デート・ア・ライブ~二天龍を従えし者~   作:眠らずの夜想曲

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第3章 狂三キラー
第1話~時の少女~


―――五河家。

 

 

「ちょっと。何しているのよ、刃」

「む?」

 

 

リビングで不意にそんな声をかけられた。

そこには長い髪を黒いリボンで二つ結びにした制服姿の琴里が仁王立ちしていた。

しかも、司令官モードで。

丸っこい愛嬌のある双眸は不機嫌に歪められ、口にくわえられているチュッパチャプスの棒は、威嚇する動物の尻尾のようにピンと立てられていた。

 

 

「何って……十香と一緒に学校に行こうとしているんだが」

 

 

自分の格好を見下ろす。

高校の制服(夏服)を着て、右手には鞄、左手には弁当の入ったランチバックを握っている。

どこからどう見ても登校スタイルだろ。

 

 

「そ、そう……ならいいわ」

 

 

琴里は、すこし驚いた表情をしてから言った。

さてはこいつ、俺に「十香と一緒に登校しなさい」とでも言おうとしたんだな。

ハハハハハ、甘いぜ。

あんなに可愛い女の子にが近くにいるのに一緒に登校しないわけがないじゃないか。

 

確かに、ここのところ十香と一緒に登校はできなかった。

なぜなら、曲の製作に睡眠時間を削られてしまい、ホームルーム五分前まで家で寝てから、学校の屋上に転移して登校をしていたからだ。

いやぁ、一度始めたら止まらなくてね。

 

 

「それじゃ、そろそろ行くわ」

「ちょっと刃。忘れ物と」

 

 

と、行こうとした時だった。

琴里が声をかけてきた。

琴里に向き直ると、小さなインカムを左の手の平に載せ、腕を伸ばしてくる。

 

 

「これを装着しろと?」

「えぇ、ほら装着装着」

「……これ着けてるとさ、戦うとき邪魔なんだよね」

「なんで戦闘になることしか考えてないのよ!!もっと平和的に解決しようとは思わないわけ!?」

「だってさ、ASTは話の分かる連中じゃないから」

「あ……」

 

 

そう、ASTは話のわかる連中ではない。

精霊と聞いただけで人類の敵という認識だ。

結局話は通じない。

などうするか?

通じるまで話し合う?

否、力でねじ伏せるしかないだろう。

これは間違っているかもしれない。

でもさ、精霊と聞いただけで殺そうとする相手なら別にさ、イイんじゃないかなぁ。

 

 

「それでもよ!!まぁちょっとした訓練もかねてなんだけどね」

「訓練?」

「そう。十香に嫉妬させないように振る舞うことのね」

「はぁ……なるほどね」

「あいかわらず物わかりがいいわね」

 

 

確かにそうだ。

十香は嫉妬をしやすい。

四糸乃に初めて会ったときもそうだった。

勘違いだとわかるまえまではすごかった。

でもそこがまた可愛らしい。

だがな、

 

 

「それとこれとでは話が別だ。だからインカムはいらない」

「……はぁ、そこまで言うなら仕方ないわ。インカムはつけなくてもいい。そろそろ十香が家を出る時間でしょ。あと一つ。今日はちょっとしたゲストがいるんだった。まぁ挨拶程度になると思うけど、ちょっと話してあげてちょうだい」

「あいよ」

 

 

ゲストねぇ……

琴里はそれだけ言うと、階段をトントンと上がっていってしまった。

まぁ気にしても仕方がない。

扉を開けて、外に出る。

 

 

「うっ……」

 

 

眩しい。

もの凄くまぶしい。

今日は六月五日。

もう梅雨に入っているはずなのに、なぜかここ最近は天気に恵まれている。

多分、四糸乃が先月雨を降らせまくったせいだろう。

空も混乱してたりして(笑)

 

 

「お?」

 

 

五河家の真ん中に立っていた人影も目にして、思わず声を漏らしてしまった。

そこにいたのは、琴里と同じ年齢くらいの女の子だ。

薄手のワンピースを身に纏い、目元を覆い隠すかのように目深にしろの麦わら帽子をかぶっている。帽子のつばの舌からは海のように青い髪が覗き、更にその合間から、サファイアのような瞳がちらりと俺の方を見ていた。

そして、女の子の左手にはウサギのパペットが。

 

 

「四糸乃?」

 

 

四糸乃だった。

正直に言うと、分かりきっていた。

俺は門を開け放ち、四糸乃のもとまで足を進めた。

 

 

『やっはー、刃くん。ひっさしぶりだねー!!』

 

 

と、四糸乃の左手に装着されていたよしのんが、口をパクパクさせてくる。

 

 

「久しぶり、よしのん」

 

 

小さくうなずきながら、よしのんに返す。

 

 

「そうしたんだ今日は。もう検査とかは終わったのか?」

『んー、検査自体は結構前に終わったんだけどねー。ちょーっと練習していたのさ

ー』

 

 

よしのんが短い腕を楽しげに動かしながら言ってくる。

 

 

「練習?」

 

 

一体何も練習だ?

俺がそう言うと、よしのんが四糸乃の帽子のつばをくっ上げた。

 

 

「……っ」

 

 

四糸乃が、怯えるようにビクッと方を揺らす。

だがこくんと唾液を飲み込む仕草を見せた後、震える唇を開いた。

 

 

「お……っ、おはよう、ございます、刃さん……っ!!」

 

 

先月よりも少しだけはっきりとした声音で、四糸乃が言ってくる。

 

 

「おぉ!?あ、あぁ、おはよう」

 

 

まさかあの四糸乃がここまで滑らかにしゃべれるようになるとは。

いやはや、嬉しい限りですな。

 

俺が言うと、四糸乃は恥ずかしそうに防止のつばを下げ、しかし口元はもごもごと嬉しそうに動かした。

 

その時だった。

マンションの自動ドアが静かに開いた。

そして中から一人の少女が大きなあくびをこぼしながら歩いてくる。

 

眩しい陽光の中にくっきりと浮かび上がった長い闇色の髪に、美しい面。その貌に鎮座する双眸は水晶。

俺のクラスメートであり、精霊であり、『神使』の一人、十香である。

 

 

「……ッ!?」

 

 

だが、その出で立ちを見て、俺は息を詰まらせた。

今十香は、先週までのブレザーではなく、半袖のブラウスにリボンという夏服スタイルに身を包んでいたのである。

そう、ここまでなら何もおかしいことはない。

まぁ、いつもより身体のシルエットがはっきりしているので、あまり他の男には見せたくないが。

 

 

「ん……?ヤイバ!?」

 

 

十香はようやく俺の存在に気づいたらしく、目を見開いて声を上げてきた。

 

 

「どうしたのだ、朝に会うとはめずらしいではないか!!」

「あぁ、やっと用事が終わってな。十香と一緒に学校に行こうと思ってたんだ」

 

 

そう言うと、十香が薄く頬を染めながら顔をパァっと明るくした。

 

 

「そうか!!うむ、それは―――その、あれだ、いいと思うぞ!!」

 

 

十香が嬉しそうに深く首肯する。

そんなに嬉しいのか。

なら毎日でも一緒に登校したいものだ。

 

 

「あと、これ。今日の弁当」

「おぉ!!」

 

 

十香はそれを受け取ると、面々の笑みを作った。

 

 

「今日の、今日のおかずは何だ!?」

「えーっと、今日はアスパラのベーコン巻きと、メンチカツに卵焼き、それとマカロニサラダにプチトマトだ。あと、ご飯はチキンライスにしたぞ」

「なんと……!!」

 

 

俺がそう言うと、十香は戦慄したような表情を作り、何やら辺りの様子を窺うようにキョロキョロしながら、ランチバックを抱え込んだ。

 

 

「だ、大丈夫なのかヤイバ」

「何が?」

「アスパラのベーコン巻きとメンチカツを一緒に入れてしまうなどという贅沢な真似、皆に知られれば大変なことにならんか……?最悪、この弁当を巡って暴動に―――」

「なるわけないから」

「そ、そうか……ならいいのだが。さすがにご飯をチキンライスにするだなんて神をも恐れぬ所行……国際方に触れはしないだろうか」

 

 

一体どこでそんな言葉を覚えてきたのだろうか。十香が深刻そうな調子で言ってくる。

 

 

「いやいや、ありえないから」

「そうか……」

 

 

やっと納得してくれたようだ。

 

 

「ぬ?」

 

 

十香が不意に目を丸くし、俺の隣にいる四糸乃に顔を向けた。

どうやら今まで気づいていなかったらしい。

 

 

「おぉ、四糸乃ではないか。久しぶりだな!!」

 

 

屈託のない笑みを浮かべ、十香が話しかける。

どうやら、十香は四糸乃ことを悪くは思っていないようだ。

 

 

「……っ!!」

 

 

だが、四糸乃は肩を震わせて後ずさった。

 

 

『がんばれっ!!がんばれっ!!』

「っ、う、うん……」

 

 

よしのんにエールを送られて、ナントカ踏みとどまると、すぅぅ……と息を吸ってから足を踏みしめた。

 

 

「あ……っあめんぼ、あかいな、あいうえお……っ」

 

 

なぜに発声練習?

 

 

「……むぅ」

 

 

声をかけられた十香は困惑気味に眉をひそめると、俺に視線を向けてくる。

 

 

「これは……どういう意味だ?暗号か?」

「いやぁ……四糸乃?」

 

 

俺は苦笑いしながら問うと、よしのんがパタパタと手を振ってくる。

 

 

『あー、今のナシ!!連取の成果が出過ぎただけだからね!!リテイク!!もっかい!!』

 

 

そして四糸乃と二、三言葉を交わした。

四糸乃が小さくうなずき、再び十香の前に立った。

 

 

「お―――おは、よう……ござい、ます……」

 

 

俺のときよりも小さな声だ。

でもしっかりと、その言葉を口に出した。

 

 

「おぉ、あはようだ!!」

「……っ」

 

 

四糸乃はまたも身体が震わせたが、どうにかその場に踏むとどまる。

しばしの間、十香と四糸乃が向かい合いながら、無言が流れる。

 

 

「そういえば四糸乃、今日は麦わら帽子なんだな」

 

 

この前みたときはキャスケットを被っていた。

だが、今日は、涼しげな白の麦わら帽子を被っている。

 

 

「……っ、……は、はいっ」

 

 

四糸乃が一瞬、よしのんの陰に隠れようとして踏みとどまり、小さくうなずいてくる。

 

 

「今日は……暑いからって、その、令音さんが……それで……」

「なるほど、似合ってるぞ。可愛い可愛い」

「……………っ!!」

 

 

俺がそう言うと、四糸乃は顔をボンっ!!と顔を赤くしてうつむいてしまった。

可愛いなぁ……

 

 

「十香もそう思うだろ?」

「む?」

 

十香は話題を振られると思っていなかったらしく、少し驚いたような調子で俺にめを 向けてきた。

そして、四糸乃に視線を落して一言。

 

 

「ん。うむ、可愛いぞ、四糸乃」

「……っ!!あ……ありがとい、ございます……」

 

 

四糸乃は地面を向きながら礼を言った後、ふっと顔を上げて十香の方を見た。

 

 

「そ、その……と、十香さん、も……可愛い、です……」

「ぬ?な、なんだ……こそばゆいぞ」

 

 

そう言いながらも、悪い気はしないと言った様子で頬をかく。

十香ははずかしそうにわははと笑った後、ちらと俺に視線を向けてきた。

そして、頬がほんのりと染まっている。

 

 

「や、ヤイバも……そう思うか?」

「もちろんだ。ものすごく可愛いぞ」

「そ、そうか……」

 

 

そう答えると、さらに頬を染めた。

 

 

「よし、んじゃ、そろそろ学校に行くか」

「うむ、そうだな」

 

 

そう言って、四糸乃に向き直る。

 

 

「きょ……今日は、これで……失礼、します。いってらっしゃい……刃さん、十香さん」

「おう、また来いよ」

「ん……ではな」

 

 

俺と十香は軽く手を振る。

四糸乃はもう一度深くお辞儀をすると、とてとてと道の向こうに走っていった。

 

 

「さてと、行くか。十香」

「ん、そうだな」

 

 

俺は十香と一緒に歩き出す。

歩き出したのだが……

 

 

「なぁ十香。少しいいか?」

 

 

俺は十香の後ろ姿に違和感を感じたのだ。

十香の服装は、涼しげな夏服。

そうなると普通、背にはうっすらと下着―――要はブラジャーのラインが透けて見えてヒャッハー!!なはずだ。

はずなんだが……

 

 

「ぬ?どうかしたか」

「十香……おまえさ、着けてる?」

「何をだ?」

「ブラジャー」

 

 

はっきりとその単語を言う。

しかし十香は、不思議そうに小首を傾げた。

 

 

「ブラジャー?なんだ、それは」

「えぇ……!?」

 

 

その瞬間、俺は行動にでた。

十香をお姫様抱っこをして、マンションの中に入る。

 

 

「ど、どうしたのだ、ヤイバ」

「どうしたじゃない!!もしかして今までずっと着けてなかったのか!?」

「だ、だから何をだ!?」

 

 

嘘だろ!?

ブラジャーの存在を知らない!?

それはまずいだろ!!

 

俺は琴里に念話をつなぐ。

 

 

(おい琴里!!)

(うわっ!?な、何これお兄ちゃん!!)

(念話だ。それより十香がブラジャーを着けていないのだが)

(あらま、一応用意しておいたんだど……それより念話って何よ!?) 

 

 

用意はしてあると。

それなら十香の部屋にあるな。

 

 

(念話は念話だ。アスカロンのおかげだとでも思っとけ)

(はぁ、わかったわ。相変わらずチートだこと)

(そんなことはどうでもいい。どこにある)

(十香のタンスの一番上よ。ついでだから着け方も教えてあげてくれる?)

(当たり前だ)

(え?ちょ、ちょっと―――)

 

 

何かを言われる前に念話を切る。

 

 

「十香、おまえの部屋まで案内してくれ」

「ぬ……?あぁ、別に構わんが……」

 

 

未だ困惑気味の十香を抱えながら部屋に向かう。

部屋に入るまでにものすごく分厚い防壁を三枚ほど抜ける。

……このマンションは見てくれのわりには、生活空間はあまり広くないかもな。

 

 

「ここだ」

 

 

十香がそう言ったので十香を下す。

そして、十香が扉を開ける。

中は普通のマンションのような造りだ。

俺は扉を閉め、部屋に一緒に入る。

 

 

「よし、タンスの一番上に入ってるものを持ってきてくれ」

「ぬ……?わ、わかった」

 

 

十香は首を捻りながら、俺の指示通り、薄いピンクのブラジャーを無造作に鷲掴みにして持ってきた。

 

 

「これでいいのか?」

「あぁ、それを着けるんだ」

「着ける……?どこにだ?」

「それはな―――」

 

 

簡潔にブラジャーの用途と着用方法を伝える。

すると、十香は顔を真っ赤に染めた。

 

 

「な……ッ!!ななな何を言っているのだヤイバ!!」

「何をって、ねぇ……」

 

 

ブラジャーの着け方だけど。

 

 

「これを……胸に直接……?」

「そうだぞ」

「む……むぅ。……どうしても着けねば駄目か?」

「駄目だ。そうしないと―――」

 

 

俺はそう言いながら十香の胸元に視線を移す。

すると、その視線に気づいた十香も視線をずらす。

そして、顔が徐々に赤く染まっていく。

 

 

「な……ッ、何を考えているのだ!!」

 

 

そう叫んで、十香が胸元を両手で覆い隠す。

 

 

「だから着けてもらいたいんだ」

 

 

そう言うと、十香は「……むぅ」とうなりながら再度ブラジャーを見つめ、

 

 

「わ、わかった。やってみる……!!」

 

 

耳まで赤くしながらうなずくと、パタパタと寝室に戻っていく。

 

だが、数分後、寝室の奥から未だに赤いままの顔を出してきた。

 

 

「や、ヤイバ……ちょっといいだろうか」

 

 

そう言いながら、十香がよろよろと進み出てきた。

なぜか、一府度脱いだブラウスを前後逆にして袖を通してだけど。

 

 

「どうした?」

「こ、これはどう留めればいいのだ……?」

「あ……]

 

 

そりゃわかるわけないか。

だって初ブラジャーなんだから。

一人でホックをしめるのは難しいだろう。

 

 

「しゃーなし、留めてやるから後ろ向け」

「な……っ」

 

 

十香は目をまん丸に見開いたが、やがて頬を染めながら、

 

 

「や、やさしくたのむぞ」

 

 

と、言ってきたのだぁぁぁぁぁ!!

うおぉぉぉぉぉぉぉ!!

……ふぅ、落ち着け俺☆

よし、OKだ。

 

ボタンの留まっていないブラウスの隙間から、なまめかしい背中が覗く。

すごく綺麗だ。

 

 

「あ、あまり見るな……」

 

 

十香が恥ずかしそうに顔を背けながら、ブラウスが落ちないように。きゅっと自分の肩を掴む。

そうやって俺の理性を壊していくんだな十香よ……

 

 

「頑張る」

 

 

そして、ブラジャーのホックを留めた。

 

時間が迫っていたので、結局学校の屋上に転移することにした。

 

 

「十香、掴まれ」

「む?わ、わかった」

 

 

十香が俺に掴またのを確認して、転移をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――来禅高校。

 

 

「うし、到着」

「む?おぉ!!ここは学校か?」

「そうだ。早く行こう、もう少しでホームルームが始まる」

「うむ、そうだな」

 

 

扉を開けて、教室に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――教室。

 

 

扉を開けて教室に入ると、入り口の近くで黒板に落書きをしていた殿町が俺の方に目を向けてきた。

 

 

「あー?なんだよいつもよりちょっとだけはやいなと思ったら十香ちゃんと一緒かよ。うーわ、うーわ」

 

 

なんて、渋い顔で言いながら、レにしていたチョークで黒板に相合い傘を描く。

もちろん名前は『刃』と『十香』だった。

 

 

「ガキか?」

 

 

馬鹿じゃね?と思いながら席に着こうとすると、十香が困った様子で俺と殿町を交互に見ていた。

 

 

「む……むぅ、一緒に学校にくるのは 駄目であったのか……?知らなかったぞ……」

 

 

殿街が焦って落書きを消して、あたふたと手を振る。

 

 

「い、いやー、んなこたぁないのよ十香ちゃん?これは様式美みたいなもんというかー、リア充爆発しろ的なアレというかー」

 

 

殿町が説明すると、十香はキョトンと目を丸くした。

 

 

「リア充?なんだそれは」

「あー、五河みたいに女の子に不自由しないフャッキンナイスガイのことだよ」

 

 

ひ、否定できない。

現に、『神使』は全員女の子だし。

 

 

「むぅ、そうなのか。だが……困るぞ。ヤイバが爆発するのは、なんだ……とても悲しい。なんとかすることはできないだろうか……」

 

 

茶化している様子も、冗談に乗っていく様子もなく、真摯に十香が言う。

うれしいな。

そんなことを言ってもらえるなんて。

 

そのピュアな視線に殿町は、

 

 

「ち……ッ、ちくしょぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

と叫んで廊下の方に走っていった。

 

 

「ど、どうしたのだ、殿町は」

「気にするな」

 

 

そう言って、俺は自分の席に着く。

左隣には折紙がいる。

まぁ特に会話はない。

この前敵同士になったから。

向こうはどう思っているか知らないが。

 

そして、チャイムが鳴る。

十香もすでに右隣の席に着いている。

 

周囲のクラスメートもたちも、次々に着席していく。

殿町?

なんかそろそろ教室の入口から帰ってきてたぞ。

 

ほどなくして、教室の扉が開き、眼鏡をかけた癖毛の小柄な女性が入ってきた。

どう見ても生徒にしか見えない教師、岡峰珠恵二十九歳。

通称タマちゃん。

 

 

「はい、みなさんおはよぉございます」

 

 

なんて、いつものごとくほわほわした挨拶を済ませると、タマちゃんは出席簿を開こうとし―――その手を止めた。

 

 

「あ、いけない。今日はみんなにお知らせがあるんでした」

 

 

そう言って、ざわめく教室に思わせぶりな自薦を向けてきた。

 

 

「ふふ、なんとねぇ、このクラスに、転校生が来るのです!!」

 

 

ビシッ、とポーズをつけてながらタマちゃんが叫ぶ。

すると、教室中から、「おおおおおおおおおおお!?」と地鳴りのような声が響いた。

うるせぇ……

 

でもなぜだ、この前十香が転校と言う設定でこの学校に来たときもこのクラスだった。

なのに、またこのクラス宛がわれるのはなぜだ?

別にこのクラスは他のクラスより人数が少ないわけではないのだが……

 

 

「さ、入ってきてー」

 

 

俺の思考は、タマちゃんの間延びした声によって中断される。

ゆっくりと扉が開き、転校生が教室に入ってくる。

瞬間、教室は水を打ったように静まり返った。

姿を現したのは少女だった。

この暑い中、冬服のブレザーをっちりと着込み、足には黒いタイツを履いている。

影のような、なんて形容がよく似合う、漆黒の髪。

長い前髪は顔の左半分を覆い隠しており、右目しか見とることはできなかった。

だが、それでも、その少女が十香に―――人外の美貌を備えた精霊に―――勝るも劣らない怪しい魅力を持っていることは容易にわかった。

 

だが、何かが頭の端に引っかかっている。

思い出せそうで思い出せない。

 

 

「さ、じゃあ自己紹介をお願いしますね」

「えぇ」

 

 

タマちゃんが促すと、少女は優美な仕草でうなずき、チョークを手に取る。

そして黒板に、美しい字で『時崎狂三(ときさきくるみ)』の名を記す。

 

 

「時崎狂三ともうしますわ」

 

 

そして、そのよく響く声で少女―――狂三はこう続ける

 

 

「わたくし、精霊ですのよ」

 

 

この一言で、俺は思い出した。

時に準ずる力を操る精霊―――

 

時崎 狂三

 

分身がたくさんいる。

だが見つけられないことはない。

 

これが、時の精霊とのファーストコンタクトだった。

 

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