怪人、悪の秘密結社が滅んだ世界にて。   作:バンバ

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 遅くなりました。

 友人が(使ってないパーツの余りで)PCを組んでくれたのでPC投稿できるようになったぞ!!!(クソデカ声)

 これで特殊タグが使いやすくなる……

 


4話

 パチパチと産声を上げる火にまかれた薪の爆ぜる音を聞き流して、空を見上げる。

 人工の光がない夜というのは、本当に真っ暗闇。だからこそ、特に一際大きな満月の夜なんかは、惚れ惚れするほどの絶景を堪能できる。

 

 大きな月や、星々の光がこれがまあよく映える。風に揺すられてざわめく木々の合唱をBGMに、洞窟の中に意識を落とすのがいつもの日課だった。

 いつもの中に混ざっていない薪の爆ぜる音も入り込み、新たな音が耳を楽しませてくれる。

 

 しかし、眠ることさえも、目を瞑る感覚もないまま、意識がぷっつりと途切れて落ちていくような感覚はやはり嫌いだ。恐怖心すらある。

 そう考えると、他人が近くにいながら眠りに落ちる状態というのは中々新鮮だ。不思議ですらあるかもしれない。

 

「なんだか、プラネタリウムみたいですね」

『ルビー、貴女の考えていることは大変失礼です』

「グリム、その、君の言葉が無ければ綺麗にまとまっていたと思うんだ」

『……現状理解完了。大変、大変失礼しました』

 

 これはひどい。台無しである。

 

 彼女たちは今日出会ったばかりの(中身の事はともかくとして)ガワは完全に異形な怪人の俺のことを、よもやカラオケやホールにあるようなミラーボールか何かと見間違えてるのではなかろうか。

 

 強ち否定できない外見なのが悲しい。ただしこれはミラーボールではなく複眼だ、複眼。360度カバー可能な優れものだぞ! ちょっとした弊害があるだけでかなり優れたものなんだ!

 まあその弊害も、常に目が開きっぱなしの状態だから瞑りたくでも瞑れないとか、太陽光で視界がかなりやられるくらいのものなのだけど。

 

 それを加味して考えると、偏見も込みで存外人間らしいシルエットが多い怪人の中ではかなりらしくない姿なのかもしれない。俺が改造される前、テレビやSNSで見かける機会のあった怪人というのは、総じてしっかりと人型のシルエットを保っていたように思う。

 まあ、片腕がドリルだったり大砲のように改造されているとか序の口で、どっかの変態企業あたりが着想したイロモノめいた物までくっついていたりしていた。ほら、六連チェーンソードリルとか。

 

 それと比較すると俺は特に、下半身が大きな差異だと言える。

 二本足での歩行を完全に放棄している。タコの脚とも樹木の根とも言い難い大小の触手を足代わりにしているが、歩くというかスライドとか、突き刺して固定してから移動するとかそんな感じである。

 

「君たちの頼み通り、魔力をばら撒いてきたけどさ、本当に良かったのか?」

「はい、正直ここまで魔力がばら撒かれていると……正直、手の施しようがないので、なら別の方法をとってしまおうと」

「手の施しようがない、か」

 

 はっきりと言い切られると流石に少しへこむ。いやまあ、発端から原因から全て自分の責任な訳だが。

 『これも全部ダイアークって秘密結社の仕業なんだ!』と割り切れたらどれだけ良かっただろう。

 しかし悲しいことに抱えてる能力の都合上、そんな風に思っていると碌でもないことになりそうなのが辛い。

 

 昔読んだダークファンタジー物の小説で、特別な力を持って生まれたが為に邪教の神具に祀り上げられ、ただ邪教徒の指示通りに能力を使う物に『加工』された登場人物がいた。

 その登場人物とは全く能力は違うけど、例えばもしもダイアークやそれに連なる組織に連れ去られ洗脳でも受けるハメになればもうお察しである。詰みだ。そんでもってほかの人々に迷惑をかける。それは嫌だ。

 なので自然と『なるようになる』なんて考えは消えていた。

 

「はい。明確な指揮性のない魔力でこの規模です。なら、こちらも手を変えて『この魔力自体を単体で操作できるようにする』手法が楽かなって」

「なる、ほど? ルビー、いったい何をするつもりなんだ」

『ルビーは、意思を持ち始めている島に、完全に意思を与えようとしています』

「意思を与える?」

 

 そう言えば魚を食べているときに言っていたな。魔力が満ちすぎて島が意思を持ちかけている、とかなんとか。ただ、そんなことをしていいのだろうか。

 もう字面の時点で嫌な予感しかしない。厄ネタに厄ネタを重ねて碌でもないことにしかならないじゃないだろうか。

 

「雑に言うとですけど、リョーマさんにはお父さんになってもらおうかなと」

「お父さん?」

 

 一瞬真っ白の柴犬が頭をよぎったが違う違うと頭の片隅に追いやる。

 どういう、事だ? 何かの暗喩だろうか。

 

『ルビー、言葉が足りません。つまり、意思を与え、擬人化だったり擬獣化してもらって、リョーマさんの使い魔として我々異能連の方で形式上、管理、保護しやすくなります』

「小難しくグリムは言ってますけど、ようは『今後の生活を保障します』って言ってるだけですから。

 やりましたねリョーマさん! 家族が増えますよ!」

「おいバカやめろ」

 

 笑顔で目をキラキラさせながら言うことじゃない。

 それにしても、そうか。結婚もしていないのに一児の父になるのか。バツイチでもないのに。

 

 両親にもうすぐ三十路になるのだから結婚も考えたらどうだと言われ、若干肩身の狭い思いをしていたことを思い出してへこんだ。

 てか、俺今の年齢って少なくとも、2年経過していると考えると……あーやめやめ。

 切り替えなければ。家族には会いたいけどこれは別問題だ。胃に穴が開く。

 

「そういえば聞き損なっていたんだが、ダイアークが崩壊したというのは、本当なのかい?」

 

 そう。その話がずっと気になっていたのだ。人様のことをこんなビックリトンデモ魔改造してくれやがったダイアークは少なくとも2年前に滅んでいるらしい。その話を今の今まで聞きそびれていたので、ここで聞いてみることにした。

 

「ええっと。……ダイアークの戦力を少しずつ削って、追い込むことはできていたんですけど。

 ……最後の最後に残った戦力で決起されてしまい、殆ど同じタイミングで当時のヒーロー連盟や魔法技術協会が色々ともめたりして、…………ハイ。お恥ずかしい話、結果的に足を引っ張りあっている間にダイアークから強襲を受ける形での総力戦になってしまいまして」

「ごめんガワがダイアーク側の俺が言うのもなんだけど何やっているの人類」

『肯定。権利や欲に目が眩んだ人間というのは、怪人よりも性質が悪いです』

「ぐふぅ……」

 

 俺からの口撃とグリムからのお腹を押さえるように俯いてしまった。しかし俺からしたら『残当』の2文字しか頭に残らない。

 いや本当に何やってるの? なんでそういう共通の敵がいる中で利権争いみたいなことやってんの? 理由はまあわかる。ダイアークがいなくなった後の事を見据えていたんだろうけど、状況が悪すぎるだろ。やっぱ人間って馬鹿だわ。知ってたけど。

 

「わ、私に言われてもですよぉ、あの時の私は協会の一研究員でしかなかったんです……ヨヨヨ……」

「君結構余裕あるね? しかしまあ、ルビーが悪いわけじゃないのはその通りだ」

『肯定。ルビーの話を引き継ぎますが、ダイアーク壊滅後、残ったヒーロー連盟、魔法技術協会共に致命的なダメージを負ってしまいました。今後そのような事態が起こらないよう当時の上層部の人員を総入れ替えし、相互監視も兼ねて2つの組織を合併、今の異能連の形になりました』

「なるほど」

 

 これ以上ルビーを責めても何にもならない。というか言ったところでルビー視点では理不尽極まりない事柄でしかない。これ以上グチグチ言っては完全に悪質クレーマーのそれだ。

 やっぱ利権やら金やら欲に目が眩んだ人間ってクソだわと当時のブラック企業の上層部を思い出してこれ以上なく心の中指をおっ立てる。

 さあこの空気どうしようかと思案しようとしていると、ふと昼の光景と与えられた情報から、背筋が凍るような感覚に襲われた。

 ……そういえば、彼女、思いっきりこの島由来の食べ物を食べてなかっただろうか。

 

「……ルビー。君、魚や山の果物を食べてしまったが……大丈夫なのか?」

「露骨な話題変更ありがとうございます……。それに関しては大丈夫です。私、これでも魔力操作は異能連の中でもトップクラスの腕前なので、取り入れた魔力を外に逃がすくらいお手の物なんです」

『彼女は調査や研究に長じています。魔力の取り扱いに関して言うまでもありません』

「……よかった……」

 

 心の底からホッとする。ふと沸き上がった懸念事項の1つが消えて、安心からどっと疲れが噴き出てきた。これで(年齢こそ知らないけど)若い女の子を洗脳してしまうとかいうエロ同人誌みたいな展開は回避したわけだ。

 ……触手、異形、洗脳……やめよう。これ以上は俺の心が持たない。というか考えたところでそういう意味合いの発散する方法を未来永劫失っているのだから実行に移す理由もない。

 

『推定、疲労。お疲れのようですね』

「恥ずかしい話、人とのコミュニケーションに飢えていたけど、同時に久しぶりの事すぎて疲れたみたいだ……悪いけど、今日は寝かせてもらうよ。ルビー、グリム。布団代わりになるかはわからないけど、蔦を編んで作った布団まがいのものがある。入り口側に置いておくから、良ければそれを使ってくれ。オレは、洞窟の奥で眠るよ」

「あ、わかりました。それじゃあ、おやすみなさい。寝る前に火は消しておきますね」

「助かる。それじゃあ、おやすみ。良い夢を」

 

 こうして、どたばたとした長い1日は終わった。

 この後、起きた直後、というか、パニック気味の彼女にたたき起こされるハメになるとは、この時思いもしてなかった。

 


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