説明を受けるとベルスは小さくため息をする。
「ありがとうハヴェル。
我々は古の王が遺跡に込めた呪いによって、破産の危機に瀕しているのだな。
では、レコ、アグラミア。次は君たちが今後の方針を話す番だ。」
レコは財宝の呪いを積極的利用した領地間の戦まがいの策略について語るが、ベルスは不機嫌そうに首を横に振る。
「私は多くの者達同様に戦は好まない。まずは、金と契約による解決を進めるべきだろう。」
レコは無表情のまま小さくうなずく。
続けてアグラミアは呪いについての再調査と解呪方法の研究などについて語るが、ベルスは先ほどより不機嫌にその言葉を遮る。
「アグラミアよ。この世界で勝者たろうとすれば、他者より先んじなくてならない。」
アグラミアが無念そうにうなずく。
その様子に「呪いについて伏せて全て手放す。」とレコが申し出る。
ベルスは形式上という芝居がかった非難の視線を向けながら「そんなことは可能か?」と続ける。
レコは無表情にうなずき「協力があれば」とナルルースを見る。
「冒険者達を納得させるだけの報酬が準備出来れば、やれなくもない。」
彼女はうんざりした表情露わに話す。
「だが、彼らと冒険者ギルドの信頼は永遠に失われる。
尊敬も名誉も失って国に呪いをまき散らし、その後どの面下げてやっていく?」
ナルルースの言葉は憂いや不安よりも投げやりさを感じるものだった。
「ナルルース、どういうやり方なら君はやる気をだしてくれるんだ?」
ベルスの優しい口調はむしろ苛立ちを含んでいた。
「冒険者を使い捨ての詐欺師に落ちぶれさせての貴族同士の陰謀ごっこ…そういうことでないやり方なら、多少はやる気が出るかも知れない。」
「貴族をも動かす、冒険者の知恵を絞ったクエストだ。」
ベルスは怒気をナルルースにぶつけるように彼女を指さす。
彼女もまたベルスを指さしながら話す。
「財宝が錆びになるのは笑える。だが魔法や奇跡が失われれば何が起こるか分からない。」
ベルスはナルルースの反論を確認すべく、アグラミアの方を見る。
「財宝の総量や呪いの古さから、魔法や奇跡への影響は限定的です。」
数字をまじえて語られるアグラミアの仮説に、ハヴェルはすぐに計算式を思い浮かべ、机に目を落としながら暗算をする。
それは限定的と呼べる値を越えていた。思わず目を上げるとベルスがこちらに鋭い視線を向けている。
その目は「黙っていろ」と語っており、ハヴェルは身をすくめながら無言でうなずいた。
「大した参謀ぶりだ。」
ナルルースはエルフの隠語で小さく吐き捨てる。
多くの者は意味が分からず聞き流すが、アグラミアは身をすくめ、ベルスは怒りを露わにする。
「我々にはこれしかない。唯一の道の前で立ち止まっている時間などない。」
ベルスは小さくため息をつと「この方針で細かな戦略はレコとアグラミアで詰めてくれ。次の鐘にまた集まろう。」と先ほどの苛立ちが嘘のように落ち着いた声で指示を出す。
レコとアグラミアから皆、席を立って部屋から出て行く。
「ジャッカル。お前はモーシャを探してきてくれ。」
ベルスは執事姿をしたジャッカルの獣人に指示を出す。
「御意。」
低く響く声で応える獣頭の魔人を見てアロンは「そのまんまの名前だな。」と突っ込みたいのをこらえた。
アロン達と退室しようとするナルルースにベルスが「少し話そう。」と声をかける。
レコとアグラミアは、同じ方向にあるそれぞれの執務部屋に向かって歩く。
周りに人気がない場所にさしかかるとアグラミアは「生きた心地がしない。あんたもそうなんじゃないのか?」とレコをにらむ。
「ベルスは全て知っているさ。俺がやっていることもあんたと領主がやっていることも。」
いつも通りに無表情なレコにアグラミアは苛立つ。
「私だって知っている。王都でやっていることを。」
自室の前についたアグラミアは立ち止まりレコに念押しをする。
「ここを、鉱山都市ようにするというなら。…私にも覚悟がある。」
レコは無表情に首をかしげる。
「生きた心地というのはどういうものだ?俺はそんなものを感じた事がない。」
そして更に奥にある自室へと去って行く。
ヴァレール達は、館の厨房で受け取った軽食を待合所で食べていた。
館は冒険者何時戻っても良いように、夜中でも厨房には人が詰めている。それは貴賓館でも同じだった。
軽食をつつきながらアロンは「ベルスさんが何者か聞いても?」と遠慮がちに聞く。
「かまわんさ。彼は王家宰相の顧問魔術師で当然貴族の地位も得ている。
王国学府のグランドマスターいわゆる大賢者で、様々なギルド間をとりまとめる連合の総長でもある。
恐ろしいところでは、貴族専門の査問委員会の参謀長なんて肩書きもあったな。
他にもあるぞ。」
「もう充分です。そんなことここで話しても良いんで?」
アロンは怯えた様子で辺りを見回す。
「全て表だって公表されている肩書きだよ。王都でなら誰でも知っている。
今回のことで多少は減るかも知れんが。」
ヴァレールは食事を頬張る。
「食っておけよ。今日は長い一日になる。…美味いな。」
「これが食い納めにならなければいいけど。」
いつもならアロンが言いそうなハヴェルの言葉には誰も反応しなかった。
飯の描写も残念。
凄く美味しそうな食べ物があるのに気が重くて食が進まない…みたいにしたかった。