妹がいつの間にか人気Vtuberになってて、挙句に俺のお嫁探しを始めた 作:はしびろこう
高校生の頃に両親を亡くし、俺と妹だけが残った。
まだ中学一年の妹は顔に暗い影を落とし、そのままずるずると部屋の中に引きこもってしまった。
俺の名前は
妹は東雲
俺たち二人は親戚にたらい回しにされそうな予感を肌で感じていた。
大人たちは俺のことをただの高校生のガキだと思っていて、どいつもこいつも舐めた目をしてやがる。
しかし、俺は高校に入り、妹の為ならばとアルバイトを掛け持ちしながら過ごしてきた、真性のシスコンだ。そのおかげで多少なりとも家計に余裕ができ、妹は好きな事を出来ていたので、日々笑って過ごしていた。少し、サブカルチャー方面へ突っ走ってしまったのは面食らってしまったが。
だがそれでも、俺は妹の笑顔だけが唯一の生きがいである。
そんな笑顔を、これ以上曇らせる奴は誰一人として許さん。
両親の棺桶の前で決死の表情を浮かべてこれから、俺一人でも萌香は守っていくよ、そう両親に心の中で伝えたのであった。
それから五年ほど年がたった。
俺はアルバイトを何個も掛け持ちしながら、その中で特に成績の良かった店に正社員として働かせてもらえることになった。
掛け持ちしないのは俺の負担にならないし、何より妹の為に時間を作ってやれる。
高校の時は、自身で生活費を稼いでやる! と親戚一同に豪語して鼻で笑われたのがいい思い出だ。
しかし、俺はやり切った。正社員になるまでの間、時間を妹の為に費やしアルバイトを限界まで増やして、なんとか学業と両立させてやった。我ながらとんでもない奴だとは思う。
というわけで、正社員となった今、安定した給料、毎日定時で帰れるという超ホワイト企業に就職することができた。
そして、妹も徐々にではあるが、部屋から出れるようになっており、毎日夜ご飯は一緒に食べる約束をしている。
それが唯一の至福の時である。
萌香は身内贔屓ながらもかなりの美人さんだと思う。
背は小柄ではあるが、そこが愛くるしく、顔もちゃんと整っている。毎日ケアをしているのだろう、このオシャレさんめ。
高校には通信制の学校を勧めた。
本人も高校は出なきゃという強い意志があるみたいで、俺の考えに賛同してくれた。
今は多くのレポートに追われながらも、楽しくやっているらしい。
そんな妹が夕飯中にこんな事を言ってきた。
「ねえ、お兄ちゃん。お嫁さんって欲しい?」
「……む、いや要らないな。俺が女性不信だということは知ってるだろう?」
「でも、私ばっかり構って、お兄ちゃんって自分の事に興味がないような……」
「萌香が気にする事じゃない。それに俺にだって趣味はあるぞ。ええと、BLに……GLに……」
「あ、ストップ。大丈夫大丈夫」
そう、高校時代、とんでも無く忙しい日々を送っていた俺にも趣味はあった。
BLは……どうかとも思ったが、女子に貸してもらった本を読んで、美しいとなぜか涙してしまい、それ以来ずっと読んでいる。
GLも同様。……とは言っても俺は同性愛者ではない。まあ、異性にも興味はないが。
実は昔、両親がいた頃、俺には彼女がいた。まあ、とんでもない女で16股かけられた挙句、俺のことはキープだと言っていた。三日三晩泣いた。
俺は本気だったのに……畜生……。それ以来、女性はなんとなく苦手である。いや、恋愛に臆病になっているというのもあるだろうな。
こうして、お嫁が欲しいという萌香の質問は終わった。
しかし、なぜ萌香はこんな質問を?
もしかして……俺に愛想を尽かしてしまったのだろうか……。構いすぎちゃったかな……。
そう思いながら、妹専用のお小遣い用通帳に五万を入れようと手続きしていた時だった。
「ん? 増えてる?」
毎月五万のお小遣いを萌香の通帳に入れているのだが、萌香は散財癖があり、これまでこの通帳にお金が貯まった事は一切なかった筈だ。
しかし、何処からどう見ても通帳に記載されている数字が増えている。
その額およそ30万……なんで!?
い、いや……俺の月の給料の+10が通帳の中に入っていた。
こ、これは……どういう事なの……?
そして、30の数の横には給与の文字が書かれている……。
え? ええええ?
頭の中にはクエスチョンマークがいっぱいである。
え、誰の給与? 俺は毎月20だ……こんな額はボーナス以来貰ったことなどない。
……というより、これは萌香名義の萌香自身の通帳だ……。一応、萌香にも通帳の所在は伝えてはいる。だが、基本俺が管理していたのだが……。
「も、萌香の給料……なのか……?」
俺はその場で硬直してしまい、後ろの人に急かされるまでボーッと立ち尽くしていた。
その夜。
「萌香、大事な話がある。ちょっと来なさい」
「うん、私もだよ」
どうやら俺が気付くのを待っていたみたいだ。
よくできた妹で何より……。いや、今は褒めるのはよしておこう。
「なあ、萌香……これは一体なんなんだ」
そう言って俺は萌香の通帳を机の上に出す。
そこには紛れもなく30万の数字が書かれていた。
萌香は平然とした顔で俺の顔を見つめてくる。そして、一息「ふう」と口から息を漏らした後、決心したかのように口を開き始めた。
「実は私、Vtuberになったの」
「……ぶ、V!?」
Vtuber、それは大人気動画サイト『MyTube』で活躍する配信者や動画製作者の総称、Mytuberと呼ばれる人達の中で一躍人気なコンテンツとなっている、二次元の美少女や美少年のキャラを使い配信や動画を作製する人達のことである。
かくいう俺も好きなVtuberがいて毎日配信を見ている人がいる。
今ではVtuber専用の事務所なども出てきている昨今で、まさか妹が……?
「そ、そうか……で、なんて名前で活動をしているんだ?」
「
「…………」
バチバチの最大手だった。
秋風幽香、大人気Vtuber事務所『トライアングル』という事務所に所属している一期生Vtuber。
トライアングルはアイドル系をコンセプトに主軸を置いており、正統派の『
今や三期生までおり、今は四期生を募集しているらしい。
本物の姉妹や家族と配信しているVtuberもいたりこの子達のキャラを描いた絵師まで配信に顔を出したりしてそれがまた人気な事務所である。
そして……秋風幽香……。本人はクール系を装っているが、実際にはポンコツ部分が多く露呈し、今では不思議ちゃんという属性が付けられている。
しかし、落ち着いた声やホラーに異常に強い、そしてサイコパスムーブをかまして、トライアングルの黒幕とまで呼ばれているキャラだ。切り抜きで見たことがある。
「もしかして……知ってる?」
「ま、まあ……」
そりゃあトライアングルは個人的に好きだし、毎日見ている配信の人がそこの所属の人だ。
二期生『
可愛い系の女の子で粟色のショートカットの女の子で非常にほわほわしていて心にぶっ刺さった。
そして、よく秋風幽香とコラボをしているので存在は認知していた。
まあ、単推しで、てるみんの配信しか見なかったので声似てんなぁってぐらいで気付かなかったのだが……。
「そっか、だったら話は早いかな。ねえお兄ちゃん。事後承諾って感じになっちゃってごめんなさい。事務所に所属するときもお姉さんの許可を貰って所属したんだ」
お姉さん。母さんのお姉さんで俺たちの伯母さんに当たる人。まあ、伯母さんっていうと激怒するのでお姉さんと言っているが……俺たちの昔から唯一信頼できる大人だ。
……俺はよく考える。
ネットというものは怖いものである。何せ女の人だと思って会ってみたらオッサンだったなんてザラにある世界だ。決して実体験ではない。怖かった。
それに、アイドルという売り方をしている以上、厄介オタクなども出てくる世界。
俺は本音を言うと、辞めて欲しい。傷つく前に手を引いて欲しいと言うのが本音である。
だけど、本当にそれで良いのか?
それで本当に萌香の為になるのだろうか。
お姉さんにも言われたことがある。
「テメエがそんなに構いすぎたら、萌香もやりたいこと出来ねえだろうが」
そうだ、萌香の成長や、そんなものを無視して俺は萌香に構いすぎていた。
それだからお姉さんはVtuberという未知の世界に挑戦したいという萌香の心意気を汲んで俺に内緒で協力したのだろう。俺が絶対に反対する事を分かっていたからか……。
「わかった、俺としては心配だが、お姉さんも協力しているというのなら俺は何も言わない。…………まあ、なんだ。困ったことがあったらちゃんと俺に言うんだぞ? もう、隠し事は無しだ」
「……! う、うん! 私頑張るね!」
俺が承諾すると、ぱあっと明るい表情を浮かべて俺に笑いかけてくれる。ああ、今日も妹が可愛い。やはり俺の人生における推しNO.1は萌香しか居ない……。
こうして、俺たちの絆はまた深まったのだが…………。まさか……この後に……あんな事になるなんて……。
『第一回! お兄ちゃんのお嫁さん探し企画〜!』
「お兄さん、私と幸せになりましょう!」
「お兄さんは僕が推しなんだよ! 僕と結婚しましょう!」
「えっ怖い……勘弁してください……」
・草
・お兄ちゃんタジタジで可愛そう
・お兄ちゃんクソ雑魚ムーブ可愛い
・お義兄さん! 妹さんを僕にください!
・いや、お兄ちゃんが俺の嫁になってくれ
「えっ、絶対やらんし、嫁にもなりません……怖い……」
どうしてこうなった。
続くかどうかは分かりません!!!!!!!