残念ながら今回も……タイトル回収には至りませんでした。
2014年、夏
暑い。ただひたすらに。
例年とは比べ物にならない位の蝉の大合唱に鼓膜の耐久値を削られながら、ぎらぎらと照りつける紫外線の雨から逃げるように佐山 信也(さやま しんや)はコンビニエンスストアの中に駆け込んだ。
店内に入った瞬間、強烈に吹き付ける冷房の風に一斉に鳥肌が立つ。
慌てて両手で二の腕をさすり、冷えた両腕の温度を適温に戻すと、信也はゆっくりと店内を見て回った。
菓子類、乾物類、カップ麵などを立て続けざまに買い物かごに放り込むと、今度はアイスクリーム売り場に足を運び、数秒間迷った末にカップアイスを二つ手に取ってかごに入れる。
これだけ暑い中わざわざ買い物に来たのだし、これは自分へのご褒美だ。
愛想っ気のない店員の立つレジで会計を終えると、アイスが溶けないように小走りで元来た道を引き返す。
ところでこの少年、信也には「普通ではない」とある特徴がある。
そう、彼は「魔術師」なのだ。比喩でも何でもなく、正真正銘、本物の。
彼の一族、佐山家はこれまで11代に渡って血をつないできた魔術師の一族である。
一つ特殊なことを挙げるとするならば、彼の一族は魔術の発展に無頓着なことだろう。
これは、魔術師界隈ではもはや異常と言っても差し支えないほどの特異性だ。
根源の渦に到達すること。
それは遥か昔からの魔術師たちの目的であり、悲願でもある。
そのためとあらば、血で血を洗うような所業も意に介さない。それが本来の魔術師というものだ。
ゆえに、かなりの歴史を持っているにもかかわらず佐山家は魔術の本場ロンドンの「時計塔」からその存在をほとんど認知されていないのだ。
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コンビニを出て走ること数分。町はずれにある小さな神社、そこに隣接する建物が信也の暮らす家だ。
「ただいまー。」
家に帰ると靴を脱ぐのもそこそこに冷蔵庫へ向かい、半分ほど溶けてしまったアイスを放り込む。
まあ、そのうちまた固まるだろう。
「おかえり……。」
ほどなくして、二階から物音がしたかとおもうと、階段の手すりに身を預けるようにして細身の男がよろよろとやってくる。
もう何日も眠っていないのか、頬はこけ、目の下には濃いくまが出来ている。
あまりにも痛々しい姿だが、実は彼こそが佐山家の13代目の当主にして信也の4つ年上の兄、佐山 真也(さやま まや)である。
彼をここまで追い詰めたもの、それは五日前に彼の右手の甲に宿った赤い紋章にほかならない。
聖杯戦争に参加する証であり、自らの使役するサーヴァントへ対する絶対命令権となる「令呪」。
それがあるともなれば、来たる聖杯戦争に向けた準備を寝る間も惜しんで行うのも何ら不思議ではない。
「それで、召喚陣は?」
そのままよろよろとソファに倒れ込んだ彼の背中に信也が呼びかけると。
「なんとか……。」
今にも死にそうな弱々しい返事が帰ってくる。
「それで、召喚は?」
「今日の夜ー。」
「触媒は?」
「本棚の上。」
信也は今回、聖杯戦争に参加する予定はない。
しかし、だからといって自分の兄の召喚しようとしている英雄が気にならないはずもない。
指示された本棚の上に手を伸ばし、探索すること十数秒。
ひんやりとした硬い感触が指先に伝わり、つかんでみると大きさの割にずっしりとした質量感を感じる黒い何かを発見した。
「なにこれ。」
「盾のカケラ。何でも円卓の騎士が使ってたものらしいけど。」
「円卓!?」
予想のはるか上を行く黒い物体の正体に、思わずそれを取り落としそうになる。
無理もない。
円卓の騎士と言えば、その全てが一流のサーヴァントに匹敵する強さを誇るとされている最強集団だ。
ともなれば、それを喚びだすための触媒もとても希少なものになってくる。
間違ってもこんな田舎魔術師がうっかり手にできるものではない。
「なんでそんな物が家に?」
「借りたんだよ。例の依頼人から。」
慌てて確認する信也に、真也はあっけらかんとした様子で答える。
それを聞いて、ようやく信也は理解する。
そもそも、今回この街で行われる聖杯戦争に佐山家は参加しないはずだった。
根源への到達を望まず、ただ魔術回路を受け継いでいくだけの家系ともなれば、聖杯にかける願いなどあるはずもない。令呪についても、土着の魔術師に宿る物は致し方ないし、聖杯戦争が始じまったら放棄すればいいだけの話だ。
そんな姿勢を貫いていた真也が聖杯戦争への参加を決めたのは、彼の友人と思しき人物からの連絡があってからだ。
彼らの間で実際にどんなやり取りがあったのか、信也には知る由もないが、その時に真也は確かに「頼まれたから参加することにした。」と口にしていた。
依頼人がどんな人物なのかは分からないが、佐山の魔術師らしく殺し殺されが嫌いな真也を電話一本で動かせるだけの人物だ。きっと触媒のひとつやふたつ支給するなんてお手の物なのだろう。
なんにせよ、円卓の騎士が喚べるのであればそうそう負けることはないはず。
「まあ、よかったんじゃないか?円卓が喚べるなんてそうそう…………あれ?」
ソファに倒れ込んだまま動かない真也に声をかけるも、返事は帰ってこない。
夜になったらちゃんと起こしてやろう。
そう決めて信也は毛布を取りに寝室へ足を運んだ。
次こそ遂にタイトル回収なるか!
次回、英霊召喚……?
評価、コメントお待ちしております。
そして前回、一話目のみにもかかわらずお気に入りを頂きました!本当にありがとうございます!
それでは次回でまたお会いしましょう。