ヴァレールが隣町で交渉を終えると、辺りは既に暗かった。
交渉により彼が取り仕切っていたダンジョン攻略の権利は掘り出した財宝の所有権ごと、冒険者ギルドから領主が取り仕切る新たなギルドへと移っていた。
まだ呪いのことを知らない領主は大喜びで契約を結んだ。
巨額の交渉で気づかれしたヴァレールは森を魔獣で駆けて気晴らしをすることにした。
暗い森であっても魔獣は風のように駆け抜ける。
森の奥に達した時、ヴァレールを昼のような明かりが照らす。
いや、その光は青白く昼の陽光よりなお明るかった。
手で覆いを作り光を直接見ないよう顔を伏せながらも様子をうかがっていると光は唐突に収まる。
直後に地響きのような低い轟音が響き、少し遅れて暴風が吹き寄せる。
ヴァレールはとっさに守りの呪いをつぶやく。
暴風は木の枝や砂に小さな岩まで巻き上げるが、それもすぐに収まる。
ヴァレールはすぐに光が見えた方向へと向かう。
巨木が密集して生い茂る森の一部が巨大な力になぎ払われ、大きな空き地が出来ている。
中央には、白い魔獣の死体が横たわっていた。
美しい毛で覆われたその巨体は40メートルを越え、胴体は蛇のように細長いが小さな手足がある。
その顔は細長く狐に似た印象だ。頭は大きく裂け焼けただれており、その傷痕からはまだ沸騰した血が流れ出ている。
「失敗した。」
ヴァレールが声の方を振り向くと、全身を血で染めたナルルースが剣を杖がわりに、かろうじてという風に立っている。
「ナルルースか。大丈夫か?」
「いや、だから失敗だ。
何度打ちのめしても服従せず、剣の力を解放して見せても逃げずに襲ってきた。
手加減出来る相手ではなかった。」
魔獣との契約は力比べにより相手が服従したタイミングを見計らって、呪いによって行う。
完全に殺してしまっては契約は叶わない。
弱々しく話すナルルースにヴァレールは駆け寄る。
「あんたの傷のことだよ。」
「ああ。これは酷いな。色々動かない場所がある。
…くそ、高価な装備も壊されてしまったな。」
ナルルースは冷静に自身の体と装備の状態を確認するが酷い有様だった。
ヴァレールは「まったく。」と彼女の体に癒やしの祈りを捧げる。
装備はともかく体をある程度回復するとナルルースは、ぎこちない足取りで魔獣の亡骸へと向かう。
「悪霊が憑く前に葬ってやらないと。手伝ってくれ。」
彼女は魔獣の傍らに立ち、まだ血があふれ出る傷口に手を添える。
ヴァレールは尾の方に立ち、二人で悪霊よけの祈りを捧げると、魔獣の巨体は溶けるように淡い光へと変わる。
光は徐々に舞い上がり消えていくが、一部はずっとナルルースにまとわりつくように飛ぶ。
「私のことが憎いか?」
ナルルースは自虐的な笑みを浮かべ、淡い光が全て消えるまでその場にたたずんでいた。
悔いや反省は滅茶苦茶ありますが、これにて完結です。
ありがとうございました♪