異世界転"性"黒猫少女、しっぽ付き。   作:しぇてめ

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3.寝床

――しゃくっ。しゃりしゃり。

 

果物を(かじ)る爽やかな音を奏でながら、現在の装備を確認する。布一枚を服代わりに羽織り、棍棒を片手に持ち、更には裸足。

 

「……ファンタジーで言うなら奴隷か、蛮族だな。いや、浮浪者か?はは……はぁ」

 

汚れこそ先程見つけた川で流してはいるが、布に腕を通す穴が空いているだけなので、ファッションと呼ぶにもギリギリのラインだという自覚はある。

 

水面に映る自分を見た時、全裸の方がまだマシじゃないかと本気で思ったくらいだ。乾かす事も出来ないが、そもそも水を含む程いい布でも無いのがまた悲しい。

「……んぐ。美味い……」

 

そしてさっきからずっと食べている赤い実だが、なかなか美味しい。今食べているのはあれから探して見つけた2個目だ。

 

ほのかな甘みと咀嚼を促す食感。空腹ならなんでも美味しく感じるのだろうが、森に生えているような実にこれだけ甘味があるのは十分凄いと思える。

 

「……【エプの実】、だっけか」

 

あれから、道行く物に鑑定を使って【鑑定】をlv4まで上げた。その結果が――。

 

――――――――――

【エプの果実】

魔力が豊富にある土地でのみ育つ【エプ】の果実。

実をつけてすぐは毒性が強いが、熟れる程に毒性は弱くなり、それに伴い甘味が強くなる。

――――――――――

 

――なんと、物の名称や詳細まで判るようになり、非常に便利になった。

 

lv3の【鑑定】ですら『魔力のあるところに生える』としか出なくてもめげなかった、その分くらいは報われたはずだ。欲を言えば毒性についてはもっと早く知りたかったが。

 

「いくつか味のしない奴も噛んだけど、平気だよな?」

 

美味しくないから捨てたが、こんなサバイバル下で選り好みをしないで食べてたら毒を食ってたかもしれなかったなんて……キツすぎる。

 

いっそ熟れてるかどうかも【鑑定】出来れば良いのにとは思ったが、そこまではカバーしてくれないようだ。レベルが上げれば変わるのだろうか。

 

――――――――――

【棍棒】

木製の鈍器。

――――――――――

 

だが、ゴブリンの遺品に対して使った場合がこれだ。

 

「変わってないんだよな……」

 

棍棒はlv4でも説明は変わっていない。説明するような情報がないのか、この太めの棒切れに対して棍棒と呼ぶだけでも贅沢(ぜいたく)だと言いたいのか。

 

いずれにせよ、殴り倒したゴブリンが【武器作成】とかいうスキルを持っていたし、自分で作った物なのだろう。

 

――しゃり、ごくん。

 

2個目のエプを食べきり、ふと近くを見ると、一際大きい木の根元に空間がある事に気が付いた。木の(うろ)とでも言うべきだろうか。

 

元々木の葉で空が遮られ薄暗かった辺りは、ゴブリンを倒した時に比べると少し暗くなり始めていた。

 

「あれ、人1人くらいは余裕で入れそうだけど。中に誰も……あ」

 

持ってきた棍棒を見て、索敵方法を思いつく。普通に使うと壊れそうなので、こうした方が有効活用出来るだろう。

 

(振り上げて、木の洞に狙いを定めて……投げる(シュート)!)

 

動作を終えて、すかさず茂みに隠れる。何も出てこないので、生物は居ない……事にして、中を覗き込む。

 

中にはさっき投げ込んだ棍棒に似通った棒と、布団。そして枕がある。

 

正しく表現するなら、薄い布と枕のようなものだろう。布に砂か何かを詰めたと思われる物は枕と言うには少々硬い。とはいえ、恐らくは寝床だと推測して辺りを物色すると、太めの枝を発見した。

 

「これ、棍棒の材料か……?」

 

さっき雑に投げ込んだ棍棒の太い部分と同じ直径。試しに棍棒の先と折れた部分に合わせるとぴたりとくっつく。どうやら、ここは間違いなく殴り倒したゴブリンの住処らしい。

 

布団らしき物も1組しかないし、少女が1人いて満員だ。いくらゴブリンでも何匹も入れるとは思えない。これも、あの魔物が自分で作った物なのだろう。

 

……色々ありすぎて疲れたし、ここで寝てしまおうか。どうせここの持ち主は帰ってこない。

 

「帰らぬ人にしたのは俺だけど……」

 

化けて出ないよう祈りつつ、枕と布団を隅に寄せて仰向けに寝転がる。そのままステータスを開くと――。

 

―――スキル【ステータス閲覧】がlv2になりました。

 

――――――――――

名称:ツクモ

性別:♀

Lv:2

種族:亜人(猫)

状態:正常

HP:42/42 MP:55/55

スキル:

【魅力.lv1】【鑑定.lv4】【ステータス閲覧.lv2】【隠密.lv1】【鈍器使い.lv1】

特殊スキル:

複魂(ふくこん).lv1 1/1】【道連れ.lv1】

――――――――――

 

「ステータス閲覧、伸びるのか」

 

てっきり鑑定と同じで色々見ないと伸びないと思ったが、回数による物だろうか。

 

HPとMPが追加されている事が判る。ゴブリンとかのものを知らないため、高いのかどうかは分からないが。

 

他は変化無しか、と思いながらステータスを掴もうとするとすり抜ける。実体が無い。

 

「そりゃそうだ、こんなの触れたら邪魔だよな……ん?」

 

なんとなくステータスを掴む事に挑戦していると、丁度一番下にあった【道連れ.lv1】の上に親指が触れる。すると、その瞬間新しくボードが現れた。

 

――――――――――

【道連れ.lv1】

自身が5秒以内に受けた身体的欠損を指定した1体と共有する。同じ身体的欠損に対して使用する事は出来ない。

――――――――――

 

「えっ。……あ、まさか……」

 

突然の事に驚きながらも、少し嫌な予感がしつつ【複魂(ふくこん).lv1 1/1】という文字にに指を重ねてみる。

 

――――――――――

複魂(ふくこん).lv1 1/1】

複数の魂を持つ。生命力を失った時、魂を生命力と魔力に変換し、在るべき形へと戻す。

――――――――――

 

「……これ、前も出来たのか?」

 

そう思って【鑑定】にも触れると同じようにボードが出てきた。

 

「タッチパネル式……ってこんなのが……!」

 

――こんなのが出るなら、スキルの考察とかしなくて良かったじゃないか!

 

という愚痴の後半も言う余裕が無いくらいに、疲労が押し寄せてくる。

 

流石に、今日はゆっくり身体を休めよう。そう結論付けた俺はステータスから意識を背けてボードを閉じ、ふと外に目をやると暗くなっていた。この世界で初めての夜だ。

 

「先行きが不安になってきた……」

 

そのまま目を閉じると、すんなり意識は闇へと落ちていった。

 

 

――――――――――

 

 

「……痛ぇ……」

 

取り除き損ねた石に頭蓋骨を抉るように刺激され、目が覚める。

 

「ゴリッつったぞ……やっぱり、土の上で寝るのはまずかったか……」

 

――おまけに身体も痛い。せめて何か敷けば違ったのかもしれないが、敷けるような物があったら先に着ている物をどうにかしている。

 

俺は強制的に睡魔を吹き飛ばしてきた石を端に転がし、座ったまま外へと這い出る。

 

こんな粗末な寝床でも時間だけはしっかりと潰せるようで、外は葉の隙間から差し込む光で明るく照らされていた。

 

「……スキル、確認するか。後回しにしてたし。またゴブリンに襲われてタイミング逃しても困る」

 

一人言を呟きながらステータスを開き、スキル欄を1つ目から順に触れていく。

 

――――――――――

【魅力.lv1】

悪印象を抱かれ辛くなる。

――――――――――

――――――――――

【鑑定.lv4】

素材の詳細を表示する。

――――――――――

――――――――――

【ステータス閲覧.lv2】

ステータスを表示する。

――――――――――

――――――――――

【隠密.lv1】

気配を消す。

――――――――――

――――――――――

【鈍器使い.lv1】

鈍器の扱いを理解している。

――――――――――

 

どうせ大した事は書いていないなら、こういうステータスの詳細の見方くらい最初に教えてくれてもいいだろ……と、少し愚痴を吐きつつ特殊スキルの欄に指を滑らせるように移動すると、同様にスキルの詳細が表示される。

 

――――――――――

複魂(ふくこん).lv1 1/1】

複数の魂を持つ。自身が死亡した時に魂を生命力と魔力に変換し、在るべき形へと戻す。

――――――――――

――――――――――

【道連れ.lv1】

自身が5秒以内に受けた身体的欠損を指定した1体と共有する。同じ身体的欠損に対して使用する事は出来ない。

――――――――――

 

特殊スキルは2つ。この2つは他のスキルと説明文の雰囲気も少し違うように感じる。雰囲気を察せる程、他のスキルの説明がちゃんとしていないとも言える。

 

(でも、これで推測の域を出なかったスキルの効果は確定した)

 

【複魂】というのは、恐らく復活スキル。そして後ろについている数字は使用回数だろう。

 

もう1つの【道連れ】は自分が食らったダメージを返すスキルのようだ。5秒という制限こそあるが、強力なスキルのはず。

 

――これ、2つ組み合わせれば。ふとよぎった凶悪なコンボを、冷静に頭から追いやる。

 

死ぬ程の自傷行為を当たり前に出来る奴がいるなら、是非とも教えて、そして代わって欲しい。仮にいたとしても、自分がするのは御免蒙(ごめんこうむ)る。死に損なう可能性の方が高い。

 

(特殊スキル……は、戦闘スキルとは違うよな)

 

思い返すと、ゴブリンのステータスには戦闘スキルという欄があり、そこには【兜割り】といういかにもな技名のスキルがあった。スキルが何かしらあれば、そういう欄が出来るという事だ。

 

つまり、そんな欄が無い俺にはそういったスキルはない。戦闘スキル、覚えられないとかはないよな。

 

「……うん。まず、食料探しに行かなきゃな。無いものねだってもしゃーないし」

 

俺は立ち上がり、腕を上に伸ばし、身体全体で凝りを解す。

 

――取り敢えず【エプの果実】探しをしよう。栄養バランスとかは分からないが、空腹さえ満たせるなら当面はどうにかなる……はずだ。

 

俺は見通しが甘いのを自覚しつつも、空元気(からげんき)で自分を奮い立たせて歩き出した。

 

 

――――――――――

 

 

「なんだ、これ」

 

エプの果実を見つけ適当に歩いていると、地面が平らになっている場所を見つけた。

 

それを中心にして、同様に(なら)された地面が森を突き抜けるように伸びている。意図して平らにしたのだろう。不自然な程に見晴らしもいい。

 

「道……?魔物のものでは無いな……幅も広いし」

 

辺りを見て、取り敢えずは道に誰も居ない事を確認する。

 

ゴブリンと遭遇し戦って以来、周りを警戒しながら歩いていたからか、精神的な疲労が溜まっている。そのため、俺は道の端に抱えていたエプの実をそっと置いた。

 

「ここらで休憩するか。……道って事は、この辺で待ってれば誰かが通る事もあるだろ」

 

肉体的な疲労が少ない時に休憩を取る免罪符のような理屈を漏らし、その場に座り込む。

 

明らかに人の手が入った場所。知らない土地で不安はあるとはいえ、期待に胸を踊らせずにはいられない。というより、俺も森暮らしなどいつまでも――。

 

――ガサッ。

 

「がッ……」

 

後ろから聞こえた物音に驚き、食べようとしたエプの実を放り慌てて立とうとすると、背中に強い衝撃が伝わるとともに体制を崩される。

 

同時に、左肩に鋭い痛みが走る。俺は突然の事に驚きながらも、がむしゃらに左腕を振り回してそれを振り払った。

 

(っ……噛まれた!)

 

そいつ()の体型からその事を察し、距離を取りつつ身構える。

 

大型犬程の大きさ、尖った牙が生え揃う、大きく横に裂けた口。口から涎を(したた)らせた3()()の狼は、獲物()を逃さんと睨みつけていた。


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