フェイト・オブ・ストラトス~世界に描く軌跡~ 作:シューティング☆
それでは、始まります。
4月1日、この年は火曜日となった今日は、世間では嘘をついてもいい日、エイプリルフールという日だ。
この日には各地多彩な場所で軽い嘘やジョークが飛び交う、そんなちょっとしたイベントのようなものになっている。行き過ぎ、やり過ぎは厳禁、ルールとマナーを守ってエイプリルフールを楽し…む、ものなのだろうか。
そんな4月1日、エイプリルフールなど気にも止めずに、国際IS学園では入学式が手早く行われた。やることが多いから早い、とのこと。
少し早めの入学式を手早く終えた学園の、1年1組、所属生徒総勢30名、簪の協力と努力の末に合格できた結城明日奈含む、27名の女子新入生と、織斑一夏、桐ヶ谷和人含む3名の男子新入生がクラスに揃っている。そう、男子3名。
あれから新たな検査方法を導入し検査を行った結果、日本でさらに3名が汎用設定のISを動かし、アメリカでも1名が動かし、世界でも僅かだが動かしたものが現れ大騒ぎ、その数は多くはないが、世界中の男全てを調べ尽くしたわけではないので、少しずつ増えていくだろう。
そうして判明したもののうち、日本の3名と、アメリカの1名、先の一夏と和人も含め6名の男子がIS学園に入学することとなり、一夏と和人に日本の1名が1年1組に、残り3名の男子は1年3組所属となった。
「では皆さん、改めて、入学おめでとうございます。私はこの1年1組の副担任、山田真耶です。よろしくお願いします」
そう挨拶したのは、緑髪にメガネをかけた童顔で小柄、服はサイズが少し大きめなためダボついており、教師ではなくここの生徒では?と冗談を言っても、知らない人ならもっと年下では?と言われかねない。間違いないなく教師で生徒より年上だ。
もっとも、そんな幼げな見た目ではあるが、服のダボつきの原因かもしれない自己主張の激しい豊満な胸を持つ。
「ではまず、お互いのことを知るために、自己紹介をしてもらいます。えっと…順番は、名字の頭文字、場合によってはその次の文字を参照する、日本のあいうえお順になりますが、よろしいですか?」
山田先生の言葉に、特に異議は出ず自己紹介が始まる。あいうえお順ということは、おの一夏は早くに順番が回ってくる。だがそんな一夏はというと、今までにない周囲一部除いて女子の視線からできる限り逃れるため、現実逃避としてどうしてこうなったかを思い返していた。
「…恵室如月。以上」
「あ、えっと、恵室くん、さすがにそれは短いって、先生思いますけど…その、も、もう少し、できますか?」
「……趣味、将棋、好きなもの、特になし。以上」
「あ、えっと、は、はい、ありがとうございます…(はあ…)」
少し色素の薄い茶髪で跳ねた前髪が少し特徴的な、愛想の悪い男子、恵室如月の自己紹介が済む。次は一夏の番だが、現実逃避中の一夏はそれに気づかない。
「では次の織斑くん、お願いしますね」
「…」
「あ、あの、織斑くん?織斑くーん?」
「はあ…」
「織斑くん?織斑くん!!」
「うぇあ!?」
「うひゃあ!?」
順番だが反応のない一夏が、何やら考え込んでいると思った山田先生は、徐々に近づきながら声をかける。それでも反応しない一夏を見かねて、より大きな声を出した結果、一夏は驚き、それに釣られてか、山田先生も驚いてしまう。その光景に周りは思わず苦笑いをする。
「ご、ごめんなさい織斑くん。か、考え事してました?あ、えっと、織斑くんの一つ前の、恵室くんの自己紹介が終わったから、次の織斑くん、自己紹介、いいですか?」
「は、はいぃ…」
気がつけば一夏のほぼ目の前に山田先生という豊満な双球を誇る(本人は誇っていない)胸の持ち主、思春期まっさかりの一夏にとってはいろいろと目に毒、返事はしたが視線を泳がした一夏は、和人や明日奈、簪以外に確実に見覚えのある顔を見つける。
「(あれは…箒!)」
長い黒髪をポニーテールにした幼馴染みの少女、篠ノ之箒。自分がSAOで囚われている間に非常に大変なことになっており、現実に戻ってから連絡がつかなかった。そんな幼馴染みが同じクラスであることに、一夏は嬉しく思う。
なお、その幼馴染みは恥ずかしいのか、一夏に見られていると分かった途端、顔を赤くし辺りを見て、それからそのまま顔を反らす。その反応はさすがに寂しい一夏であった。
もう少し見回したいところだが、さすがにこれ以上待たせるのは申し訳ないため、一度深呼吸をした。
「スゥ…ハァー…(よ、よーし…)織斑一夏です。好きな食べ物は、ラーメンで、趣味は家事、えーっと、まだまだISについては分からないことだらけですけど、よろしく」
まあ自分なりに問題なさそうな自己紹介をする一夏。ただ、一夏のことを知らない女子生徒は如月が自己紹介を短くした反動か、もっと知りたいという表れか、視線の圧がさらに強くなる。
そんな空気の中、教室のドアが開く。
「ほう…それで、他には何か言うことはないのか、織斑」
「へっ…あ、千冬姉!」
「織斑先生だ。公私の区別をつけろ」
黒髪クールビューティー、織斑千冬が入ってきた。IS界隈における有名人が突然やってきたことで空気もろとも急激に静まる。
「…まあいい。あまり長くても良くはないからな」
「織斑先生、会議は終えられたんですね」
「中々長引いたが、なんとか。クラスへの挨拶、任せてしまってすまない」
「いいえ、そのための副担任ですから」
「そうか、ありがとう。さて…自己紹介の途中で済まないが、私がこのクラスの担任、織斑千冬だ。まあ、知っているもののほうが多いか」
ISバトル国際大会、モンド・グロッソの初代日本代表にして、圧倒的な実力を持って他国代表を破り優勝、ブリュンヒルデの称号を獲得、第二回大会で個人戦こそ決勝を代理に任せ欠場したものの、団体戦でも優勝のために多大な貢献をした女傑。
第三回は今までの専用機、暮桜が使用不可能、家族のこともあり出場しなかったものの、その名声は未だに衰えていない。
「さて…私の仕事としては、担任としてお前達をこの1年でISパイロットとして使えるレベルにすることだ。今の段階でも使えるものもいるであろうが、関係はない。ISを扱うこと、ここに入学したという意味、しっかり理解してもらう。不満があるなら私や山田先生が相手をしてやる。以上だ」
「あ、あまり、遠慮しなくても、いいですからね?」
「……んん!自己紹介、よろしいで」
千冬の宣言から少しの間を置いて、一夏の次の金髪ロールな長髪碧眼の少女が自己紹介をしようと口を開いた直後。
「きゃああああ!!千冬様!千冬様よ!!」
「本物!本物の千冬様だーー!!生まれてきてよかったー!」
「私!千冬様に会うために青森から来たんです!」
「私福島!」
「岩手!」
「あ!私も福島です!」
「秋田から来ました!」
「東北多っ!」
「ちょっと待ってさっき織斑くん千冬様のこと千冬姉って!」
「名字同じだからもしかしてとは思ったけどやっぱり千冬様の弟!いいなぁ~!」
静まり返っていたのが一転、高音の黄色い絶叫が響き渡り、思わず耳を塞ぐ人が続出する。
そして千冬には、そんなやつらの対処法は分かっていると言わんばかりに行動に移る。具体的には、出席簿を教壇に叩きつけ折った。バキィ!という音が響く。
それを見た生徒から黙り、折れた出席簿の半分が落ちたときには全員が黙っていた。
「…さて…この出席簿自体は私が弁償し、ついでに予備を用意してある。その前提で、先ほどのような騒ぎを起こすというのなら、折りはしない、これを叩きつけるぞ」
そう言いながら懐から別の出席簿を取り出す千冬。目が本気だ。それでも「千冬様に、調教」「…いい」とほざいている生徒は多分手遅れだ。
「…さあ、自己紹介はまだ終わっていない、私の分と先ほどの騒ぎの分、時間はあるが無駄にすればするほどやることが遅れる。次は…セシリア・オルコットだな」
「は、はい…」
先ほどの絶叫が響いたか、耳を押さえながら立ち上がるセシリアと呼ばれた少女。彼女の自己紹介は長く、長いと途中で終わらせられた。なお、イギリスの代表候補生とのことだ。
そして自己紹介は進み、女子生徒達の気になっているクラスの男子の1人、和人の番が回ってくる。
「あー、えーっと、桐ヶ谷和人です。機械いじりが得意で、パソコンを自作したことがあります。それと、趣味でアルヴヘイムオンライン、通称ALOっていうVRMMOをやっていて、やってる人いたら一緒にやりましょう」
「桐ヶ谷くんって、ゲーマー?」
「ALOって、確か、あの問題のあった?」
「今は問題起こした企業とは別のところが運営してるよ。私もやっているんだ~」
「ふふふ、同じVRでも、虫の世界は奥が深いぞ~」
ALOをやっていることに周りが少しざわつく中、何故か少し反応を見せる箒。それを見た一夏は少し疑問に思う。自分の知る箒は剣道少女、ゲームよりも剣道と、言動含め固い侍少女のようであった。
「(でもまあ…オレも変わったし、箒も少しは変わるか。もしかしたら、興味があるのかもしれないし)」
確か和風のVRMMOがあったから、後でそれを薦めてみることにした一夏。なお、周りのざわつきは千冬が目を鋭く、出席簿を振り上げたことで静まる。
少し騒ぎになった和人の自己紹介。さらに一夏が気になる簪の自己紹介は…。
「さ、更識、簪、です。え、えっと、機械調整と、プログラミングが得意です。よ、よろしく、お願いします」
かなり緊張気味。日本代表候補生になったとは言え人前で話すのは緊張する。それでもなんとか終わらせ、箒が無難な自己紹介を終える。
それから順番か進み明日奈の番。その明日奈が大きな爆弾を落とす。
「結城明日奈です。少し事情があってしばらく杖をついていることがありますけど、よろしくお願いします。あ、それとキ…桐ヶ谷和人くんの、彼女です!」
「え~!!」
軽快なスパーンという音が連続して響く間に強制終了、その後の僅かな人数もさっさと終わらせたことで、自己紹介が終了する。
「…では自己紹介が済んだところで、クラス代表について話しをしよう」
「その前にちふ…織斑先生、さっきのあれは、体罰では…」
「言って脅して聞かないのならやるしかあるまい。安心しろ、さっきのは折ったときの10分の1以下だ」
「(それでも充分痛そうなんですが…)」
実際加減はしたのだろう。悶絶している人はいない。まだ痛みを感じ涙目な人はいるが。
「とは言え、納得していないもののほうが多いか。なら、少し話そう。さすがにそれくらいの時間はある」
少しばかり目を閉じ、開く。それがルーティンかは分からないが、真剣な目と表情、声で語り出す。
「現在、インフィニット・ストラトス、通称ISは、本来の開発された目的である宇宙開発用の他に、救助、警備、探査、何より一番需要のある戦闘、並び競技用、といった形の用途で用いられている。
特に戦闘用に関しては、10年ほど前のミサイル事件における防衛の成功に加え、その後の演習の結果により、大きな軍事力になると判断されたからだ。まあ、同時に危険と見なされ、使用、保持に制限をかけるアラスカ条約が制定された」
膨大な数のミサイルとその3倍以上はある破片をIS2機でほぼ全てを撃墜・破壊した、演習において数多の兵器全てを1機のみで圧倒した。
この事実がISは兵器として既存を超える力を持つと判断され、制限・規制するべくアラスカにて国際IS運用条約、アラスカ条約が制定され、今年で10年が経とうとしていた。
「故にこのIS学園は、種類によっては兵器として運用できるISを…命を容易く奪うことも可能なものを扱う関係上、軍の士官学校レベルとは言わないにしても、通常の学校よりはそれなりに厳しくするつもりだ。さっきのも、騒ぐなと前もって言い、どうするかも教えた。その上で騒いだから実行した」
千冬の目は変わらず真剣だ。彼女はギリギリを経験している。何せ、ミサイル事件にて現れたISの片方、白騎士に乗っていたのは彼女であるというのは有名だ。その後の演習で乗ったのも彼女である。
「ここは士官学校ではないが一般の高校ではない、IS学園だ。甘く見ることもあるかもしれないが、緩くはさせんぞ」
「あ、で、でも、さすがに体罰はあまりしませんよ?やり過ぎるとやっぱり問題になりますから。ISを実際に扱うときは別、なんですけどね」
「な、なるほど」
千冬の鋭い宣言と山田先生のやんわりとした捕捉が合わさり、僅かに固くなった空気も和らぐ。ほんの僅かだが。
「…さて、少し長くなったな。ではクラス代表についてだ。このクラス代表とはまあ、一般的な学校におけるクラス委員長のような役目に加え、学年別クラストーナメントのリーダー的ポジションを担ってもらう」
「学年別クラストーナメントは団体戦の形式で、トーナメントごとにルールは変わりますが、クラス代表は必ず参加、同じクラスからルールによって変わりますが、少なくとも1人、多くて2人に参加してもらいます」
「ということだ。さて、クラス代表だが、自推他推は問わん、やりたいものはいるか!」
「はい!織斑くんがいいと思います!」
「桐ヶ谷くんとかどうでしょう!」
「私で!」
「私やりたいです!」
「じゃあ、更識さん推薦ー!」
「私は感じる、彼のダークなオーラを…恵室くん、君を推薦する!」
「織斑くんがいいです!」
「織斑くん!」
「桐ヶ谷くん!」
「ねえねえ、ホッピーやってみない?」
「なっ!?」
千冬の言葉を聞き、クラス一部を除いて手を挙げ声をあげる。自推より他推が多く、一夏だったり和人だったりと、男子ばかりだ。
「え!?ちふ、んんっ、織斑先生!オレこのクラスでも素人なんですけど!それでやれとか無理ですって!それと、ええっと、カンザシ推薦!」
「その関係でオレも素人なんですが!あ、オレは、オルコットさん、推薦で」
「取り下げは無理だぞ?」
「えー…」
一夏、和人の言葉は聞き入れられず、クラスが一通り言って少し静かになったところで、セシリアが静かに、険しい顔で手をあげる。
「このセシリア・オルコット、私自身の立候補を致します。そして、少し皆さんに申し上げたいことがあるのですが、発言、よろしいでしょうか」
「…まあ、構わんが…下手なことを言うようなら止めるぞ」
「ありがとうございます」
そう言うと、険しい表情と目付きで少し辺りを見渡し、口を開く。
「ではまず…私、皆さんに失望しました。なんですか、自分で立候補する方は少なく、珍しいかどうかは分かりませんが、つい最近になりISを動かせることが分かった、ISに乗った経験の少ない、あるいは無い、実力のない男ばかりを推薦する。
私はここで学べることがあると思い、わざわざ、祖国イギリスから異国日本へと来たというのに、共に高め合うべきクラスメートがこのような体たらくでは、無駄に終わりますわね」
セシリアの表情は険しく、目も険しく瞳は冷たい。そして失望と侮蔑を隠さない声色でクラスメートを見下した。生徒の多くが何か言いたそうにし、さらに困った顔の山田先生が何か言いたそうだがそれを千冬が視線と手で遮る。
「ほう。十代の小娘にしては、分かったようなことを言うな。まあ、これほど腑抜けが多いなら、失望もするか」
「二十代の先生方にはまだまだ及びませんわ。それでも一般の十代よりは経験があるほうだとは思っています。何より私はイギリスの国家代表候補生にして、専用機を持っています。最新鋭の、第三世代ISを。このクラスで他にはいませんよね?」
トゲのあるセシリアの言葉にクラスの雰囲気は少し悪くなるが、千冬は不敵な笑みを浮かべる。
「今はな。今後、男子全員には専用機が支給されることになっている上に、私が把握している限り、ほとんど第三世代だ」
「なっ!?」
「それと、今この場でクラス代表を決めるつもりはない」
セシリア含むクラス全員がえぇっ!?と声を出し驚く。専用機のことも驚きだが、クラス代表はこの場で決めるものだと思っていたため、千冬の発言には驚きを隠せない。
「この場ではまだ実力がよく分からないからな。来週、このクラスの専用機持ちと代表候補生で戦ってもらい、その結果を見届けてから、民主的な投票で決めてもらう。
参加者は後に支給されるものも含め、恵室、織斑、オルコット、桐ヶ谷、更識、篠ノ之、結城の7人だ。まあ、それ以外で、参加したいなら今からでも立候補していいぞ?」
「え!?」
「じゃあなんで聞いたんですか…」
「!?わ、私もですか?!」
和人の呆れた声に重なるよう、自分の名前が出たことに驚いた様子の箒が、思わず声を出す。その箒に対し千冬は鋭い視線を送る。
「聞いたのは諸君の積極性の確認だ。積極的なほうがうれしいからな。それと篠ノ之、専用機は持っていないが、お前も日本代表候補生だろう?実力を示せ」
和人の声に答えた後、箒に当たり前だと言わんばかりに告げる。そうして、クラス全体を見据えて口を開く。
「他の者もそうだ。いないのか?代表候補生相手でも、戦ってみせる者は。ここにいるのは過酷な受験競争を突破した、エリートのはずだが?」
その言葉に答えたのは、恐る恐ると手を上げた1人。ヘアピンをつけた青みのある髪の少女だ。
「や、やります」
「…鷹月か。他には………いない、か。では、恵室、織斑、オルコット、桐ヶ谷、更識、篠ノ之、結城に加え、鷹月の8人で、1週間後の火曜に模擬戦を行う。さすがに人数が人数だ、全員が全員と戦えるわけではないぞ」
「あ、クラス代表は、模擬戦後に投票で決めます」
「……その前にち…織斑先生、拒否権は?」
「模擬戦自体への辞退は認めん、それとクラス代表は投票で決まる、それで選ばれたら拒否は許さん」
「そんな~」
一夏の言い分は容赦なく切り捨てられ、チャイムが鳴る。
「では今回のHRはここまでだ。山田先生の言った通り、クラス代表は模擬戦後に投票で決まる。選ばれたら運が悪かったか、運が良かったと思うことだ」
「えっと…この後の授業は、ISの基礎部分について行いますから、準備をしておいてくださいね!」
そう言って、2人とも教室を出る。少しして空気が緩み騒ぎ出す。
ついでに教室の外に人が集まりだす。
「千冬様が担任なんて最高!」
「でもなんだか厳しそう…」
「当たり前でしょ?それも込みで、最高!」
主に騒いでいるのは千冬関連。とはいえ騒いではいるが、さすがにまだ初日、話している人は決して多くはない。ないが…。
「…はあ、これからどうなるんだ…」
「はは、なんというか、いろいろ予想外ですよね…」
「まさか、私もやることになるなんてね…」
「負けないからね」
「カンザシにあっちで負けたことなくてもこっちじゃ厳しそうだな…それに、まだちょっと、な…」
仲のいいこの4人はさっそく話している。模擬戦で戦う8人のうちの4人が集まっていることで注目されている。
「どうだろ。みんな、私より強かったし…」
「って言ってもゲームの話しだしな…現実じゃあ、まあ、体、貧弱だしな」
「しっかり鍛えないとな」
「そうね…私も、いつまでも杖を使っているわけにもいかないからね…」
無理矢理とは言え、戦うとなれば一夏を除いてやる気だ。体は万全とは程遠いのが本人達にとって残念なことだが、来週に備えリハビリをしっかりこなしていくしかない。
「ところでアスナ、なんで自己紹介のとき、その、オレの彼女だって、言ったんだ?」
「ここ実質女子校だよ?周りは女の子ばっかり。それなら今のうちに釘を刺さないとね、私は、キリトくんの恋人ですって」
「アハハ…」
和人は案外モテるのだ。本気で好きになった人こそ少ないものの、顔は整っているため、SAOでは密かにファンクラブがあったとかなかったとか。
もっとも、そんな和人に関わる女子陣の中にも例外はいる上に、和人のさらに上が側にいる。
「確かに。それにキリトさん、悪評あってもそこそこモテていましたからね」
「…ワンズは一番人のこと言えないでしょ?」
「そうよ。ワンズくんのほうがずっと酷いからね」
「ごめんワンズ、お前には言われたくない」
鈍感野郎一夏だ。SAO時代、ファンクラブ(非公式)がいくつか作られたレベルだ。
「え~…そりゃあまあ、女性プレイヤーとは結構フレンド登録してましたけど、あれはお得意さんだったり助けた人がほとんどで」
「ワンズのこと、異性として好きな人は私だけじゃないよ。…恋人は、その…私、だけど」
そんな会話をしている4人に近づくのは、動きが固く、右手右足、左手左足と同じ側の手足を同時に動かして歩く篠ノ之箒だ。
「す、少し、いいいいいいだろうか!」
「…いや、落ち着けって、箒」
「!わわ、私が、分かるか、いい一夏!」
「髪型変わってないからすぐ分かったよ。それに自己紹介していたじゃないか」
「あっ…そ、そうだな!」
一夏と箒は幼馴染みだが、一夏がSAOに囚われてからすぐに大きな事件で篠ノ之家は離散、今日まで再会できていなかった。一夏は簪伝手で、箒の状況を辛うじて知ることができた。
そんな幼馴染みと久々、とは言え再会したがここまで緊張するということは…と、他の3人はなんとなくその理由を察した。彼女もか、と。
「えー、さっき自己紹介しましたけど、篠ノ之箒、オレの幼馴染みなんです。箒、キリトさん達の紹介はいるか?」
「い、いや、また時間のある時にし、しよう。そ、それで、その、ひ、久しぶり、だな、一夏」
「ああ……っと、忘れるところだった。箒、剣道の全国大会の優勝、おめでとう」
「!…知って、いたのか…どうやって」
「か…あー……お、おばさんが教えてくれたんだ、新聞に載ってたって」
「そ、そうか、珍しいな」
大会優勝を祝われたというのに、箒の表情はあまり優れない。それどころか落ち込んでいる。
そんなときに和人は、少し思い当たることを思い出していた。
「(…そう言えば、全国大会で直葉、篠ノ之って相手に滅多打ちにされたって…)なあ、その大会の決勝、相手は桐ヶ谷じゃなかったか?」
「うっ…や、やはり、あの彼女の…すみませんでした!」
突然の箒の謝罪に、一夏と明日奈は呆気に取られ、簪は一夏達ほどではないが、目を大きく見開き驚いている。
そんな事情を知らない3人のうち、一夏と明日奈が聞く。
「…え?えっと、キリトさん、箒、いったい何を?」
「何かあったの?」
「…妹が剣道やってて、全国大会決勝で、篠ノ之って相手に滅多打ちにされて負けた」
「…つまり今、修羅場?」
「あっているような、あっていないような…」
簪のあっているのかいないのか微妙な指摘には、明日奈でなくとも困る。そんな中、箒が罪の告白かのように語り始める。
「…あの時の私は、自分しか見ていなかった。自分の事情を押し付け、相手を見ず、傷つけてのしまった。謝って済むことではないが、今は」
「やめてくれ。オレは兄だか本人じゃない。オレに謝るより、妹に謝ってほしい。それに、妹も妹で、あんなにボコボコにされたのは弱かったからだーって、稽古に身が入ってたようだし。それと…」
「…それ、と?」
「……周りの視線が、きつい」
「…あっ」
いきなり大きな声で謝っては、周囲はなんだなんだと気にしてしまう。そんな単純なことに気づかず謝罪を行った結果、声をかけられないにしても、周囲の視線をほとんど釘付けにした。
そのことに気がつき、みるみる顔を赤くする。少なからず恥ずかしいようだ。
「す、すみません。わ、私は、私は…」
「…気にしているのは分かった。とりあえず、まあ、後で妹に連絡して聞いてみる。」
「…ごめん、箒。オレ、そんなことになっていたなんて、知らなくて…」
「いや、いい…いずれ、言わなければならないことだったからな」
箒本人は相当後悔し、反省している様子だ。未だに落ち込んでいる。
そんな箒に、一夏がそうだと提案をする。
「そうだ。箒、VRゲームやってみないか?」
「へ?」
「キリトさん、ALOってゲームやっているって言っただろ?キリトさんの妹もそのゲームやっているんだ」
「…そのキリトという呼び方は、そのゲームの…?」
「まあ…ずっとそう呼んでいたから中々抜けなくて…」
なんとなく箒の目が泳ぎ始めているような気がする。主に、和人から反らす方向で。
一夏は泳いでいることには気がついても、その意図はまったく理解していない。
「か、考えておこう」
「?お、おう。あ、オレとカンザシもやっているから、やるならプレイヤーネーム教えるからな」
「あ、ああ…か、カンザシ…」
「…呼んだ?」
「え!?あ、いや」
箒が狼狽えていると、予鈴のチャイムが鳴り、席を立っていたものが席に座り始め、教室外の野次馬は慌てて去っていく。
「あっ、も、もう時間か!あまり悠長にしていたら千冬さんに叱られてしまうな!ま、また後でな!」
「あっ…」
「うへぇ、確かに。叩かれるなら勘弁だ」
気まずいからなのか急ぎたいと思ったのか、慌てて自分の席の方へ戻っていく箒。そうして各々、席へ戻り、授業の準備を済ませ、備えた。
どうでしたでしょうか。まだまだ始まったばかりですが、よろしくお願いします。