今日も遅くまで頑張りましたね
さて、この後はサブマリーナにでもいきましょうか
「お邪魔しま…」
〜♪
「っ」
サブマリーナのドアを開けると轟音が鳴り響く
ステージの方を見るとマスターと見慣れない若者3人が演奏をしていた
みたところ大学生でしょうか?
しかしこれはまたコアな曲を…
そしてボーカルの彼の声…これは…
「おっと、気づかなくでごめんね、いらっしゃい」
「どうもマスター、また来ちゃいました」
その凄まじい声量に思わず聴き入っているところで演奏が終わり、そこでようやくマスターがこちらに気付いたようだ
「コーヒーいただいても?」
「かしこまりました、ちょっと待っててね」
「ところで、彼らは?」
「ああそうそう、彼らがこの間言ってたギターとベースの子だよ、それともう1人…は…今日彼らが連れてきた子…多分ボーカルにするんじゃないかな?僕もこの前知り合ったんだけどね」
多分…ですか、あの声量…ボーカルだとしたらとんでもない逸材だと思うのですが…
しかしなるほど彼らが…あっちではガールズバンドでしたが、こちらでは堂々のボーイズバンド、なかなか面白い事になってきましたね
となるともしボーカルが彼になったとしたら残るはドラムと…キーボード……ですかね
「マスター、ドラムありがと!ところでこの人は?」
楽器を片付け終えた帽子の彼がこちらに来てそう聞く
「ああ、この人は最近函館に来た東京のライブハウスのスタッフさんだよ、ほら、この間話した近くに新しくオープンする予定の」
「ああ、あの話か!へぇー、そうなのか」
「オープンしたらもしかしたら君達とも長い付き合いになるかもしれないし、覚えておいて損はないと思うよ」
「そうなんですか、それじゃあ自己紹介ですね。ほら、ゆう、七星くん」
後から来たヘアピンの彼が2人を目の前に並ばせる
「俺は五稜 結人、ギターだ、大学1年生、バンド仲間募集中だ、よろしく!」
「僕は的場 航海、ベースを弾いています、同じく大学1年生です。よろしくお願いします」
「え、えっと…僕は…七星 蓮…です。大学1年生です…」
「これはご丁寧に、初めまして、スタッフと申します」
今時珍しい、挨拶がしっかり出来る若者ですね、関心関心
しかしボーカルの七星さん…でしたか、歌っている時とまるで別人のような方ですね…興味深い
ギターの五稜さんはやや楽観的な印象ですが、どっしり構えるその姿勢、どう見てもこのバンドのリーダーは彼なのでしょうね
そしてベースの的場さん、彼は差し詰め五稜さんの歯止め役と言った所でしょうかね、礼儀正しく誠実そうな方だ、若干ネガティブな思想をお持ちのようだがそれもみんなの事を思っての事と思えばある意味バンドのお母さんのような印象です
ツッコまない所を除けばどことなく有咲を思い出しますね
「ところで、スタッフさんって、東京のライブハウスの人なんですよね?なんて名前の店なんですか?」
「ああ、それはCiRCLEっていう店ですね」
「え?CiRCLE……って…あの武道館ライブの?」
「おや、五稜さんご存知でしたか」
「いや、ご存知っていうか…」
何かおかしなことを言ったでしょうか?CiRCLEの名前聞いた途端何やら皆さんの空気が変わりましたね
「へぇ〜、スタッフさんCiRCLEのスタッフさんだったのかい?」
そこへマスターの八甲田 健三さんが助け舟を出すように口を開く
「はい、というかなんですかこの空気、まあ確かに武道館は我ながら凄いとは思いますが!」
少しドヤ顔で言ってみました、数少ない自慢のひとつではありますのでそこは誇張させていただきますよ私は、ドヤ
「凄いなんてもんじゃないよ、あの規模のライブを開催した立役者のひとつとして今の時代、けっこう全国でも有名なんじゃないかな?」
なるほど、武道館が終わった直後からなんだか急に忙しくなった気がしていたと思ったら道理で…
「そんな人とこんな所で出会えるなんて……おいおい、これは…運命だ!!」
「はい?」
「俺、このバンドで凄え事やれそうな気がしてきた!」
「はぁ…」
「よーし!やるぞ航海!早くバンドメンバー集めて俺らもやってやろうぜ!!」
「まーーた始まったよ、ゆうの楽観主義、だからってそんな簡単にバンドメンバー集まるわけないでしょ、チラシの時も言ったけど」
「いいや、やれる!俺たち3人なら!」
「いやだから、まだ七星くんはメンバーに加入した訳じゃないってば」
ふむ…
「ボーカル、やらないのですか?」
彼らが盛り上がっている様子を他所に先程からずっと黙っている七星さんに聞いてみる
「えっと…みんなと歌うのは好きだけど…」
「煮え切らないですね、何かボーカルが出来ない理由でもあるのですか?」
「そういう訳じゃないけど…まだちょっと…考えがまとまらなくて…」
「今一歩踏み出せない…という事ですか?」
「うん…そうかも知れないです…」
「私は、良いと思いますよ、七星さんがボーカル」
「え…?」
「正直、君の歌を聴いたとき魅了されました」
「僕の歌が…?」
「はい、まさかこんな所でこんな人に出会えるなんて…と思ったのはむしろ私の方です、なんというか…星の鼓動…が聞こえたような気がしました」
「星の…鼓動?」
「ああ、すいません、やっぱり今の恥ずかしすぎるので忘れてください、そういう事を言う子が向こうにいたのを思い出したものでつい」
「はあ…」
「七星さん、私は少なくとも君のようなボーカリスト、とても好きですよ。そうですね…もし店がオープンしたらすぐにでも定例ライブをやって欲しいぐらいに。君の歌声をたくさんの人に知ってほしい。そう思います」
「ありがとうございます…」
「もちろんそれを決めるのは君自身です、やらないという結論に至っても誰も文句は言わないでしょう、私が思うに君はけっこう頑固な癖にいろいろ余計な事を考えすぎる所があるのではないですか?なんて私も人の事言えないんですけどね、はは…」
「………」
「一度頭を空っぽにして、自分の気持ちに素直に従ってみたらどうでしょう?と言っても、君の中で実は既に答えは決まっていそうな気はしますけどね」
「っ…」
「さて、そろそろ良い時間ですし、私は帰るとしましょうか。マスター、お勘定」
「ん?もう行くのかい?また来てね」
「もちろん」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「しかし…だいぶ恥ずかしい事を言ってしまいましたね…」
五稜さんと的場さんの議論がまだまだ終わる気配がしない中、私はひっそりと店を出て帰路へつく
それにしても今日は函館に来てから一番良い出会いをしましたね、彼らの行先がこれからとても楽しみです、どんなバンドになって、どんな大会に出て、どんな経験をしていくのか…考えるだけでわくわくしてきますね
「あの!」
「?」
突然後ろから聞こえた声に振り返るとハアハアと息を切らした七星くんが立っていた
「七星さん、そんなに息を切らして、どうかしたのですか?」
「あの…さっきはありがとうございました!あんな風に言ってもらえるのは初めてで…なんだか心が軽くなったような気がしました。もう少しで考えがまとまりそうです…それじゃあ…」
「ふっ、そうですか」
それだけ言い残してまた向こうへ走っていく七星さんをみてどうやら後は心配入らないようだとその背中が語っていたように感じた
まりなさん…こっちのバンドも彼女達に負けないぐらい盛り上がっていますよ
これは良い土産話ができそうですね…
epsilonφは絶対ラスボス
では次回