすいしね。それで、おいくら?」

「350円です」

「1,000円でお釣り来る?」

「もちろんです」

 

 財布から二つ折りになった千円札をテーブルに置き、北条は小さく笑った。

 

「これは単純な興味からの質問なんだけど、かこちゃんは三好達治のどこに惹かれたの?」

「うーん、そう言われると難しいですね……どこか、冬の匂いがするところでしょうか。なんだか冷たくて、不安定で、壊れそうで、それでもいろんなものが流れていくような……。そんな言葉に溢れている気がするんです」

「三好達治自体がかなり不安定な生活してたらしいし、そうかもしれないね」

「そういう北条さんは、どうして惹かれたんです?」

「改めてそう言われると難しいですね……」

「もうっ、私の真似ですか?」

「似てなかった?」

 

 北条がおどけてみせれば、くすくすと笑った。千円札を手に取ったかこが、そこからかさりと白い感熱紙が出てくる。

 

「ごめんごめん。レシートが挟まってたみたい」

「大丈夫ですよ。こっちで処分しときましょうか?」

「あ、じゃあお願いしていい?」

「はい、手間でもなんでもないので」

「悪いね、それじゃお願いします」

 

 輪ゴムを掛けられた本を受け取って北条は手をひらひらと振って店を出ようとする。

 

「あ、そうだ。さっきの質問の答えなんだけどさ」

 

 北条がそう言って振り返った。

 

「三好達治は初めての詩集の一番頭に『終わり』を詠んだ人だから、かな」

「……?」

「詩人や作家になりたくてなる人に、まともな人はいない。ならざるを得なかったから詩人になった人ばかりだ。それでも、詩人として生きようとした覚悟が見えるような気がした。それだけ、答えになったかい?」

「えっと……」

「あんまり意味はないから気にしなくていいよ」

 

 それじゃ、またね。そう言って店を出ていく北条を見送ったかこ。しばらくそのまま店の入り口をぼんやりと眺めていたが、レジ台の下に置いていたバックに目を向ける。

 

「……連絡した方がいいよね、きっと」

 

 そっとカバンの中から携帯電話を取り出したかこは、一つの連絡先をタップした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にごめん、いろはお嬢。お待たせしてしまったね。結構用事が長引いちゃって」

「いえ、大丈夫です」

 

 待ってませんからと言わない辺り、本当にいろはをかなり待たせてしまったことは確かだ。北条は謝り倒しながら病院から続く道を歩く。すでに外は夕焼けの時間になっている。

 

「チャットでもらってたけど……病院には入れなかったんだよね」

「はい……いなくなった人の面会をするわけにもいかないので……」

「確かによくよく考えてみれば、そりゃあ断るかぁ……」

 

 人工的に作られた川のせせらぎを聞きつつ丘の上にある病院から続く道を下っていく。

 

「病院以外に手がかりってないの?」

 

 北条の問いに少しだけ考えこむようなしぐさをするいろは。

 

「憶えているとしたら、一緒に入院してた柊ねむちゃんと里見灯花ちゃんじゃないかと思うんですけど、そんな入院患者いないって」

「まぁもしその二人が入院してても、親族でもないし、友人だと証明もできないいろはお嬢には個人情報は渡せなかっただろうね。その柊ねむさんと里見……里見?」

「はい、里見灯花ちゃんです」

「いや、名前はさっきので覚えたんだけど、里見……里見ねぇ……」

 

 顎を撫でながらそんなことを言う北条。

 

「え? なにか知ってるんですか!?」

 

 一気に北条に詰め寄るいろはだが、北条はどこか言いづらそうな雰囲気だ。

 

「えっと、いろはお嬢。今行ってきた病院の名前、覚えてる?」

「里見メディカルセンター……え?」

「どんな子だったかとか、同姓だっただけとかあるから確認はできないけど、もしかしたら法人の理事長のご親族かもね、里見ってそこまで聞かない苗字だし、可能性はあるんじゃない?」

「あ……」

 

 いろははなにかヒントを得たように晴れやかな顔になる。

 

「ま、調べてみればいいとは思うけど、調べられる? 下手するとただのストーカー未遂になりそうだから、ちゃんと相談してよ」

「えっと……あんまりスマホとか慣れてなくて……」

 

 手元のスマホを見つつ不安げな顔をするいろは。実際ここに来るまで、乗換検索に苦戦し逆方向の列車に乗ったり、地図アプリの使い方を間違えて市街地でさまよったりと正直使いこなせているとは言い難いものがある。

 

「あー、じゃあミズに今度レクチャー会してもらおうか。あの子普段からタブレットバリバリフル活用してるから、その辺りはお手の物だよ。最近はうちのPCつかって時々ネットサーフィンしてるし」

「瑞波ちゃんはタブレットないとコミュニケーション大変ですもんね……」

 

 両手で持ったタブレットをすごい勢いで文字入力をする白い髪の女の子を思い出して、いろははどこか遠い目をする。小学生にも負けるITスキルというのは突き付けられるとしんどい。

 

「それにミズも確か主治医の先生は里見メディカルセンターだったはずだから、聞いてみるといいかも」

「そうなんですか?」

「うん、心療内科だからたぶん妹さんとかその里見さんとは接点なかったとは思うけどね」

「そう……ですか。でも、まだ道がつながってると思ってほっとしました。今日なんかいろいろ疲れちゃって」

「ん? なんかあったの?」

 

 北条が聞くとどこかばつが悪そうに頬を掻くいろは。

 

「えっと……七海やちよさんと、さっきばったりそこであってしまって」

「七海と? また突っ込まれた?」

 

 北条はどこか心配そうだ。その空気を感じたのか慌てて首を横に振る。

 

「いえいえ、私が神浜にくることとかは認めてくれたんですけど、……なんか、変な忠告を受けちゃって」

「スカートが短すぎておなかとか足とか冷えるからやめなさいとか?」

「さすがに七海さんもそんなお年寄りみたいなことを言わないと思いますよ……」

 

 後で絶対怒られますよそれ……と、いろはに突っ込まれるものの、北条は無視。

 

「それで、どんな忠告だったの?」

「えっと……変なうわさが流れてるらしくて、なんでも“絶交”って言っちゃだめらしくて……」

 

 それを聞いた北条はやはり困ったように笑った。

 

「あー……絶交階段のうわさってやつかな。あれだっけ、仲直りしようとすると階段掃除をさせられるってやつ」

「北条さんも知ってるんですか?」

「ヒナとミズがそれで盛り上がってるのを聞いただけ。……それを七海が真に受けてる、フムン」

「七海さんってそういうのに詳しい人なんですか?」

 

 首を横に振ってそれに答える北条。

 

「どちらかと言えば信じないタイプの人だったと思うんだけどなぁ。あの人は自分で見たもの、知ったことを軸として必ず実態を調べてから動く人だよ。……まぁ、最近は強引がすぎて、いろはお嬢にいきなり殴りかかることになったけど」

「あ、あれは前からなんですかね……」

「論理派なのに感情に折り合いをつけるのが下手な世話焼きなんだと思うよ。『無駄な死体を増やしたくない』って毒づくけど、ちゃんと実力があることが分かったら、ちゃんと手を引いたでしょ?」

「はい……」

 

 北条は頭の後ろで手を組んだ。

 

「まー、気になるのはそんな現実に則した行動を心がけてる七海が、そんなタブロイド紙のゴシップみたいなことを気にしてることなんだよね。……もしかしたらなんらかの証拠をつかんでるのかも」

「神浜うわさファイルによるとかなり信憑性が高いらしいんですけど……」

「うわさファイル?」

「はい、七海さんがまとめてるらしくて……」

「いかにも七海やちよな感じだな……」

 

 今度は頭を抱える北条。いろははその様子に苦笑いだ。

 

「……七海が本腰入れてるとなると、こっちでも気にした方がいいな。あの人のそういう嗅覚は信用できる。後でちょっと状況整理しよう。子どもが一人跡形もなく消える街だ。噂話の一つや二つ、実体化してもおかしくはない」

「あ……」

「まぁ噂を追うのは私の理由だし、いろはお嬢には強制しないけど、七海さんが言ってた内容は伝えてくれるとこっちが助かるかな。まぁ後で本人にも聞いてみるかもしれないけど」

「はい! ……あの、私も一緒に調べていいですか?」

「うん?」

 

 そう言う言葉が飛び出すとは思っていなかったのか、少し驚いたような表情をする北条。ゆっくりと言葉を選ぶ。

 

「大歓迎だけど、妹さんにつながるかどうかはわからないし、ただの寄り道になるかもしれないけど、いいのかい?」

「ういがいなくなった理由はわからないけど、北条さんが言った通りです。噂話の一つや二つ、実体化してもおかしくはない。もしかしたら、ういもそれに巻き込まれてるのかもしれない」

 

 胸の前で手を握るいろは、それを見ていた北条はついと視線をそらした。

 

「……その妹さんは友達に絶交だっていうこともあったのかい?」

「ういから言うことはなかったです。でも灯花ちゃんやねむちゃんのケンカではよく絶交してて、そのたびにういが半泣きになりながら間に入って仲直りさせてたんです。『何回絶交したら気が済むのー!?』って」

「まぁ子どもの絶交は挨拶みたいなものだからねぇ」

「だからもし、ういが階段掃除させられてるなら……」

「罰掃除なんて時代錯誤なしきたりから解放しなきゃってわけだ」

 

 にやりと笑ってみせた北条に笑い返すいろは。

 

「なので、一緒に対応できればって思います」

「となれば、まずは情報収集か――――――」

 

 

 

『うるさいうるさいうるさいっ! もうかえでとは絶交だから!!』

『あー言った! そう言うなら私だってレナちゃんと絶交だもん!』

 

 

 

 飛んできた大声に肩をすくめるいろは。北条も言いかけた姿勢のまま止まる。

 

「……情報収集するまでもなく、情報の方から飛び込んできたね」

「えっと後から聞こえたのってかえでちゃんですよね?」

 

 声の出どころらしい公園の方を見ながら不安そうないろはに北条も頷いた。

 

「んで、最初のうるさいを連呼してたのが、かえでちゃんと一緒にももこんところでチーム組んでるレナちゃんだな。一応こっちも顔見知りだし、様子見に言ってみるか」

 

 北条が完全に野次馬決め込む顔で忍び足で公園の方に向かい出す。

 

(こ、この人大丈夫なのかな……)

 

 静かに彼女の評価をそっと落とすいろはだった。

 

 

 




というわけで、第一部第二章開始です。
のんびり投稿となりますがよろしくお願いいたします。
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