…文書力の束縛怖ぇス
空がわずかに明るくなり始めた町をヴァレールとアロンは魔獣で併走する。
「さっきの魔獣の強さを聞かないんだな。」
「知ってますよ。吟遊詩人の歌にもなってる。」
アロンは早く忘れようと騎乗に集中する。
「着いたぞ。…ビンゴだ。」
ヴァレールの言葉通り、町の外れにある遺跡から掘り出したガラクタを組み合わせたような店の前でモーシャは朝焼けする空を眺めていた。
「モーシャ。ハヴェルが解読したよ。」
ヴァレールは魔獣から降りアロンに手綱を任せるとモーシャに歩み寄る。
「そうか。その様子じゃあやっかいなモノが出たんだな。」
モーシャがくたびれた仕草で店の前にあるベンチに腰掛ける。
「ああ。レコとベルスが出張ってきている。」
「アグラミアが嘆くだろうな。」
「あんたも連れ戻せと言われている。」
「勘弁しろ。ワシみたいな老いぼれに貴族を相手にしろと?」
ヴァレールもモーシャの隣に腰掛ける。
「落ち着いて考えてくれ。
ここで上手く立ち回れば、楽な隠居生活が出来る。
それに、もう選択肢は無さそうだぞ。」
ヴァレールは飛ぶように賭けてくる巨大な魔獣を指さす。
「なんだと?」
魔獣はモーシャを見つけると、二本足で立ち上がり一瞬黒い霧に包まれる。
魔獣は姿を消し、ベルスに仕える獣頭の執事姿の魔人と、角を生やした秘書姿の魔人が立っていた。
「なんだあれは?」
「ベルスからの使者だ。…いいか上手くやれよ。
賢者のあんたならやれるさ。」
ヴァレールはジャッカルと入れ替わりに店の前から離れと、アロンから手綱を受け取りひらりと魔獣にまたがる。
振り返るとモーシャは魔人達に囲まれ抗議の声を上げていた。
ナルルースは広場で犬ほどもある巨大な黒猫をあやしていた。
黒猫はノドを鳴らしてくつろいでいたが、突然起き上がると入り口をにらむ。
入り口にはベルスが立っていた。
「ここにいたのか。」
ナルルースは黒猫に「あっちへ」と席を外させる。
「助けてくれ。君の協力がなくては冒険者達がまとまらない。」
「お断りしました。」
ベルスの下手からの物言いに対抗するように口調を変える。
そんな彼女にベルスは、報酬について書かれた美しい羊皮紙による契約書を見せる。
「気前が良い。」
「正当な評価だよ。」
ナルルースは一瞬悩むそぶりを見せるが「部下達の名誉が大切だ。」とベルスに背を向け、広場を出て行く。
ベルスは広場の隅にあるベンチに乱暴に座る。
そして呪いをつぶやくと、彼の手にある羊皮紙が、黒い煙に包まれる。
煙には、牙が生えた無数の口があり、それらが羊皮紙を食いちぎって飲み込む。
羊皮紙の全てを食べ終わると煙は、薄まりながら辺りに広まる。
ヴァレールとアロンは魔獣に乗り館へと向かっていた。
退去指示に従い外壁の出入り口前に向かう冒険者達ともすれ違う。
見知った顔もあったかも知れないが、お互い見ないようにやり過ごす。
「俺もああなる?」
アロンの弱々しい言葉にヴァレールは「そうだな。」と応える。
「残念に思っている。だが報酬は桁違いだろう。
それに新しい冒険への手配もされる。こっちは更にデカい山だ。」
「貴族の陰謀渦巻く冒険?」
「アロン、気持は分かるがよく覚えておけ。
冒険だけを楽しめるのは、ほんの駆け出しだけだ。
すぐに色んな奴らが絡んでくる。社会で成り上がれなきゃダメだ。」
ヴァレールは自分に言い聞かせるように語る。
「貴族だけじゃない。場末で唱われる吟遊詩人の冒険譚だって、勇者や英雄へと成り上がる話より、愚かな過ちを犯し破滅するものの方が圧倒的に多い。
連中は冒険者に憧れてなんかいない。失敗を笑える馬鹿を探しているだけだ。
今回の俺たちの選択を非難する奴らは、もし呪いが空振りで何も起こらなくても馬鹿にして笑うだろう。」
「何も起こらないと思いますか?」
アロンの問にヴァレールはしばらく考え込み「どっちでも一緒だ」と吐き捨てるように言う。
「もしも財宝が大当たりだったら、富を得て力を伸ばした領地が何かをやらかす。
やられた側はそれを陰謀と呼ぶ。」
本編とは全く関係ないけれど、ヴァレールは稲妻、ナルルースは炎、ベルスは悪魔召喚な、属性です。