作品にもよりますが、1ギル=5~10円ぐらいらしいですので初投稿です。
「すぴー……すぴー……」
「すぅ……すぅ……」
「……………………」
ジェノバの伴侶の女性――ヴェルデの朝は早い。
朝の四時半過ぎには起床し、まだぼんやりと明るいだけの朝日をカーテンの隙間越しに見つつ、同じベッドで眠るジェノバと娘を起こさないように這い出る。
そして、寝室から出ると途中にある手洗い場で整容をしてから、自室に向かい身支度を整えると車のキーを取りつつ家から出た。
「ん……ぅ……。いい朝だ」
朝日を眺めながらヴェルデが伸びをすると、長過ぎる銀髪が風になびく。それは彼女の美貌と合わさり、他者から見れば絵画に描かれた女神のように思えた事だろう。
ヴェルデが自宅の隣にある納屋の扉を開けると、駐車場代わりにしているのか、その中に駐車してあった水色の軽トラに乗り込んでキーを回す。見れば片手運転がしやすいようにギアハンドルやハンドルにオプションが取り付けられており、彼女が普通に乗っている車だということがわかる。
そして、安っぽいエンジン音を上げつつヴェルデの運転する軽トラは極めて安全な速度で、ギリギリ補整されていると言えなくもない砂利道を走っていった。
◇◇◇
「ふわぁ……」
まだ眠いのか半眼で欠伸を落としつつ、ヴェルデは降車してバタリと軽トラのドアを閉める。目の前には土がやや多く見える開けた草原と森が広がっており、遠くの空に"雷神鳥"というモンスターの群れが見える程度で、これと言って出向く理由があるようには思えない場所である。
更に乗ってきた軽トラの荷台を見れば、こんもりと妙に光沢のあるダイコンのような見た目の"ギザールの野菜 "が積み込まれており、ギザール農家のようであった。
それというのも、途中で市場に寄って大量に購入してきた為であり、常人が見れば全く意味のわからない行動に見える。
「――――――――――――」
すると
その証拠に遠くに見えていた雷神鳥の群れがヴェルデに気づいたようで、彼女へ向けて一斉に飛来し始める。雷神鳥は名前の通り、電気属性の範囲攻撃である"電撃"を多用して来る"ウータイエリア"に棲息するモンスターであり、地元でも集団で襲われれば容易くパーティーを壊滅させられるような危険な存在である。
20~30羽はいるように見える雷神鳥たちは、それが存在理由とでも言わんばかりの様子で、一直線にヴェルデへと向かう。
対するヴェルデは左腕を持ち上げると、いつの間にか左手の中で殻の胡桃のを転がすようにしていた2つの"緑色のマテリア"を群れに向けた。
『□□□□□□□□――――――――!!』
その直後、彼方より心臓を鷲掴みされたように底冷えする異様で巨大な咆哮が響き渡り、それによって雷神鳥たちは萎縮して進行を止めつつ、辺りを見回す動作を取る。
そして、遠くの空に黒い鳥のような小さなシルエットが羽ばたきつつ、徐々に肥大化しながら近付いてくる様子を目にすると、一目散に逃げて行く。
そんな光景を見つつ、ヴェルデはマテリアを服のポケットに仕舞い、鳥がこちらに向かって来る黒い影を待つ。
遠くから見たときでは、カラスのように黒い色合いの普通の鳥に見えなくもなかったが、近付くにつれてその全容が明らかになると共に、風を巻き起こしながらヴェルデの目の前に降り立った。
それは漆黒の体毛に包まれており、身体が大きく、クチバシにびっしりと並ぶ牙が特徴的で、時には地面に突風をおこしてくる巨大な鳥型モンスター――"ズー"であった。その上、ニブルヘイムエリアの山にいるような通常の個体に比べて異様に巨大であり、翼を広げれば優に30~40mはあろうかという巨体をしている。
ズーは見た目の荒々しさの割りには、繁殖期以外は温厚なモンスターであり、高い戦闘力を兼ね備えつつ頭もかなり良いため、騎乗するモンスターとしては最上級の部類と言えるだろう。
『□□□□……』
「ほーら、おやつだぞ」
とは言え、既にヴェルデは半ば隠居済みのソルジャー。このような戦闘向けの騎乗モンスターは完全に手に余っていると言ったところであろう。
実際、ズーのおやつとして軽トラに積まれたギザールの野菜の山がそれを物語っており、個人で与えるにはかなりキツいレベルの行為である。
というのもチョコボやモンスター向けの主要な野菜とその単価の相場なのだが――。
妙に光沢のあるダイコンのような見た目の"ギザールの野菜 "100ギル。
皮付きのタマネギのような色合いで赤カブのような見た目の"カラッカの野菜"が250ギル。
ヘタが緑色のナスのような見た目の"タンタルの野菜"が400ギル。
トマトとリンゴの中間のような見た目の"パサーナの野菜"が800ギル。
長めのトマトのヘタをくっ付けたダイコンのような見た目の"クリーエの野菜"が1000ギル。
少し小さなハロウィン用のカボチャのような見た目の"ミメットの野菜"が1500ギル。
やや大きめのピーマンのような見た目の"レイゲンの野菜"が3000ギル。
緑色でトマトとカボチャの中間のような見た目の"シルキスの野菜"が5000ギル。
――なのである。チョコボやモンスター向けの野菜は、人間が主に食べている野菜に比べると全体的にやや大きく、食べ応えと栄養価が高くあまりメジャーではないだけの野菜だったりするため、別に人間でも割りと美味しく頂ける。というか高い野菜に関しては野菜としても最高級品なので、洒落たお店に行くと普通にコース料理に出て来たりもする。
クチバシにびっしりと生えるところから見てもズーは肉食寄りのモンスターであり、またズーにとって野菜はペットのおやつに当たるようなものだ。
しかし、その消費量が問題であり、1日で一回のおやつタイムに200~300個――約50kg程の量の野菜を1度に消費するため、ギザールの野菜換算で間を取って1日約25000ギル。更に月換算だと約750000ギル。年換算だと約9000000ギルというとんでもない維持費が掛かっている。
ちなみに一般的な飛空艇の年間維持費が諸々込みで約4000000ギルと言われているため、倍以上の維持費が必要だという事でもある。まあ、並みの飛空艇よりも戦えそうなモンスターではあるため、この辺りは何とも言えないところだろう。
しかし、おやつの頻度を減らすのもあまり得策ではない。というのも温厚と言っても、ズーはモンスターのため、世話を欠かすとそのまま野生に帰化してしまう可能性が非常に高いのだ。しかも野菜の味を覚えているため、農場を襲うであろうことまで折り込み済みである。
そのため、元ソルジャーであったヴェルデは、彼女が住居を構えて滞在するこの街を中心とした村々からの依頼を受け、訓練された兵士でも手を焼くようなモンスターの討伐や、群れの掃討等をほぼ無償で請け負い、その対価として、相場よりもかなり安い値段で近隣の農家から野菜を買い付けているため、実際の維持費はかなりマシな値段になっている。
加えて言えばズーの主食の肉は、主に街や村に近付いたモンスターを優先的に食べてよいと命じているので実質タダのため、"この世界では珍しいショップ"を営んでいる彼の収入でズーを含む家族を養うだけのギルを算出出来ており、微妙に苦しいレベルの一般家庭を維持しているのだ。
「うりうりよしよし……ここがいいのか、ここがいい――ん?」
ギザールの野菜を食べさせ終え、頭を下げたズーのクチバシから頭に掛けてをわしわしと撫でていたヴェルデは、細く鋭い大気の震えを肌で感じ取り、撫でるのを止めるとその左腕を明後日の方向に持ち上げる。
そして、勢いよく握り締めると――その手には両端が鋭利な杭のような形状の金属が二本固まった武器、"十字手裏剣"が握られていた。
「危ないなぁ……」
『………………グゥゥ……』
掴み取った十字手裏剣にやや渋い顔をするヴェルデ。そんな彼を何とも言えない様子で唸りつつ見つめるズーを他所に、彼女の背後に人影が現れる。
「コラー! 不良ソルジャー! かえせー! ドロボー!!」
「君が投げてきたんだがなぁ……」
ヴェルデは色々な意味でどの口が言うんだと思いつつ、武器から予想していた通りの襲撃者に目を向ける。
それは忍者のような服装をして、短パンと白のルーズソックスが特徴的な短めの黒髪をした少女――"ユフィ・キサラギ"であった。
彼女は、ウータイの指導者であり、"ウータイ五強聖"最強の男と呼ばれ、かつてウータイ戦役と呼ばれるミッドガルとウータイの戦争において、最前線で戦い抜いた"ゴドー"の娘であり、ヴェルデが掴み取ったこの十字手裏剣は彼女の武器である。
「うらぁ! 避けるなよ!」
ユフィは親譲りの持ち前の身体能力を生かしてヴェルデに格闘を仕掛け、ヴェルデはユフィが言った通りに避けずに手足で受け止めて防御している。
とは言え、160cm程度の背のユフィに比べると、ヴェルデはソルジャーかつ約175cmもあり、スーパーモデル顔負けの恵まれ過ぎた体格なのだ。そのため、ダメージを与えること自体が難しく、端から見ても全く彼は堪えていないように見えよう。また、
そんな事が2~3分続くと、ユフィの方が肩を上下させて息切れを始め、足を止めてキッとヴェルデを睨んだと思えば片腕を振るう。
「しゅしゅしゅ! クラァ! アタシと真面目にたたかえ!!」
「避けてないじゃないか……」
『…………グルルゥ……』
ヴェルデは何も逆らった事はしていないが、ユフィはご機嫌斜めな様子だ。
ヴェルデとユフィはこうして、彼に近所の悪ガキが時々絡んで来る程度の関係であり、友人でも師弟でも何でもない。実際に日頃から何かと勝負を仕掛けてきたり、店の売り物をかっぱらおうとしたりしてくる生粋の悪ガキである。
むしろ、ヴェルデが住んでいるウータイの指導者の娘という怪我をさせてはいけない立場の者のため、ヴェルデが下手に出ている上に気を使っていたりもする。性別がユフィが男性ならば薄い本の導入レベルの設定だ。
「それより、君は先週ぐらいに家出したんじゃないのか? なんでまだウータイエリアにいるんだ?」
「うっ……」
ヴェルデにそれを言われたユフィは目に見えて狼狽する。
ユフィは腑抜けた父を始めとしたウータイの者に、かつての輝きを取り戻させるために半ば家出のような形で"マテリアハンター"なるものになったらしいのだが、それは先週の話であり、何故か彼女は未だにウータイエリアに留まっているとの事らしい。
更に言えば、ヴェルデはウータイの街に自宅兼仕事場の"ショップ"を構えているため、軽トラを少し走らせれば行ける距離など高が知れており、大してウータイの街から離れていないと言うこともわかるだろう。
「それはその……この辺りにアタシの勘がピント来るマテリアが――」
「よしよし、今日のおやつは終わりだぞ」
『グェー』
ユフィは何やら言い訳を始めたので、ヴェルデは話を聞き流しながらズーのクチバシを叩きつつ会話のようなコミュニケーションをし、帰る準備をし始める。
もっぱら勢いで飛び出して来たは良いが、冷静になって考えると宛もなく1人で放浪してマテリアを集め続けるのは、色々と問題やら非効率過ぎると思い当たったのだろう。そして、勘当同然な上に友達の少ないユフィは日頃から何かと絡むソルジャー崩れの歳上の女性ぐらいしか頼れる者が居ないと見える――と言うことをヴェルデは口に出した。
「ち、ちげーし!? 勝手に決めんな!」
「どうどう」
案の定、ユフィはヴェルデに威嚇するように肩を震わせて叫ぶが、ヴェルデからすればなつきかけの猫が何とも言えない距離感を保ちつつウロウロしている様を見るような微笑ましい気分になっている。
「さて、ご託はいい」
「へ……?」
『グェー』
しかし、それはそれこれはこれ。ヴェルデとてこの家出娘にやられっぱなしで怒らないと言うわけでない。笑顔のまま、青筋を立てつつユフィの首根っこを掴んで軽く地面から持ち上げる。
そして、ユフィを親猫に摘ままれた子猫のように抱えたまま、地面を蹴ってズーの背に飛び乗ると、ズーは一声鳴いてから羽ばたきを始め、瞬く間に遠くなっていく大地と共にユフィの目が絶望の色に染まって行く。
ユフィは高所に関してはむしろ得意なのだが、乗り物酔いに酷く弱いため、ヴェルデの指示でズーは大空に舞い上がり、飛行を始めた事でユフィのゲロインゲージの蓄積が急速に始まったのである。このままでは、ユフィの女子力が口から溢れ出てしまう。
「ククッ……悪い子は遊覧飛行の刑だ」
「ちょ、ちょっと!? ふざけん――うっぷ……待って待ってアタシが悪かっ――」
「うーん、聞こえんなぁ? ほれスーちゃん、緊急旋回からのスーパースラロームだ」
『グェー』
「や、やめ……やめろおおおおおおおおお!?」
ユフィの絶叫と共に始まったそれは神羅の航空ショーですら嫉妬と羨望の眼差しを向けるであろう。騎手と騎獣が合わさる人馬一体の無駄に洗礼された無駄の無い無駄な飛行技術により、ゴールドソーサーのジェットコースターよりも激しい15分間の遊覧飛行が繰り広げられたという。
モンスターを使役するのは猛獣使いや、金持ちの悪趣味な道楽が世間一般的であるが、ヴェルデはドラゴンライダーや、チョコボライダーならぬ"ズーライダー"なのである。