彼と初めて出会ったのは、もう2か月前になる。
そのころの私は少し悩み事があって、その所為で失敗も嵩み、アーツ運用にも行き詰まりを感じていた。
だからそれをどうにかするために毎日のように訓練室に通っていた。
時間帯はいつも人が居ない深夜。
何も気にせずアーツを使いたかったからこの時間を選んでいた。
夜のロドスの通路は暗くて、そして静かだった。
普段は忙しなく働く人の足音や話し声、どこからか聞こえる工業機械の駆動音で騒がしい通路も、深夜に聞こえるのは私の足音だけ。
節電のために主な電灯が消えて非常灯だけが通路を照らしている。
ほとんど光の無いそこは視界なんて在って無いようなものだ。
暗闇が私の足音までも飲み込んでいく。
静寂で、静謐だ。
通路の先に誰かが息を潜めていても、私はたぶん気付かない。
時間を考えれば誰も居ないだろうけど。
…そうだ、誰も居ない。
こつん、こつん、と私の足音が吸い込まれていく。
同じ場所でも時間でこれだけ姿が違う…
もう何度も行き来した夜の通路だけど未だに慣れない。
まるで別世界に迷い込んだようで、変な感じがした。
やがて通路は突き当りに至る。そこにあるのは頑丈な鋼鉄製の自動扉。その上に打ち付けられた電光プレートから洩れる光がそれを現実に映し出していた。
第3訓練室。その部屋の名前だ。
ここはロドスにいくつかある訓練室の一つで、私が普段から使っている部屋。
訓練室はロドスでも指折りの強度を持つ施設だ。それは資材倉庫や源石倉庫にも引けを取らない。ロドスには強力なアーツを行使する人も多く、そういった人が利用しても問題の無いよう設計された結果だ。
でも、普段から多くの人が利用しているからだろうか。屈指の強度を持つ部屋の扉は些か草臥れているように見えた。
そんな扉の横に付いた電子ロックに社員証を翳す。カシャと鍵が外れる音が響いて扉が開いた。それと連動して部屋に明かりが灯る。
すっかり暗がりに慣れていたところに強い光が差し込んで目が眩んだ。
いつも通り、これから私一人の自主練だ。
未だ視力の戻らない目を瞬かせながら、入り口の脇に備えられたロッカーに飲み物やタオルの入ったカバンを置いて訓練場に向き直る。
すると、そこに見知らぬ人が居た。
黒髪のリーベリ人の男の人。見た目は私より一回り程上…入院服を着て、点滴台を侍らせてベンチに座って静かに部屋を眺めている。
私はとても驚いて声すら出なかった。
ただでさえこの時間に私以外の人が居たことなんて無かったし、施錠され、明かりも消えていたから誰かがいるなんて夢にも思わなかった。
しばらくすると、彼はロッカーの前で口を半開きにして固まっている私の方を向いて朗らかに笑った。
「こんばんはお嬢さん、こんな時間から訓練?精が出るね」
それが私たちが今遂行している極秘作戦のターゲット、ブックマークとの初めての出会いだった。
○○〇
a.m. 6:12 ―ロドス船内食堂―
ロドスの早朝…食堂に居る人の姿はまばらだった。
一応六時には食堂は開いているが、その時間帯にここを利用する人はあまりいない。
ロドスの始業時間は九時。なので、食堂が込み始めるのはもう少し先の時間だ。
今食堂に居るのは人込みの中食事を取るのが嫌な人や早起きした健康な人。もしくは昨日の仕事を持ちこしてしまい、早く職場に行って仕事を片付けなければいけない人だ。
そんな人たちの中に、私と目標のブックマークはいた。
大きなあくびをしながらこんがり焼けたトーストにジャムを塗っている彼。本来ならもう少し寝ているはずだったのだろうか、少し眠そうだ。
わかる。その気持ち。私ももうちょっと寝てたかった…
彼の仕草に共感を覚えながら私も手元の皿に置かれた目玉焼きをフォークでつつく。
…昨日ドクターに許可を取り、スカイフレアさんにより発令された極秘作戦【オペレーター:ブックマーク包囲網】。
前々から彼のアーツ運用に多くのロドスに勤める術師の人が疑問を抱いており、その中でも行動力のある人たちが中心になって実行に移されることになったこの作戦。
作戦目標はブックマークが隠していると予想されるアーツを暴くこと。
制約は誰にもばれずに目標を完遂すること。物的被害、人的被害を出さないこと。
正直かなり困難な作戦だと思う。
ロドスには勘のいい人や洞察力に長けた人が多い。術師が頭数揃えてこそこそしてたら絶対に不審に思われる。百歩譲って怪しまれる程度ならいいけど、もしその中からケルシー先生に伝える人が出たらその時点でアウトだ。
どんなことがあってもケルシー先生にだけはバレてはいけない。これはドクターが一番念押しした部分だとスカイフレアさんは言っていた。
きっとそれなりの罰則をドクターともども受けることになるのだろう。減給か…トイレ掃除か…もしかしたら懲罰房なんてことにもなるかもしれない。
なんにせよこの制約にだけは細心の注意を払う必要がある。
被害の方は気を付ければ大丈夫だろうけど…でも具体的な作戦について相談した時に拉致とか物騒な意見も出たし、モスティマさんとかはしれっと更に危ないことを言っていたから正直どうなるかわからない。
そして何よりの問題は私の視線の先で呑気にジャムトーストを頬張っている彼だ。
彼の神出鬼没さはロドスでは語り草。
数秒前まで隣にいたのに振り向いたら影も形も無いなんて日常茶飯事で、意図して見つけようとすれば日が暮れる。
作戦可能な期間がケルシー先生が外出している一週間だけということを考えれば、時間のロスは致命的だ。
だからこそ、一番の脅威は彼を見失うことなのだ。
その事態を防ぐために、私たちは万全の体制を敷いた。
まずロドス全ての監視カメラ、センサーを動員し、更に監視カメラの死角になる場所やフロアの出入り口に見張りを配置することで彼の移動を把握できるようにした。
そしてどんな時も最低一人は彼を直接監視する体制を維持するのだ。
今やロドス全てに私たちの目がある。見失うことはまず考えられない。
私がわざわざ彼と朝食の時間を合わせたのもそのため。今朝の監視当番は私なのだ。
だから私は今もジャムトーストをもそもそと齧る彼を監視している。
凝視しては怪しまれるため自然に朝食を取るようにしつつ視界の端で彼を捉え続ける。
というか食べるの遅いなブックマーク…朝弱いのかな…
彼が席に着き、ようやくトーストを齧るまでたっぷり十分。
既に私の朝食は残り半分だ。
この調子では彼より早く食事が終わってしまうかもしれない。
秘匿を旨とする今回の作戦では不自然な行動を取るわけにはいかないので、彼より早く食べ終わってなお席に座り続けるようなことは避けなければいけない。かといって食べ終わるのが同時というのもよろしくない。
ベストは彼が食器を片付け始めた辺りで食べ終わることだ。
冷たい牛乳を舐めるように飲みながら、注意深く彼を視界にとらえ続ける。
この微調整けっこう大変かも…
自ら立候補した朝食の見張りだったが、想像していたよりも繊細なこの作業に朝だというのに既に疲労感を感じ始めている。
そんな私の苦労など知りもしないのだろう。
相も変わらずブックマークはのんびり朝食を進めている。
そして私もそれに合わせて食事をする。
そんな時間がしばらく続いた。
もうすっかり食堂に居た人たちは入れ替わり、そして徐々に増え始めている。
時間にすれば30分、ちびちびと食事をつつき続けている。
…なんでスカイフレアさんはあんなに彼のアーツに興味を示したんだろう?
ぽつりと、退屈に耐えかねて無心に至りつつあった私の中に疑問が浮かんだ。
食事の終わるタイミングの調節は確かに神経を使う作業ではあるが、実際の動作としてはノロノロと食事をするだけである。
つまるところ暇なのだ。暇ならば思考が脇道に逸れるのは人の常。
私もその例に漏れず作戦とは関係のない思考へと転がってしまった。
そして転がり始めたそれを止めるほど急を要する事態は今のところない。
この調子だとこの先もしばらくそういったことはなさそうだ。
私は監視を維持しつつも、転がる思考のままにこの作戦に一番乗り気だった少女へと思いをはせる。
民間アーツ研究会「狐尾」の中心、「王の杖」の一人にして地質学と源石地質学の二つの学位を所持するヴィクトリア上級職業術師、スカイフレア。
現在は「王の杖」のロドス在住主席術師として主に研究や殲滅戦に協力している。
そんな彼女を一言で言い表すのなら、天才だ。
アーツに対する理解とその行使するアーツは同年代のそれとはかけ離れている。
特に彼女が行使するアーツの威力は凄まじく、一度戦場で見たそれはまるで太陽を叩きつけているようだと誰かが言っていた評価そのままだった。
吹き荒れる熱と業火の爆発。詠唱から繰り出される隕石のように落下地点を薙ぎ払う炎弾。冗談でもなんでもなく、彼女が力を行使した後は焼け野原しか残らない。
アーツの才覚に関しては、傑物揃いのロドスでもかなり上位に位置するだろうことは疑いようがない。
そんな彼女がここまで彼に執心するのは何故なのだろう?
確かにブックマークのアーツ運用は巧みだが、彼女のような才人をここまで引き寄せるものなのだろうか?
正直に言って、私は彼が力を隠しているかどうかは分からない。
私は彼と同じ戦場に出たことは無い。ただ何度かアーツの指導を受けただけ。
そのときも基礎的な運用の訓練と、少しのアドバイスをもらっただけだ。
そのお陰で私は行き詰まりと悩みを解消できたのだが…
彼女が血眼になるほどの何かを持っているという印象は受けなかった。
私のアーツに関する知識は彼女には遠く及ばないので、彼女だからこそ感じた疑問があったのかもしれないが…
でも、どちらにせよ明確な物ではないのだと思う。
私たちに語った彼女の疑問は他の人達と同じように根拠が弱いものだった。
ただ彼女は自分の疑問に自信を持っており、勘違いかもしれないという思いが振り払えずにいた皆とはその点で決定的に異なっていた。
結果として彼女の確信に満ちた態度は自分が抱いた違和感に懐疑的だった皆に勇気を与え、多くの協力者を得ることに繋がったしドクターだって説得できた。
でも、私は不思議だった。
なぜそんな曖昧な理由でこれほど積極的に行動を起こせるのか。
実は今回の作戦の発起人…中心メンバーたちは全員が彼のアーツに興味を持っているというわけではない。
アーミヤさんはブックマークの捉えどころのなさを利用した基地内のセキュリティ検査が目的だし、シャイニングさんも作戦中に試験段階の医療法を試すために参加している。
モスティマさんはよくわからないけど…多分暇つぶし。
そして私は彼のことを知るために参加した。
彼は私が思い悩み、その鬱憤を一人でがむしゃらな訓練に打ち付けていたときに助けてくれた。
基礎的ではあったけど彼のアーツ指導のお陰で私は更に能力を伸ばせたし、彼がヒントをくれたから私は自分の悩みへの向き合い方を見つけることが出来た。
いわば彼は恩人なのだ。
だというのに私は彼のことをほとんど知らない。
勤務内容の違いから生活サイクルが重ならず、接点を持つ機会が無いので仕方ないことではあるのだが…それではあんまりだと思う。
私はいつか彼に恩返しがしたい。そしてそのために彼のことを少しでも知りたい。
だから私はこの作戦に参加した。直接監視部隊に立候補したのもそのため、より彼を観察できるようにだ。
…まぁ、その結果知れたのが朝食を食べるのが引くほど遅いということだったが。
こんな風に、最初に行動を起こしたメンバーのほとんどが明確な理由を持っている。
むしろアーツに違和感を感じるなんて曖昧な理由で行動を起こしたのなんてスカイフレアさんくらいだ。
それなのに彼女はこの作戦に最も積極的。
違和感を勘違いかもと不安がっていた皆と大差のない理由にもかかわらず、なぜ彼女はこれほど意欲的になれるのだろう。
発起人の一人なのだから誰に触発されたわけでもないだろうに。
その原動力は一体何…?
いや、もしかしたら彼女も持っているのではないだろうか。私たちのようなはっきりとした目的を。
あるかもしれないアーツではなくもっと確実な、目に見えるようなものを求めようとしているのではないだろうか。
ならばそれは何なのだろう。
アーツの天才である彼女が、彼に求める明確なもの。
例えばそれは…
「あれ、アンジェリーナちゃんじゃん。珍しー、ご飯どきに会うの初めてだね」
「ふぉあ!?」
とっぷり考え込んでいたところに浴びせられた意識外からの一撃。
唐突な不意打ちに心底驚いた私は盛大に間抜け声を上げて椅子から転がり落ちそうになった。
そんな私の様子に声の主は目を真ん丸にして驚いている。
「だ、大丈夫?もしかして取り込み中だった?」
声の主とはすなわちブックマーク。私たちの監視対象だ。
そんな彼は今、つい先ほど素っ頓狂な声を上げた私を心配そうに眺めている。
声かけただけなのに逆に驚かせちゃった上心配までさせて、なんだか申し訳ないな…
いやそうじゃなくて。
この人いつ食べ終わったの?
私は信じられないものを見るような目で彼を見た。
対する彼は私の様子が呑み込めないのかきょとんとしている。
いくら考え事をしていたとはいえ、あれだけオリジムシの歩みの如くのんびり食事をする人を見失うはずがない。実際、私は一度だって彼から目を離さなかった。
なのに彼は私の横にいる。空になった食事のトレーを持ってだ。
私は彼が食事を食べ終わる瞬間も、彼が移動する姿も見ていないのに…
これが彼が補足不能物体と呼ばれる所以か。
私は作戦が始まる前に聞かされていた彼の話を思い出す。
まるで意識の隙間を突くように誰にも気付かれず居なくなり、また現れるという話を。
聞いたときは随分誇張しているなと思ったが、実際に体験すればそれが誇張ではないことがわかる。
見失っていないのに見失った。
そうとしか形容できない現象…まさに意識の隙間を突かれたようだ。
意図せず知れた彼の一面ではあったが、この作戦で最も危惧すべき事態をひき起こしてしまったという事実が私の背筋を冷たくする。
今回は私に声を掛けてきたため結果的に見失わずに済んだものの、もし彼が意図して監視をかいくぐり始めたのなら捉えることは至難だろう。
ましてやアーツを引き出すなんて到底無理だ。
私は今更ながら、彼を見失うという事の重大さを認識する。
暇だからとスカイフレアさんを脳内詮索するのは悪手だった。
「う、うん大丈夫。ぼーっとしてたところに声かけられたから驚いちゃって」
「本当に大丈夫?疲れとか溜まってんじゃないの?」
ずっと彼を凝視していては怪しまれてしまう。
私はすぐさま表情を取り繕って笑顔を浮かべ、先の態度を誤魔化すようににこやかに言葉を紡ぐ。
というか随分久しぶりに話す…というか会うのも久しぶりなのに距離近いなこの人。
顔を覗き込むな。恥ずかしいだろ…
「いや全然。ちょー元気だよ?」
「本当?なんかさっき思い詰めたような顔してたけど…」
「ぅ…き、気のせいだって!そっちこそ疲れてるんじゃないの?」
彼の指摘にギクッとそして言葉が詰まった。
まさかバレたか…?
いや思い詰めていたというのはきっと考え事をしてたときの顔のはず。
作戦のことはバレてない、そのはずだ…
舌が縺れたが何とか明るい声で誤魔化した。
彼はそれに納得してくれたようだ。頷いて顔を覗き込むのを止めてくれた。
これで安心…何が安心なんだ?そうだ私を覗き込むのをやめたこと…いや作戦に感づかれなかったことだ。そりゃ覗き込まれたままは困るから離れてくれて安心したけども…駄目だな、ちょっと混乱してる。補足不能現象と立て続けに急接近されたのだから仕方ない。悪いのはブックマークだ。私じゃない。
「ははは、そんだけ元気に言い返せるなら大丈夫だ。じゃ、僕はこれで。お仕事頑張ってね」
「うん、そっちもね」
彼は朗らかに笑って食器返却口へと身を翻す。こっちのてんやわんやな内心など知ったことではないのだろう。いい気なもんだ。知られていても困るけど。
何はともあれ嵐は去った。途中この作戦の本当の脅威に遭遇するアクシデントもあったが概ね計画通りだ。
私はそっと胸元に忍ばせた通信機を起動させる。
食堂はすっかり人でごった返している。
この賑やかな中で独り言を言おうと、誰も気に留めないだろう。
私は襟の内に隠すように設置されたマイクへと語り掛ける。
『今ターゲットが食器を片付けてる。もうすぐ食堂を出るよ。皆、用意は良い?』
『はい、アンジェリーナさん。朝食の監視ありがとうございます。管制室は問題ありません。常に監視カメラとセンサーを確認できる状態です』
『張り込み部隊も皆位置についてるよ。問題ない』
『こちらはもう少し仕込みに時間がかかりそうです…グロリアさんへの説得が難航していまして』
『大丈夫ですわ。今日は構築した監視体制のテストが主な目的ですから、明日までに準備を整えていただければ構いません』
『了解しました。無理なら出来るだけ早い段階で連絡します』
『頼みましたわ』
私の無線に反応して次々と耳に嵌めたワイヤレスイヤホンに返信が返ってくる。
その声はどれも僅かな興奮が滲んでいた。皆昂っているのだろう。
いよいよ作戦が本格的に開始するのだという実感と共に、私も高揚感がわいてくるのを感じていた。
さっきスカイフレアさんのやる気に疑問を感じていたのに現金なものだ。
いよいよこの作戦が、ブックマーク包囲網が始動する。
成功により得られるのは未だ見ぬアーツ。
失敗により与えられるのは懲罰と徒労。
多くのものは己の疑問に答えを見出すために、そして一部それぞれの目的のためにこの作戦に集った。
私たちは今、行動を開始する。
a.m.7:20 —ロドス甲板デッキ—
煌々とした陽光を浴び、ギラギラと光を反射するロドスの甲板。
熱せられ灼熱と化したそこに一つ赤い点が落ちていた。
それは二本の足で立ち、船内からは死角になる位置から一方的に船内を眺めている。
フードから覗くループス特有の耳、腰元で揺れる尾。
そしてトレードマークの真紅のパーカー。
彼女は凄腕の戦士にしてケルシーの私兵。
コードネームはレッド。ロドス指折りの実力者である。
そんな彼女がこんなところで何をしているのか?
答えは一つしかない。仕事をしているのだ。
しばらくその位置で船内を眺め続けていた彼女は、ポケットの中からおもむろに端末を取り出し口を開く。
「ケルシー、きこえる?」
「聞こえている」
「みんなブックマーク追ってる。ケルシーの言うとおりだ。レッド、どうすればいい?」
「そのまま監視を続けろ。事態が動けば逐一報告するんだ」
「とめなくて、いい?」
「構わない。奴が何かを隠しているのは私も感じていたことだ。そのうち問い詰めようと思っていたが…彼女たちがそれをしてくれるというのなら望んでも無いことだ」
「わかった。レッド、ケルシーの言う通りにする」
「ああ。いいか、私たちが動くのはロドスに損害が齎されることが明確になったときだ。それまでは好きにさせておけばいいさ」
「うん、わかった」
「ああ、あとレッド」
「なに?」
「彼女たちが行き詰ったら私の存在を悟られぬよう手を貸してやれ。奴のような存在を追跡するのも、きっといい訓練になるだろう」
「レッド、追跡得意。奴の捕獲なんて簡単」
「ふふ、そうだと良いな。では行動を開始しろ」
彼女が直属の上司、ケルシーから受けた仕事。
それは彼女の留守の間ロドス内を監視することだ。
ケルシーは彼女に言っていた。
特にブックマークの周辺には注意を払え、と。
そして事態はケルシーの言う通りブックマークを中心に動き出した。
だからレッドはケルシーに連絡した。次の指示を仰ぐために。
そして今しがた指示を得た。
「レッド、任務を実行する」
端末をポケットに突っ込み、レッドは行動を開始する。
ブックマークは移動している。だから自らもより奴を監視しやすい場所へ動くのだ。
「?」
移動先となる次の場所へと視線を動かしたとき、レッドの鋭敏な感覚が何かを捉えた。
視界の端で何か…こちらに意識を向けられたような…
レッドはすぐさま周囲を警戒する。だが、既に先ほどの違和感は感じられなかった。
「…きのせい、か」
小さく独り言を呟き、感じた違和感に結論を付けたレッドはデッキから飛び降りる。
任務開始だ。
ロドス通路の柱の裏。
デッキの上に居た赤いオオカミからは死角となる柱の裏。
そこで男が一人ほくそ笑んでいた。
「術師の監視に、ケルシー先生の私兵か…なんだか面白くなりそうだ。最近刺激が足りないと思ってたし、せいぜい楽しませてもらおうかな」
にんまりと一層笑みを深めた男は歩き出す。ワッペンだらけの年季の入ったジャンパーに手を入れて、職場への道を進み出すのだった。
お気に入り登録が100になりました。ありがとうございます。
これに気をよくした錆鉄塊はこの度記念のお話を書かせていただくことにしました。
現在案として頭にあるお話をアンケートにしていますので、良かったら答えていただけたらと思います。
これからも暇つぶし程度に皆様にこのお話を楽しんでいただけたら幸いです。
お気に入り登録100記念アンケート。読んでみたいお話に投票していただければと思います。
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