もし南雲ハジメが全集中の呼吸の使い手だったら   作:籠城型・最果丸

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どうも、最果丸でございます。

タイトル詐欺にならないようにしてたら一万字超えてしまいました。ちなみに本文は11111文字とぞろ目でした。凄い奇跡。

とうとうハジメ君が、こくしぼーたん(黒死牟様)になってしまいました。


第十話 鬼と姫の実力

サソリの化け物を倒した俺達は、サソリと巨人の素材と肉を拠点(仮)に持ち帰った。肉の方は食べても大丈夫なのかって? 普通魔物の肉を食えば死ぬがどうやら俺は喰っても死なない体質らしい。だからといって喰った魔物の技能を得られるといったことは無いが。

 

運ぶのは少し苦労したが、最上級魔法の行使により、へばったユエに再度血を飲ませると瞬く間に復活し見事な身体強化で怪力を発揮してくれた。俺も鬼化して筋力を大きく上げて運んだ。ちなみに、俺の血を飲んだ後ユエの体が少し大きくなったような気がした。

 

封印の部屋をわざわざ出る理由は、ユエが断固拒否したからだ。無理もない。何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。武器の修理でしばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。

 

近くに作った拠点で、俺達は互いのことを話していた。

 

「吸血鬼は、皆お前のように長寿なののか?」

「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」

 

聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 

なるほど、あのサソリモドキの外殻を融解させた魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は〝神〟か〝化け物〟か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。俺が言えたことではないが。

 

欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが〝自動再生〟により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 

ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 

その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。

 

ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしいが、接近戦は苦手で、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。

 

ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。魔法を補完するイメージを明確にするためになんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。めっちゃわかる。

 

〝自動再生〟については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。つまり、あの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。鬼化した俺はどうなのかって? 知らん。

 

「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「……わからない。でも……」

 

ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 

その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

見えてきた可能性に、思わず頬が緩む。再び、視線を手元に戻し作業に戻る。ユエの視線も俺の手元に戻る。ジーと見ている。

 

「……そんなに面白いか?」

 

口には出さずコクコクと頷くユエ。だぶだぶの外套を着て、袖先からちょこんと小さな指を覗かせ膝を抱える姿はなんとも愛嬌があり、その途轍もなく整った容姿も相まって思わず抱き締めたくなる可愛らしさだ。だが、俺はロリコンじゃない。

 

「……ハジメ、どうしてここにいる?」

 

当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 

ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。なぜ、魔力を直接操れるのか。なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ、魔物の肉を食って平気なのか。そもそも俺は本当に人間なのか。俺が使っていた技は一体何なのか。

 

「俺は大勢の仲間と共にこの世界に召喚された。だが、ベヒモスとの戦いで裏切りに遭った。俺のことが気に食わなかったんだろう。そして裏切った者の頸を刎ねた後、気づいたらここにいた」

 

俺は他にも空腹に耐えながら探索を続けたこと(途中でスイカみたいな果物を見つけてからはそれを食べている)、封印部屋に入る前に魔物を喰って鬼化が使えるようになったこと、かなり最初の方で薬水を見つけたこと、四日かけて作った刀のことを話した。

 

「……ぐすっ……」

「ど、どうした?」

 

いつの間にかユエは鼻を啜って涙をはらはらと流している。俺は流れていくユエの涙を拭いながら尋ねた。

 

「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」

 

どうやら〝裏切られた〟の部分で泣いているようだ。俺は表情を緩ませてユエの頭を撫でた。

 

「気にするな。今となってはクラスメイトの記憶は朧げだ。名前も顔も、声も忘れた。復讐よりも故郷に帰りたい」

 

スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るという俺の言葉にピクリと反応する。

 

「……帰るの?」

「ああ。帰りたいよ。色々と変わってしまったが、故郷に……親の待つ家に帰りたい」

「……そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

「……」

 

何故だろう。とっくに常人離れした聴覚は失ったはずなのに、ユエからとても悲しい音が聞こえた気がした。

 

もしかしたら、俺に新たな居場所を見ているのかもしれない。だから、新しい名前を求めたのだろう。俺が地球に帰れば…

 

ユエはまた、居場所を失ってしまう。

 

きゅっ…

 

(どうして……ユエが悲しそうにしてるのを見ると…心臓が締め付けられるような感覚がするんだ……)

 

 

べべべん……。

 

どこからか琵琶の音が聞こえてきたかと思うと、突然違う風景が視界に飛び込んできた。錬成で掘った穴ではなく、近くに脱線した列車がある、森に近い開けた場所だった。

 

『目の前の女をこの世界に残して、お前は故郷に戻るのか?』

 

俺の前には、女を抱え、返り血を大量に浴びた格闘家らしき男が立っていた。表情から見るにかなり怒っているようだ。

 

『お前が故郷に帰れば、この女はまた孤独に苛まれることになる。だから女は泣いているんだぞ……!』

 

青筋が浮かんだと同時に髪色が赤く変わり、全身に刺青が入る。

 

べべん……。

 

また聞こえた。今度はどこかの立派な屋敷に飛ばされた。足元には大量に血を飛び散らせた。男と女の死体が転がっていた。男の方は包丁か何かで滅多刺しにされて、惨いと言わざるを得なかった。

 

『そもそも、君の故郷は本当に君が思い描いているような理想郷なのかい?』

 

今度はヘラヘラと笑っている男だ。どこぞの宗教の教祖らしき恰好をしている。瞳は虹色で、両手には扇子を持っている。

 

『嫌だったこと、苦しかったこと、あったでしょ? 君の故郷(あそこ)にも。俺にはその気持ち、わからなったけどね』

 

べん……。

 

今度は城の天守閣に立っている。一体どうなっているんだ?

 

『この世界で暮らすという選択肢も……悪くないのではないか? 親の許には……時々帰る程度でよいだろう』

 

俺と向かい合うように、侍のような恰好をした男が立っている。左額と右頬に炎のような痣が浮き出ている。

 

『私は……家と妻子を捨ててしまった……その結果、人の道を外れてしまった……この女子を捨ててまで故郷に帰るか……お前はそれで本当によいのか……?』

 

男の目が二つから六つに増えた。

 

「俺は……」

『どちらか二つを選んでも…お前はいずれ人の道を外れ………心身共に鬼となるだろう……私のように……』

 

 

ぺいん……。

 

冷たい琵琶の音を最後に、再び景色は拠点に戻った。

 

俺は一度離してしまった手で、ユエの頭をもう一度撫でた。

 

「俺は故郷に帰ると…言ったな……」

「……本当に……帰るの……?」

 

いつの間にか鬼化が発動している。鬼化を発動させると口調がゆったりとしてしまう。

 

「帰ると言っても、一度親と顔を合わせ、話をするだけだ。その後は、またこの世界で暮らそうと思う」

「……え……?」

「お前の帰る場所、俺の隣じゃ……駄目か?」

 

ユエはしばらく呆然としていた。

 

「お前がどうしたいかは、お前の望むままにしろ」

「……いいの?」

 

ここでようやく理解が追い付いたのか、ユエは遠慮がちに尋ねる。その紅の瞳には、期待の色が宿っていた。

 

曇り一つ無いユエの瞳に、俺は頷いた。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず見蕩れてしまう程、綺麗な笑顔だった。

 

これ以上見たら俺の心臓が持ちそうにないので、作業に没頭することにした。ユエも興味津々で覗き込んでいる。但し、先程より近い距離で、ほとんど密着しながら……

 

気にすることなかれ……

 

「……これ、なに?」

 

錬成により少しずつ出来上がっていく刀身。長さは折れる前の試作品と同じ位だ。というか折れたやつをそのまま使っている。

 

「これは折れた刀の代わりだ。前よりも硬くなっている」

 

素材はサソリの外殻だ。あの硬さの秘密を探ろうとサソリの外殻を調べてみたところ、〝鉱物系鑑定〟が出来た。シュタル鉱石という、込めた魔力量に比例して硬度も上昇する特殊な鉱石だ。

 

試しに錬成をしてみたところ、あっさり出来てしまった。これなら錬成で簡単に外殻を突破できたではないかと思ったが、倒してしまった以上どうしようもない。

 

良い素材が手に入って少し上機嫌だった俺は、早速刀の製作に取り掛かった。あの時からは腕は相当上がっているのでサクサク進んだ。

 

刀は内側と外側で、鋼の硬さが違う。内側は柔らかく、外側は硬い。内側と外側で硬さが違うからこそ、折れず、曲がらず、よく切れるといった特徴を実現できたのだ。

 

タウル鉱石も十分に硬いのだが、魔力を込めたシュタル鉱石はそれ以上に硬い。タウル鉱石の芯を、シュタル鉱石で覆って刀身にする。

 

そんなことを語りつつ、遂に刀を完成させた。うむ、我ながらいい出来だ。試作品には名前を付けてなかったが、この刀には名前を付けてあげよう。

 

「よし、この刀には〝鬼突滅哭(きとつめっこく)〟という銘を付けよう」

 

刀に銘を付けて、一段落した俺は腹が減ったので食事にすることにした。

 

「ユエ、食事にするぞ」

 

ユエは手に取っていた俺の鬼突滅哭を置いて向き直ると「食事はいらない」と首を振った。

 

「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」

「感じる。……でも、もう大丈夫」

「大丈夫? 何か食ったのか?」

 

ユエは俺を真っ直ぐ指差す。

 

「ハジメの血」

「成程、俺の血か。吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」

「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」

 

血さえあれば吸血鬼は平気なようだ。俺から吸血したので、今は腹が満たされているようだ。納得している俺を見つめながら、ユエは舌なめずりをした。

 

「……何故、舌舐りする」

「……ハジメ……美味……」

「美味って……魔物を喰って鬼化したから味には自信がないのだが……」

 

俺は何を言っているんだ。

 

「……熟成の味……」

 

ユエ曰く、何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わいらしい。

 

そういえば、最初に吸血されたとき、やけに恍惚としていたようだったが気のせいではなかったようだ。飢餓感に苦しんでいる時に極上の料理を食べたようなものなのだろうから無理もない。

 

だが、舌舐りしながら妖艶な空気を醸し出すのはやめて欲しいと思う。俺の心臓が持たないから。マジで。まだユエの容姿は幼いが、明らかに封印された時より体が成長している。いつか封印当時の年齢相応の容姿になりそうだ。

 

「……美味」

「……勘弁してくれ」

 

いろんな意味で、この相棒はヤバイかもしれない、俺はそう思った。

 

 

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俺達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。俺の装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

 

全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確に俺を援護する。

 

ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。〝自動再生〟があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、俺には薬水があるのでなんの問題もなかったが。

 

そんな俺達が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

俺達が階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える二人の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物だ。大きな頭、太い歯、小さな前脚。ティラノサウルスそのものである。しかも何故か頭から向日葵っぽい花が生えている。シュールだ。

 

俺は冷静に刀を抜こうとして……それを制するように前に出たユエがスッと手を掲げた。

 

「〝緋槍〟」

 

ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、恐竜擬きの口を焼き尽くした。恐竜擬きは地響きを立てて横倒しになった。そして頭の花が落ちた。

 

最近、ユエ無双が激しい。最初は俺の援護に徹していたはずだが、いつの間にか俺に対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するようになったのだ。

 

おかげで俺は戦闘での出番がめっきり減ってしまった。自分が役立たずな気がしてならなかった。まさか、自分が足手まといだから即行で終わらせているとかではあるまいな? と内心不安に駆られる。もしそんなことを本気で言われたら丸十日は落ち込む自信があった。

 

抜きかけの刀を納め、ユエに話しかけた。

 

「ユエ。俺のためを思って張り切るのは結構だが、俺も戦いたいんだよ」

 

ユエは振り返って俺を見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。

 

「……私、役に立つ。……パートナーだから」

 

そうか、俺の援護だけでは飽き足りなかったのか。

 

少し前に、「一蓮托生のパートナーなんだから、頼りにしているぞ」と言ったことがあったな。

 

その時はユエが魔力切れになるまで魔法をバカスカ撃って戦闘中に倒れてしまった。その後俺が瞬殺したから無事に生き残れたが、その事をひどく気にするので慰める意味で言ったのだが……思いのほか深く心に残ったようだ。パートナーとして役立つところを見せたいのだろう。

 

「お前はもう十分過ぎる程役に立っているよ。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なのだから俺に任せて欲しい。ユエは後衛を頼む」

「……ハジメ……ん」

 

ユエは若干シュンとしてしまった。俺が彼女の柔らかい髪を撫でてやるとすぐに機嫌を直した。

 

その後、ラプトルに似た魔物が襲い掛かったが、瞬殺した。殺す前に頭の花を斬ったところ、ラプトルはその花を踏みつけた。どうやら自分の意思とは関係なく操られているようだった。

 

(近くにこいつ等を操っている魔物がいるのか? ならば警戒しなければならない)

 

慎重に進むぞとユエに言おうとした瞬間、全方向から魔物の群れが迫って来た。

 

「ユエ、四十以上の魔物が迫って来ている。まるで何者かが指示しているようだ」

「……逃げる?」

「いや、もう既に逃げ道は断たれた。ユエは一番高い樹の天辺から魔法で殲滅してくれ」

「ん。……特大のいく」

「足止めは俺がしておく」

 

俺達は高速で移動しながら周囲で一番高い樹を見つける。そして、その枝に飛び乗り、眼下の足がかりになりそうな太い枝を斬り落として魔物が登って来にくいようにした。

 

俺は樹から降りて刀を構える。そして鬼化を発動させる。視界が広がっていく。

 

そして第一陣が登場した。ラプトルやTレックスだ。

 

「月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾」

 

刀を大きく横に薙ぎ、そこそこ広い範囲の敵を屠る。

 

「月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月」

 

更に広い範囲の敵を屠る。

 

「ハジメ?」

「まだだ……もう少し待て」

 

ユエはひたすら魔力を集束するのに全集中している。

 

そして最初に見つけた魔物全てが集まった。最早正確な数は分からないが、これで全部だろう。

 

「ユエ!」

 

俺はユエに合図を送り、枝に飛び乗る。

 

「んっ! 凍獄!!」

 

ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、俺達のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。

 

魔物は一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていった。氷結範囲は指定座標を中心に五十メートル四方といったところか。まさに〝殲滅魔法〟というに相応しい威力だ。

 

「はぁ……はぁ……」

「お疲れさん。流石は吸血姫だ」

「……くふふ……」

 

周囲一帯が青蓮地獄と化した。ユエは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。

 

俺は傍らで座り込むユエの腰に手を回して体を支えて、首筋を差し出す。吸血させて回復させるのだ。神水でもある程度回復するのだが、吸血鬼としての種族特性なのか全快になるには酷く時間がかかる。やはり血が一番いいようだ。

 

ユエは、俺の称賛に僅かに口元を綻ばせながら照れたように「くふふ」と笑いをもらし、差し出された首筋に頬を赤らめながら口を付けようとした。

 

だが、更に百体以上の気配を感じ取った。

 

「ユエ。更に倍の数だ」

「!?」

「動きが単調過ぎる……まるで何者かに操られてるみたいだ……怪しいのは…頭の花か」

「……寄生」

「お前もそうだと思うか?」

 

俺の推測を肯定するようにユエは頷く。

 

「……本体がいるはず」

「ああ……その本体とやらを始末しない限り…戦いは終わらないだろう」

 

物量で押し潰されるよりも先に、本体を始末することにした。座り込んでいるユエに吸血させている暇はないので、俺はユエに神水を渡そうとする。しかし、ユエはそれを拒んだ。

 

「ハジメ……抱っこ……」

 

ユエが両手を伸ばして言う。

 

「抱っこは止めろ…負んぶにしてくれ……そして吸血しながら行く気か?」

 

俺の推測に、「正解!」というようにコクンと頷くユエ。確かに、神水ではユエの魔力回復が遅い。不測の事態に備えて回復はさせておきたい。しかし、自分が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に若干抵抗を感じる。だが、背に腹は代えられぬ。

 

仕方なく俺はユエを負んぶして本体を探す。鬼化した方が感覚は鋭くなるので鬼化して探る。

 

 

「鬼化しても見つからないとは……」

 

この空洞は広くて探し回るのが大変だった。そして俺達は二百体近い魔物に追われている。

 

ラプトル擬きが数体飛び掛かって来た。

 

「月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍!!」

 

俺は刀を振る事無く斬撃を発生させ、ラプトルを斬り刻む。そして走るスピードを上げた。

 

カプッ、チュー。

 

俺達は軽く十分以上逃げ続けたが、そのおかげで一番怪しい場所を見つけることができた。今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。

 

なぜ、その場所に目星をつけたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。俺達が迎撃しながら進んでいると、ある方向に逃走しようとした時だけやたら動きが激しくなるのだ。まるで、その方向には行かせまいとするかのように。

 

カプッ、チュー。

 

「ユエ……さっきからちょくちょく吸うのは止めてくれ……くすぐったくてしょうがない」

「……不可抗力」

「それにしてはほとんど魔力消費がないようだが?」

「……ヤツの花が……私にも……くっ」

「随分と余裕だな……」

 

このような状況にもかかわらず、ユエは俺の血に夢中だった。半端ではない肝の据わり方だ。明らかに吸う度に体が大きくなっている。鬼化前に吸わせるよりも変化が大きかった。しかし、逃走に支障は無かった。

 

縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とか俺達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、〝昇り炎天〟で頭を縦に両断した。そしてすかさず錬成で割れ目を塞ぐ。

 

「どうにか逃げ切れたな……」

「……お疲れ様」

 

試しに一度ユエを降ろしてみた(渋々降りた)が、果たしてユエの体は成長していた。さっきまで小六くらいの体格だったのに今では高一くらいになっていた。

 

「ハジメ……なんか、小さくなった…?」

「ユエ、言い方。お前の背が伸びただけだ」

 

そして薄暗い洞窟を慎重に進む。

 

しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。もしかすると階下への階段かもしれない。俺は辺りを探る。〝鬼の本能〟が敵を一体捉えた。

 

俺達が部屋の中央に到達した瞬間、〝奴〟の攻撃が始まった。

 

四方八方から緑色のシャボン玉みたいなのがフワフワ飛んできた。俺とユエは一瞬で背中合わせになり、飛来する緑玉を迎撃する。

 

「日の呼吸 灼骨炎陽」

 

しかし、数が減るどころか寧ろ増えていった。緑玉がヤバいと本能が叫ぶ。

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」

「……」

「ユエ?」

 

ユエは〝気配感知〟など索敵系の技能は持っていないが、吸血鬼の鋭い五感は俺の〝鬼の五感〟に匹敵する程有用な索敵となる。

 

しかし、ユエは俺の質問に答えなかった。訝しんでもう一度ユエの名を呼ぶが、返って来た返答は……

 

「……逃げて……ハジメ!」

 

必死に叫ぶユエの手は、俺に向かっていた。ユエの手に風が集束する。俺は全力でその場から飛び退いた。刹那、俺のいた場所を強力な風の刃が通り過ぎ、背後の石壁を綺麗に両断する。

 

「ユエ!?」

 

ユエの頭からは、花が生えていた。しかも立派な赤い薔薇だ。

 

「さっきの緑玉か…不甲斐なし……」

「ハジメ……うぅ……」

 

ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。ラプトルの花を撃ったとき、ラプトルは花を憎々しげに踏みつけていた。あれはつまり、花をつけられ操られている時も意識はあるということだろう。体の自由だけを奪われるようだ。

 

だが、それなら解放の仕方も既に知っている。俺は刀で薔薇を斬ろうとした。

 

しかし、解放の仕方を見破られたことは、既に本体にも知れ渡っていた。

 

ユエを操り、俺の一振りを躱した。ならば、直接引っこ抜いてやろうとすると、突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。

 

「参ったな……これでは迂闊に動けない」

 

ユエは確かに不死身に近い。しかし、上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされてなお〝再生〟できるかと言われれば肯定できない。そして、ユエは、最上級ですらノータイムで放てるのだ。下手に動けばユエは死んでしまうだろう。

 

俺の逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから現れた。

 

アルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物はRPGによく出てくる。俺達の前に姿を現した魔物は正しくそれだった。だが、イメージとは異なりかなり醜悪な顔つきをしていた。無数の蔓が触手のようにウネウネとうねっていて実に気味が悪い。その口元は何が楽しいのかニタニタと笑っている。

 

俺はすかさず魔物に剣先を向ける。しかし、ユエが魔物を守るかのように前に立って妨害する。

 

「ハジメ……ごめんなさい……」

 

悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。自分が足でまといなっていることが耐え難いのだろう。今も必死に抵抗しているはずだ。口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷つけているのだ。悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいはその両方か。

 

卑劣な魔物はユエを盾にしながら緑玉を撃ちこむ。俺はそれを〝盛炎のうねり〟で薙ぎ払う。球が潰れ、目に見えないがおそらく花を咲かせる胞子が飛び散っているのだろう。だが、俺の頭に花が生える気配はない。

 

「どうやら鬼化している間は、色々と耐性が付くらしい」

 

俺に緑玉は通用しないと悟ったのか、不機嫌そうにユエに命じて魔法を発動させる。また、風の刃だ。もしかすると、ラプトル達の動きが単純だったことも考えると操る対象の実力を十全には発揮できないのかもしれない。不幸中の幸いだ。

 

風の刃を回避しようとすると、これみよがしにユエの頭に手をやるのでその場に留まり、風刃をそのまま受ける。服は裂け、辺り一面に血飛沫が飛ぶ。

 

「ハジメ!!」

 

ユエが悲痛そうに叫ぶ。その目には、深い悲しみと自責の念が籠っている。

 

だが、致命傷に至ることは無かった。着物こそ裂けたが、体の傷はとっくに塞がってしまった。

 

「着物を裂かれた程度では…赤子でも死なぬ……」

 

ユエさえどうにか解放できれば、後は容易く済みそうだ。

 

「ハジメ! ……私はいいから……斬って!」

 

またしてもユエは悲痛の叫びを上げる。俺の足手まといになるどころか、攻撃してしまうぐらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳を俺に向けていた。

 

「お前の居場所は、俺の隣だと言っただろ! 必ず助けてやる。たとえどんな状況だったとしても、お前は絶対に見捨てない!!」

 

勢いに任せて殺し文句を叫んでしまった。ユエは目を潤ませて俺を見ている。

 

「……信じろ」

 

俺はただその一言だけを言った。直後、大きく後ろに跳び広間の壁に両足を着ける。

 

シィィィィィィ……

 

この呼吸を使うのは、かなり久し振りな気がする。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・六連」

 

壁を蹴って間合いを一気に詰める。四連目でユエの頭に生えた薔薇を斬り落とし、五連目で魔物の目の前に立つ。そして六連目でその頸を掻き切った。

 

ユエも魔物も、俺の動きに反応できなかったようだ。魔物は緑色の体液を吹き散らし、そのままグラリと傾いて地に倒れ伏した。

 

「怪我は無いか? ユエ」

 

ユエの頭の上は、何も変わり無かった。髪の毛一つも切れていない。

 

「ん……大丈夫」

「そうか。それはよかった…」

「けど……」

「けど?」

「……もう少し…躊躇ってほしかった……」

「不器用ですまない……だが、お前には傷一つ付けなかった……」

 

ユエはちょっとへそを曲げてしまったが、お詫びとして俺の血を大量に与えたら機嫌を直してくれた。それが原因か、ユエは麗しき二十代前半の姿となってしまったのだった……




現在のハジメ君のステータス

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:11
天職:鍛冶師
筋力:74622(+鬼人化状態104096)
体力:89664(+鬼人化状態141421)
耐性:65377(+鬼人化状態794774)
敏捷:97458(+鬼人化状態115050)
魔力:64200(+鬼人化状態99745)
魔耐:59333(+鬼人化状態87362)
技能:火属性適正・水属性適正・雷属性適正・風属性適正・地属性適正・剣術・全集中の呼吸[+日の呼吸][+炎の呼吸][+水の呼吸][+雷の呼吸][+風の呼吸][+岩の呼吸][+月の呼吸][+痣者][+透き通る世界]・鬼人化・錬成・刀鍛冶・気配感知・気配遮断・魔力感知・魔力操作・言語理解
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「「いよっと」」

ハジメ「あの時は本当にすまない! できる限り早くお前を解放したいと思っていたんだ……」
ユエ「ん。いっぱい血をくれたから……許してあげる」
ハジメ「鬼化したままで本当によかったのか? ユエの体を弄っているみたいで背徳感が募るんだが……」
ユエ「寧ろ更なる強さを手に入れてハジメの役に立てる…!」
ハジメ「そ、そうか……気にしてないようで何よりだ……」
(雷の呼吸に魔法乗せなくて良かった……)


ユエ「ここで…トータスコソコソ噂話。ハジメが鬼化を使えるようになったのは魔物の肉を食べて体が変質した訳ではないらしい……」


ハジメ「不甲斐なし……更に鍛錬を積まなければ……」
ユエ「不甲斐ないのは…私の方……」
ハジメ「ユエは何も悪くない……」
ユエ「ハジメだって何も悪くない……」
ハジメ「なら……ここはお互い水に流そうか」
ユエ「次回 第十一話 最奥の血戦」
ハジメ(あの三人の男達は一体誰だったのだろうか……)






ユエ(JS)は、ユエ(JD)になった!

つづく

誰を鬼にしてほしいですか?(事前に決まってるけどアンケート次第でもしかしたら変わるかも)

  • 勇者(笑)
  • 死山(檜山)
  • 恵里
  • 幸利
  • 香織
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