転生という言葉がある。
想像したことはないだろうか?
今の人生を終えた後、人は一体どうなるのだろうかと。
いくつかある選択肢の中で想像し易いのはやはり転生だろう。
人が死に、生まれ変わるという考えは日本人なら誰しもが考えたことがあるのではないだろうか?
だが体験等出来るはずがない。
生まれ変わると言っても前世の記憶が引き継がれる等ありえない。
と言うのも誰しも生まれる前の事など覚えていないのだから。
だがもし、記憶を持ったまま転生した人がいるとすれば、全てを無かったことにし第二の人生を歩めると言っていい。
それは果たして幸せなのだろうか?
そんなことはともかく、転生と言っても様々なことが妄想、もとい想像出来る。
同じ人生の繰り返し、遥か昔へと遡る逆行、又は遥か未来への生まれ変わり。
しかしこれから語られる男の「転生」はどれでもない。
想像したことがないだろうか?
自分が好きな物語やゲームにトリップ又は転生を果たし、原作知識と呼ばれるものを駆使し、活躍していく姿を。
これが創作まで行けば転生した理由も面白いものとなる。
生前の行い、事故死、病死、果てには神様のミス等が切っ掛けとなり、物語やゲームの世界に転生する。
稀に特典(チート)なども着き、原作を崩壊させ自身の欲望のままに行動を起こすことにより、勇者、魔王、ハーレム王を目指すものも上げられる。
しかしこれから語られる「転生」した男の物語はどれでもない。
「俺、次生まれ変わったらどんな世界だろうと一生引きこもりになるんだ……」
そんなことを呟きながら男はひたすら足を動かし木々の間を駆け抜ける。
走っても走っても同じ光景が続く、ひたすら木と木漏れ日と足場の悪い地面しか目に映らず、男は否、10代後半程の少年は唯前へ、一刻も早く脅威から逃れるよう森の中を走りぬいていた。
足を止めず、自然の障害物を回避しながらチラリと後ろを振り向く。
そこには……
体長1.5メートル程。
体色は黄色く。
丸くした体形にウサギのような耳を持ち
可愛らしいクリクリした目と、出歯が特徴の生物が。
ドッスンドッスンとバウンドしながら迫っていた。
物凄い勢いで少年が通ってきた木々を薙ぎ倒しながら。
「ラビちょぉおぉこえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
少年、溜まらず絶叫。でも足は止めない、だって死にたくないもん。
迫りくる生物、魔物は「ラビ」と言った。
少年が「転生」したこの世界では最弱クラスの魔物だが、少年にとってそんなことは関係ない。
まずはこの最弱クラスの愛らしい狩人から逃れなくてはいけない。
木々を薙ぎ倒し、吹き飛んだ小枝をウサギのような耳で振り払い、邪魔な石、果てには障害物となる岩を自慢の出歯で砕く最弱クラスの魔物から。
「生き残れるくあぁぁぁぁぁぁ!!」
これが最弱?冗談じゃない。
既に少年の目からは涙が溢れんばかり落ち、嘆いた。
誰か助けてくださいという願いも届かないこの現実に。
「現実は幻想(ファンタジー)ではない」
あの時は俺も若かった、それが言い訳である。
転生を自覚し、自分が生まれた世界は生前、過去によくプレイしていたゲーム「聖剣伝説3」の世界だと分かった時は、生まれ変わった喜びよりも今後をどう楽しく生きていくかが頭の大半を占めていた。
20代まで生きて様々なゲームで遊んだ記憶はまだ残っているが、その中でこのゲームは一番やり込んでいたと思う。
ストーリー、システム、キャラクター、やり込み度、どれをとっても一番印象に残ったのがこのゲームだった。
中でも6人の主人公から好きなキャラクターを選び、「クラスチェンジ」によって自分好みのパーティを作るシステムが途轍もなく惹かれ、数えきれない程プレイし、そしてクリアした。
ただしそれも自分が高校を卒業した時までだった。
高卒で社会人になってからはゲームから自然と離れていった。
今残っている生前最後の記憶と言えば……
まぁ自分が死ぬ所や痛み等思い出したくもない。
そして俺はこの世界でどのように楽しく生きていくか胸を躍らされていた。
まずはレベルを上げなくてはならない。
この世界にレベルの概念があるのかは分からないが、何を目指すにしても鍛えなくては始まらない。
初期主人公では剣士、魔法使い、僧侶、格闘家、盗賊、槍使いだったはず。
どんな職を目指すか、どんなクラスを目指すか、どんな魔法が使いたいか。
なんとか記憶を引っ張り出し、ゲームの内容を四苦八苦して思い出そうとし、その時が来るまで村にあった書物を読み、筋トレや棒切れで素振りをして過ごしてきた。
それがどれ程愚かなことだったか。
もし時間を遡れるなら、あの頃の自分を思いっきりぶん殴ってやりたい。
成人後の男性の選択しは出稼ぎか畑仕事のどちらか。大掛かりな魔物狩りや警備などは都市から派遣されてくる者の役目で、村人が行うのは依頼を出しに、都市まで足を延ばすこと。または門番か周囲の見回り、派遣されてきた兵士に道案内をする程度である。
将来村から出ることも考慮され、成人前には大人、または派遣された兵士同伴の元、希望者は魔物狩りについていくことが出来た。
当然参加した。将来相手にするかもしれない敵を目にし、自分がどこまでやれそうかを知っておきたかった。
付き添いの兵士の人と遠くから討伐の様子を見ていたところに真横からの奇襲。
兵士共には吹っ飛ばされ、仰向けに倒れてしまったところにボディプレス。
簡易的な防具を着ていたとは言え、まだ10歳の身の上に魔物の体重が乗った一撃に呼吸が止まった。
そこで初めて乱入者と目が合った。
黄色くてフサフサの体毛と丸みあるボディが特徴、その大きくクリっとした瞳からは愛くるしさしか感じない。
聖剣伝説にてお馴染みのモンスター「ラビ」は、
目を合わせたまま、口の端を吊り上げ、
もともとそういう口の形のはずなのに、それがニンマリと嗤ったように見え、
少しづつ口を開け、
想像以上にクチが大きく、開いて、い、き……
その外見とは裏腹に、発達し過ぎた出っ歯で。
その鋭い、出っ歯で。
”皮鎧ごと俺の腹に、噛り付いた”
ガジガジとがじがじとガジガジとがじがじと齧りがちがちとガチガチとがちがちとがしがしとガシガシと齧りガジガジとがじがじとガジガジとがじがじと齧りがちがちとガチガチとがちがちとがしがしとガシガシと齧りガジガジとがじがじとガジガジとがじがじと齧りがちがちとガチガチとがちがちとがしがしとガシガシと齧りガジガジとがじがじとガジガジとがじがじと齧りがちがちとガチガチとがちがちとがしがしとガシガシと齧り……
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
まるで体が付き落とされたような衝撃を全身に感じ、文字に表せないような悲鳴を上げ、目がぱっちりと開いた。
体中、嫌な汗が噴き出しており、息も荒い。視界は真っ白で、知らない天井のような。
(いや、知ってる天井だ)
自分がベッドの上にいると認識し、とんでもない悪夢を見ていたことを把握。夢で良かったという安堵と、過去のトラウマが呼び起こされたことによる倦怠感を感じ、体を震わせた。
深呼吸して落ち着こうとしても、やや体、というかお腹が重いように感じ、呼吸を整えるのに長い時間を要した気がする。
(最悪の目覚めだ……)
ここ最近見ることはなかったが、実際あの事件が起きて数か月は、傷の痛みと悪夢に苦しみ続けた。
回復はしたものの、傷痕は残り、ラビに追われるか、齧られるかの夢を見る毎日。
数年経った今では多少落ち着いたものの、全く夢を見ないわけでもなく、腹部に出来た傷も今もちくちく痛みが奔り、重みが……
(?なんかホントに重い……)
起き上がる元気もなく、首と視線だけで自分の腹部へ向けると。
黄色くて丸くてお目々がクリで出っ歯の可愛い顔をした悪魔が体ゆすって。
「どうじゃ!一発で目が覚めたじゃろ!!これこそわしが新たに開発した目覚まし装置 ”超振動ラビくん五世”じゃ!!一定時間経つと振動し、更にそこから時間経過すると二度寝防止としてその場で跳ねはじめる優れもの……」
「なんてもん作ってんだクソじじいぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
横にいた三頭身と髭が特徴の”マッドサイエンティスト”、もとい発明家「ボン・ボヤジ」のこれでもかという渾身のドヤ顔に思わずキレ、腹部に乗せてあったラビの形をした物体を叩き付けた。
その後、壊れた黄色い悪魔の処遇で口論していたところに、妹の「ボン・ソワール」が介入、彼女のゲンコツによって仲良く地に伏せることとなった。
「転生者」クロ(19歳)
原作への武力介入を諦め、今はこの”マッドサイエンティスト”もとい、発明家の助手らしきことをやっています。
週に一回は、大体こんな形で朝が始まる。