もし南雲ハジメが全集中の呼吸の使い手だったら   作:籠城型・最果丸

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どもども、一世一代の変わり種(自称)の最果丸です。

遂にハジメの生まれ変わりを書き上げました。


第七話 新たなる始まり

……暗い。

 

気がつくと俺は、真っ暗な場所にいた。暖かくも無い、冷たくも無い、そんな空間が果てなく広がっていた。

 

ああ。そういえば俺、自分で頸切ったんだっけ。何もかも、あの夜見た夢の中で夢魔が言っていた通りになった。

 

 

『…そして、仲間に裏切られた鍛冶師の少年は、頸を切って永遠の眠りについてしまうのでした。おしまい』

 

 

あの夢魔は一体何だったのだろう。それが分からないまま、俺はオルクス大迷宮で自ら命を絶った。

 

「ほぉらねぇ~? 俺の言った通りになったでしょう?」

 

後ろから突然声がした。驚いて振り向くと、何時の間にか俺の後ろにいたのは、夢に出た夢魔だった。洋装の青年の姿をしていて、右目は赤色、左目は青色をしていた。両側に時計が浮かんでおり、右側の針は巻き戻り、左側の針は進んでいた。

 

「またアンタかよ……結局何者なんだアンタは」

「俺? まぁずっと名前を伏せてくのもあれだし。特別に名乗ってあげよう」

 

夢魔は踊りながら名前を名乗る。無駄に動きがキレッキレなのが腹立つ。

 

「俺は狂時(くるとき)。時間を司る神さ。聖都教会の野郎共の前ではパスューチャと名乗ってるよ」

 

夢魔は狂時と名乗った。聖都教会の連中はパスューチャと呼んでいるらしい。って名前言いづらっ!?

 

「そして君は南雲ハジメ、だねぇ~?」

 

どうして知ってんの!? 俺の名前!!

 

「うんうん、知ってるよぉ~。君が地球にいた頃から見てたからね」

 

うわ怖っ!? やってることが白崎さん並みだ。

 

「どうして君をここに連れて来たのか。理由をここで教えようと思うんだぁ」

 

確かにそれは気になってたけど、口調がウザい。

 

「単刀直入に言おう。君に……いや、お前にエヒトを倒してもらいたい」

 

声の調子と共に、狂時の表情と容姿が変わる。まるで別人のように豹変してしまっている。まず髪の毛の長さが大分短くなった。さっきまではちょっと長かったのに、今は短めになっている。服装も上は羽織一枚だけで、下の裾は膝までだ。変わっていないのは両側に浮かぶ時計と、左右で異なる目の色だけだった。

 

「は? エヒトを倒せ? 俺に言ってんの?」

 

狂時は小さく頷いた。正直な奴だな。

 

「なぜ、お前にエヒトを倒してもらいたいのか教えてやろう」

 

エヒトが呼吸を恐れているからだ、と不気味な笑みを浮かべながら続ける。

 

「正確に言えば、ある〝呼吸〟を恐れている。そもそもお前は雷の呼吸を使える体ではなかった。エヒトがお前の体を雷の剣士に相応しい体にしたのは、お前がその〝呼吸〟を使える体だからだ」

 

何だよその呼吸って。どの呼吸なんだよ。

 

「大分昔のことだ。エヒトは前いた世界線で〝ある呼吸〟の前に追い詰められて敗れた。その後、この世界線に流れ着いたエヒトは、この世界線に訪れる、〝ある呼吸〟の素質がある者を次々と殺していった。彼奴の怯える様が実に滑稽だった。だが、そのうち一々始末するのが面倒になった彼奴は、殺すよりも適正を弄ってしまえば問題はないと気づいた。それ以降エヒトに直接殺される者はいなくなった」

 

狂時はヤバい事実をペラペラと話した。俺がその呼吸の素質を持って生まれたのか。

 

「その通りだ」

 

心読むんじゃねぇ!!

 

「〝例の呼吸〟の使い方は、お前の肉体を再構築する時雷の呼吸に上書きしてやろう」

 

つまりあれか。目が覚めたらなんか使えるようになってた、という展開なのか。

 

「その前に」

「その前に?」

 

狂時はまるで俺に褒美をやるかのような口ぶりで言う。

 

「お前に、素晴らしいものを見せてやろう。お前が死んだ後の出来事だ」

 

右手を俺の後ろの方へ伸ばし、俺に映像を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

映像には、クラスメイト一行が映っていた。

 

『いやぁぁぁぁぁぁ!!!! 南雲ぐん!! 南雲ぐん!!』

 

白崎さんが俺の亡骸に縋って泣き叫んでいた。

 

『一体……何がどうなってやがんだ……』

 

坂上は動揺しているようだった。

 

『香織、もう行こう。いくら君が泣いても、南雲はもう二度と目を醒まさない』

 

天之河の言っていることは事実だ。俺は死んでしまっているのだから。

 

でも、白崎さんは動かない。それどころか反発までする始末だ。

 

『そんなわけないでしょ!? 南雲くんは死んでない! きっと、疲れたから眠っているだけで……それで……うぅ……ぐすっ……どうしてぇ……南雲ぐんの…脈が止まってるのぉ………』

 

え――――――――――っ!! 死んでるだろうが! 俺死んでるだろうが! 頸から血を流して倒れてるだろうが! もうまともな奴がいないのかようちのクラス……

 

仕方なく、メルドさんが白崎さんの首筋に手刀を落とし、彼女の意識を刈り取った。

 

ぐったりと眠る白崎さんを抱きかかえた天之河が、メルドさんを睨みつける。そして文句を言おうとした矢先、八重樫さんが遮るように機先を制し、メルドさんに頭を下げた。

 

「すいません。ありがとうございます」

「礼など……止めてくれ。このままでは彼女が壊れてしまう。それだけは何としても防がなければならない。全力で迷宮を脱出する。……彼女を頼む」

「言われるまでもなく」

 

離れていくメルドさんを見つめながら、口を挟めず憮然とした表情の天之河から白崎さんを受け取った八重樫さんは、天之河に告げる。

 

「私達が止められないから団長が止めてくれたのよ。わかるでしょ? 今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。……南雲君も言っていたでしょう?」

 

八重樫さんの言葉に、天之河は頷いた。

 

「そうだな、早く出よう」

 

目の前でクラスメイトが二人も死んだのだ。クラスメイト達の精神にも多大なダメージが刻まれている。誰もが茫然自失といった表情で俺の死体をボーと眺めていた。中には「もう嫌!」と言って座り込んでしまう女子もいる。

 

俺が天之河に叫んだように今の彼等にはリーダーが必要なのだ。

 

天之河がクラスメイト達に向けて声を張り上げる。

 

「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

その言葉に、クラスメイト達はノロノロと動き出す。トラウムソルジャーの魔法陣は未だ健在だ。続々とその数を増やしている。今の精神状態で戦うことは無謀であるし、戦う必要もない。

 

天之河は必死に声を張り上げ、クラスメイト達に脱出を促した。メルド団長や騎士団員達も生徒達を鼓舞する。

 

そして全員が階段への脱出を果たしたところで、映像は閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

「こんな感じだ」

「……」

 

狂時は嗤っていた。

 

「いいのか? お前を慕っていた女もいたようだが」

 

きっと白崎さんのことだ。やっぱり俺のことが好きだったんだな……

 

俺が思い詰めていると、狂時はニヤリと嗤う。

 

「……例の呼吸だけを使えるようにするつもりだったが、気が変わった」

 

何を言ってるんだろう……

 

「雷も残して呼吸を全て使えるようにしてやろう」

 

えっ、他の呼吸法も使えるようにするの? 確かに俺は雷以外も知ってるけど。

 

「ただし、お前の記憶は全て失われる。勿論、ここで俺と話したこともな。お前がエヒトを倒すのは決まったことだ。選択肢をやろう。雷を犠牲に例の呼吸のみで生き延びるか、記憶を犠牲に全ての呼吸で生き延びるか。さあ選べ!! 南雲ハジメ!!」

 

どうする。例の呼吸が何か分からない以上、それだけで生き延びられる自信があるかと聞かれたら無いと答えざるを得ない。かといって全ての呼吸を選べば、俺の記憶は全て失われてしまう。

 

俺の全ての記憶…つまり、今まで父さんと母さんと一緒に過ごした日々も、全て忘れてしまうということだ。流石にそれは嫌だ。でも、消し去りたい記憶も無いと言えば嘘になる。

 

「消し去りたい記憶があるのなら、それだけ消すこともできる。どうだ? 全ての呼吸を覚える気になったか?」

 

狂時の奴、俺が全ての呼吸を使えるようになることを望んでいやがる。でも…嫌な記憶を消してくれるのなら……

 

 

 

 

『そうだ、嫌な記憶なんか消してしまえばいい。生きてさえいれば、必ず強者に勝てる』

 

俺の耳元で、鬼が囁いた。

 

 

 

 

 

「呼吸を全部……俺に叩き込んでくれ」

「欲に忠実な人間だな。心の悪魔に耳を傾けたか。まぁ、いいだろう」

 

恐らく、例の呼吸だけを選んでも、狂時は了承しただろう。

 

「クラスメイトと共に過ごした記憶を、消してくれ。消したい記憶はそれだけだ」

「特定の記憶だけを消し去れば、性格が変わることもあるが、それでもいいか?」

 

躊躇を煽ってくる狂時。

 

「構わない。精神的苦痛がそれで和らぐのなら」

 

狂時はニヤリと笑う。

 

「では、お前の望み通り呼吸の全てを体に刻み込んでやる!! 行け!! あの扉を潜れば、お前の体は再構築される」

 

狂時が指し示す方向には、光り輝くゲートがあった。

 

「あそこの先は、何処に繋がってるんだ?」

「俺にも分からない。遥か上空かもしれないし、深い海の底かもしれない」

 

最後の最後まで、狂時は煽り続けた。でも、俺に躊躇はない。

 

「じゃあ、いって来る」

「フッ、生きてエヒトを滅ぼしたらまた会おう」

 

まるで好敵手みたいな台詞を吐きながら、狂時は俺を見送る。

 

俺は光り輝く門に足を踏み込んだ……




狂時「では、今宵のトータスコソコソ噂話をしよう。『お前達に見せた俺はどちらも本当の俺ではない』次回 第八話 神も恐れた御業」

誰を鬼にしてほしいですか?(事前に決まってるけどアンケート次第でもしかしたら変わるかも)

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  • 死山(檜山)
  • 恵里
  • 幸利
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