もし南雲ハジメが全集中の呼吸の使い手だったら   作:籠城型・最果丸

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骸龍オストガロアです。   ←おふざけ。

今回は地上に出たハジメとユエのお話の予定でしたが……誰が鬼になったのか今すぐ知りたいという回答が多数を占めておりましたので急遽次回に回しました。

気を取り直して、今回は遂にクラスメイトから鬼が出ます。


追記
何のためのアンケートだったのだろうかと思ったそこの閲覧者君、王都侵攻までには結果が全て開示されるだろうから待っていなさい。


第十三話 鬼の産声

勇者一行が帰還した後、南雲ハジメと檜山大介の死亡が報告された。早くも二人死亡してしまったことで王国側の人間は誰もが愕然とした。だが、犠牲者の中にハジメが含まれていると知ると安堵の吐息をついた。

 

勇者にも匹敵していながら戦いに消極的だったことで役立たずと見做されていた。更に檜山を殺害した後に自殺したと報告にあったために貴族達は裏で盛大に罵った。

 

一方、檜山の方は哀れな犠牲者として扱われた。ハジメの方は適当な場所に遺体を遺棄することになっていたのだが、光輝による猛反発によって墓地に埋葬されることになった。ハジメを罵った者達は処罰されたが、ハジメは光輝の株を上げただけに終わった。

 

ちなみに、ハジメの遺品だが……何故かステータスプレートだけが無くなっていた。どれだけ探しても、見つかることはなかった。クラスメイト全員に聞いてみるも、「知らない」の一言しか返ってこなかった。

 

 

「あ~あ、せっかくいい手駒を見つけられたのに。南雲のせいで台無しだよ!」

 

五日後の或る日、昼間の墓地を彷徨う者が一人。まだ生きている。

 

「お陰で光輝君から香織を引き剥がすチャンスを失ったじゃないか!」

 

墓地を歩きながら悪態をつく中村恵里。彼女は光輝に対し依存とも呼べる好意を抱いていた。だが、光輝の隣には香織と雫がいた。地球にいた時は殺すわけにもいかず、ただずっと影から見つめていた。

 

だが、この異世界に召喚されたことがきっかけでたかが外れ、恵里は裏で香織と雫を暗殺することを画策した。墓地を彷徨っているのも、暗殺用の毒草を探しているのだ。知識は図書室から借りて来た図鑑から得ている。

 

「でもまぁ、一人の方が証拠は残らないし、結果オーライということにしよう」

 

どさくさに紛れてハジメを殺そうとした檜山に毒草を大量に集めさせた後、実験台にしようとしていたがその前に殺害されてしまったためにわざわざ自分で集めなければならなくなった。

 

だが、ハジメが死亡したことにより香織は相当ショックを受けている。想い人を喪った絶望に打ちひしがれながら苦しんで死ぬのを見るチャンスだと、恵里は思った。雫の方はこっそり食事に混ぜておけば問題ないだろう。

 

「さぁて、どこかに無いものかな~。香織と雫を殺せる毒が……ん?」

 

ある墓石が、恵里の目に留まった。否、墓石ではなくその前に生えている青い花だった。

 

「これ……彼岸花? でも青いから違うしな……」

 

墓石には、ハジメの名が刻まれていた。そこから青い彼岸花が何本も生えていた。

 

「待てよ……確か彼岸花には毒が……」

 

その時、恵里は閃いた。この花を使えば、毒を作れるのではないかと。

 

「よし、早速作るぞ!」

 

恵里は青い彼岸花を摘み取り、嬉しそうに墓地を後にした。

 

 

ハジメと檜山の死から八日が過ぎた。香織は未だに目覚めない。

 

「いい加減に起きなさいよ……香織……!」

 

雫は毎日、香織の部屋に入って看病していた。しかし、どれだけ待っても香織は目を覚まさない。

 

雫は香織の手を握って、「どうかこれ以上、私の大切な親友を傷つけないで下さい」と祈った。すると、後ろからドアが開く音がした。

 

「……恵里」

「そろそろ交替の時間だよ」

 

中に入って来たのは恵里だった。檜山が殺害されて、犯人のハジメは自殺をするというとんでもない事態が起こったため、訓練どころではなく、しばらく休みになった。鍛錬は各自自主練、ということになっている。

 

「……もうそんな時間なのね」

「後は私が様子見てるから、雫は休んでなよ」

「そうね。そうさせてもらうわ」

 

無事に雫と交替できた。後は青い彼岸花で作った毒を飲ませるだけ。

 

恵里は香織が目を覚ますまで待ち続けた。待ち続けたのだが、いくら待っても目を覚ます気配が無い。

 

「いつになったら目を覚ますんだよぉ~」

 

恵里は眠気に耐えながらもずっと目覚めを待ち続けた。だが、先に恵里が寝落ちしてしまった。

 

翌朝、雫が香織の様子を見に来ると、スヤスヤと眠る恵里を見つけた。

 

「恵里、恵里。もう起きなさい。交替の時間よ」

「う、う~ん」

 

恵里は目を擦りながらゆっくりと上体を起こした。

 

「あれ、いつの間に……そっか、私寝落ちしちゃってたんだ」

「後は私が見ておくから、恵里はもう戻ってなさい」

「そうするよ……あ、そうだ」

 

部屋を後にしようとした恵里は思い出したように振り返り、雫にある物を手渡す。

 

「これ、香織が目を覚ましたら飲ませておいてね。自分で薬草探して作った薬なんだ」

「……そう、ありがとうね」

 

そう言って恵里は部屋を出て行った。邪な考えに口元を吊り上げながら。まさかそれが香織を殺す為の毒だとは誰も思うまい。

 

(おやすみ香織、永遠にね)

 

ドアが静かに閉じられ、雫は香織の手を取った。医者によると、体に異常は無く、精神に多大なダメージを負ったことで昏睡状態に陥っているとのこと。そして、しばらくすれば自ずと目覚めるだろうとのことだった。

 

「……ごめんなさい……」

 

雫は涙をぽろぽろと零しながら、謝罪の言葉を口にした。未だに目を覚まさない親友へ向けた言葉なのか、地球にいた時から迷惑をかけ続けて自殺に追い込んでしまったクラスメイトへ向けた言葉なのか、否、その両方だ。

 

雫はハジメのことを、「周りに屈さない強い精神の持ち主」だと思っていた。それは香織も同様だった。何せ、彼女からそう聞いたのだ。だけど、そのハジメは自ら頸を斬って自殺してしまった。もしかしたら、ずっと迷惑をかけていたのかもしれない。と、彼の抱えていた辛さや悩みを共有してあげられなかったことを悔やんでいた。

 

と、その時だった。握り締めていた香織の手が微かに動いたのだ。

 

「……香織!? 聞こえるの!? 香織!!」

 

雫が必死に叫ぶ。香織は閉じられた瞼をふるふると揺らし、雫の呼びかけに応えるように手を握り返した。

 

「香織!」

 

そしてゆっくりと、目を覚ました。

 

「……雫ちゃん?」

 

しばらくぼんやりとしていたが、やがて脳が覚醒し、雫を見下ろして彼女の名を呼んだ。

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう? 違和感はない?」

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

「そうね、もう八日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

「八日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……はっ! 南雲くん、南雲くんは!?」

「ッ……それは」

 

目の焦点が徐々に合わなくなっていき、雫は不味いと感じて咄嗟に話を逸らそうとする。しかし、それよりも早く香織が記憶を取り戻した。

 

どう伝えるべきか苦しそうな表情で悩んでいる雫を見て、香織は記憶の中の出来事が事実であることを悟った。だが、そんな現実を容易に受け入れることはできなかった。

 

とうとう現実から目を逸らして次々と言葉を紡ぎ、香織はハジメを探しに行こうとする。香織の腕を離すまいと掴む雫は悲痛な表情を作ったが、それでも決然と香織を見つめた。

 

「やめて……」

「香織……本当はもう、解ってるんでしょう?」

「やめてよぉ……」

「貴女の憶えてる通りよ」

「やめて……やめてってば!!」

「南雲君は……」

「その続きを言わないで!!」

 

香織は必死に現実から逃げるが、現実は非情にも香織を捕らえて離さない。

 

「彼は自殺したのよ」

「言わないでって言ったのにぃ……!!」

 

香織はベッドの上で泣き崩れてしまった。

 

「あれだけ血を流していたら、たとえあの時香織が回復魔法をかけても助からなかったと思うわ」

 

布団に顔を埋めて、喉が枯れるほど泣き叫んだ。雫には、己の親友を抱きとめることしかできなかった。

 

どれくらいそうしていたのだろうか。日は既に沈み、月明りに照らされていた。香織は泣き疲れたのか何時の間にか雫の腕の中で眠りに落ちていた。雫は眠る香織の頭をそっと優しく撫でた。

 

その時、部屋のドアが開かれた。

 

「雫! 香織は目覚めたのか!?」

「おう、香織はどうだ?」

 

光輝と龍太郎だ。訓練が終わってすぐに来たのだろう。あちこち薄汚れた訓練着のままだ。

 

雫は二人に向くと、人差し指を口の前で立てた。

 

「起こさないで。今はそっとしておきなさい」

「ごめん。香織はもう起きてるんだな?」

「ええ。今は泣き疲れて眠っているだけだから、そのうち起きるわよ」

 

香織が昏睡状態から回復したと聞いて、光輝と龍太郎は安堵の表情を浮かべた。

 

「そうだ、雫。もうすぐ夕食だ。香織のことは俺が報告しておくから」

「もうそんな時間なのね。すぐ行くわ」

 

光輝と龍太郎は部屋を後にした。雫も部屋に書置きを残して食堂へ向かった。

 

ドアが閉じられて数分後、香織は再び目を覚ました。

 

「あれ……雫ちゃん……?」

 

何時の間にか姿を消してしまった親友の姿を探そうと部屋を見回したが、どこにもいなかった。

 

「何だろう……あれ……」

 

部屋を見回していると、テーブルの上に何かが置かれていることに気づいた。書置きも残されている。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

起きたらこの薬を飲みなさい。恵里がわざわざ薬草を探して作ってくれたそうよ。

飲んだら今日はもう寝て、明日からまた頑張りましょう。

おやすみなさい。

雫より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「そっか……後で恵里ちゃんにお礼を言っとかないとね」

 

香織は薬を手に取り、そのまま飲み干した。かなり苦かったので少し涙目だ。

 

なんとか薬を飲み干し、器をテーブルに置いた瞬間、香織の体に異変が起こった。

 

「あぅ……うぅ……」

 

体の内側が熱を帯びて来て、それが全身に広まった。

 

「体が……溶けそう……」

 

香織は床に倒れて動けなくなった。高い熱に体を徐々に蝕まれていき、大量に発汗する。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

高熱で苦しみながら、香織の体が作り変えられていく。

 

爪は長く鋭く伸びていき、牙も発達していく。月のように真っ白な体には刺青のような花の模様が浮き出て、瞳孔は縦に割れていく。

 

この夜、この世界に一体の人喰い鬼が産声を上げた。

 

体が完全に作り変えられると、溶けるような熱が嘘のように引いていった。

 

そして立ち上がり、ふと窓の方を見た。窓には一羽の鳥が止まっていた。香織は鳥を見ると、思わず涎を垂らしてしまった。

 

そして、人間離れした速度で鳥を掴み、そのまま首の骨を折った。動かなくなった鳥を、香織は口に運んで齧り付いた。そして肉を引き千切り、生のまま咀嚼して飲み込んでしまった。

 

そして内臓を口に運ぼうとした所で、正気に戻った。

 

(私……急に熱が出て倒れて、それから……)

 

熱で倒れたかと思えば、気づいたら口の中に血の味が広がっていた。そしてベッドのシーツに付いた、大量の血と無惨にも喰い散らかされた鳥の死体を見て、思わず窓から放り投げた。

 

「はぁはぁはぁはぁ」

 

どうやら気づかぬ間に、異常な行動をしていたらしい。自分はおかしくなってしまったのだろうか。ハジメが死んでしまったから、いつの間にか心の何処かが壊れたのだろうか。そう考えていた。

 

だが、答えを導き出す前に、ドアが開かれる音がした。香織は慌てて口を拭う。

 

「あら、香織。もう起きてたの?」

「う、うん……さっき目が覚めたばかりなんだ……」

 

入って来た雫は恵里の薬の方を見た。

 

「薬、飲んだのね」

「凄く苦かったけどね。それで飲んだ後熱が出て倒れちゃって……」

「大丈夫なの香織!? どこか具合でも悪いの?」

「ううん。大丈夫だよ。もうすっかり元気になったから」

 

元気になったと聞いて、雫は胸をなでおろした。

 

「そう、なら良かったわ。今日はもう寝なさい。明日また頑張りましょう」

「うん。雫ちゃん、おやすみ」

 

香織はそのまま床に就いた。その後、ふと先程の自分の発言を振り返ってみる。

 

(そういえば、熱が出たのって恵里ちゃんの薬を飲んでからだったような…………!)

 

そして、香織は理解した。自分がおかしくなってしまった原因、それは恵里が作ったという薬だった。

 

(なら、恵里ちゃんにはちゃんと()()をしなくちゃね……うふふふふふふふふふ)

 

布団の中で、香織は笑う。その顔は、狂気に満ちた笑顔だった。

 

 

 

「さてと、もう香織は毒を飲んだかな♪」

 

恵里と鈴の自室にて、恵里は香織と雫の部屋の方向を向いて不気味に笑う。鈴は既にぐっすり眠っている。

 

「いや~、こうもあっさりとお邪魔虫の始末ができるとはねぇ~。後で南雲の墓参りに行こっと」

 

そう言うと恵里は寝る支度をする。すると、突然ドアがノックされる音がした。

 

「はいはい、今出ますよっと」

 

こんな夜中に一体誰だろうと思いながら、恵里はドアノブに手を掛けた。

 

ドアの向こうにいたのは、毒を飲んで死んだと思っていた香織だった。

 

「香織!? どうしてここに……」

「こんばんは、恵里ちゃん」

 

毒を飲ませたのにもかかわらず、香織は平然と笑顔をしていた。それが何よりも恐ろしかった。

 

「わ、私に何か用かな?」

「薬のお礼をしたいと思ってね」

「そ、そうなんだ~! うんうん、香織が元気になったようで取り敢えず安心したよ~」

 

恵里は顔面蒼白になっていた。毒であるはずの彼岸花で作った薬を飲ませたのに何故死なないのか。

 

「ふふふ」

 

香織は表情を変えずに、そのまま恵里の首筋を掴んで押し倒した。鈴はぐっすり眠っている。

 

(う……動けない……!?)

 

香織の力が強くて文字通り手も足も出ない恵里の耳元で、香織は小さな声で囁いた。

 

「私を殺そうとした人間に、こうして仕返しできるからね」

「ひっ!?」

 

恵里は命の危機を感じていた。このままじゃ殺される、そう思わずにはいられなかった。

 

「こ、殺すなら場所を変えなよ……鈴が寝てるからさ……」

 

流石にここで殺してしまったら色々と面倒なことになると香織も考え、場所を移すことにした。

 

 

変わって、ハジメの眠る墓地にて。

 

「ふふふふ、ここなら人を殺しても気づかれにくいよね? その辺に死体埋めれるし」

 

今までの香織からは全く想像できないような言動だった。鬼に堕ちたことで思考回路が歪になってしまったのだろう。

 

「さて、最期に言い残すことはあるかな?」

 

容赦なく殺すと言わんばかりの表情に、恵里は抵抗する気力も失った。

 

「……が」

「ん?」

「くそがくそがくそがっ!! 折角光輝君を手に入れるチャンスだと思ったのに、香織が死ななかった所為で台無しだよ!! 毒草を探してる時に偶然見つけた青い彼岸花で殺せたと思ったのに、何でお前は死なないんだよ!! 香織の好きなハジメも捨て駒の檜山も死ぬし! ()が緻密に練った計画が台無しだぁ!! 本当に神様がいるなら、どうして僕の邪魔ばかりするんだよっ!!」

 

どうせ自分は死ぬんだと思い、一番の邪魔者であった香織の前で心中の思いを全て曝け出した。何もかも言い放って空っぽになり、涙をぽろぽろと零し始める。

 

「さあ、一思いにやってよ……自分を殺そうとした人間が憎いんでしょ?」

 

そうして、来るであろう激痛に目を閉じた。しかし、痛みは何時まで経っても来ない。

 

恐る恐る目を開けると、香織はただじっと自分を見つめていた。

 

「……光輝くん?」

「そうだよ、僕は光輝君のことが好きなんだ。でも隣に香織と雫がいるせいで、僕は見向きもされないんだ」

 

恵里が光輝を好いていると知った香織は、口元を吊り上げる。

 

「そっかぁ~。恵里ちゃんは光輝くんのことが好きなんだぁ~。じゃあさ……」

 

恵里に顔を近づけて、香織は提案をする。

 

「協力、しない?」

「……は?」

 

恵里は呆然としていた。さっきまで自分を殺そうとしていたのに、急に気が変わって協力関係を結びに来たのだ。

 

「ずっと我慢してたんだけど、光輝くんの事、正直疎ましく思ってたんだよねぇ~。いつもいつもべったりくっついてくるし。この世界に来て思ったんだよ。どこかのタイミングで南雲くんと駆け落ちしてどこかで甘々の幸せな生活を送ろうって」

 

惚気顔で自分の心中を語る香織。恵里は開いた口が塞がらない様子だった。

 

「なのに光輝くんは私と南雲くんを引き離そうとしてくるし……だからさ、恵里ちゃん」

「な、何……?」

「……結ばれてよ。光輝くんと」

 

再び恵里は呆然とする。一瞬聞き間違いじゃないかと思った。

 

「……今、何て言ったの?」

「だから、光輝くんのこと、堕としてよ」

 

聞き間違いではなかった。それを知るや否や、恵里はハイライトオフの瞳を輝かせた。

 

「本当?」

「うん。私も全力で協力するよ」

「それは嬉しいなぁ~。でも、協力するからには対価、払わなきゃいけないんでしょ。その対価って何かな?」

 

流石は策士(自称)。香織の魂胆は読めていた。

 

「恵里ちゃんの魔法で、南雲くんを生き返らせて、支配権は私に頂戴?」

「なんだ、そんなことで良いんだ。お安い御用だよ。とっておきの魔法を夢の中で変な人がくれたんだ」

 

恵里曰く、その変な人というのは見た目が中性の人間だったという。そして、大量の血肉と魂を生贄に一人の人間を生き返らせる魔法、〝血祭の儀式〟をギフトとして受け取った。

 

「『初回はお試しってことで無条件だよ☆』って渡してくれたんだよ。これなら香織の目的は直ぐ達成できるでしょ? じゃ、そういうことでよろしく」

「……」

 

恵里は香織に手を差し出したが、香織は無言で喰らい付こうとしてきた。

 

「ちょっ、何するのさ!!」

「はっ! ごめんね? あの薬飲んでから無性に人を食べたくなっちゃって……」

「だからって僕を食い殺すのは勘弁してよね!! 涎垂らすの止めて怖い!!」

 

香織は何とか食人衝動を抑え、恵里の握手に応じた。こうして、月夜の墓地にて、なんとも歪な同盟が結ばれたのだった。

 

「じゃあ早速南雲を墓から掘り起こすね。香織は駄目だよ、食べるかもしれないから」

「生き返らせる前に別の意味で南雲くんを食べさせてよ」

「違う意味でなら……まぁいいか。あんまり傷つけたら駄目だよ?」

 

そう言ってとんでもねぇ会話を交わしながら、恵里はハジメの墓を掘り返す。

 

「さ~て、死体の状態はどうかな~もう九日も経ってるから多少痛んでたりして……」

 

墓を掘っている途中、恵里は訝しんだ。そして周りを掘り返してみるが…

 

「……ない」

「え? ない? 何が?」

 

恵里は驚愕した。

 

「ないんだよ! 南雲の死体が! 影も形も、掘り返された形跡すらもね!!」

 

なんと、墓地に埋葬されたはずのハジメの遺体は忽然と消えていたのだ。埋める前は確かにあった。だが、掘り起こされた形跡が全く無いにもかかわらず、溶けるように消えたのだ。

 

「えっ……じゃあ、南雲くんを生き返らせるのは……」

「死体が見つかるまでお預けってことだね」

「そんな……南雲ぐん……」

 

香織は座り込んで、月を見上げて泣いた。鬼になる前と変わらない、純粋な悲しみが零れていた。

 

「ほ、ほら、南雲ならさ、頑張って見つけ出すからさ、諦めちゃダメだよ」

 

恵里の言葉は、香織の耳に届いていなかった。恵里が香織を立ち直らせるのに、日の出九分前までかかったのだった……




オリキャラ紹介

霊流
魂を司る神。恵里の夢の中で禁忌の魔法〝血祭の儀式〟を恵里に授けた。

オリジナル魔法紹介

血祭の儀式
一度に一人の人間を生き返らせる禁忌の魔法。生贄は大量の()()の死体と魂。


融裂「ん? 南雲ハジメの死体か? 私が回収して再利用したが……次回 第十四話 地上」


つづく
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