もし南雲ハジメが全集中の呼吸の使い手だったら 作:籠城型・最果丸
雷の呼吸が最後の方だけ名前のみの登場になってしまい申し訳ございませんでした。
両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていた俺は、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。滅茶苦茶五月蝿い。
周囲を見渡すと、まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルくらいか?後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。何なの?神様か何かなの?
背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。きっと多くの人が美しいだの、素晴らしいだのと零すだろうな。何かコイツが気に入らない。だって見方によってはこの世は我が物とばかりに両手を広げているかのように見えるし。描いた奴も描かれた奴も絶対趣味悪いだろ。
如何やら俺達は巨大な広間にいるみたいだ。
素材は大理石か?美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間だ。まるでホテルのロビーだな。めっちゃ行きたかった。
俺達は台座のような場所に立っているようだ。目線高いし。周りには俺と同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達。教室にいた奴全員、ここに召喚されたみたいだ。
ってかさっきから周りが喧しいな!何なのコイツら?三十人くらいの人間が台座の前で跪いて両手を胸の前で組んでる。コイツらエヒト様エヒト様って五月蝿いんだけど!?誰エヒト様って!?もしかして壁画の人物の名前なの?そいつは絶対碌な奴じゃないに決まってる。
その内の一人が俺達の許へ歩み寄って来た。豪奢で煌びやかな衣装を纏って、高さ三十センチ位の烏帽子被ってる七十代のジジイ。顔の皺や老熟した眼差しが無かったら絶対五十代だって。
このジジイは手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見通りの深みのある落ち着いた声音で俺達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
は?お前の名前なんかどうでもいいんだよ。それより元の世界に帰せよ。お前らが呼び出したんじゃないの?呼び出せたなら帰せるだろ?
現在、俺達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。
多分、晩餐会などをする場所じゃないか?上座に近い方に畑山愛子先生と天之河達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。俺は最後方だ。だって前五月蝿いもん。
きっと皆、ここに案内されるまで現実に認識が追い付いてなかったと思う。ここに来るまで皆怖い位に静かだったし。イシュタルとかいう名前のジジイが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの天之河が落ち着かせたことも理由だろうけど。
天之河が畑山先生より教師らしくクラスを纏めてるから畑山先生涙目だよ。畑山先生、教師としての役目全然果たしてない。本当に大丈夫か?
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイド達が入ってきた。ファンタジー小説や漫画なんかで出て来るメイドそのものだった。
こんな状況だというのに男子共と来たらめっちゃメイドを凝視してるし。女子達の視線が滅茶苦茶冷たい。普段俺に向ける視線並みに冷たい。どうだ男子共、俺が受けた苦しみを少しは解っただろ。
生憎俺は白崎さんのお陰で歳の近い女子は少々苦手になってしまっているので凝視はしないが。何か知らないけど背筋に悪寒を感じた。え?何?今度は俺に向けてきたの?
悪寒を感じる方向へ目を向けると、なぜか満面の笑みで白崎さんがこっちを見ていた。白崎さん……怖っ!?何!?ヤンデレなの?俺のことが好きなの?頼むから止めてくれよ心臓止まりそうになったじゃないかよ止まったらあんた人殺しだからな?
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとジジイが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたジジイの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。
この世界はトータスという名らしい。そう言えばようこそトータスへ、とか言ってたよな。トータスには大きく分けて三つの種族がいる。ジジイ達人間族と魔人族、それと亜人族だ。
人間族は北一帯を、魔人族は南一帯を支配し、亜人族は東の巨大な樹海でひっそりと生きていた。
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。
魔人族が魔物を使役しだしたのだ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。もしかして俺達、戦わせられるのかな?死んだわ俺。
ただでさえ使役出来て一、二体なのに魔人族はそれを優に超える数を使役できるようになったのだという。人間族に勝ち目ないじゃん。もう無理ゲーだよ。
人間族の〝数〟というアドバンテージが崩れた。このままでは人間族は間違いなく滅亡してしまう。
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
あのクソ神め、やりやがったよ。っていうか何で俺達なんだよ!?呼ぶなら元グリーンベレーの奴でも呼べよ!巫山戯んなよ!!絶対脳みそ空っぽだろエヒトって奴。いかれた〝神の意思〟を鵜呑みにしてんじゃねぇか。歪過ぎる。
そしてジジイてめぇ。何ニヤついてんだよ気持ち悪いんだよ!人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒で度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしいけどだから何なんだよ!!一ミリも信仰しねぇからなあのクソ神いつかママぁって泣くくらいフルボッコにするからな首を洗って待ってろよ。
そうやって俺がネチネチと呟いてると突然畑山先生が立ち会がり俺の気持ちを代弁するかのように猛然と抗議をした。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
自信を持ってその通りだよ!いきなり異世界召喚されていきなり戦えだの迷惑にも程があるだろ絶対許さないからな。
彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。俺としてはこの先生も苦手だ。
〝愛ちゃん〟と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているのだとか。いや見た目的に威厳のいの字もないんですけど?百年掛かっても無理だと思うな。
今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がった畑山先生。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでジジイに食ってかかる畑山先生を眺めていた生徒達だったが、次のジジイの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
……は?このジジイ今なんて言ったの?帰れない?嘘だろ?
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」
帰せるんだろ?帰せるなら帰せよ!
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
あああああああああああああああ!!!!このジジイ言っちまったよ巫山戯んなぁぁぁぁぁぁ!!!!お前ら口を開けばエヒトエヒトってうるせぇんだよォ!!俺達が帰れるかどうかはエヒト様次第って無責任にも程があるだろうが!無責任にも程があるだろうが!あんな信用できない神様の気分次第ってもう帰れないじゃん!!俺達ここでじーさんばーさんになって死ぬのかよ巫山戯んな!帰れないなんて酷い!あんまりだぞ!死んだよ俺!!九分九厘死んだ!
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
お前!!責任取れよ!!お前のせいで帰れなくなったんだからな!!
でも俺は勉強と修行の合間にこういう類の小説を沢山読んできたからある程度の展開やパターンは知っている。
この状況で奴隷扱いしてみろ。殺すからな!?
誰もが狼狽える中、ジジイは口を挟むことなく静かに様子を眺めていた。ジジイから侮蔑の音がする。「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」だと?喜ぶのはお前ら狂信者位だけだよ!!俺達が喜ぶとでも思ったのかよ!!
未だパニックが収まらない中、天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目するクラスメイト達。天之河は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
嘘だろ嘘だろ嘘だろ!?戦いたくないのに!!何てめぇ勝手に話進めてんだよ巫山戯んなよ!!
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
……もう駄目だ。完全に全員参加の方向で固まっちゃったよ。畑山先生全然歯止め掛けれてないじゃん。俺も何か言えばよかったよ。
魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するようにジジイは話していた。言っとくけど悲劇は人間族だけのものじゃないからな?魔人族側にもちゃんと悲劇はあるんだからな?ってそんなもんあいつにとっては蚊帳の外だろうけど。
エヒトとかいうクソ神もこのジジイも信用できない。っていうか信用したら絶対碌な目にあわない。確実に危険分子だよ。
……まあ、茶番はここまでにして、そろそろ〝あれ〟を使う時が来たみたいだ。
俺の言う〝あれ〟とは、一種のブースト法で、身体能力を一時的に高める。特に敏捷性が格段に上がるが足腰に凄く負担が掛かる。この中では多分俺しか使えないだろう。
その手段の名は……
……『雷の呼吸』
「「いよっと」」
雫「南雲君……胃に穴開いてない?」
ハジメ「……胃の穴より、頭が痛い」
雫「貴方も大変だったのね」
ハジメ「凄く大変だよ。うちのクラスほとんどまともな奴いないし」
雫「あらら、ごめんなさいね。そう言えば香織から聞いたんだけど、南雲君、香織のことどう思ってるの?」
ハジメ「……少し苦手かな(ボソッ)」
雫「……」
雫「ここで、トータスコソコソ噂話」
雫「あの時南雲君はずっと耳を塞いでいたけどそれは耳が良すぎて周りの音が気になってしまうからだそうよ」
ハジメ「(え?俺なんか不味いこと言ったかな?)」
雫「……南雲君?」
ハジメ「へっ?あ、ううん、ごめん。少しぼんやりしていたみたい」
雫「(南雲君……香織のことそんな風に思ってたのね……これを聞いたら香織、かなり落ち込むでしょうね……)」
ハジメ「じ、次回 第三話 露わになる秘密」
雫「今日はもう休んだら?続きは私がやるから」
ハジメ「八重樫さん……我慢しなくてもいいよ」
雫「えっ!?」
つづく
名称変更しようかなと思っておりますが、変えてもいいと思いますか?
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変えてよし
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そのままでなんとか頑張れ