ゆっくりゆっくり話は動くやで。そう考えると、ワンコJKの時は勢いよくし過ぎたのだろうかと反省しています。
2020/12/13 作者の手元にPCが届いたため特殊タグ復活します、やったぜ。
森がザワザワと揺れ動く。風が洞窟の入り口にいるオレたちを撫でるように吹く中、オレは自分の頭の中で情報を咀嚼するために頭をフル回転させていた。
ルビーから齎された情報を改めて整理する。
俺の能力の本質的な部分のこと。端的に言えば『相当なんて言葉では納めていけない』くらい極めて危険な代物だった。
本当に。切実に。何が栄養剤だという話なんだが?
栄養剤すっ飛ばして麻薬や覚醒剤の類じゃねえか。なにオレのバカ悠長が過ぎる。
これでもしもダイアークに洗脳でもされていたらガチモンのやべえ新興宗教の教祖とかそんな感じの立場に納められてた可能性があったってことだ。というか能力からしてその為の物だし。
冷や汗をかくことができるなら、今頃水溜りができるくらい汗をかいていたことだろう。
控えめに言っても肝が冷える。足がウネウネと震えるのが実感できる。
いやー、改造された当初の俺まじでGJだと思わざるを得ない。その判断がなければ今頃俺はどう転んでも地獄だったわけだ。
「……幾つか、改めて聞きたいことがある。魔力とは、そもそもなんだ? いや、ファンタジー系の小説とかゲームではまあまあ聞く物なんだが」
魔力がどうとか、そういうのはよくわからない。
というか、過剰に供給されてたって、つまり俺の魔力がそれほど多かったのだろうか。
そのことをルビーに尋ねると、まず「リョーマさんの、今の状態からの推察ですが」との前置きの後に、簡易的な説明をもらうことができた。
「そもそも魔力というのは、なんにでも宿ります。魔力、国や地域が変われば、霊力なんて言い方もされますね。
『物理的、精神的、霊的に作用する非物理的エネルギーの証明要素』『架空原子』……なんて言い方だとすっごい面倒くさいと思うので、とりあえず『不思議なことができるエネルギー』という認識で大丈夫です」
「アッ、ハイ」
『ルビー。その言い方でついていける人は、貴方を含めてもほんの一握りです』
もう既にしれっと訳の分からない単語が飛び出してきたので思考を放棄しそうになる。
すっごいワードが飛び出してきたような気がするけど、オレの脳が既にキャパオーバーの頭痛を引き起こすレベルで知る事を拒んでいるので認識できないものとして取り扱いたい。
そして丁重に関わらないよう距離を取りたい言葉だ。いや本当に。
「それらを言葉、呪文であったり、何かしらの変換器を用いて攻撃や防御等に利用した物を魔法って言うんです。私の場合はグリムを通して展開してますね」
とりあえず理解できる部分まで話をスケールダウンしてもらえたのは幸いだった。
魔力だけでこれなのだから、ヒーローたちの力の源はなんなのかとか説明を受ける機会があったら全力で謹んでお断りさせていただく決意ができた。
ルビー曰く、俺の魔力の性質についての考えを掘り下げいくと、割と聞き覚えのある言葉に行き当たる、らしい。
それが言霊。言葉に宿る霊的な力。
極めて原始的な魔法の1つで、そのシンプルさ故に強い力を発揮するらしいそれ。
俺の魔力を何らかの方法で取り入れてしまうと、魔力の性質上、崇拝に至るそうなんだけど。
魔力を取り入れてしまっただけでそれだ。
なら、それをより明確にする為に、言葉というツールを用いればどうなるかなんていうのは想像に難くない。先程の説明を当てはめるなら、絶対服従のそれだ。
しかし、それでは俺の魔力の量について説明がされていないような。
「話が少し脱線しましたね。それで、魔力というのは古い物、もしくは古くからあり続ける物に強く宿ります。例えば亀の甲羅もそう、例えば永い時を生き続ける樹木もそう。他にも宝石や本、本当に何にでも、魔力というのは宿るんです。
……さて、リョーマさん。実は私、リョーマさんと思しき人物への改造に関する資料をダイアークの研究所から押収して、見たことがあるんです」
「マジか」
「マジです」
『マジの一言で会話されても困るのですが』
「と、言われてもだな……」
なんか思わず出た言葉にルビーが乗っかっただけだったんだけど。それを言われてもなあというのが1つ。
こんな体になってしまった以上、今更研究資料が出てきてもなあというか。仮に元の体に戻る方法があったとしても、一度『怪人』という括りに収まってしまった以上それが原因で社会的に孤立しそうな未来しか見えないというので2つ。
そのことを伝えると、ルビーがとても顔色を悪くしながら返答してくれた。お腹を鳴らした時といい、魚を食べていた時の幸せそうな顔といい、表情豊かな子だなと思う。
「えぇっと、その……怪人に改造されてしまった人たちは、その改造されてからの期間が短いほど元の体に戻る為の治療が受けやすくなるのですが、それにも、タイムリミットがあってですね。
少なくとも、リョーマさんが改造された時期はダイアークがまだ残っていた時期、なんですよね?」
「ちょっと、待って欲しい。まだ、残っていたとは──」
『ダイアーク、および、異能連に関する説明はこの質問と魔力に関する疑問への返答が終わってからにしましょう。脱線しすぎです』
「──む……すまない、昔から悪い癖でね」
いけないな。やはりコロコロと話題が変わる、というか『A』で話している時に気になる発言や単語が出てくるとそこから『B』『C』と飛躍してしまうのは本当に悪い癖だと思ってる。そうやって困ってきたこともあったから、社畜時代には治していたのだけど。
ああ、違うか。人と話すのが久しぶりすぎて、そういう部分も割と薄れていたんだな。
そう思うと、人との会話というのはやはり重要な物なんだと認識できた。それだけの有無で、人として何かが欠落していないかが認識できる。
こんな形でもまだ、俺は人間なんだと、思うことができた。
「……タイムリミットなんですけど、1年、です。リョーマさんの場合だと、改造されてから最低でも2年以上が経過している、かと……」
「あー、まあ、しょうがない」
「いや、あの、軽くないですか?」
「いやだって、こんな体になっちゃったら一周回って諦めの方が強いからね」
個人的な心境としてはダイアーク死すべしのそれなんだけど、さっきの言い方でダイアークは既に滅んでいると見るのが妥当だろう。
そうすると、ルビーやグリムに八つ当たりするわけにもいかないので、不満を撒き散らすだけの言葉は胸中に『そっとじ』した方が平和だ。というか、元社会人というか、年上のお兄さん的に年下の女の子に当たり散らすのができないというか、プライドがねえ。
「さあ、この話はここで一旦おしまいだ。それで? 魔力が、なんだったか」
「……なんでしたっけ」
パチクリと目を瞬きさせて『そういえば』という顔をするルビーに、ははぁ、さてはこの子もオレと同じ口だなとあたりをつける。
まあ、変なところで仲間意識を持ってもという話ではあるのだけど。
『研究資料から分かった、リョーマさんの魔力量のことです』
そういう意味では、機械であるグリムはルビーとは相性がいいのかもしれない。
機械的、と呼ぶには少し話している限りグリムも大概人間味があるというか、中に人でも居るんじゃないかって感じがひしひしと。
暴走しがちな良い子と、それを諌めるしっかり者。そんな言葉が頭に残る。
「あ、それそれ。ありがとうグリム。
リョーマさん、貴方の体には、先ほど説明したような『古い年月が経っている物』が多数使用されているみたいで」
「……まさか、背中のこれとか、足のこれって、そういうことなのか?」
『恐らくは、ですが』
確かに、納得のいく説明ではある。
亀の甲羅。
推定樹齢1000年以上の樹木の根。
石英の結晶。
それらが、ルビーから説明されたオレの体に、『恐らく』使われている年月が経っている代物。
『恐らく』とついた理由。それは、資料の方に意図して消された形跡があり、そこから知ることができた情報からの推測でしかないから、とのことだ。まだいくつ使われている可能性が高いが、わからない、と。
しかしその話も、あながち間違いでもなさそうだとも思う。
亀は長生きだし、種によっては300年以上生きると聞いたことがある。
樹齢が4桁の木なんて、御神木なんて名前でいくつか聞き覚えがある。
石英の結晶は1mm大きくなるだけで100年もの時間がかかると過去に調べた覚えがある。
それらの素材を掛け合わせて改造されれば、いやでも沢山の魔力が宿る、のだろうか。
いやまあそういうことに詳しいルビーがそう言うのだから、きっとそうなのだろうけど。
とはいえオレ自身が専門家でもないので、その辺りの部分は聞くだけ聞いてわからないことがあれば後々また聞き直すしかないのだが。
「ふふふふ……なんだか、笑えてきた」
「リョ、リョーマさん……」
内心『あれ、これまじモンのラスボスというか、どう足掻いてもラスボスルートなあかんヤツ』としか思えなくなってきた自分のことで、一周回って腹抱えて笑いそうな気分だ。
というかもう笑いが漏れてしまっている。むしろ笑わないとやってられない類の話だ。
「はぁ……ルビー、グリム、改めて聞きたい。オレは、どうしたらいい」
「……『異能連』として提示できる選択肢は2つあります。
1つ目は、この島を出て私たち異能連の、悪い言い方をすると監視下に収まりながら、社会貢献できる形を探すこと。
2つ目は、この島に残り、異能連の監視下の元生活すること、です」
「監視が付くのは知ってた。……そりゃそうだよなあ」
こういう時、顔もクソもないこの頭は助かる。きっと、非常に苦々しく顔を歪めていたに違いない。
監視に関してはむしろ此方からお願いしたい件だった。ルビーたちから問われた、人に対しての害意。何かの拍子に、それが表に出てこないかオレ自身が心配なんだ。
それを加味した上で、胸中としては1つ目に飛びつきたい。
諦めていたんだ。もう無理だと、会えないと割り切っていた。その筈の家族に会えるかもという選択肢が提示されて、それに食らいつかないというのは嘘だろう。
両親に、「ただいま」と言いたい。
近所のおじさんやおばさんたちと他愛もない話をしたい。
昔馴染みの友達に会って、また馬鹿馬鹿しいことをして盛り上がりたい。
……それに、グリムたちがオレが務めていたクソブラック企業について色々制裁をしてくれそうな話をしていたので、それを見て満足したい。
『ルビーと私としての意見ですが、1つ目に関してはあることを解決しなければできません』
「はい。その事で、もう少しの間だけ時間を貰いたいんです。良ければ、リョーマさんも手を貸してもらえませんか?」
「手伝うこと?」
期待に膨らんだところに、僅かに水を差された気分だったが、仕方ない。
というか無自覚とはいえヤベー案件を多数やらかしている以上、断る選択肢もないんだけどもさ。
「ああ、良いとも。オレで良ければ喜んで手伝おう。ただ、長話をし過ぎた。もう日も落ちる。さあ、ルビー……」
「な、なんでしょうか」
見れば、洞窟の中へ西日が入り込んでくる。
大雑把にしか分からないけど、時刻で言えば夕方の4時前後だろうか。
だから、目の前のあんな美味しそうに焼き魚を食べていた女の子には、この問いかけをしなければいけないんだ。
オレは、この問いをすることを、強いられているんだ!
いやだって、あんなに美味しそうにイイ食べっぷりを見せてくれたんだ。餌付けとは言わないけど、なんか、こう、満足感というか、達成感があったんだ。
「Mountain or sea?」
「まうんてん、おあ、しー……? ……あっ、……こ、今回は、山の方でお願いします」
「かしこまりました、お嬢さん」
不可抗力のやらかしを思い出して顔を赤くするルビーに、眼福と思いながら恭しく一礼する。
この後、ルビーから怒られつつも『あるお願い』をされた後、山を巡って葡萄や野苺、アケビに柿を気持ち多めに取ってきたオレは、ちょっとだけ心配になりながらも洞窟へ引き返した。
もうじき、日は暮れて、真っ暗で、そのくせ明るい夜が来る。
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