~草原~
草原にて二人のメイジが立っていた。
方や闘技場無敗の現役最強王者にしてノルマンディー王国の公爵シリウス・ドイツ。
もう方やかつてゲルマニア帝国から会ったら諦めろとまで言われた烈風カリンこと、ヴァリエール公爵夫人カリーヌ・デジレ・ド・マイヤール。
そしてこの二人の共通点はエルフを倒したことがあるということと、それ以外のことで教科書に載るような偉業を果たしているレジェンドである。
「さて…遺言はありますか?」
カリーヌは若き頃の服…軍事服を着てシリウスにそう言った。
「遺言?笑わせるなよ?オバさん。」
ブチッ!
カリーヌがシリウスの挑発に乗ってしまい…切れた。
「偏在…」
カリーヌは10人の分身を作り、一つの呪文を唱える。
「エアサイクロン!」
ここで言っておくがカリーヌは普通のスクエアメイジとは比べものにならないくらい、かなりの魔力を持っている。普通のスクエアメイジが大魔導士ならば、カリーヌは最強の大魔王と思ってくれればいい。
それ故にカリーヌがスクエアクラスのエアサイクロンを出したら…大災害である。一人でもそれなのに10人が同じようにエアサイクロンを唱えていた。
「私をオバさん呼ばわりしたことを地獄の底で悔いるがいい!」
本体のカリーヌがそう言って全員がシリウスにエアサイクロンを放った。
「やれやれ…」
シリウスは瓶をだし…その中身を飲んだ。
「ぷは~っ…それじゃいくか。」
シリウスはもの凄い勢いで走り、エアサイクロンも何のその!身体一つで吹っ飛ばし、ラリアットで分身のカリーヌをまとめて4人倒した。
「なっ…!?速い!?」
カリーヌは驚かざるを得なかった。まさか力技で自分のエアサイクロンを破るとは思わなかったのだ。
「今回は厄介そうだし…そろそろいくか!」
「くっ…!ライトニング・クラウド!」
6人のカリーヌは雷の魔法であるライトニング系の魔法を用いる…その威力はスクエアメイジ36人分にも匹敵する。
「…」
シリウスは杖を振るい、目の前に避雷針を作ると…そこに稲妻が突き刺さった。
「ライトニング系は俺に通用しないぜ。ルド兄と何回もやっているからな。」
「ルド兄?」
「そう言えば自己紹介していなかったな…俺はノルマンディー王国ドイツ公爵領領主のシリウス・ドイツだ。ルド兄は俺の兄…ルドルフ・ローマと言えばわかるだろう?」
「!!貴方が闘技場無敗の王者、シリウス・ドイツ…!?」
「そうだ。」
「…(まさか『暴君』の二つ名と戦うことになるとは!迂闊!)」
カリーヌは焦った…カリーヌは一度だけシリウスが制覇した無差別部門に出場したことのある風メイジと戦ったことがある…化け物、雷帝(と呼ばれた昔話に出てくる伝説のメイジ)の生まれ変わりなどと思わせるような強さだった。
生きている中で引退しても尚自分がトリステイン最強などと自惚れていたのもあるがそれを差し引いてもそれに見合う価値はあった。
だがその風メイジは闘技場で暴君の二つ名を持つ化け物に何回も負けていると聞いた時は目眩がしてしばらく何もやる気が起きなかった。立ち直った後でシリウスの存在を知り、暴君という二つ名も同じだった時はぶっ倒れた。それはそうだ…あの放浪している風メイジですら若かったのにシリウスは娘であるルイズよりも2つも年下なのだ。
そして名前こそカリーヌに明かさなかったがその放浪している風メイジもとんでもない人物だった。シリウスの兄のルドルフだった。
何故そんな人物が放浪していたのかというと…ルドルフは軍事よりも政治を得意とする人間であるが困ったことに自分の治めるローマは今でこそトリステインを除く全ての国にいる優秀な文官達の出身地だがかつて脳筋バトル野郎の領土だった…
ローマはかつてロマリアという名前でブリミル教の拠点となっていたのだ。第三者から見れば拠点を奪い取ったように見えるのだ…それ故に外交、政治などをよく理解しているルドルフはありとあらゆる手段でロマリアの歴史を改ざんし、ブリミル教徒の神官がかなりの汚職まみれだという事実を徹底的に調べ上げた資料とともに新聞や看板などに載せてロマリア教の地位を最底辺まで落とした。
カール達転生者の前世で言えばハルケギニアの世界の人間達は日本人よりもヨーロッパ地方の人間の思考に近いので真実よりも正義と悪を重視する傾向にあった。しかもハルケギニアは中世ヨーロッパの世界に近いので尚更だった。
もちろんハルケギニアの世界の人間が現代人の感覚に近かったらそれこそノルマンディーはここまで成長しなかったともいえる…
話を戻そう…とにかくローマの住民たちはそんな歴史もあってかブリミル教を激しく嫌っており、戦争などもあってか過激な人間もかなり多いのだ。そのためルドルフは過激でなくしかも脳筋でない有能な人材を求め自ら旅をせざるを得なかったのだ。カリーヌと戦ったのは人を紹介するために条件を出されたので戦っただけなのでルドルフは脳筋でないことは一応言っておく…
「(出来れば2度とノルマンディーの闘技場の無差別部門の方々とは戦いたくなかったけど…仕方ないわ。)」
カリーヌの目つきが鋭くなり、そして小動物ならば気絶してしまうまでの殺気を放った…いや自然と放ってしまった。その所為かエレオノールとルイズは完全に腰を抜かし、ピエールとカトレアは腰を抜かすことはなかったが冷や汗を流していた…唯一無事なのはカールことエンペルでその程度の殺気ではびくともしなかった。
「おい…」
するとシリウスの様子が先ほどのようなお遊びのような雰囲気から変わった…怯えたのではない…彼は怒っていた。
「ワレ、ワシの妻と弟子になに晒すんじゃボケェ!!」
かなりドスの効いた声を出し、殺気もカリーヌに的確に放ち、その濃さはカリーヌが出した10倍だった。
「シリウス…お前って奴はそこまで…」
成長したんだな…
カールは感動し、そのセリフを続いて言おうとした時、次のシリウスのセリフが遮り台無しになった。
「どうせやるんならミスタ・エンペルに向けてやれ!あいつならどんなに殺気を向けても大丈夫だ!」
「…シリウスゥ…お前って奴はそこまで…」
人の気遣いが出来ない奴だとは…お仕置きが必要だな…!
その言葉は今の状況で言ってもKY発言になるので流石に言わなかったがこの決闘が終わったらお仕置きをやることをカールは決意した。第三者からすればほぼ同じ言葉なのに殺意の有無で相当違う印象を持つのは当たり前のことだ。
「エレンとルナの腰を抜かした罰は重い。烈風カリン…2度と立ち直れんようにしてやる。」
シリウスの一つ一つの言葉が重く、カリーヌにとってものすごく息苦しいものになっていた…
「シネ!」
ドガッ!ボギッ!
シリウスは一瞬で間合いを詰め、腹に拳が入り、カリーヌが吹っ飛ぶ…その直後にカリーヌの背中にシリウスのかかと落としが決まり、背中の骨が折れ…そのまま地面に落下…するかと思われた。
「やり過ぎだ…シリウス。」
カールが直前にカリーヌを受け止めていた。
「あぁ?何ならお前がカリンの代わりに受けるか?」
「いいだろう…シリウス。とりあえずお前はお仕置きだ…!」
ドガッ!
シリウスは一瞬何をされたのか全くわからなかった…
兄カールに並んで史上最強級と言われたこの自分が一介の教師如きに何も出来ずに殴られた…?
頭は完全に混乱し、一つの感情が膨れ上がった…
「…ク…ハハハ…ハーッハーッハーッ!!最高だ!こいつは笑えるぜ…!!闘技場史上最強級と言われた俺が一介の教師に何も出来ずに殴られるなんてのは初めてだ!俺も大海を見てきたつもりが…所詮井の中の蛙だったってことだ!エンペル…あんたに決闘を申し込む!」
それは喜びだった。決してシリウスがMな訳ではない…シリウスは戦いに飢えていたのだ…現時点でシリウスはチート級の力を持つカールを除いた転生者達ですら軽く捻り潰すだけの力を持っている…そう、あまりにもシリウスが強過ぎるのだ。それ故にシリウスにとって戦いとは単なる遊び場でしかない…そんな遊び場に最高のおもちゃが現れたのだ…喜ばないはずがない。
「断る…ヴァリエール公爵夫人の治療がある。」
だがカールは断り、カリーヌの治療を優先した。それほどまでにカリーヌの容態が酷かったのだ…
「ざけんじゃねえぞ!そんなもんとっとと終わらせるなり何なりして決闘しやがれ!」
自分がやったことを棚に上げて、カールにカリーヌの身体を早く治すように促した…今戦わないあたりまだ理性が残っていると言える。
「今お前と戦っても俺の利益にはならない。それにお前が卒業する時までに戦うことになる…その時までにお前が俺と戦うに値するようにしておくんだな…」
「チッ!まあいい…そんときはあんたの本当の顔をかけて勝負してもらう…」
これ以上はゴリ押ししても無理だと判断し、シリウスは代わりに条件を出した。
「気づいていたのか…」
カールはシリウスが自分が変装していることに気がついていることに驚いた…カールはかなりの自信作だったので絶対にバレないと思っていたのだがシリウスの観察力が想像以上に高かった。それだけのことだ。
「当たり前だ…あんた強い癖に演技は苦手なんだな。あんたには50代前後の年老いた特徴がねえ…むしろ20代のような若々しさがある。だが顔は50代…おそらくフェイス・チェンジのような系統の魔法でそう見せているんだろう。違うか?」
「そうだ。(まだ正体は気づかれなかったか…)」
「じゃあとっととお義母様を治してやってくれ…俺も治療は一応出来なくはないがあんたの方が数段上だ。あんたに頼んだ方が効率的だ…」
「じゃあとっとと終わらせるか…」
そう言ってカールはカリーヌの治療を始めた。