学者肌といった老いた男性モーシャは、部屋に現れたローブ姿の者達に唖然とする。
「おい、ワシの研究はダンジョンの安全に関わるものだ。
これから探索拡大という時期に追放とは、冒険者の安全はどうなる。」
ローブ姿の者達をよく知るモーシャは無駄と分かっていても抗議してしまう。
「後任への引き継ぎは整っております。ご心配には感謝します。」
素っ気ない反応に、モーシャは投げやりに両手を挙げて首を振る。
そんな彼に更に追い打ちがかけられる。
「あなたはダンジョンの中枢に関わる情報に精通されてらっしゃいます。
情報漏洩のために、このダンジョンに関して、他者へ発言や発信を行わない契約を結んでいただきます。」
「逆らったらカエルにでもされるのか?」
怒りに震える声でなんとか皮肉を言うモーシャに「漏洩される情報によります。」とローブの姿は淡々と答える。
…無論それが比喩でないことをモーシャはよく知っている。
彼らの言葉に従い町を出る為に荷造りをするモーシャの部屋にヴァレールが現れる。
「モーシャ、残念だよ。」
「ヴァレール、君は残れるのかい?」
「今回はセーフさ。」
ヴァレールの言葉にモーシャは皮肉な笑みを浮かべる。
「そうか。このダンジョンの価値を証明したのはワシと君だと思っている。
遺跡の財宝など夢だと嘲っていた奴らが、今になって奪いにくるとはな。
しかも、遺跡にはまだまだ解かれていない謎が山とある。それを追放とは馬鹿げている。」
自分の言葉に興奮しそうになったモーシャは大きくため息をついた。
「…いや、あんたが残って良かったとは思っているさ。」
「ありがとう。あんたの事も守りたかったんだが、領主様だけでなく近隣領の貴族達もこの件に絡み始めている。
俺みたいな冒険者じゃあ逆らいようもない。
どうしようも無かったんだ。分かってくれるか?」
「ああ、そうだな。あんたじゃどうしようもない。分かっているさ。それよりもこれを見て欲しい。」
ほっとした表情を見せるヴァレールにモーシャは遺跡の写しが書かれた書類を差し出す。
「俺がそんなの読めないのは分かってるだろ。それにこれ以上は関わるな。
深く知れば余計面倒に巻き込まれるぞ。ここでの事は忘れて早く去った方が良い。」
「そうだな記憶まで奪われてはたまらん。」
探るようなモーシャの視線をヴァレールは苦笑で受ける。
二人の間ではいつものやりとりにモーシャは「信じられんな。」とつぶやくと少ない荷物を持って自室から大部屋へと移動する。
このまま館から出て、明日の移動までは町で時間を潰すつもりだ。
研究のため久しく控えていた酒を呑むのもいいかも知れない。
廊下では二人の若者がモーシャを待っていた。ハヴェルとアロンだ。
「モーシャさん、とても残念です。もっと一緒に研究がしたかった。」
神妙なハヴェルと違いアロンは報酬に興味があるようで、「報酬はどれくらい…」と問おうとするのをハヴェルに「よせ。もうあっちに行ってろ。」とたしなめられる。
こんな二人のやりとりもいつもの光景だ。
「そうだハヴェル。君に托そう。」
アロンを追い払ったハヴェルにモーシャは先ほどヴァレールに渡そうとした写しの束を差し出す。
「かつての遺跡の主が残した警告文みたいなものだ。
よくあるものだがどうも気になる。」
ハヴェルはその書類を受け取るとその場で早速開き読み始める。
「初めて見ました。こんなものがあったんですか?」
「ああ、財宝発見が最優先されていて、否定的な情報はほとんど手つかずさ。」
「これは面白い…」
ハヴェルからそれまでの感傷的な気配は無くなり解読に没頭し始める。
「じゃあな。またどこかのダンジョンであおう。」
別れの言葉もハヴェルの耳には届かないようだ。
館の正面口では、使用人達が集まり、馬車への荷造りをしていた。
荷造りの指示をするのは高い位を示す礼服をまとったエルフの青年アグラミアだ。
モーシャと共に研究を行っていたが、領主の覚えが良く今は参謀として活躍している。
「アグラミア。お前がわざわざダンジョン探索にまできていたのか。」
「うん。このダンジョンは領主様もご興味を持たれているからね。」
「なるほどな。それでワシは退場か。」
「そうなのか?ぼくは知らなかったよ。」
モーシャの悪態をアグラミアは無表情に流すと、使用人への指示に戻る。
さらなる悪態をなんとか飲み込み、モーシャは館から去る。
そんな彼と入れ替わりに、今回残留が決まった冒険者たちが館に集まってくる。
アグラミアという名前はこちらからいただきました。
http://adlahir.seesaa.net/article/128538036.html
…素敵な響きです。
モーシャという名前はこちらから。
https://oshiete.goo.ne.jp/qa/1165258.html