「しっかりしろ!ミス・タバサ!」
エンペルは決闘が終わった直後、タバサに駆け寄り手当てをしていた。その理由はシリウスの最後の攻撃…ニトログリセリンの錬金である。あれのせいでタバサは全身に火傷を負ってしまったのだ。
「くっ…医務室に運ぶ!手伝え!ロングビル!」
「はっ!」
エンペルはロングビルを呼び、医務室へと運んだ。
~医務室~
「…これは酷い。すぐに手術を始める。」
エンペルはタバサの状態を見てそう判断し、タバサの火傷した皮膚を無駄な部分を切り取り、その切り取った部分は水の魔法で回復させた。
そんな調子で数十分が経過した。
「これで最後だ。」
エンペルはキッチリと最後に残ったタバサの皮膚を切り取り、水の魔法で皮膚を再生させた。
しばらくしてシリウスが数人の生徒を縄で縛って引きずって、医務室に入ってきた。
「…タバ子。」
シリウスがタバサを呼ぶとタバサは目を開いた。
「…何?」
「お前の部屋に入って本を燃やした馬鹿を連れてきた。」
シリウスが連れてきた生徒はタバサの本を燃やした生徒である。もっと正確に言うならキュルケのせいにしようとしたがシリウスに目撃されてしまった哀れな生徒である。
「…どういうこと!?」
タバサは読書家である。それゆえに本が少しでも傷つくと機嫌が悪くなる。
「俺が罰で女子寮の廊下を掃除しているのは知っているよな?その時にこいつらがお前の部屋に入っていくのが見えたんでな…自白させてみれば大当たりの黒だ。」
「そう…」
「で?どうする?捕まえてお前に持って来ても俺には裁く権利はないし、こいつらをどうするかお前次第だ。」
「本を弁償させて欲しい。」
「そうか…任せろ。」
シリウスはそう言うと生徒を連れて他の部屋に行った。その他の部屋から呻き声、笑い声、泣き声なども聞こえたがタバサは聞こえないふりをした。
「…ミスタ・エンペル。」
其の間、タバサはエンペルと話し、過ごすことにした。
「ん?どうしましたか?」
「貴方…一体何者?」
「ミス・タバサと同じ、ノルマンディーの使いだ。」
「言い方が悪かった。シリウスの腕力はドラゴンを軽々と引き裂くまでに強い。…それなのに貴方はシリウスを止めることができた。そんなことが私の知る限り出来るのは『大帝』カール、『太陽』カルロス、『電撃』ルドルフの三人くらいのもの…それ以外は止められる人間はこの世の中にはいない。」
「世の中には例外である人間もいるんだよ。」
「…そう。じゃあ貴方の過去について教えて。」
「私の過去か?」
「そう。」
「そうだな…あれは…」
バンッ!
ドアが乱暴に開かれ、大きな音を立てた。
「タバ子。あいつらは弁償するだとよ。」
正確に言えば拷問して弁償させたのだがそこのところはツッコミはなしだ。
「そう…じゃあこれ渡して置いて。」
タバサはそう言うとメモを書いてシリウスに渡した。
「なんか俺の扱いがパシリみたいだが仕方ねえか。タバ子が動けないのは事実だしな。」
「貴方は私を傷つけた。精神的にも肉体的にも…ヨヨヨ(棒読み)」
「棒読みヤメロ。なんかむかつく。」
「残念…」
「ところでミスタ・エンペル。タバ子はいつ治るんだ?」
シリウスはタバサを心配し、エンペルに治療期間を聞いた。
「心配はいらん。一日経てばすぐに治る。」
「あの火傷を治したのか?」
シリウスもあの時、やり過ぎた感があったのでタバサに会う前にタバサを燃やした生徒を縄に縛ったのだ。
「まあ、ほとんど死にかけていたが水の秘薬と私の手術のおかげで治した。私がいなければ死んでいたぞ…」
「…(そんなにひどかったのか…)」
シリウスは猛省して空気が淀む。
「これに懲りたらあの錬金は使わないことだ。」
「わかった。」
「わかればいい…私はこれにて失礼する。」
エンペルが部屋を出て、シリウスとタバサのみになった。
「タバ子…」
「何?」
「すまないな。怪我をさせて。」
シリウスが謝るとタバサは怒った。
「元は私が弱かったからそうなっただけ。それに決闘の相手に怪我させて謝るのは怪我した相手に取っては侮辱。」
それは静かな怒りだった。タバサはシリウスが怪我させたことに怒ったのではなく、自分が怪我したことに対しての怒りと、タバサからしてみればシリウス自身が悪くないのにシリウスが謝ったと言う事実に怒ったのだ。
「そうか。なら取り消そう…」
シリウスはタバサの怒りを抑えるために前言撤回をして謝ったことをなくした。
「ん。」
タバサは機嫌が元に戻り、目を閉じた。
「ところで…タバ子。」
「何?」
「あのエンペルって教師…何者なんだ?」
「彼はわからない。わかるのはノルマンディーにかつていたことくらい…私も調べてみる。そっちもわかったら報告して。」
「了解。それじゃあな。」
「じゃあ。」
シリウスはタバサと別れ部屋をでた。
~食堂~
シリウスが食堂に行くと待っていたのは…
「ノルマンディー王国ドイツ公爵領領主、シリウス・ドイツ公爵のおな~り~!!」
一人の生徒がそう言うと、シリウスの周りにいた生徒がシリウスの道を開けた。
「…」
シリウスは黙って自分のつこうとしたがそこにあったのは普通の椅子ではなかった。
「ささ、どうぞこちらに…」
生徒がシリウスが座るように勧めたのはかなり高級な椅子でいかにもトリステインの貴族が好きそうなデザインだった。
「…おい、椅子を変えたのは誰だ?」
シリウスが全員にそう尋ねた。
「それは私達生徒一同です!」
一人の女生徒がそう言って誇らしげにする。
「そうか…このアホんだら!!」
シリウスはそれを聞くと隣にいたギーシュに殴った…
「がはっ…何故に?」
ギーシュという男は自分を薔薇と比喩している。
薔薇は女を魅力させる力もある。だが一部の性癖を持つ人間ならわかるだろう…
「何故?お前馬鹿か!お前以外に薔薇の装飾をつける奴なんかいるか!」
ギーシュの格好は通常の制服とは違い、フリルがついた服を着ており、しかも薔薇をくわえている。つまりギーシュはナルシストかつ、派手なものが好きだということがわかる。そのためシリウスは椅子にある薔薇の装飾をつけたのがギーシュだと思ったのだ。
「でも良いデザインでしょう?ドイツ公爵様?」
ギーシュはそれが最高だと本気で思っており、シリウスの椅子を指差した。
「ギーシュゥ~!良いか、よく聞け!薔薇ってのはホモ…つまり同性愛の象徴だとされている。それを俺の椅子につけたとなっては…俺が同性愛だと言っているものだ!」
そう一部の性癖とはホモのことであり、シリウスからしてみればホモ扱いされたらたまったものではない。
「な、何だって~!?」
ギーシュはその事実に生まれて初めて気がついた。
「んの大馬鹿が!!とっとと取り替えてこい!早くしないと俺もお前もホモ疑惑が沸くんだからな!」
シリウスはそう言ってギーシュの尻を蹴っ飛ばし、走らせた。
そのことに興奮した一部の腐女子は鼻血が出たのは言うまでもない…
~翌日~
あの後色々あったがシリウス、ギーシュのホモ疑惑の誤解は解け、ホモでないことがわかり、一部の腐女子達は涙を流した。
「シリウス師匠!」
小柄なピンクの髪の少女…ルイズがシリウスのことをそう呼んだ。
「おい、お前は俺の弟子ではないのにそう呼ぶのはやめろ。」
「いえ!今回はお願いがあって来ました!私を弟子にしてください!」
ここでルイズという少女について教えよう。
ルイズはヴァリエール公爵と烈風カリンことカリーヌとの間に生まれた三人目の娘である。
どちらの両親もスクエアメイジであり、また二人の姉達もトライアングルメイジというものである。
間違いなく血統で言えばルイズは恵まれているだろう。
だがその一方でルイズは魔法が使えない。正確に言えば魔法を使おうとする瞬間に爆発してしまうのだ。貴族達はそれを見てルイズのことを『ゼロ』…つまり魔法が使えない落ちこぼれと見なしたのだ。それも無理はない。
かつてカールが滅ぼしたブリミル教の教えでは魔法が使える者ほど偉い…というよりもブリミルにより近くなると言われている。親達からその影響を受けた子供は当然ながら魔法がまともに扱えないルイズのことを馬鹿にする。
そんな馬鹿にされ続けるある日、ルイズはキュルケ&タバサチームとシリウスの決闘を見た。
「弟子?なんで俺に師事しようと考えたんだ?」
「もちろん…あの爆発について教えていただきたいのです!」
そう…ルイズはシリウスの魔法を見て驚いたのだ。シリウスはタバサに自分の失敗の象徴である爆発を使って勝った。それを見たルイズは自分も爆発を自在に操ることが出来たら…?おそらく因縁のライバルであるキュルケに勝てると思い、シリウスに師事することに決めたのだ。
「あ~…あれな。あれは錬金で衝撃を与えると爆発する液体を出しただけなんだ。お前のように魔法がまともに扱えない奴にとってはあんまり参考にならないぞ?」
シリウスはそう言ってルイズを諦めさせようとするが…無駄だった。
「私はヴァリエール公爵の娘として生きてきましたが私は魔法が使えない無能…」
「…」
「ですが、貴方のおかげで私は爆発を扱えないだけだと気づきました!だから貴方に爆発について師事するべくここに来たのです!」
ルイズが敬語なのはシリウスが自分の父、ヴァリエール公爵と同じ公爵という立場であることと、シリウスの弟子になりたいあまりになっているからだ。
「悪いことは言わない…やめておけ。」
「どうして!?」
「俺は土と水が専門だからだ。お前のように何もない状態から爆発させるなんて真似は出来ねえよ…」
「…」
「だがな、爆発の方向は俺に師事するまでもなくお前は簡単に的を準備して練習すれば勝手に出来る。」
「…!それってアドバイス?」
「さあな…やる時は誰にもいないところでやっておけよ。お前の爆発は制御が完璧じゃない以上は危険だ。」
「う…」
「俺から言えることはそれだけだ。じゃあな。」
シリウスはそう言って立ち去った。
「何よ…何よ何よ!あのガキ!」
ルイズはヒステリーを起こし、年下であるシリウスを罵倒した。
ルイズは典型的なトリステイン貴族でプライドが非常に高く、人に頭を下げることはない。だがシリウスのように公爵と立場が上となっては別だ。頭を下げなければならない。更にシリウスに魔法を教わろうとしたのに返って来たのはルイズからしてみれば訳のわからない助言だ。
つまり慣れない敬語と頭を下げるという行為、理解不能な言葉でルイズはヒステリーに陥ったという訳だ。
「だいたいなんであんなのが私よりも認められるのよ!暴力事件起こしたあんな奴なのに!」
ルイズは思わずそう罵倒してしまう。何しろルイズは別のクラスであるシリウスのことを詳しく知らない。それどころか暴力事件を起こさなければシリウスの存在すらわからなかったくらいだ。
もっともルイズがシリウスのことを筆記テストの順位で否応なく知ることになるだろうが…
「誰があんな奴だって?」
ルイズの後ろからシリウスの声が聞こえ、ルイズは真っ赤な顔を青くさせた…
「も、もしかしてミスタ・ドイツ聞こえてました…?」
「そうか…俺のことをそんなに思ってくれていて嬉しいよ…クククッ」
シリウスは不気味に笑い、ルイズの肩に手を置いた。
「え~と…何をなさるんでしょうか?」
ルイズは恐怖は感じたが、拒絶はしなかった。その理由はシリウスの殺気が全くなかったのである。
「どうしても俺に師事したいと言うなら…これを着て一定の期間俺の従者として付き合って貰うぞ。」
シリウスはもう片方の手でとある物を出した。
「な、なんでそんな服を…!」
ルイズはその取り出した服によって真っ青になった顔を真っ赤にし直し、そう叫んだ。
「ノルマンディー王国の文化を舐めるな。小娘…生活が豊かな地域ほど文化も豊かになる…お前達みたいに伝統だけを誇っているようじゃこんなものは出来ねえよ。」
シリウスの出したものはフリルたっぷりのメイド服だった。しかもノルマンディー王国でナイロン生地を使ったブランドものである。
「ううぅぅ〜っ!」
ノルマンディー王国の服は平民、貴族関係なく、デザイン、着心地、実用性などにおいて人気がもっとも高く高価かつ希少である。
そのため、ノルマンディーのブランドものを所有しているのはノルマンディー王国の国民以外ではごくわずかな人数である。
故に、公爵家の家柄のルイズと言えど、ノルマンディーのブランド服を着れるというのは滅多にない。着れたのは十年前にトリステインの王女のアンリエッタと服の取り合いをして勝った時くらいである。
ルイズが葛藤するのは無理はなかった。
ルイズの脳会議
「私は反対です!もしそんなことをしてキュルケにバレたらどうするんですか!?」
「まあ…待ちなさい。貴方の意見のわかるけど私は賛成よ。逆にキュルケにこのブランドものを見せれば自慢出来るじゃない!」
「…それもそうね!」
そしてルイズの中で結論が出た。およそ脳会議時間3秒だった。
「わ、わかりました…シリウス師匠。」
ルイズは葛藤の末にシリウスに弟子入りすることになった。
「よし!わかった!」
シリウスの顔は満面の笑みで笑っていた。