怪人、悪の秘密結社が滅んだ世界にて。   作:バンバ

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書いていたワンコJK最新話4000文字が吹っ飛んだので初投稿です。

嘘です。作者のやりたい放題描こうと思います。


1話

『喜ぶと良い! 君は生まれ変わるのだ! 我々、秘密結社ダイアークの手先としてな!』

  

 それが、この身体に成り果てる前に覚えている最後の記憶だ。

  

 目が覚める。全方位に発揮される視界に何時ものことながら吐き気を禁じ得ない。

  

 まぶたもなければ動かす眼球もない。コレが元の身体のままだったら眼精疲労で視力低下待ったなしだったなと笑うも、その笑いもどこか黒板を引っ掻く音か、音割れした反響音のような生き物として違和感を感じる音だ。

  

 さて、今日も頑張って生きようか。

  

 ◆

  

 前回は魚だったから、今日は山の物を食べよう。そう決めれば行動は早い。

  

 無数の触手の先を今日に山肌に突き刺し、スルリスルリと滑るようにヤマブドウの生える場所まで登っていく。こういう時、この下半身は極めて便利だと思う。表面は木材のように硬く、それでいてタコのような吸盤やしなやかさを併せ持つ大小無数の触手はなかなかに便利だ。

  

 途中、大葉やヨモギを見つけて天ぷらが食べたいなとしょぼくれてしまったが気にしないものとする。しょうがない、人間社会に出るにはこの姿は異形が過ぎるし、俺を改造した秘密結社にバレたりでもしたらそれこそ次がない。ただでさえ下っ端として拉致、改造されたんだ。どうなるかなんて考えたくもない。

  

 するりするり、ドスドスと山肌に足を突き刺し登ること十分。目当ての場所にたどり着いた。一週間ぶりに訪れたそこには、黒々とした真珠のような実を付けた山葡萄がぶら下がっている。

  

 長く昆虫めいた枝のような腕を伸ばす。一房取って、一粒ちぎり取って口に運べば、強い酸味と僅かな渋味、そこから後追いするようにほのかな甘さが口の中を占める。

  

 美味い。ジュース、砂糖漬けとかに加工したくなる。しかし悲しいかな。加工する道具もなければ、保存しておくための冷蔵庫があるわけでもない。

 皿とか箸なら一応用意はできてるんだけども。悲しいことにこの手にはなかなか使いづらい。

  

 まあ、俺自身この身体になってすこぶる燃費が良いので二房も食べてしまえば満足で、三日は持つのもある。

 

 そもそも改造されてから得た力で保存食等の食料問題も現状気にする必要が薄いので助かっているのだが。

  

「【命に感謝を。対価に体を】」

  

 脚を一本地面に突き立て、それを折って両手を合わせて祈るような体勢を取る。あの日から神様のことはこれっぽっちも信じちゃいないが、俺を生かしてくれている食べ物には感謝を送るようにしている。

 

 お誂え向きに、そうしたことができる力だ。

『体の一部を自然の養分に変換できる』それが俺に備わっている力だ。しかもよほど栄養が詰まっているようで、成長を促進させる効果があるのか採った分はすぐに成長してくれる。

 

 言い方が悪いが栄養剤のそれである。海に流せばそこら一体がプランクトンの宝庫になるようで、大小多数の魚が溢れかえることになったのはちょっとしたトラウマだ。まさか鮫まで寄ってきたせいであわや食われそうになりかけるとは。

  

 ◆

  

 するりするりと山を下って、その途中にある洞窟を目指す。

 

 俺の今の仮住まい兼、物置というか、強いて言えばこの身体になってからの暇つぶしの場である。

 

 このヒョロ長い両腕のどこにそんなパワーがあるのやら。

 両手の指先で石をそのまま削れるほどの鋭利さと硬さ、力強さがある。

 

 それらを利用して、趣味の一環として海岸とかで見つけた石を削り出しては家具や、珍妙なオブジェクトを作って無聊を慰めるのである。

  

 そうやって移動していると、見慣れない、違う、見慣れたくないものがいた。

 

 テレビアニメに出てくる魔法少女かプリキュアのような、ふりふりとしたドレス調の衣装をきた、真っ赤な髪のポニーテールが似合う女の子。何処か機械的な箒に跨りながら空を飛び、周囲を見渡していた。

 

 慌てて岩陰に隠れる。

  

 秘密結社ダイアーク。それは世界征服を目論む悪の組織である。なればこそその悪の組織を野放しにしておくわけにも行かない。

 

 そして、それを止めようとしている『正義の味方』と呼べる存在も確かに存在するわけで。

 

 ただ、その勢力は一つではない。少なくとも二つの組織が絡んで、結果として自身の利益を求めて三つ巴になっているのは確かだ。

 

 一つが『魔法技術協会』

 

 もう一つが『ヒーロー連盟』

  

 あの女の子は恐らく『魔法技術連合』の魔法少女だろうか。昔見たアニメのようにレーザー砲よろしく魔法をぶっぱなしてこないだけ有情か。

  

 ……困る。非常に困る。俺自身は所属の上では完全中立派というか。

 

『名義上では』ダイアーク側の存在ではあるものの、改造された直後に逃げ出してきた逃亡兵とかそんな感じなのだ。ぶっちゃけ、敵対の意思はない。

 

 当初は投降し元の姿に戻る方法を探そうとしたけども、この身体は便利といえば便利なので、そこまで困っている訳でもないのが実情である。で、ある以上投降のメリットも薄い。

 

 そもそもの話、いくら内面的には一般人のままだといって、こんな異形を社会が受け入れてくれるとも思えない。

  

『This is 人外』なやべー外観を持つやつが安全だなんて俄かには信じ難い。俺だって信じられない。

  

 更に重ねて、他二つの組織所属の人間から見ればそんなことは関係ない。

 怪人として討たれてしまう。世の中そういうものだろう。

  

 そうこう悩んでいるうちに、女の子がふらふらと……そのうち、箒ごとひゅーと、落ちてしまった。

  

「は?」

  

 呆けた言葉が口から漏れた。

 そこから一、二秒と時間が経って、大慌てで触手を駆使して山中を移動する。

 

 この辺は大小岩が並んで、あんな自由落下したまま打ち付けられればどうなるかなんて考えるまでもない。

 

 しかも女の子がいた場所はおおよそ20mほどの高さ。1mや2mならまだ頭からいかなければ何とかなるかもしれないが、あんな高さでは打ち所なんて殆ど誤差だ。下手しなくとも死ぬ。それは嫌だ。

 

 何故なら俺は、外見こそ化け物でも、中身はまだ一般人でいたいからね! 

 

 走る。走る。

 体感的には一般的な車の法定速度程の速さだが、間に合うか? いや違う、間に合え。間に合え! 

  

「──ギリギリ、セーフ!!」

 

 幸い、どうにか女の子が岩に叩きつけられるよりも早く落下地点に駆けつけることに成功。

 

 全身をクッションのように使って落下の衝撃を逃がして受け止めることに成功する。

 よく見れば、女の子は細かい怪我を無数に負っていた。擦り傷や切り傷、衣類は磯臭く湿り気を帯び、砂が沢山付いて中々にボロボロだ。

 

 歳は十五歳前後だろうか。

 しかし、俺の中では別の疑問が渦巻いていた。

 

 何故、こんな場所に? 

 正直、ここが何処なのかは俺自身ハッキリとは分かっていない。ダイアークの研究所を抜けて、海に飛び込み、どうにかこうにか流れ着いた先、つまり無人島なのだ。昔は人が住んでいたような形跡はあったものの、建家は朽ち果て床は抜け、屋根は青天井と、そんな具合である。

  

「取りあえず行くか」

 

 此処で突っ立ったままいても何事も始まらない。一先ず、女の子を抱えて洞窟へと足を運んだ。

 

 ◆

 

 ガリガリと硬質な音が洞窟に響く。洞窟、とは言ったものの、奥行き5m、縦横幅それぞれ3m程度の空間だ。そこまで広々としているわけではないが、寝泊りするには充分な環境でもある。

 

 やはり水平に削るのはなかなか難しい。ブロック状の椅子を作り、不格好ながらベッドも作れば、今度は長方形のテーブルも作りたくなってしまった。

 

 件の少女は、その石のベッドの上で眠っている。流石にそのまま寝かせるのは冷えそうだったので、布団の代わりとは言い難いが乾いたツタで編み上げた物を間に挟んでいる。

 

 改めて見ても整った容姿の子だと思う。溌剌とした表情の似合いそうな、勝手な印象ながらも、威勢の良さそうな子だと思う。砂埃などで汚れていてもそれは変わらない。

 

 ……テーブルというからには足も作りたい。しかし一個の岩から削り出しとなると製作途中にひび割れると取り返しがつかない。

 

 ピシッ、と。割と、聞き慣れた音がした。

 

「あっ」

 

 考えてる矢先にコレだ。フラグ回収が早過ぎる。硬質な音と共に、四角のうちの一角が大きくひび割れてしまった。これでは脚にすることもできない。……諦めてそのまま使うか。

 

 さて。

 

「目がさめたようで何よりだ。どこか痛むところはあるか?」

「……」

「ああ、寝たフリはしなくていい。この頭は複眼でね。360°見えるんだ。片目を開けてこちらの様子を見ていたのも分かっていたとも」

「……あなた、趣味が悪いって言われないですか」

「この身体になってすぐに研究所を逃げ出した。それから長いこと人に会えなかったんだ。だから、申し訳ないがそのあたり少し疎いかもしれない」

「……グリム」

『レイピアモード』

 

 ムクリと体を起こした女の子は睨みつけるように俺を見る。警戒からか、箒から変形したレイピアをこちらに向ける。

 

 変形、だと。……カッコいいなー……個人的には体は闘争を求めるとかそっちの作品寄りのロマンというか、そういうものが好きなのだけど、ああやって物理法則を無視した変形をする物も好きだ。

 

 いやいかん。冷静になれ俺。

 

 警戒に関しては、そりゃそうだ。こんなナリをしてたら誰だってそうなる。ましてや敵対してる組織の存在と思しき奴だ。すぐ手を出して来ないだけマシだろう。

 

 岩につけていた手を上げる。2mも離れておらず、こちらは魔法などは使えない。かと言って石とか握り込んでたらそれを理由に敵対の意思があると判断され攻撃されるかもしれない。そうなると困るのは俺だ。

 

「……いくつか質問します。正直に答えてください。グリム、インクリーモード」

『承認。インクリーモード起動』

「答えられるものであれば。オレは何を答えれば?」

 

 出来るだけ明るく答えたつもりが、レイピアを構えて身構えられてしまった。流石に少し、へこんだ。

 

「貴方は、秘密結社ダイアークの怪人ですか」

「ああ。正確には『改造されて意識を取り戻して洗脳とかそんなのされる前にどうにか逃げ出した怪人』が正解かもしれない」

『肯定』

 

 確かにそうだろう。俺は改造された見た目完全に異形の怪人である。

 

 ただ、洗脳処理なる行為……まあ、字面からして既にやばいことに間違いないそれを受ける前に逃亡に成功したので、ダイアークに忠誠を誓うだとか、そんなのは微塵もない。

 

「では、貴方はどうやってこの島へ?」

「運良く。改造されたてホヤホヤの身体を駆使してどうにか泳ぎ着いたというか、流れ着いた」

『肯定』

 

 あの時は本当に必死だった。動かし慣れない下半身の触手を総動員して、とにかく沈まないように必死に泳ぎ続けていた。全身をとにかく総動員した犬かきのそれだっだと思う。

 そのまま海流に流されて、気がつけば流れ着いていたのだ。

 

「えぇ……? あ、貴方は、改造される前の記憶を保持……してそうですね」

「覚えてるよ。自分の名前とか家族構成とかも。何なら、ブラック勤めだった事とかね。拐われる直前にその月の残業が100時間を超えた事までしっかりと。……まだ二十日しか経ってないはずだったんだけどなあ」

「うわぁ……」

『肯定。ルビー、彼の勤めていた企業についてこの後資料をまとめて労基に提出しましょう』

 

 100時間残業も初めてじゃなかったから全てを諦めていたけど、先月から数えて休みなしの連続出勤が100日を超えた日だったのでとてもよく覚えている。……あれ、おかしいな、目から涙が。

 

 そんなことを思っていると、心底同情的な声が聞こえた。何ならグリムと呼ばれている、恐らく何かしらの補助媒体の一種からも同情というか、ブラック企業撲滅みたいな空気を感じる。

 

 いやいやいや、多分だけど君たちの方も似たり寄ったりでしょうよ。悪の秘密結社なんて相手にするんだし、下手すると命を掛けて24時間365日年中無休無給料とかありそうで怖いんだが。

 

「グリム、まだ取り調べ中よ……。んっんん。質問を続けます。貴方は、私を見て『殺したい』とか、『食べたい』という衝動に襲われますか?」

「いや全く。いくら改造されて外見が人間卒業してるからってそりゃないわ」

『肯定』

 

 人間に対してそういう衝動を覚えたことはない。最初、どの程度食わなくても大丈夫なのかと調べる一環で一週間飲まず食わずを貫いたら流石に身体の方がキツかったらしく普段の食べる量の3倍程度食べてしまったが、その程度だ。

 

「貴方の、怪人としての能力は何かありますか?」

「能力……自覚してる中であれば、足の一部を切りはなして、植物や生き物に対して栄養をばら撒いて成長を手助けすること、だろうか。山や海の幸を頂いた後によくやってるよ」

『肯定。ルビー、これはもしや』

「……原因は彼っぽいわね」

 

 原因? はて、何かしてしまったのだろうか。微妙に緊張してきた。

 

 もしかしたらこの能力が実は有害で、取りすぎたら毒になるとかそういうやつだったのだろうか。

 

「最後の質問です。貴方はその能力を意図して使い、この島の周囲一帯の環境を変えましたか?」

は? ……い、いや。全くそんな意図は無かった」

 

 あっ。結構思いの外ヤバそうなことしてしまったらしい。環境破壊、になってしまうのだろうか。

 

 元々その一帯に住み着いていた生き物たちの環境を一変させてしまうというのは、まあそうなる、か。無性に胃がキリキリしてきた。

 

『肯定。判定結果、シロ。問題ありません』

「良かった。──武器を向けて申し訳ありませんでした。私は『世界総合異能連合』通所『異能連』所属、魔法使いのルビーといいます」

 

 酷く安心したような顔色で一礼し、こちらに笑顔を向ける少女、ルビー。

 

「……いくつか聞きたいことがあるが、これだけは聞いておきたい。えー、ミス・ルビー? 君は、オレを討ちに来たのでは」

「えーっと、ですね。それも含めて幾つか説明をさせていただきます」

『補足説明はルビーのマジックデバイス、グリムが担当します』

 

 

 

 

グウウゥウ……。

 

 

 そんな間の抜けた音が、大きく響く。洞窟の入り口ということもあってから、それはやけに大きく聞こえた。

 

 酷く安心したような顔を熟れたトマトのように赤くし、滝のような汗をかく少女、ルビー。

 

『提案。ミスター。よろしければ食料等はありませんか? ルビーはこの島に辿り着く為に昨日から睡眠や食事に支障をきたしているのです』

「ちょ、グリム!!?」

「ふふふふ、ああ、いいとも。ただ、山の幸か、君たちの方で火の用意ができるなら、魚か貝類などの海の幸も用意できるが」

『火の用意はこちらでしましょう』

「わかった。少し待っていてくれ」

 

 これ幸いと乗っかることにした。

 久しぶりに、火の通った食べ物を食べることができそうだ。

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