もし南雲ハジメが全集中の呼吸の使い手だったら 作:籠城型・最果丸
私が執筆している他の小説は後書きに挨拶を書くことにしましたが、これだけは前書きという形で続けさせていただきます。
更新遅れてすみませんでした。
温かいコメントありがとうございます!!(耳が痛くなるようなのもあったけど…)
アンケートの方はこの回を以て締め切らせていただきます。投票してくださった方々、本当にありがとうございました。
明日俺達が行く【オルクス大迷宮】ってのは、全百階層からなると云われている大迷宮だ。最上層は雑魚しか出ないが、階層の深度に比例して魔物もより強力なものが出現する。
にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。
魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。
要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。
ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。
俺達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。
何か、久し振りに普通の部屋を見た気がする。ベッドに飛び込むが、どうせ寝れないから意味はない。
全員最低でも二人部屋なのに何で俺だけ一人部屋なの!?酷くない!?でもまあ誰かと一緒になったところでストレスフルになりそうだから一人の方が気楽だったりする。
明日から早速、迷宮に挑戦する。今回は二十階層まで潜るらしい。力試しには丁度良さそうな深さだ。
夜が明けるまでの間、魔物図鑑を読むことにした。眠気は来ない。学校生活で染みついた居眠りスキルが全く役に立ってない。
半分ほど読み進めたところで、突然ドアがノックされた。
何何何何何!?こんな夜中に俺に何か用でもあんの!?ドアの向こうが檜山だったら速攻で斬り捨てるからな。
しかし、ドアの向こうは檜山じゃなさそうだ。ドアの目の前からする音とは違う。でも近くから檜山の音がするから用心するに越したことは無い。
「南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」
……もっと迷惑な奴だった。鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。
「……何?その恰好」
「えっ?」
は?この距離で聞こえないとか可笑しいだろお前。耳腐ってんの?耳が良い俺が言えたことじゃないけど。
露出度高すぎんだろおい。家ではいつもそんな恰好でいるの?とんでもねえ白崎さんだな。
「あ~いや、なんでもないよ。えっと、どうしたのかな?何か連絡事項でも?」
「ううん。その、少し南雲くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」
迷惑に決まってんだろお前。
「…………まあいいや、どうぞ」
最も有り得そうな用件を予想して尋ねるが、白崎さんは、あっさり否定して弾丸を撃ち込んでくる。しかも上目遣いという炸薬付き。効果は抜群だった。気がつけば扉を開け部屋の中に招き入れてしまった。突っ撥ねときゃ良かったぞ畜生。
「うん!」
いやいや警戒心なさすぎでしょ白崎さん?あんたそんなんじゃひどい目に遭わされるぞ。
白崎さんは窓際に設置されたテーブルセットに座った。
若干混乱しながらも、俺は無意識にお茶の準備をする。といっても、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだけど。白崎さんと自分の分を用意して彼女に差し出す。そして、向かいの席に座った。
「ありがとう」
やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける白崎さん。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだった。
だが、俺は彼女がとても厄介な人物であることを知っている為、欲情は起こらない。綺麗だ、とは思うけど。
「それで、話って何。明日のこと?」
俺としては白崎さんにはとっとと話終わらせて帰って貰いたい。
俺の質問に「うん」と頷き、白崎さんはさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な音を出し始めた。
「明日の迷宮だけど……南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから!お願い!」
話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する白崎さん。
「……足手纏い?あんたまで俺を腫れ物扱いするのかよ。いい加減にしてくれ」
「違うの!足手まといだとかそういうことじゃないの!」
白崎さんは、俺の誤解に慌てて弁明する。自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ゴメンね」と謝り静かに話し出した。
「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……ふと雷が鳴ったと思ったら……」
その先を口に出すことを恐れるように押し黙る白崎さん。彼女はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。
「……消えていたの……」
彼女からは嘘の音がしない。本当にそんな夢を見ていたようだった。
「……所詮夢でしょ?大体、そんな理由で待機が許可されるとは思えないし、もし許されたらクラスメイト共から批難の嵐だと思うんだけど……」
「で、でも……」
「人の心配より、自分の心配をしなよ。自分の身くらい自分で守れなきゃだめだからさ」
しばらく、俺と白崎さんは見つめ合う。そして、沈黙は白崎さんの微笑と共に破られた。
「変わらないね。南雲くんは」
「?」
え?白崎さんと初めて会ったのは高校に入ってからのはずなんだけどなぁ、入る前に会ってたっけ?俺ら二人。
「南雲くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね?でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」
……えっ?ナニソレ、めっちゃ怖いんだけど……もしかして白崎さん俺のストーカー?……んな訳ないよね……
「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見た南雲くんは小さな男の子とおばあさんを不良っぽい人達から庇ってたから私のことが見えていたわけないしね」
あれは、俺が中二の頃にまで遡る。
ある日、男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったらしく、男の子はワンワン泣くし、それにキレやがった不良共がばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々大変な状況だったという。
偶然通りかかった俺もスルーするつもりだった。だが、おばあさんが、おそらくクリーニング代であろう――お札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達が、更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまった。
『あぁ?何だァ?てめぇは』
『…クリーニング代くらいなら、財布の中全部取らなくてもお札数枚で十分足りるってこと…わかってるだろ』
『あぁ?これは迷惑料なんだよ。め・い・わ・く・りょ・う。わかるかァ?』
『……財布、置いてけよ』
『はぁ?』
『聞こえなかったのか?置いてけ、って言ってんだよ』
『うるせぇんだよォ!』
不良共に殴られ蹴られても俺はそこをどかなかった。相手の方から去っていくまで、俺はばあさんと男の子を庇い続けた。狙い通り、不良共は去っていった。
「……見苦しいと思わなかったの?」
俺は軽く死にたい気分だ。厨二病を患った時の黒歴史とタメを張るくらい最悪のシーンを見られていたらしい。もう、乾いた笑みしか出てこない。隠しておいたエロ同人誌を母親が綺麗に整理して本棚に並べ直していた時と同じくらい乾いた笑みだ。もちろん厨二病になった覚えなんてないし、エロ本も買ってない。あくまで例えだ。
でも、白崎さんは優しげな眼差しを俺に向ける。その表情と音には、侮蔑も嘲笑も無かった。
「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見て南雲くんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」
「……は?」
「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」
「白崎さん……」
「だから、私の中で一番強い人は南雲くんなんだ。高校に入って南雲くんを見つけたときは嬉しかった。……南雲くんみたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。南雲くん直ぐに寝ちゃうし、起きてたとしても素っ気ない態度だったけど……」
そう、だったんだ……だから、俺なんかに構ってたのか。
「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも南雲くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……」
「……もう、話は済んだ?」
「……うん。じゃあ私は戻るね?」
白崎さんは自分の部屋に戻っていった。ドアが音を立てて閉まった後、俺はベッドに寝転がった。眠れないのがわかっているのに。
雷の呼吸を覚えようと思ったのは、中一時代の友達の家にあった、とある本を読んでからだった。本来六つしかないはずの雷の呼吸の七つ目の型はそれに載っていた。
その頃の俺はとにかく弱かった。喧嘩をすれば負けは確実。でも、雷の呼吸を習得するために鍛えた結果、それなりに体力は向上した。親父も御袋も俺を応援してくれた。効果があったからだ。
だけど、俺には素質がなかった。いくら鍛錬を重ねても、極みに達することは叶わないだろうと親父と御袋に言われた。
だから、他の呼吸のことが書いてある本を片っ端から探した。でも、見つかることはなかった。
それでも諦めきれなくて、俺はひたすら雷の呼吸の鍛錬を積み重ねた。お陰で体力はかなりついて、エフェクトが出るまで上達した。
そして、ここに来て直ぐ雷に打たれて体質が変わり、適正が高くなった。
何故だろう。ここに来てから眠気なんて全く感じなかったのに、今物凄く眠い。
二週間振りに感じた眠気を我慢せずに両の目を閉じると、俺の思考の糸が解けていき、暗くも柔らかく、温かい所へ意識を落としていった……
ちなみに、近くに檜山がいたのは知ってた。
「「いよっと」」
ハジメ「白崎さん……俺の心配をしてくれたのは嬉しいけど、流石にあの恰好はどうかと思うなぁ」
香織「えぇっ?あの時私変な恰好してた?」
ハジメ「自覚ないんかい!!」
香織「その……なんかごめんね?」
ハジメ「いや別に謝ってほしいわけじゃなくて……」
香織「ここで、トータスこそこそ噂話」
香織「南雲君の中学時代の友達の名前は…」
ハジメ「ってストォップ!!ストップ!!」
香織「ど、どうしたの南雲君?大声なんか出して」
ハジメ「何処で仕入れたんだよその情報!!」
香織「…カミ様?という…人に教えてもらったんだ」
ハジメ「(あのクソッタレエヒトじゃねーよな?)」
香織「次回 第六話 迷宮を駆ける
ハジメ「カミ様とやら出てこぉい!!粛清だこら!即・粛・清!!」
つづく
誰を鬼にしてほしいですか?(事前に決まってるけどアンケート次第でもしかしたら変わるかも)
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勇者(笑)
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死山(檜山)
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雫
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恵里
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幸利
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香織