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「ねむてぇ」
ここ、我が家。草加ベーカリーの朝は早い。
朝の五時には起きて仕込みや発送された材料の受け取りをして開店の八時までにはパンを焼き上げて陳列して開店。
それで一段落とはいかず、商店街特有の内輪人気も有り近所にパン派の人達がこぞってやって来る。そのピークと親が午後の仕込みをしている時間は被り。実質俺一人でピーク終わりの十時まで接客を一人でする。
諸行無常。
「らっしゃせー」
「あら? 今日は孝司くんだけ?」
ようやく客がはけたと思ったら近所で有名な商店街屈指のお喋りクソババアこと、井上幸子が来店してきた。
おばさんは、草加ベーカリーの隣の服部クリーニングに住み着いている居候、が、元店主の服部さんと結婚して居候からランクアップしてから当時の商店街の盛り上げ役として商店街の皆から人気があるお喋りクソババアになったらしい。
なんだかんだ俺もお世話になってるから頭が上がらないおしゃべりクソババアとして尊敬は多分している。
「両親は休憩中っすね。もう客もはけてきましたし」
「あらそう? 少し世間話でもって思ったんだけど残念ねぇ」
「あっ……ふーん」
両親が居ない場合、おしゃべりの餌食になるのは俺である。
そしてその時の話題といえば……。
「ところで、最近ちょこちゃんは来てないの?」
「そういや、最近は金欠って話を聞かないな……。学校では別のクラスだから会わないし」
幼馴染の園田智代子がたまに小遣い稼ぎをしにうちにバイトしに来る事がある。が、ここ最近あまり来ない。アイツが来ると智代子目当ての客が増えるのでありがたいのだが忙しくなるのでそういう意味では迷惑だと少し思っている。
「あらぁ。今日は居ると思って来たのに残念ねぇ」
「そろそろ受験とか意識してんじゃないすかね? 知らないけど」
おばさんがトングで他のパンに比べてあまり人気のないパンをトレイに数個載せてレジに持ってくる。
好きで買っているのか気を遣っているのかよくわからないが、助かっている。
「駄目よー。そうやって身近な女の子に無頓着になっちゃ。
昔は二人でよく立ってるだけのお手伝いとかやってたのにあの頃の孝司くんの気持ちはもう冷めちゃったのねぇ」
「井上のおばさんや、五年以上前の話をすると老けるって言うしもう止めましょうよ。そのジャンルの話」
というか、元々温まってないんで。そういうのやめようや。
そういうんじゃないって昔から言ってはいるが商店街の話の種として長年使われている。
「はい、680円」
「はい、680円丁度」
適当に雑談しながら会計済ませると、最近実装されてしまったおばさん専用の椅子におばさんが座りこんでしまった。こうなると大体はあの話にシフトする。
「……それでね。今日、一人で汗水垂らして働いてるこうちゃんを見て思ったの。
将来大人になって一人で切り盛りするのは大変だろうし隣に──」
「その話まだします?」
いつもの事だし慣れたけど、このおばさんも飽きないな。
そろそろ昼休みだなと思っていると、店のベルが鳴った。
扉の方に目を向けると見覚えのあるお団子ツインテールが目立つ女子。
智代子だった。噂をすれば影が差す。というやつだろうか。
「しゃっせ……なんだ園田か……」
「あ、やっぱりここに居た」
「あらちょこちゃんいらっしゃーい」
おばさんの方が接客としてはちゃんとしてるなぁ。なんて思っていると。
「おばちゃんの方がちゃんとしてるのどうなの……?」
「うっせ、それよりもう傘チョコはもうないぞ」
アレ舐めるの地味に好きなんだよね。飽きたら途中で噛むけど。
「そんないっつもチョコばっかり食べてる訳じゃないよ!」
「……お前変わっちまっ──」
「昨日のおやつは落花生だったし!」
ボケにボケを上塗りするの止めてくれ。あと、千葉県民の落花生を食べたはお前のチョコとあまり変わらない。
そうこうしているとおばさんは用事があるから帰るといって店を出て行った。
「んで、さっきやっぱりとか言ってたけど何か用?」
「今日、私一人だったしチェインで『お昼一緒にどう?』って送ったんだけど、土日だしパン屋かなぁって」
「それで来てみたら案の定居たと」
「うん」
と言っても、そろそろ休憩時間だから問題ないし。
親に一声かけ、店の看板を休憩中にして店を出た。
商店街周りは色々とからかわれるので少し離れたとこにしようと言ってとりあえず駅前の方に向かって歩くこと数分。どこで食べるかを決めてなかったことを思い出した。
「何食べよっか?」
「チョコとパン以外」
「私をクッキーモンスターならぬ、チョコモンスターか何かだと思ってない?」
いや、もっと別のモンスターだと思うで候。
「特になければ駅前のとこにしない?」
「はぁ、まぁ良いけど」
あまり行かないフランチャイズのファミレスが最近駅前に出来て近くになくて周辺住民がこぞって行くので混んでるとか聞いた覚えがある。
とは言え、こっちからリクエストがある訳でもないから了承した。
「そういえば、最近あんまりバイトしに来ないけど。何かあったのか?」
「うーん。それは内緒かな」
今朝話したせいか気になって聞いて見たものの妙に決め顔で返してきた。
言えないようなことしてるのかとも思ったがそんな事ならああいう風に返さないだろうし。そもそも智代子にそんな芸当が出来るとも思えない。
「どうせ大方スクラッチくじに当たったとかそんな感じだろ……」
「まぁまぁ、とりあえず着いたんだし入ろうよ」
まぁ、何かあったら言ってくるだろうし。今はいっかと疑問を放り捨ててファミレスに入り、店員の案内を受けて席に座った。
「さっき私が最近バイト来ない理由聞いてたよね?」
「聞いたけど?」
最近のファミレスはどこもそうなのかは知らないけどタブレットで注文をするシステムになっていてとりあえず智代子が先に注文するということなので待ってる間にナプキンにいつも持ち歩いてるボールペンで絵を描いて待つことにした。
あ
智代子って結構似てるよな……レジスチルに。
「実は私。アイドルになりましたー!」
「……レジスチルアイドル?」
コラボメニューのページを映したタブレットをこっちに見せた智代子に返答として書いてた絵を見せる。
「違うよ!? チョコアイドルだよ! チョコアイドル! レジスチルじゃないから!」
「え、そっか……小学生の時にレジソノダって言われてたからそういう方面でプロデュースしてるのかと……」
「いやいや……似てなくない?」
「似てるだろ。ちょっと待ってろ」
レジスチルに加工をしていって一部を黒くすると……。
レジソノダ
「いや、やっぱ園田じゃん……」
「違うよ……?」
ほんまに? と首を傾げながらレジソノダと千代子を並べてスマホで写真を撮る。
「……やっぱ似てる」
「いや……うん、いいや」
何か諦められたが俺はレジスチルは結構似てると思ってる。
「それでね。放課後クライマックスガールズってグループで活動してるんだけどこのファミレスとコラボさせてもらってて推しメニューを紹介してるんだよ」
「はぁ、なるほど」
コラボメニューのページには智代子を含めた五人の制服風の衣装のアイドルが紹介してる画像が表示されている。
なんだかこう、結構毛色が違う人が集まってるんだな……。
「それで孝くんは誰のがいいと思う?」
うーん……果穂って子は学友の苗字と被ってて妙な拒否感があるのでナシ。
樹里って子は……いや、見た目ヤンキーぽいけど書いてある事が真面目で面白いな。
青い子は書いてある言葉が古すぎて注釈書いてあるのは素でこれって事か……?
まぁ、智代子はチョコパフェ推すよねお前って感じで想定内。
「有栖川夏葉って人はこれキャラ付けでこんななの?」
「普段からトレーニングしてるし、ダンベル持ちながら読書とかしてるよ?」
ささみは筋肉に良い。とかトレーニングがどうだとか書いてあるのが腹筋にキツい。
そして何より。
「顔が良い……」
「えっ……?」
いや、凛々しい顔立ちに自信が満ちてる表情……いや、推せる。
「推せる……。正直幼馴染のよしみで園田って言おうと思ったけどAPPの暴力で夏葉さん推すわ。ごめんなレジソノダ」
「待って! 予想外に気持ち悪い反応しないで! というかレジソノダじゃないから、私を見て!」
「いやだって、普通に好みの顔で好みのスタンスらしいので……」
智代子経由でサインとか貰えたりしないかな……。いや、ただただ推せる帰りにCDとか写真集とかあったら買っていこう……。
https://twitter.com/Amazumi_creator/status/1270001155674828811?s=20
言い出しっぺなのでやってみた。
調整するのめっちゃ面倒だったけど形になると楽しいですね。