栞の旅人、ロドスにて療養中   作:錆鉄塊

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健康食の二次災害のお話です。彼らには悪いことをしたと思っています。


死中に活

私はドクター。このロドスで軍事と事務を担っている男だ。

 

レユニオンが起こした武装蜂起…チェルノボーグ事変のあの日、私はロドスの仲間たちに同都市の秘匿施設から救出され、ロドスの一員となった。

 

いや、一員となったというよりは帰還したと言うべきか。

今の私の感覚ではここは新しい場所だが、以前の私からすればとてもなじみのある場所だ。私はもともとロドスのリーダーだったのだから。

 

今の私にとっては新しいのに、かつての私にはなじみがある。

一見矛盾を感じる言い回しだが、事実は何も矛盾していない。

 

私は記憶喪失なのだ。助けられたあの日、意識を取り戻した時にはすでに名前と指揮能力以外の全ての記憶を失っていた。以前は神経学者であり、鉱石病の優秀な研究者であったようだが、それらに関する記憶も一切無い。

 

だが、それは私がロドスで職務を行う上で一切の言い訳にはなり得ない。

ロドスは…アーミヤたちは、こんな私でも、それでも欠かせない仲間と呼び、迎え入れ、頼りにしてくれているのだから。

 

龍門にアーミヤと共に赴いたあの日、ケルシーは言った

 

―これまでの犠牲に……報いることができればいいがな―

 

言われるまでもない。私の命は大切な仲間を含む多くの命の上に成り立っている。

投げ出すことなど許されない。私はやり遂げねばならない。

必ずや、鉱石病を根絶しなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな私だが、実はただいま絶賛ピンチに陥っている。

それはとても大切な、絶対になければならないものが無いという危機だ。

白磁の陶器の上に腰を下ろし頭を抱えて小刻みに震える私は、湧き上がる絶望に抗うかのように…もしくは耐え切れなくなったように、声を上げた。

 

「紙が……無いっ!」

 

 

 

 

 

○○〇

 

 

 

 

 

「なんで…なんで無いんだっ!予備まで奇麗に無くなりやがって!」

 

ドクターの魂の叫びがトイレに木霊する。

ドクターが直面した危機とは、用を足した後にトイレットロールが無いことに気付くという危機だった。

 

「もしかして…その声はドクターですか?」

 

ドクターの左隣の個室から叫びに対する反応が返ってきた。

まだ若く、少し高いながらも特徴的なその声は、一度聞けばそうそう忘れることはない。確か、この声の主は…

 

「その声は、バイソン少年!?」

 

「はい、バイソンです」

 

予想通り、声の主はバイソンだった。

彼は龍門で最大シェアを誇る運送会社、フェンツ運輸の御曹司であり、ペンギン急便にインターンシップを行って散々な目にあってから同社の伝手で現在はロドスのオペレーターとして勤務している。勤務態度は真面目で能力も申し分ない。最年少でトランスポーターとなった実績は伊達ではないと思わせられる優秀な子だ。

そんなバイソンが隣にいる。ドクターにとっては渡りに船だ。

冷え込んだ心が一気に熱を帯びていくのを感じながら、ドクターは嬉々として救助要請を行う。彼ならばきっと、ドクターの望む品物を届けてくれるだろうと確信を込めて。

 

「ああ、助かった!バイソン、そっちのロールこっちに投げてくれ。さっき聞いた通り私の個室のロールは予備含めなくなっているんだ」

 

「ドクター…そうしたいのはやまやまなんですけど…」

 

「え…?」

 

なんだその気まずそうな声は。

まさか、いやまさか嘘だろう?個室二つのロールが予備含めてなくなるなんてそんな…

悪夢のような考えが脳内をめぐり始める。この沈黙が長く続けばどうにかなってしまいそうだ。だから、ドクターは努めて冷静に、隠しきれない動揺を精一杯表に出さぬよう続きを促した。

 

「な、なぁ、バイソン…まさか…?」

 

「はい、そのまさかです…僕もドクターと同じ状況なんです…」

 

雷に打たれたような衝撃が走った。縋っていた命綱が切れてしまったような、そんな衝撃。

その発言によりフリーズしたドクターの脳は再起動までに数秒を要したほどだ。

そして起動と同時に、今の発言の答えを彼なりに導き出していた。

きっとこれはバイソンなりのジョークなのだ。

そう、イッツ龍門ジョーク。流石大都市、冗談がえげつない。

平時であればブラックジョークとして流していたのだが、生憎それを受け止めるような余裕は今のドクターにはない。

 

「………はは、真面目な子だと思ってたけど、そんな冗談も言えたんだなぁははは。でも今そんなお茶目を出さなくてもいいぞ。さぁさっさとロールを渡せ!」

 

「あの、冗談じゃないです。本当に無いんです」

 

冗談ではなかったらしい。

震えている、手が。受け止めきれない現実に、体が拒絶反応を示している。絶望的現実に、思わず言葉が零れた。

 

「マジで…?」

 

「マジです」

 

「うっそだろ…」

 

全身から力が抜けていく。希望が潰えて、心が砕ける音が聞こえるようだ。

支えられなくなった両腕をだらしなく垂れ下げ、天を仰ぐ。

ああ、見知った天井だ。ロドスのトイレの天井は全部同じデザインだ。きっといちいち趣向を凝らしてコストを上げたくなかったんだろうな。質素倹約は良いことだ。省けるところは省かなければ。

思考は現実を直視したがらない。どんどん逃避の方向へ進んでいく。それを無理やり現実に引き戻す声が、右隣から聞こえた。

 

「ふ…無様だな…」

 

すこぶる敏腕で、非常にイケメンであろうことを感じさせる低く渋い声。ドクターの記憶が正しければ、この声は…この声は…!

 

「その声は…まさかシルバーアッシュ!?」

 

「そうだ。お前の盟友、シルバーアッシュだ」

 

記憶は正しかった。

彼こそカランドの軍閥カランド貿易の経営者にしてカランド指折りの名家シルバーアッシュ家現当主、エンシオディス・シルバーアッシュその人だ。

その彼がこんなところで何をしている?彼は交渉の場でこう、たっぷりとした余裕を持って交渉相手と対峙しているか、油断ならない顔つきで正々堂々計略を巡らせているのがお似合いだろう?

まさか彼も…?いや、まさか。そんなバカな…そんなことがあり得るのか…?

ドクターは恐る恐る口を開く。もはやそこに希望は無い。ただ、より深い絶望に立ち向かおうとする人間の雄姿がそこにはあった。

 

「……まさかとは思うけどさ、その、シルバーアッシュもさ、無いの?」

 

「無論だ。ロールがあればこんなところで30分も無様を晒していない」

 

「僕は40分です」

 

「どうでもいいわそんなこと!どうすんだよ!ないじゃん!トイレットロール!お尻拭けないじゃん!」

 

現時点を持って、最悪の予想は現実のものとなった。いや、現実に姿を現したと言うべきか。このトイレにある個室は3つ。そして個室はすべて埋まっている。バイソン、ドクター、シルバーアッシュ…全員、己が個室にロールを見いだせなかった。現在、このトイレにロールは存在しない。ドクターがトイレに入ったその瞬間にはすでに、このトイレには用を足した後の事後処理道具は無かったのだ。

取りに行くにもロールを始めとする備品置き場はここより往復10分。処理をしないままそれだけの時間行動するなど耐えられない。

ドクターの心はいよいよもって決壊した。声となって解き放たれた激情。それはまさに慟哭。理不尽な現実に対する嘆きだった。

 

「落ち着け盟友よ。叫んだところで状況は好転しない」

 

雪原に吹く一陣の風のような、冷静な言葉が隣から聞こえた。

急速にドクターの頭が冷えていく。そうだ、今は感情を露にするときではない。何とかして、無事に生還する方法を考えなければいけないのだ。

 

「ぐ……そうだな、悪かった。というか一体全体誰だよロールかっぱらっていったの…」

 

「僕がトイレに入るとき、ブックマークさんとすれ違いました。あの人、確か今日が定期健診でしたから、もしかしたら…」

 

「あぁ…」

 

「辛いな…」

 

数か月前にロドスに入った新人、オペレーターブックマーク。彼が健診の度にハイビスカスのお手製料理を振舞われていることは周知の事実となっている。

彼がみなまで口にしたわけではないが、ハイビスカスの診察を受け、そしてあれほどやつれているとなると自ずと答えは絞られてくる。いや、明るく優しい彼女の欠点がただ一点を除いてまるでないことから答えは一つと言っていいだろう。

健康食を食べさせられているのだ。

彼女の健康食は効果抜群だが、味に一切の配慮がされていないことが難点だ。歴戦のオペレーターでさえ口にすることを渋るそれを、健診の度に、作った本人の目の前で食べさせられている。恐らく残すことは許されないだろう。まさに苦行だ。さらに言えば、彼女ほど真面目に人の健康を考える人物が、個別で診察を担当する患者に振る舞う料理に趣向を凝らさないはずが無いのだ。オペレーターブックマークは、健診の度にハイビスカスお手製スペシャル健康食を食べさせられている。

いつしかこれがオペレーターの共通見解となっていた。

 

「というかトイレのロール全消費するようなお通じとか…ハイビス何食わせてんだよ…」

 

「我らが普段食べさせられている健康食でもあれほどの効果が出るのだ。彼のために特別に作られたものなら、こうもなるだろう」

 

「マジかよ、もはや兵器だな…いや待てよ、これを購買で売ればお通じに悩む女性オペレーターに飛ぶように売れるんじゃないか!?」

 

「盟友よ、その発想はどうかと思うぞ…」

 

「控えめに言って最低だと思います」

 

「あれぇ…?」

 

一斉にバッシングを受けてしまった。

そんなに悪いことを言っただろうか?皆は健康食を食べてくれる。クロージャは儲かる。女性オペレーター達はすっきりウエストを手に入れる。

そしてドクターはアイデア提供代として売り上げの何割かをもらう。

皆幸せだ。百利あって一害無しでは…?

ドクターは顎に手を当て考える。やはりハイビスカスの善意と努力を商材に落とし込むというのが人としてどうかという話なのだろうか…

 

「それはそうと、本当にどうするんですか?僕、エク姉たちにご飯に誘われてるので、あまりこうしてはいられないんですけど…」

 

「私もあまり悠長にしている時間は無い。ドクター何か案は無いか」

 

「はぁ?私に丸投げぇ…?」

 

ハイビスカスの健康食から商業倫理問題について思いをはせていると、両隣からまるで思考放棄したような呼びかけが聞こえた。バイソンに至っては同僚との飯があるから脱出方法を考えろと来た。何とも良い御身分である。将来人の上に立つ人物というのはやはり器が違うらしい。

と、腹の中で意地悪をこねくり回しても事態が解決するわけではない。それにエクシアたちの誘いをドタキャンすれば後でどんな報復があるか分かったものではないのも事実である。以前ドクターが宴会で遅刻した時に受けた「面白い一発芸3、2、1どーぞ!」という無茶ぶりはかなりの苦行だった。

仕方がないのでどうにか方法を考えていると、一つ思いつくものがあった。ドクターはそれを早速口に出してみる。

 

「んと、あ、そうだ。バイソン、君確か何入れているかわからないけどなんでも入ってそうなリュック持ってたよな?」

 

「持ってますよ。チリ紙も入ってます」

 

「お!じゃぁそれで…」

 

「ただ今は僕の部屋に置いてます」

 

「く…じゃぁ駄目か…他は…」

 

あえなく第一案は潰えた。しかしチリ紙という言葉に可能性を感じる。もしかすると、これなら行けるかもしれない。

 

「そうだ!ポケットティッシュとかは無いか?」

 

「既に確認済みだ。答えは我らが今ここに居ることだ。お前はどうだ?」

 

言われて慌てて確認してみるが、どのポケットにもチリ紙はおろか拭けるようなものは何もなかった。あったのは手のひらサイズの個人用端末と、ロドスの運営管理用の端末だけだ。

 

「無い…な…」

 

「はぁ…持ってないなんて社会人としての意識が足りないんじゃないですか?」

 

「ふぅ…全くだ盟友。私が来たとき、失望させるなと言っただろう」

 

第二案もあえなく撃沈。お返しに痛烈なディスが飛んできた。

畜生、なんで生還方法を考えてるのにこけ下ろさなくてはいけないんだ。というか自分たちも持っていないじゃないか。

 

「お前ら…それ全部自分に刺さってることを忘れるなよ…そうだ、ウォシュレット!このトイレにウォシュレットは無いか!」

 

「ありません。それも確認しました」

 

「ここまでが私とバイソンの15分だ」

 

ああ、既にこれらの案は出てたんですね。それじゃぁ最初に共有してくれても良かったんじゃないですかね?

ドクターは何とも言えない気持ちを抱えながら次の案を考え始めるが、いい案は一向に見つからない。完全にお手上げだ。そもそも、この状態で取れる手段が少ないのだ。今取れる手段で行き詰った以上、もはや外部に助けを求めるしか道は残されていないだろう。

 

「ぐぬぬ…かくなる上は、救助を求めるしか…」

 

「それも厳しいです。僕の端末にある連絡先はペンギン急便のメンバーぐらいなので」

 

「私もだ。クーリエとマッターホルンは休暇で出かけている。残った連絡先は妹たちだけだ」

 

二人が連絡できるのは女子だけだということらしい。確かに、女子を男子トイレに呼びつけるのは非常に気が引ける行為だ。シルバーアッシュに至っては妹である。その選択肢を取るのは憚られるだろう。

ここでドクターも自身の端末に目を落とす。

 

登録された連絡先…ケルシー、アーミヤ、シージ、フロストリーフ、クオーラetc

 

何人か男性オペレーターの名前も目についたが、彼らは軒並みロドスを留守にしているか、急を要する任務の最中だった。すなわち、ドクターの端末にも助けを求めることが出来る相手は女子しか居ないのだ。なんでこんな時に限って…ドクターはもどかしさに歯噛みしながら結果の報告を行う。

 

「だめだ、(動ける奴が)女の子しかいねぇ…!」

 

「連絡先が女子だけって…ドクター、ナンパでもしてるんですか?」

 

「やれやれトップがこんな破廉恥ではロドスの将来が心配だな」

 

「は???バイソンだって連絡先ペンギン急便だけってことは女子だけだろうがよ!」

 

「僕のはエンペラーさんも入ってます」

 

「だそうだ」

 

「ッッッ!!!」

 

救助に来れそうな人が居ないことを報告しただけなのに、あらぬ誤解を受けるドクター。

バイソンの少し冷たい言葉が心に刺さる。

というか、シルバーアッシュは完全に楽しんでいる。それは間違いない。だって声に愉悦が滲んでいる。散々盟友だなんだと言っておいてなんて奴だ。

怒りがふつふつと湧き上がる。それと同時にいよいよ行き詰ったことも認識していた。

今、我々が救助を要請できるものはいない。そして我々の手の内に現状を打開する術はない。

八方塞がり。チェックメイトだ。

もはやどうすることも出来ない。

ドクターはただ医療部門でケルシーと打ち合わせをした帰りに少し催しただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

ポケットティッシュが無いことを同じく無い奴らからディスられ、破廉恥野郎の疑いをかけられ…

何だか悲しさがこみ上げて来る。

もう我々に打てる手はない。トイレの中でいずれ訪れる、緩慢な死を待つしかないのだ。

ドクターの視界を涙が覆っていく。

なんと情けない死。トイレットロールが無くて死ぬなんて、世界中探してもきっと我々だけだ。

 

すまないアーミヤ、私は君の信頼に報いることが出来なかった。すまないケルシー…私は犠牲に釣り合う存在にはなれなかった。すまない…すまない…

私はここで死ぬ。君たちの力になれなかった、無力な私を許してくれ…

 

ドクターの歪んだ視界に走馬灯が流れ始める。いよいよ脳まで死を覚悟し始めたらしい。

 

次々と記憶が走っていく…酷く薄っぺらで、碌な思い出が無いけれど、それでも大切な、私の記憶…

 

…ああ、嫌だ。

 

諦観一色に染まった思考に、ぽつりとその一言が浮かんだ。一度浮かんだそれは次々と増え、勢いを増し、ドクターの思考を埋め尽くしていく。

 

嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくない!どれだけくそったれな世界でも、私はまだ生きていたい!

 

今まで生きてきたはずの月日から考えれば笑ってしまうほど短い間だったろう。かつての私からすれば、今の私はきっとミジンコほど矮小な存在になり下がっただろう。それでも私は、あの日目覚めてから今日まで、かけがえのないものをたくさん手に入れたんだ。それを、その思い出を…また失うなんて堪えられない!

 

何かないか。ドクターは血眼で走馬灯に目を凝らす。一説によれば、走馬灯とはこれまでの経験を総動員して迫る死を遠ざけようとする生存本能らしい。ドクターは今、その説を身をもって立証している。

やがて、走馬灯に気になる一瞬が映った。ドクターの個室、その足元を映す視界の端。右隣の個室の壁と、床の隙間から黒い何かが覗いていた。

 

は、とドクターが顔を上げた。そして今見た走馬灯の位置を見る。そこにあったのは…

 

 

「まぁまぁ、そう熱くなるな。…しかし、いよいよ万事休すだな」

 

「ですね。僕たちも残った一室を最後の希望にしてましたから…」

 

「……そういえばシルバーアッシュ。お前、もふもふ付いたマント着てたよな?」

 

「ああ。今も着ているが…いや、お前、まさか…!」

 

シルバーアッシュの衣服に、くい、と引っ張られる感覚があった。その発信源を見てみると、マントの裾がドクターの居る個室へと延びているではないか。そしてぐい、ぐい、と引っ張られる感覚が強くなっていく。

 

「あれ、奇麗に拭き取れそうだと思わないか?うん?」

 

「ドクター!それはだめですよ!」

 

ドクターのただならぬ気配を感じ、バイソンが慌てて声を上げた。当然だ。戦場や極地でならともかく、ロドスという安全な建築物の中でそれを行うなど狂気に片足を入れている。

 

「何がダメなんだよ!ここで三人一生を終えるより何万倍マシだろ!」

 

だが悲しいかな。ドクターはこの極限状態で死すらも覚悟してしまった。今のドクターの精神は、とうに常識の範疇にはないのだ。それは即ち狂気。故にマントを引く力は緩めない。いや一層力を籠める。全てはこの死地から脱出するため。ドクターは生存を望んでいた。

 

「待て、落ち着け盟友!まだ他に手があるはずだ!早まるな!」

 

マントを引く力はどんどん強くなっていく。しっかりと足を踏ん張り、上半身の力で抵抗しなければ持っていかれそうだ。この力強さが、本気でマントで事を済まそうとしていることを確信させる。シルバーアッシュの額に汗が浮かぶ。久しぶりにドクターと言葉を交わせたことがうれしくて、少し弄り過ぎてしまったと後悔が過る。だがそれももう遅いのだ。彼は既に、狂気に落ちてしまったのだから。

 

「うるせぇさっさと寄こすんだよぉおおお!」

 

「やめろぉぉぉおおお!!」

 

「ドクターーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

○○〇

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、三人は替えのロールを持ってきたブックマークによって事なきを得た。

以降、ロドスの各トイレにはドクターの熱望によりロールを大量保管するためのボックスが設けられることになるのだが、ドクターは頑なにその理由を語らなかった。

なぜこれほどドクターがこの設備を熱望したのかを知るのは、あの日地獄を見た3人だけである。

 




ちなみにブックマークはトイレのあと術師訓練を行っており、途中でロールを補充しなかったことを思い出してドクターたちを救いました。

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  • 伝言ゲームが招いた悲劇
  • トイレットロールパンデミック
  • 乙女な二アールさん
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